表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/47

ネバーランド 決着そして・・・編

リチャード・ハウゼン(ジェームズ・マクシミリアン)…世界の魔法使いのトップ、三賢者の一人でスタネールの大賢者とよばれている

鳴沢英治…脳科学の権威でワールドファンタジアのデータはほとんど頭に入っている

オストフ・ヴィ・リードヴィッヒ…スタネール共和国王、部下や国民からの信頼も厚い

コンラート・ヴィ・リードヴィッヒ…オストフ国王の息子で次期国王、精鋭騎士団”烈風の牙”のリーダー

アンドレイ・ニコライヴィッチ…ニコライと呼ばれている、ロシアからの移住組で魔法使いとしては中々の実力者、ミーシャという恋人がいるが離れ離れになってしまっている。

メグリット・シャイアン…スタネールの大賢者の弟子、赤いフルプレートの鎧を着ている

アルベルト・ハルス…エスパーによるギルドチーム”ネバーランド”のリーダー、超レアアイテム”賢者の石”の所有者、ハンドルネームは”ティンカーベル”

ミケーレ…ギルドチーム”ネバーランド”のメンバーで16歳、ボブ、ケビンと仲が良く三馬鹿トリオと呼ばれる事もある、自分ではチームの兄貴だと思っていて面倒見のいいところもある

ボブ…ギルドチーム”ネバーランド”のメンバーで15歳、ケビン、ミケーレと仲が良く三馬鹿トリオと呼ばれる事もある、チームの中で一番短気

ケビン…ギルドチーム”ネバーランド”のメンバーで15歳、ボブ、ミケーレと仲が良く三馬鹿トリオと呼ばれる事もある、ちゃらい見た目とは裏腹に意外と小心者エレーナの事が少し気になる

エレーナ…ギルドチーム”ネバーランド”のメンバーで15歳、プラチナブロンドのロングヘアーで中々の美人だが口は悪い、弟のオスカーの面倒をよくみている。

オスカー…ギルドチーム”ネバーランド”のメンバーで14歳、引っ込み思案で人見知り、いつも姉の背中に隠れていてメンバーの中でも姉のエレーナとミラーとしか話せない

ビル…ギルドチーム”ネバーランド”のメンバーで13歳、サッカー好きな優しい少年、トーマスとは元々友達で同じサッカーチームだったこともありいつも二人でサッカーの話をしている

トーマス…ギルドチーム”ネバーランド”のメンバーで13歳、サッカー好きな明るい少年、ビルとは元々友達で同じサッカーチームだったこともありいつも二人でサッカーの話をしている

