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地球滅亡の日

登場人物

沢渡拓斗…高校二年、ワールドファンタジアというゲームにはまっていて過去剣道をやっていた

羽島唯…拓斗とは同じクラスで拓斗の彼女、明るく社交的な性格で皆に好かれている

大島さとし…拓斗の中学からの友人、ワールドファンタジアにはまっている一人

木村慎吾…拓斗、さとしの友人、性格が少しひねくれた性格で少し天然

ジェームズ・ハワード…第64代アメリカ合衆国大統領

リチャード・ハウゼン…NASAの幹部で今作戦のリーダー

鳴沢英治…脳科学の権威でワールドファンタジアを運営するMDDHという会社も持っている。

1.

無限に広がる大宇宙 どこまでも続く漆黒の空間に一筋の光が走っていた


西暦21XX年 その光が原因で人類は滅亡の危機に直面していた


「セドリア彗星、現在時速72000㎞で移動 速度


 進入角度共に変化なし!!」


巨大モニターに映し出されたのは セドリアと名付けられた


巨大彗星である、モニター内では彗星を計測する


さまざまな数字が刻一刻と変化しその数字を見守る


大勢の人間がそれぞれ報告、連絡、相談を繰り返していた


その言葉や態度には殺気にも似た危機感が混じっている


ようにすら感じられた


ここはアメリカ航空宇宙局いわゆるNASAの内部である


職員は全員疲労と焦りを隠せない程


憔悴していた、それもそのはずこの3日というもの


どの職員もほぼ睡眠をとっていないのである


その時場内が一瞬ざわつきその視線はこの部屋への入り口に注がれた


「いや、みんなそのまま作業を続けてくれたまえ


こんな事態だ私への気遣いは結構!!」


入ってきたのは背が高くがっちりとした体形


きっちり整った金髪とセンスのいいスーツに身を包み


威厳と自信に満ちている感じの60歳程の男である


その男が屈強そうな男を後ろに2人従えて速足で歩きながら


モニターの前に近づいてきた


「お早い御着きでしたね大統領」


NASAの職員の中でも一番背が高く物腰と発言に品のある


責任者と思しき40歳前後の男が話しかけた


名前をリチャード・ハウゼンというドイツ系アメリカ人である


そして速足で入ってきたこの男こそ


第64代アメリカ大統領 ジェームズ・ハワードである


「ハウゼン君どうなんだね、その後は?」


大統領に聞かれたハウゼンは首を傾け軽く横に振った


「速度、進入角度共に今のところ変化無しです大統領」


それを聞いたハワードは特に動揺することもなく


少し考える素振りを見せると


後ろにつき従っていた男に振り向きざま質問した


「例の計画はどうなっている?もうそろそろではないのか?」


後ろにつき従っていた男達は互いに顔を見合わせ腕時計を覗き込む


「計画では後1分程です大統領」


それをきいたハワードは軽く頷き


「そうか・・・」


と他人に聞こえるか聞こえないかの声を出した


その時セドリア彗星を映し出していた巨大モニターに


さまざまなウインドウが開き赤い文字が画面に複数並んだ


そしてNASAの女性職員の声で報告が入る


「52発のICBM(大陸間弾道ミサイル)がセドリア彗星に接近中


着弾まで後30秒です!!」


誰かはわからない声がそれぞれあがる


「頼むぞ!!」


「たかだか石ころに・・アメリカをなめるな!!」


「神よ・・・」


あれほど忙しく動いていた職員達全てが作業を止めて


モニターを凝視している


そしてまた先ほどと同じ女性の声で報告があがる


「ICBMがセドリア彗星に着弾まで


 10秒、9、8、7、6、5、4、3、2、1・・・全弾命中です!!」


どこからともなく”おぉ~”という感嘆の声があがる


着弾による爆炎とモニターの一瞬の乱れでセドリア彗星の所在が


わからなくなる


「どうなった?彗星はどうなったのだ!?」


ハワードが叫びにも似た声をあげた、モニターの乱れは


すぐにおさまり爆炎も収束していく


そこにはセドリア彗星の姿がはっきりと映し出されていた


「くそ!!」


職員の一人が思わず口にする、その声が聞こえたか聞こえないかの


タイミングでハワードが叫ぶ


「角度は!?セドリア彗星の進入角度はどうなった!!


 地球への衝突は回避できたのか!?」


「只今再計算をしておりますので少々お待ちを・・」


リチャード・ハウゼンが冷静に淡々と話しかける


まるで一人だけ空気感が違うたたずまいである


先ほど女性職員から全員に聞こえるように報告が入る


「再計算終了しました」


「でどうなったのだ!!」


すかさずハワードが訊ねる、その答えを職員全員が息を飲んで待つ


「セドリア彗星の速度及び進入角度にほぼ変化無し


47時間38分後には地球に衝突予定です」


あぁ~という落胆の声が所どころにあがる


職員の一人がハワードに話しかける


「彗星の周りのガス帯がミサイルの衝撃