スミス…ギルドチーム”ネバーランド”のメンバーで14歳、リーダーのハルスを崇拝していて少しでもハルスの邪魔をしたり悪口を言った奴は許さない。

ミラー…ギルドチーム”ネバーランド”のメンバーで最年少の12歳、明るく社交的で非常に頭がいい、他のメンバーに比べて物事を達観視するところがある

ハルスは空中から厳しい表情で見下ろす、まるでハウゼンを


睨み殺してやろうかという程の目をしていた、それは今までとは違い


一切の余裕が無く近寄りがたい雰囲気すらただよわす


「あのリーダー、これからどうしましょうか?」


スミスが思い切って切り出す


「あぁすまない、少し考え事をしてしまって・・・」


「いえ、くしくも仕切り直しのような状況になってしまいましたからね」


「そうだね、向こうもしばらくは仕掛けてこないだろうし


 ケビンとエレーナを呼んで青い”賢者の石”の補充に来てもらうよ


 ”テレパシー”‼」


「はいわかりました、今からそっちに取りに行きます」


「どうしたのケビン兄ちゃん」


「今リーダーから連絡でな、しばらく動きがなさそうだから


 青い”賢者の石”取りに来いって、俺が行ってくるから


 何かあったらすぐ連絡しろよお前ら」


「わかった、じゃあ頼むね」


「二人で待ってるよ、早く帰って来てね」


「おう、急いで行ってくるぜ”ハイフライ”」


瞬く間に凄いスピードで飛んでいくケビンの姿を見送った二人は


自分たちの破壊した東側の城壁を眺めて嬉しそうだった


「ねえトーマス、どうやら僕たちが一番敵ににダメージを


 与えているみたいだよ」


「ホント凄くない俺達、やっぱ俺達のコンビは最強って証明だよねビル」


「今はハーフタイム突入って感じかな」


「後半戦には絶対ぶっ壊してやろうぜ、もちろん僕達が


 一番乗りでね・・・」


そんな話をしていた時、下から複数の人の気配がした


見下ろしてみると魔法使いと思しき集団が城内から走って出てきたのだ、


ぞろぞろと出てきた魔法使い軍団は素早く二列にならび構える


最後に出てきた赤い鎧の男が呪文の詠唱を始めている


「おいビル、あいつらなんだ?しばらく攻撃はなかったんじゃ・・・」


「トーマスどうしよう、そうだケビン兄ちゃんに連絡を”テレパシー”」


虚を突かれたビルとトーマスは動揺し対応が遅れる、そうしている間にも


呪文の詠唱が完成してしまったのだ


「地の精霊偉大なるボルガノよ大地の恵みとその温かな慈愛を持って


 我に高貴なる力を与えんガルフミスト・ベ・ギラリア‼」


無数の植物がビルとトーマスに襲い掛かる


「うわ~なんだこれ、とにかく逃げるぞビル‼」


「今ケビン兄ちゃんにつながった・・・うわああぁぁ」


『おいどうしたビル‼なにがあった?返事しろビル‼』


間一髪のところで上空に逃れるトーマス、しかし下を見てみると


ビルが無数の植物に巻き付かれて動けなくなっていた


「助けてトーマス、お願い助けてー‼」


「テレポートで逃げろ、早く‼ビル‼」


「落としちゃったんだよ、”賢者の石”びっくりして落としちゃったんだ


 嫌だよう、早く助けてよ‼」


ビルを捕えた無数の植物はまるで生き物のようにうねうね動きながら


ビルをギース城へ引き寄せていく、ビルは半べそをかきながら


暴れて抵抗するがどうにもならない、まるで針にかかった魚の様に


取り込まれようとしていた


「わかった待ってろビル、今いくぞ‼」


『おいトーマス俺だケビンだ、ビルに何があった?』


『ビルが敵に捕まった、”賢者の石”落としちゃって無数の植物に


 絡まれて身動き取れなくなってるんだ、僕が助けに行く‼』


『待てトーマス、危険だ、リーダーに・・・』


トーマスはケビンの言葉には耳を貸さず、猛スピードでビルを


追いかける、ビルは植物に巻き付かれているが顔と右手だけは


外に出ていた、トーマスはポケットに入れている予備の


”賢者の石”をつかみビルに渡そうとする、東側の城壁には


捕えたビルを確保しようと無数の兵士が待ち構えていた


「邪魔だザコ共‼”サンダー‼”」


「マジックシールド‼」


またもやおこる雷撃とシールドの衝突、そして再び爆音と衝撃が


周辺を襲う、そんな事はお構いなしに突き進むトーマス


ビルが手を伸している所まであと数メートルまで近づく


「あと少し、あと少しで・・・」


「水の精霊偉大なるオルファウスよ、その微笑みを持って


 涙の祝福を我に授けよ”シルフィルティールマイド‼”」


ニコライの声が辺りに響く、それと同時に東側にある湖から


複数の水柱が上がりスクリュー状になってトーマスを貫く


「ぐああぁぁぁ」


「トーマス‼」


無数の水柱に貫かれ血を吐きながらうめき声を上げた少年は


すぐそこにいる捕えられた友人を見ていた


その友人はこちらを見て何かを叫びながら泣きわめいているが


もうその声も聞き取れない、目の前が暗くなり始め


遠くで声が聞こえてきた


『トーマス、パスだパスを出してくれ‼』


声の主は一番のパートナーであるビルだ、サッカーチームの


ユニフォームを着ていてゴール前で手を挙げている


『待ってろビル・・・最高のスルーパスを出してやるからな・・・』


もう意識も無くなりかけているトーマスが持っている


”賢者の石”をビルに投げる、ビルは自由になっている右手


を精一杯伸ばし”賢者の石”を受け取った、・・・と思った瞬間


激痛が走った


「グホッ、一体・・・」


ビルの顎に剣が突き刺さっていたのだ、あまりの痛みで意識が遠くなる


その時目の前に全身を貫かれ血まみれで落下していく


トーマスが見えたのだ、怒りが痛みを凌駕りょうがする


「殺してやる‼”ファイヤー”」


しかし何かがおこった様子が無い、ビルはようやく気付いた


顎を貫かれて言葉を発することができない為に


力が発動しないのである、再び絶望と激痛で涙があふれ出てくる


「さて狙い通りとはいえ後味の悪い結果ですねぇ」


全身赤い鎧の男が目の前でつぶやく、その時ビルは気が付いた


『こいつトーマスをおびき寄せるためにワザと


 僕の頭と右手を自由にしたんだ・・・』


ビルの瞳に再び涙があふれ出し目の前が見えなくなった


「せめて苦しまないように・・・」


それがビルの聞いた最後の言葉だった


「おいトーマス返事しろ‼トーマス‼」


必死に問いかけるケビン、もう嫌な予感しかしない


リーダーの所に向かっていたがきびすを返し引き返す


『無事でいろよトーマス、ビル・・・』


東側上空に戻るとそこに見えたのは血まみれで落下していくトーマスと


無数の植物に捕えられ出ている首をはねられたビルだった


「ああああああああああああ」


言葉にならない叫びが上空に響く、怒りに任せて攻撃を加えようとする


ケビン、するとあれ程いた兵士や魔法使い軍団が足早に城内に入っていく


「テメーら逃げるんじゃねーよ、よくも寄ってたかって


 ビルとトーマスを‼絶対許さねぇ”ハリケーン”‼」


「グレーターシールド‼」


放った竜巻を魔法によるシールドが完璧に防ぐ


そこに立っていたのは青いローブを羽織った一人の少年


「アンドレイ・ニコライヴィチ再び見参、じゃーん‼」


「邪魔するんじゃねー‼」


ケビンは興奮して”ハリケーン”を再び放つもまた完璧に防がれる


先ほどまで魔力切れでボロボロだった奴ががなぜ?


と疑問に感じていたがニコライの左手を見て愕然とする


「貴様、その左手の石は・・・」


「そうだよ、君たちの使っていた”賢者の石”だ、そりゃあ


 こんなの使ってたら強いに決まってるじゃんズルいよ」


「返せ‼それは俺達の・・・」


言いかけたケビンを遮るように


『おいケビン、ハルスだ、なぜこちらに来ない?何かあったのか?』


『リーダー・・・実はトーマスとビルがやられました・・・』


『なんだと?それは一体どういう事だ‼』


『詳しくはわかりませんが俺がそちらに向かっている時に


 ビルから連絡が入って・・・駆けつけてきたんですが・・・もう・・』


『どうしてビルとトーマスが・・・東側は優勢じゃなかったのか?』


『それが俺が戻って来たときは大勢の魔法使いと兵士


 それに赤い鎧を着た野郎が寄ってたかってビルとトーマスを・・・』


愕然とするハルス


「巨大結界を張って全員を城内に引き揚げさせたのは


 仕切りなおす為じゃなくこちらの隙をつくるためだったのか!?


 なんという・・・くそっ僕のせいでトーマスとビルが・・・」


ハッと何かに気がつき体の底からこみあげてくる悪い予感に慌てるハルス


『ケビン、今そちらはどうなっている、まだそこに赤い鎧野郎と


 魔法使い軍団はいるのか!?』


『さっきまでいましたが、ちょっと前に城内に逃げて行きました


 あの卑怯者ども、俺は絶対ゆるさ・・』


『ケビン早く西側に来い大至急だ、いいな絶対だぞ‼』


『あっはいわかりま・・・』


ケビンの返事を最後まで聞き終わる前に連絡を切り慌てて叫んだ


「オスカーが危ない‼急いで救出に行くぞ‼”テレポート”」


下から見上げている大賢者を一瞬だけ睨みつけ転移で救出に向かう


ここに着いたばかりのエレーナの顔から血の気が引く


スミスが手を引っ張りエレーナと共にハルスに続く


『くそ、間に合え・・・これ以上は・・・』


しかし西側に到着すると時すでに遅かった・・・




東側でトーマスとビルを倒した直後シャイアンが叫ぶ


「安心してる暇はありませんよ、打ち合わせ通りすぐに


 西側に向かいます急いで、あとは任せますニコライ君


 この”賢者の石”を預けますからせいぜい恰好をつけて


 相手の気を引いてくださいね」


「任せてください‼」


魔法使い軍団と兵士は西側に再び走り始めた、それに赤い鎧が続く


走りながら兵士の一人が魔法使い軍団に問いかける


「西側は東側とは違うんですよね?」


「あぁ、今度はおぬしたちの出番だ、必ず我々が


 守ってやるからな頼むぞ」


コクリとうなづくき腰の剣に手をかける、全員が西側に到着すると


素早い動きで魔法使い軍団の40人が横一列に並びその直後に


兵士が控える、その後方に少し離れていたシャイアンが


魔法の詠唱を始める


「地の精霊偉大なるボルガノよ広大な大地の力をここに授けん


 その母なる恩恵を我に貸し与えることを切に願わん


 ”ゴータルマス・ネリティア”‼」


「”グラビティ”‼」


「マジックシールド」


虚を突かれたオスカーだが呪文の詠唱を聞いて反射的に超能力を使った


メンバー唯一の重力攻撃がスタネール軍に向かうが魔法使い軍団による


複数の魔法シールドにまたもや防がれてしまう、しかしそこからが


今までと違う、なぜか魔法使い軍団と兵士がどんどん自分に


近づいてくるのだ


「えっ?なんで、なにがどうなって・・・城壁が!?」


魔法使い軍団と兵士のいた場所だけ立方体になって


オスカーのいる上空に向かってぐんぐん伸びてきたのだ


今オスカーは重力攻撃を使用したばかりでテレポートは使えない


どうしようか迷っているとあっという間に近くに現れた魔法使い軍団の


列が割れ兵士が襲い掛かってくる


「うわー”ニードルシャワー”‼」


複数の針が上空から降り注ぐ、しかし兵士達はそれを軽々と弾き返すと


一気に距離をつめた


「早っ!?うぎゃああああ」


兵士たちは無駄のない動きで剣を振り下ろすとオスカーの両腕が


ボトリと落ちた、すぐさま口を塞がれ床に抑え込まれるオスカー


腕を切られた激痛と恐怖で狂ったようにわめき散らす


「うごうおぉぉうぐっううぅぅ」


兵士の一人が落ちた左手に握られていた”賢者の石”を素早く拾い上げ


下に合図を送る、シャイアンがオーケーの合図を手で現し


上空まで伸びた西側城壁はスルスルと元に戻っていく


「オスカー‼大丈夫か、貴様らオスカーを放せ‼」


ハルス達が駆け付けた時にはすでにオスカーは捕縛されていた


両腕を切り落とされ狂った様に叫ぶオスカーの姿を見て


言葉を失うハルス、少し遅れてエレーナとスミスが現れる


「オスカー‼いやーーー‼」


「落ち着けエレーナ、今行っちゃ駄目だ‼お前まで」


「放してよスミス、オスカー‼ 止めてよ・・・


 お願いだから‼何でもするから止めてー‼」


姉の悲痛な訴えにオスカーが口を抑えていた兵士の手を思い切り噛んだ


「痛えっコイツ噛みやがった」


「姉ちゃん‼姉ちゃん痛いんだよ、助けてよ姉ちゃん‼怖い


 死にたく・・・ごぼっ」


兵士の一人が剣を一閃振り下ろす、次の瞬間オスカーの首が


ポトリと落ちた


「ああああああああぁぁぁぁいやあああぁぁぁぁぁぁー‼」


その瞬間ハルスが両手を天に上げて構えた


「貴様‼許さんぞ‼サンダーブレイク‼」


「グレーターバリア‼」


巨大結界に雷撃が弾かれる、ハルスは届かない攻撃に忸怩じくじたる


思いを隠せず噛み締めた下唇には血がにじんでいた


エレーナは半狂乱の状態で喚き散らしている


「オスカーー嫌ああああぁぁぁぁ、オスカーーああああぁぁぁぁ」


そこにケビンが到着したが状況が把握できずに困惑する


「リーダー、どうしたんですか?エレーナのこの様子は・・・」


「来たかケビン、エレーナを連れて早くここを離れろ


今のエレーナは目の前でオスカーを殺されてマトモじゃないんだ」


「目の前で殺しただと・・・あの糞野郎ども」


ケビンの表情が怒りに満ち溢れていく、それを察してか


珍しく強い口調で命令するハルス


「早くしろケビン‼お前もエレーナも殺されるぞ、俺のいう事を聞け‼」


初めて見せるハルスの態度にケビンも我に返り素直に従う


「じゃあ俺は南側の上空で待機してます、行こうエレーナ・・・」


「死んだああああああぁぁぁオスカーが殺されたああああぁぁぁぁぁ」


取り乱し喚き散らすエレーナの姿に戸惑うケビン


「クソっこれじゃあ・・・ごめんエレーナ」


ケビンはエレーナの体を無理やり引き寄せ口づけで黙らせた


エレーナは目を大きく開くと急に動きが止まり糸の切れた


操り人形の様にカクンと力なく崩れ落ちた


それをケビンが受け止めるとそのまま飛び去った


「リーダーこれからどうします?」


「スミス、君もケビンを追え、南側の上空で待ってろ」


「リーダーはどうするので?」


あごでクイッと下を示す、そこには大賢者がこちらをじっと見上げていた


「俺はあいつに用がある」


「待ってください‼一人で挑むつもりですか?無茶ですよ」


「そんな事はしないよ、そもそも今は巨大結界が張られているからね


 攻撃したくてもできないよ、ただどうしても奴に直接


 言ってやらなきゃ気が済まないんだ、ヤバくなったら


 すぐテレポートで逃げるからさ、止めても行くからね」


「わかりました、くれぐれも気を付けてください」


「うん気を付けるよ」


そう言い終わるとスッと上空からスタネールの一同の近くまで


降りてきたのだ、ギース城の一同がざわつく中で大賢者に向かって


語りかけようとしたときハルスの表情が驚愕に変わる


「お前は誰だ?ジェームス・マクシミリアンじゃないな‼」


「とうとうバレましたか」


その発言の主は赤い鎧に身を包んだシャイアンであった


「一体どういう・・・」


戸惑うハルスを尻目にシャイアンはフルプレートの鎧のヘルムを外した、


するとそこに現れたのは大賢者ことジェームス・マクシミリアン


その人であった


「貴様なぜ?それにその声と態度も・・・」


混乱するハルスにハウゼンが謎解きをする


「元々メグリット・シャイアンなんて人物いないんです


声はね・・・これです」


鎧の中から黒い宝石のついたペンダントを取り出し首から外す


そして再び語りだすとその声は従来のハウゼンのものであった


「これはこの国に伝わる秘宝”奇跡の言霊”といって二つで一組


 の物なんですが、これを付けた者同士の声を入れ替えるという


 代物なんですよ」


「なんだと!?そんなふざけたアイテムが・・・」


「シャイアンの態度や発言も私だとバレないように台本を書いて


 昨日一日練習したんですよ」


「じゃあ北側にいたのはその偽物だったのか!?もしバレたら・・・


 いやバレてなくても北側を攻撃されていたらどうするつもり


 だったんだ!?」


「どうせあなた達は上空高く布陣すると思っていましたからね


 そんな遠くからの視認なら変装はバレないと思っていました


 北側を攻撃された場合ですか?一度なら防御シールドを張る


 演技に合わせてアイテムを使って防御するつもりでした


 でも二度攻撃されたらジエンドでしたね、本当によかったです」


「じゃあ僕はお前を釘づけにしていたつもりで逆に


 釘づけにされていたのか!?」


その時ハウゼンの横にいる兵士の剣から血がぽたぽたと伝い落ちている


事に気が付く、それを見てハルスの怒りが再び湧き上がる


「おいそこの雑魚兵士‼貴様が僕の仲間をやったのか‼」


憎しみの眼差しがその兵士に向かう、呼ばれた兵士はグイッと


前にでてきた


「申し遅れたが私の名はコンラート・ヴィ・リードヴィッヒという


 確かに貴公の仲間を殺したのは私と仲間達だ、しかし謝罪はせん


 それが戦場だ」


「コンラート・ヴィ・リードヴィッヒだと?


 じゃあ仲間をやったのは・・・」


「そうだ俺の率いる重装騎士団”烈風の牙”だ‼」


ハラルは先ほどまで南側で大賢者の横にいた赤と黒の鎧を着た


集団を思い出していた


「しかし”烈風の牙”は南側に・・・まさかあいつらも!?」


「ようやくわかりましたか、あれは”烈風の牙”の鎧を着た一般兵です


 チャンスは少ないでしょうからねもっとも信頼できる人選を


 したつもりです」


「ちくしょう‼なにもかも貴様の掌の上だったというのか‼この僕が‼」


「そういうことです、残念でしたねもう諦めて降伏したらどうですか?」


「ふざけるな‼誰が降伏なんかするか!?もう一度体制を立て直して


 今度こそスタネールをぶっ潰してやる、絶対にぶっ潰したやるからな‼」


「あなた達に体制を立て直す事なんかできますでしょうか?」


意味深なハウゼンの微笑みに不安な気持ちが膨らむ


「なにを言っている、ドルフィーラとサラルガンにはまだ仲間と


 ”賢者の石”があるんだ・・・」


相手の余裕の態度に何か嫌な感じを受けたハルス、大賢者得意の


かく乱かとも思ったがどうにも嫌な予感がしてならない


「貴様また、なにかやったのか?まさかミケーレやミラーにまで・・・」


「私がなぜ丁寧に謎解き解説なんてやってあげてると


 思っているんですか?もちろんあなたを少しでもここに


 釘付けにしておく為ですよ」


そのニヤリと笑う顔にゾッとしたハルス、すぐさまスミスに


テレパシーを送り


『スミスそこにケビンとエレーナはいるな!?』


『リーダー、それが・・・ケビンがドルフィーラまで


 ”賢者の石”を取りにテレポートで行ってしまいまして・・・』


『何だと?なぜ勝手に、すぐに呼び戻せ‼』


『さっきからやっているのですが・・・繋がらないんですよ』


『そんな馬鹿な・・・まさか?』


慌てて振り向き、再び睨みつける


「貴様また何かやったのか?」


「何の事ですか?あぁテレパシーの事ですね、それには


 マジックジャミングをかけさせてもらいました


 全開ではかけてませんから近距離のトランシバー替わり


 ぐらいにはなるでしょう?」


「貴様という奴は・・・」




ギース城攻略組が攻撃を開始した頃、居残り組としてサラルガンに


テレポートしてきたミラーは空を見上げてため息をついた


「今回僕は退屈な役回りだよなぁ、そもそも今の状況で他国が


 攻めて来るなんてあるわけないじゃん、誰かが来たとき


 石を渡すだけとか・・・貧乏くじだよ全く」


サラルガンの居城はすでに崩壊し城としての機能は果たせない


状態になっていた、城壁を破壊した際の瓦礫が所々に散乱して


一見アスレチック場の様な光景が広がる、そんな瓦礫の一つに


腰かけながら退屈そうに空を見上げるミラー


その時城跡の陰から物音がしたことに気付く


「誰?もう誰か帰ってきたのかい?」


ミラーの呼びかけに返事が無い、少し不安を感じ超能力を使う


「”ダンボイヤー”」


通常の聴覚を10倍に引き上げる力を使い物音の正体を確かめる


”カチャリカチャリ”という鎧の音が聞こえてきた


『これは誰かが近づいてくる音だぞ、しかも複数・・・


 一体どこのどいつだ!?』


”ヤバいと思ったらすぐテレポートで逃げろよ・・・


”心の中でハルスの忠告を思い出す


「いくらなんでも敵の正体や人数くらい確認してから


 逃げないとな・・・」


敵の所在を確認する為一旦上空高く舞い上がるミラー


すると城跡の東側より近づいてくる集団を見つけた


「なんだ?100人もいないじゃないか!?僕らをナメてるのか?


 あんな奴ら僕の攻撃一発で・・・」


その瞬間”ドスッ”という音がして背中に痛みを感じた


「一体なにが・・・」


振り向くと自分の背中に銀色の矢が突き刺さっていたのだ


「そんな馬鹿な‼ここは弓矢の届く距離じゃ・・・うぐっ!?」


続けて金色の矢が自分の体を貫く、何がどうなっているのか


益々混乱するが間髪入れず次々と飛来する矢が突き刺さり


大きなうめき声を上げた


「ぐはっ、なんで!?」


複数の矢が突き刺さりハリネズミ状態になったミラーが力なく落下する、


地上に落ちて動けないミラーに近づきながら話す二人の声が聞こえた


「よし、仕留めたろ俺の矢が急所を射抜いたからな」


「でも僕の矢の方が多く命中してますよ?」


「馬鹿野郎こういうのは数じゃないんだよ‼」


「負け惜しみですか?カッコ悪いですよ師匠」


その二人の持っている弓矢が明らかに普通の物とは違う事は


ミラーにもわかった、大きな銀の弓矢に数々の宝石の装飾がしてある物と


さらに大きな金の弓矢にに複数のダイヤがちりばめられた物


ミラーはテレポートで逃げようとするが肺を矢が貫いていて


吐血で言葉を発することができない


「ごぼっああぁぁ逃げ・・」


「悪いな坊主、これも戦争なんだわ・・・じゃあな」


そう言いながらその男は銀の弓をゆっくり引き絞り


放った矢はミラーの脳天を貫いた・・・


ドルフィーラにテレポートしてきたミケーレは先日作戦会議をした


広間に一人たたずんでいた


「リーダーは半日もあれば決着すると言ってたけど


 半日待ってるだけってのもなぁ・・・」


その時ガタッという物音がして振り向くと、その広間に


小さな筒状の物が数々投げ込まれ破裂した


「何だ?一体何が・・ゴホッ‼」


筒状の物が破裂した際に中から白い粉が散乱し広間を一瞬に真っ白な


世界に変える、ミケーレは咄嗟に逃げようとするが咳が止まらず


力の発動ができない


「ゴホッゴホッ、早くゲホッ、逃げ・・ゴホッ、テレポ・・


 ゲホッゴホッ」


そこに顔の半分を布で隠した武装集団が50人程なだれ込んできて


ナイフを片手に迫ってきた、あまりの恐怖に腰を抜かしてへたり込み


ガタガタと震えながら涙目になるミケーレ、心の中で叫ぶ


『嫌だ死にたくない、逃げなきゃ、早く、死にたくない・・・』


しかし咳が止まらず言葉にならない、あっという間に複数の兵士に


抑えつけられ殺意に怯えるミケーレ


『嫌だ、死ぬのはいや・・・』


ミケーレの急所という急所にナイフが数本突き刺さり


ミケーレは一瞬で絶命した




サラルガンの上空に到着したケビンが異様な雰囲気を感じて


空中からじっと見下ろす、広間の近くの中庭に見慣れない物が


あることを見つけたが何かわからず目を凝らす、それが何か理解すると


見る見るうちにケビンの表情が変わっていった


中庭の正体不明の物は・・・上半身裸で後ろ手に縛られながら


木に首を吊るされていたミケーレであった


「うわああああぁぁぁぁぁミケーレ‼」


ケビンは急いでミケーレの元に向かう


「今だ討て‼」


ミケーレに近づいた瞬間、掛け声と共に隠れていた複数の兵士が


立ち上がり一斉に矢を放つ、その無数の矢がケビンを襲い


数本がケビンの腕や足、背中に突き刺さる


「ぐあっ!?」


「続けて第二射、討て‼」


「くそっ‼”ハイフライ”‼」


掛け声に反応し咄嗟に空中に逃げるケビン、第二射は間一髪避け


上空に避難する、数本の矢が腕や背中に刺さったままだが


改めてミケーレの哀れな姿を見た怒りで痛みを忘れる


「テメエら許さねえからな‼”ハリケーン‼”」


強力な竜巻が弓兵を巻き込み蹴散らしていく、兵の大半は吹き飛ばされ


指揮官が叫ぶ


「撤退だ撤退しろ‼」


残った少数の兵もちりじりに逃げていきその場に一瞬静寂がおとずれた、


ケビンはまだ矢が刺さった状態だが木に吊るされている


ミケーレに近づいて行くケビン


「ミケーレ・・・辛かったよな・・・今降ろしてやるからな・・・」


ミケーレの体に手を触れた瞬間、木の根元の地面が盛り上がり


数人の兵士が飛び出してきたのだ


「うわっ何だ!?」


虚を突かれたケビンに兵士が襲い掛かり手に持ったナイフを


次々に突き刺す、体をひねって避けた為急所は何とか避けられたが


兵士たちはすでに次の攻撃に移ろうとしていた


「この野郎‼」


興奮しているケビンは咄嗟に殴りかかったが兵士達には簡単にかわされ


今度こそ急所に数本のナイフが突き刺さる


「ぐはっ、俺はこんなとこで死ぬわけには・・・


 エレーナと・・・エレーナ・・・」


さらにトドメの攻撃がケビンを襲う、手に持っていた


”賢者の石”も手放し両手で兵士の髪を掴むがそれが


ケビンの最後の抵抗であった


『エレーナ・・・ゴメン、エレー・・・』




「マクシミリアン、貴様どうやってミケーレとミラーの所に


 攻撃したんだ?、ここから割ける戦力は無かったはずだ」


「援軍を頼んだのですよ」


「援軍だと?あれから二日しか経っていないんだぞ!?


 軍を準備をして到着するまでに二日で間に合う訳がないだろ!?」


「軍を準備する必要はありません、相手はたった一人ですからね


 100人程ならすぐに出発できたはずです、だからサラルガンには


 ハラル共和国に援軍を要請しました」


「ハラル共和国だと、はっ!?あそこには”エレメンタルアイ”と


 言われる弓使いがいたな・・・」


「”エレメンタルアイ”の使う弓矢は特別です、その射程距離と威力は


 通常の数倍、それを知らない人間が上空で油断していたら


 どういう事になると思いますか?」


「そんな事・・・クソッ‼ミラー・・・じゃあドルフィーラには


 どうやって・・・あそこは地理的にもハラルからじゃ


 間に合わないだろ!?」


「あそこにはグランシア王国に援軍を要請しました」


「グランシアだと!?馬鹿な、あそことは先日戦ったばかりじゃ


 なかったか!?共闘などできるはずが・・・」


「スタネール共和国王オストフ・ヴィ・リードヴィッヒの名前で


 書状を出しました、ドルフィーラの現状を知らせその攻略法も


 同時にね、出兵してくれたならその国の所有権を認め


 スタネールとハラルは一年間はドルフィーラに侵攻しないと」


「そんな・・・でも直前に戦ったばかりの敵のいう事を


 グランシアが素直に信じたのか?」


「グランシアにとっては100人程度の兵士を失ったところで


 大したダメージじゃないでしょうからね、もしうまくいったら


 儲けもの・・・ぐらいの感覚だったとしても出兵するメリットは


 あるでしょう、それほどまでにあの国は今は勝利に飢えていますから」


その説明に愕然とするハルス


「そんな・・・じゃあミラーとミケーレ・・・ケビンはもう・・・


 貴様、絶対に許さんぞ‼」


「何をいっているのですかあなたは、我々は戦争をしているのです


 しかも仕掛けてきたのはそちらですよ死ぬ覚悟を・・・


 自分を含め仲間が殺される覚悟も無しに戦争をしにきたとは驚きです


 戦争とは人間にとってもっとも愚かな行為、殺し合いでしか


 ありません、だからこそ命を賭けてでも守りたいものの為に


 戦うのです、違いますか?」


「俺達は俺達だけの・・・仲間だけの国を造って・・・幸せに・・・」


「リーダー、ご無事ですか‼」


上空からの不意の呼びかけに思わず空を見上げるハルスとハウゼン 


そこにはぐったりとしたエレーナを抱きかかえている


スミスの姿があった、上空のスミス達と合流する為


もう一度高く舞い上がるハルス


「スミスなぜここに来た!?南側で待っていろと・・・」


「すいません、心配になってしまってつい・・・


 なにかあったのですか?」


目を伏せ唇をかみしめて言葉につまる様子を見てただならぬ


雰囲気を感じたスミスが息を飲む、エレーナは両目を大きく開け


力なく呆けている


「実は・・・ミケーレとミラーがやられた・・・おそらくケビンも」


その瞬間、全く反応が無かったエレーナの指がピクリと動いた


「まさか!?じゃあサラルガンとドルフィーラも・・・」


ハルスはその問いに答えられず目を閉じ怒りと悲しみで震えている


その時である


「あああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」


恐ろしいまでの叫び声をあげたエレーナが自分を支えていた


スミスの手を振り払い猛スピードでハウゼンの所に突っ込んでいく


「死んだ、みんな死んだ‼オスカーもケビンも、みんな死ぬんだ


 殺してやる殺して・・・」


エレーナの突然の行動に反応が遅れたハルス


慌てて追いかけながら叫ぶ、それにスミスが続く


「待てエレーナ‼止まれ‼」


「死ね死ね死ね死ね死ね死ねーーーー‼」


上空から物凄い形相で叫びながら突撃してくる少女に


スタネールの兵士達が一瞬怯む、ハウゼンだけが微動だにせず


落ち着いて指示を出す


「相手は錯乱しているだけだ、落ち着いて対応せよ‼」


その言葉に”烈風の牙”のメンバーが前面に出てきて迎え撃つ構えを見せ、


魔法使い軍団はその後ろで魔法防御の準備をしている


それを確認したのちハウゼンが呪文の詠唱を始めた


「闇の精霊偉大なるゾギアスよ我は求め訴えん、深淵の底より


 絶望の魔の手を呼び起こせ、その邪悪なる意思のもと


 悔恨と憎悪で覆い尽くせ”グレディエンド・ストラス・ダヴィーゼ‼”」


ハウゼンの詠唱が終わるとエレーナの目の前に血まみれの


オスカーとケビンが現れた


「痛いよお姉ちゃん、怖いよお姉ちゃん、僕死んじゃったんだよ


 なんでなの?ねえ苦しいよ・・・」


「エレーナ・・・エレーナ・・・デートに行きたっかたのに


 俺だけ殺されたんだよ俺だけ・・・なんでお前は


 生きているんだよ・・・なあエレーナ・・・」


「ぎゃああああああああ、ごめんなさいぃぃぃぃぃ


 ゆるしてぇぇぇぇぇぇーオスカーー、ケビンーー‼」


猛スピードで飛んできていたエレーナがピタリと止まり


急に頭を抱えてもだえ苦しむ、プラチナブロンドの髪を


自分でブチブチと引き抜き美しい金髪が血で赤くにじむ


しかし周りの人間には何が起こっているのかさっぱりわからない


たまらずコンラートがハウゼンに問いかける


「あの~マクシミリアン殿一体何をなさったので?」


「あの少女が錯乱していたのは一目瞭然でしたからね、暗黒魔術によって


 精神攻撃を仕掛けたのです、彼女のトラウマや罪悪感を具現化して


 責め立てたのですよ、彼女自身が何を見ているのかは私にも


 わかりませんがあの様子を見るとかなりの精神的ダメージを


 与えていると思います、下手をすれば精神が崩壊してしまいます

 

 が・・・それはしょうがないでしょう」


エレーナは事切れた様に気を失い落下した


エレーナを助け出そうとするハルスにスミスが必死で制止する


「放せスミス、エレーナが‼」


「落ち着いてください、もう間に合いません、これ以上は危険です」


「いいから放せ、エレーナが奴に‼」


「いけません‼リーダーの身に何かあったらすべては終わりです


 ここは自重してください、あなたさえ・・・あなたさえいてくれれば

 まだチャンスがあります」


それを見たハウゼンの目が怪しく光り咄嗟に叫ぶ


「スモーク‼」


周辺が一瞬で暗闇に包まれ一同に動揺が走る、上空の二人も同様である


「なにがあった?リーダー一体これは」


「これは防御魔法の一種だ上空に逃げるぞ急げスミス‼」


「はい‼」


2人は猛スピードで暗闇の中をぐんぐん上昇する、かなりの上空まで


避難した時、辺りを覆っていた暗闇が一瞬にして消えた


「ここまでくれば大丈夫ですねリーダー・・・」


スミスがそう言いかけた瞬間、目の前にハウゼンが現れたのである


「貴様・・・なぜここに!?・・・お前飛べたのか?」


驚愕の表情を浮かべて硬直するハルス、ハウゼンの手には


スタネールの国宝”光覇の剣”が握られている、ハウゼンは素早い動きで


左手でハルスの口を塞ぎ超能力を封じる、そして右手の剣を


ハラルの心臓めがけて突き出した、ブスリと体を貫く”光覇の剣”


大量の血が噴き出す、しかし貫いたのはハルスではなくスミスであった


とっさにスミスが割って入ったのである


「ぐはっ‼”フロストブリザード”」


「グレーターシールド‼」


スミスは剣で心臓を貫かれながら”フロストブリザード”を放つ


シールドで防がれたがその衝撃でハウゼンとの距離が開く


力が抜け落下しようとするスミスをハルスが抱きかかえる


「スミス、お前・・・」


ハルスの目には涙を浮かんでいる


「お前はどこまでも僕についてくるって言ったじゃないか‼


 何を・・・何をやってるんだ、お前まで死んだら・・・


 僕はもう一人ぼっちに・・・いいか死ぬなよ、命令だ死ぬな‼


 僕の命令は絶対なんだろ?わかったかスミス」


スミスはこの世界に来たばかりの事を思いだしていた


この世界に来て数日後に野盗の一団に襲われ両親と兄を


目の前で殺された時の事を、死の恐怖にガタガタと震えて


何もできなかった自分を、家族が殺され自分が殺されそうになった時


助けてくれたのがハルスだった、あっという間に野盗の集団を


皆殺しにし手を差し伸べてくれたのだ


「大丈夫かい?ゴメン遅くなったせいで他の人は守れなかった・・・


 君の家族かい?」


その時のスミスはお礼も返事もできずにガタガタと震えてしまう


だけだった、しかし死の恐怖から救われたと感じた時に


涙がとめどなく溢れてきた・・・そんなことを思い出しながら


心で自分に語りかけた


『よくやったスミス、やっとあの時の恩返しができたぞ‼』


「おいスミス聞いてるのか!?死ぬなよ命令だぞ‼」


普段笑わないスミスが笑顔で答える


「すみません、リーダーの命令に初めて背きます、すみません・・・」


そう言い残しスミスは笑顔で旅立った





スミスを亡骸を抱きかかえているハルスの前に再びハウゼンが近づく、


ギース城の遥か上空で対峙する二人少しの間、今までの戦闘が


嘘のような静寂がつづく


「ここは静かですねぇ、その人のせいであなたを仕留め損なって


 しまいました」


「貴様、飛べたのか!?最初から飛べないフリをしていたのか・」


「目くらましからの飛行で近づき剣で一撃・・・という作戦は


 あなたを倒す為だけにずっと温存してきたのですよ


 種明かしのバレた手品には誰も引っかかってくれませんから・・・


 しかしもう止めにしたらどうですか?」


「ここまで仲間をやられて、終わりになんてできるわけないだろうが‼


 戦って死んでいったあいつらに申し訳が立たないからな」


「まだやるんですか?たった一人で戦うと!?」


「今日は僕の完敗だ・・・しかし今度こそ負けない


 またメンバーを集めてもっと強力なギルドを作りあげて・・・


 今度こそ勝つ‼」


「あなたはまだそんな事を言っているんですか!?


 いい加減目を覚ましたらどうなんですか?」


「うるさい‼貴様らに何がわかる、親兄弟を殺された


 僕達の気持ちが・・・」


「身内を殺された腹いせに他人を虐殺ですか、逆恨みもいいところ


 ですね、それに次はありませんよ」


「今僕がお前から逃げられないとでも思っているのか?」


「違いますよ、もうあなたに強力なギルドを作る事なんて


 できないと言ってるんです」


「何を言っているんだ・・・貴様は、またハッタリで


 混乱させようとしたってだな・・・」


「世界各国に通達して”空蝉人形”の市場流通を遮断しました


 これからあのアイテムは通常の市場に出回ることはありません


 裏ルートでも”空蝉人形”が出た途端にこちらが高額で引き取ると


 情報を流しました、”空蝉人形”は今までの金額とは桁違いの


 高額アイテムとなりました、なんならスタネール共和国と


 マネー勝負をしてみますか?国家予算対個人資金で


 勝てると思うならね」


「そんなハッタリに騙されるものか、あれからたった二日しか


 経っていないんだぞ!?全世界に通達なんてできる訳がないだろ‼」


信じない、信じたくないという様子のハルスに対し


少しほほ笑んで再び語りだす


「あなたは”ドラグナイト”を知っていますか?」


「”ドラグナイト”だと?確かおとぎ話扱いにされてるあれか


 全プレイヤーの上位7人に強制的に与えられる強化装備・・・だろ


 それがどうかしたのか?」


「この世界では”ドラグナイト”は伝説やおとぎ話になっています


 そして”ドラグナイト”が出現したら各国は協力してこれに対処すべし


 という協定があるのはご存じなかったですか?」


「それは知っている、だから死神だの貧乏くじだの言われてるって・・・


 だからそれが何だっていうんだ!?」


「各国には”ドラグナイト”の出現を知らせる為の


 ”ドラグライン”というものがあるのです、各国に世界の危機を


 知らせる為のホットラインですね」


「まさか・・・貴様!?」


「そうです今回はその”ドラグライン”を使用して各国に


 連絡いたしました、もうあなたは”空蝉人形”を入手することは


 できません」


ハルスは下を向き小刻みに震えだす、真っ直ぐ無表情で見つめる


ハウゼンとはあまりに対照的であった


「ふっ、ふははははははははははは、そうか・・・何もかも貴様の


 掌の上か・・・もうゲームオーバーって事か・・・」


しばらくの静寂が続きようやくハルスが口を開く


その表情はまるで憑き物が落ちたかのようなさわやかな顔だった


「俺の負けだ・・・最後に聞きたい、あんたは地球人だろ!?


 マクシミリアンというのがハンドルネームなら名前を・・・


 本当の名前を教えてくれないか?」


「私はリチャード・ハウゼンといいますアメリカ人です」


「そうかアメリカか・・・エレーナはまだ生きているのか?」


「はい精神的にはダメージを受けていますが、命には別状はありません」


「そうか・・・ならば最後に頼みがあるエレーナを助けて


 やってはくれないか?頼める義理じゃないのは百も承知だが


 どうかエレーナの命だけは・・・頼む‼、聞き入れてくれるならば


 俺をこの場で殺してくれてもいい・・・しかし聞き入れて


 もらえないのであれば・・・」


「どうするつもりですか?」


「俺一人でも暴れまくって一人でも多くの人間を道連れにして


 やるつもりだ」


その瞳には強い意志を感じた、ハウゼンは目をつぶり


しばらく考え込んでいたが


「わかりました、あのお嬢さんの命は守りましょう私が保障します


 しばらくはリハビリと牢獄の生活になるとは思いますが


 いつかは社会復帰できるよう手配いたします」


「すまない恩に着る」


ハルス仇敵ともいえる相手に深々と頭を下げた


「あつかましいついでにもう一つ・・・このスミスと他の仲間・・・


 僕の家族の遺体を丁重に葬ってはもらえないだろうか


 そしてできれば皆同じところに・・・」


「わかりました、私が責任を持ってそのように手配いたします」


「ありがとう、もうこれで思い残すことは無い、あいつらが


 寂しがっているからな・・・」


ハウゼンは何も言えずにただ見守っていた、スミスの遺体を受け取り


さらに上空へ向かうハラルの後姿を見送った、その直後巨大な雷撃が


上空で発生し爆発した


「さあ行こうか、約束のピクニックに・・・」




戦いが終わりスタネールの一同は勝利に沸き立っていた


スタネールの国民がみなギース城に集まり戦った者達に


賛美と称賛の声を惜しみなく送った


「さすがは”大賢者”様だ‼マクシミリアン様がいる限り


 我がスタネールは無敵だぜ‼」


「今回は”烈風の牙”も大活躍だったらしいぜ!?さすがとしか


 いいようないよな」


「パパ、僕も大きくなったら”烈風の牙”に入るんだ‼」


「オストフ国王バンザーイ‼スタネール共和国バンザーイ‼」


ギース城内でもささやかだが祝宴が営まれていた


そこには”烈風の牙”の隊員達に囲まれているニコライの姿もあった


「おい小僧、今回はお前さんも大活躍だったよな、さあ飲め祝いの酒だ‼」


「いえ僕はお酒は飲めないので・・・」


「何言ってやがる!?こんな時に飲まないなんで極刑に値するぞ‼」


「そんなぁ・・・せっかく生き残ったのにそんな事で殺されるとか


 無しですよ~」


一同の笑い声が響く、そんな中ハウゼンは浮かない顔をして


一人東側の城壁にいた、そこは戦いの爪痕がはっきり残っていて


崩れかけた城壁と散乱した瓦礫が辺り一面に広がっていた


「救国の英雄がこんな所で一人寂しく何をしているんだね?」


振り向くとそこにはハワードと鳴沢が立っていた


「ハウゼン君、随分浮かない顔だねどうしたのかね?」


ハワードの問いかけに空を見上げるハウゼン


「今回の戦いは非常に後味の悪いものでした・・・彼らのやった事は


 決して許されることではありませんが、地球から移住してきた


 子供たちがこちらの世界で戦災孤児になり復讐の為におこしたもの


 ですからね・・・」


「確かにそうじゃな、彼らは彼らだけの・・・いうなれば


 地球人だけの国を興そうとしたんじゃからな、その野望を


 打ち砕いたのも地球人であるハウゼン君なのだから皮肉な話だ」


しみじみ語る鳴沢の言葉にハワードも言葉につまる


「そういえば本物の”賢者の石”と一人生き残った


 少女はどうなったのじゃ?」


ハウゼンが答え辛そうに話し始める


「本物の”賢者の石”は行方不明です、おそらく彼が自爆する前に


 どこかに飛ばしたのでしょう、最後の最後に私に


 一矢報いてきました・・・」


”ほぉ~”と感心するハワードと鳴沢


「で、生き残りの彼女は今どうしているのじゃ?」


「彼女は・・・力を使えないよう結界の施してある牢にいます


 しかし出された食事にも手を付けずどんな問いかけにも


 無反応で・・・」


「それでは死んでしまうではないか!?まぁやった事を考えれば


 死罪は免れないだろうから、しょうがないといえなくもないが


 それではあまりにも・・・」


目を細めて無念の表情を浮かべるハワード、それを聞いたハウゼンが


首を振る


「いえ、オストフ国王に今回の褒美の代わりに彼女の助命を


 嘆願しました、それが彼との約束ですから・・・」


「しかしいくら助命しても本人に生きる意志がないのでは


 どうしようもないではないか!?」


その意見に対し真剣な顔で答えるハウゼン


「ええ、ですから最終手段をとらせてもらいます」




ギース城の地下牢には特別な部屋が三つある、常識を超える


パワーを持つ者を収監する為の強固な檻を擁した牢と


魔法使いなどを封じるための結界を施してある牢の二種類である


今回エレーナが入っているのは後者だが、元々何かを仕掛けようとする


気配すらなかったのでその仕掛けはあまり意味をなしていなかった


エレーナは牢の中のベッドに腰かけたままずっと動かないでいた、


んな静寂を破る様に声が聞こえた


「どうですか彼女の様子は?」


その言葉にピクリと反応するエレーナ


「これは大賢者様このような所へ・・・牢に入ってから


 全く動く気配すら・・・わあっ!?」


今まで全く動かなかった彼女が物凄い勢いで檻に近づき


柵の間から目いっぱい手を伸ばす


「おのれー、弟の仇‼殺してやる、殺してやるぞ‼」


髪を振り乱し檻の柵に顔を擦り付けて手を伸ばすその姿は


以前の美少女の物とは思えないほどの変貌ぶりであった


そんな姿を見たハウゼンはうっすらと笑いながら


「中々元気そうじゃないですか、でも残念


 あなたを殺す訳にはいかなくなりましたのでね・・・


 勝手に死んでくれるとありがたいのですが・・・」


その言葉にピクリと反応して止まるエレーナ


「おやご存じありませんでしたか?オストフ国王の御慈悲により


 全員殺すのは忍びないとの決定であなただけは


 生かしておくことになりました、私は反対だったのですけどねぇ


 リーダーと共に全員処刑してしまえば簡単でしょうに」


「何それ・・・リーダーは・・・リーダーはどうしたの?スミスは?」


「もちろん捕まって処刑されましたよ、当然でしょうあれだけの事を


 したんですから・・・首を切られて他の7人と共に城の前に


 さらし首となって置いてありますよ、今頃はスタネール国民から


 石をぶつけられている頃でしょうフフフフフ」


冷酷に笑うハウゼンとは対照的に少女の顔がさらに険しくなり


鬼の形相に変わる


「うがああああぁぁぁぁぁぁ殺す、絶対殺す‼”ブリザード”‼」


エレーナは力を行使するが牢に施してある結界の印が反応して


光り発動しない


「何で出ないのよ、何でよ‼死ねこのクソ野郎‼」


ハウゼンは軽くため息を吐いて


「全く下品な・・・そのまま食事もせず死んでください


 勝手に死ぬなら国王も諦めるでしょう、もう会う事もないでしょう


 では・・・」


「待てコンチクショウ‼どんなことをしてもお前を殺してやるからな


 待ってろ‼」


静かに立ち去るハウゼンの後ろ姿にありったけの呪詛の言葉を


投げかける少女、ハウゼンがその場からいなくなると


牢内に置いてあった食事を手づかみで取ると一気に貪った


「必ず仇はとるよ、リーダー、オスカー、ケビン・・・・」


地下牢への階段を登り切り入り口の扉をバタンと閉めた時


外にはオストフ国王とコンラート、ハワード、鳴沢の四人がいた


「のうマクシミリアン殿、本当にこれでよいのか?


 これではあまりにも・・・」


「そうですよ、これから私が彼女に本当の事を話して・・・」


オストフとコンラートの提案に首を振るハウゼン


「彼女を生かすにはこれしかありません、真実を知れば


 彼女はまた生きる気力を失い彼らの後を追おうとするでしょう・・・


 どんな理由でもいいんです、生きてさえいれば


 またいい事もあるでしょう・・・彼女を死なす訳には


 いかないんです、それが彼との約束ですから・・・」


そう言い終わったハウゼンは窓から外の墓標に目を向けた


そこには”ネバーランドに集いし9人の家族ここに眠る”


という墓碑銘ぼひめいと共に9人の名前が刻まれていた。



































ようやく終わりました”ネバーランド”思ったより長くて重くて暗い話になってしまいました、なぜかはわかりませんがハウゼン達を中心の話はこんな感じになってしまいます、今回はあまり読み味の良いものではありませんので気分を害された方がいたらスイマセン、それと一部入力ミスがあり訂正しましたので誠に申し訳ございませんでした(ハルスをハラルと入力)、まだ続きますのでよろしかったらおつきあいください、では

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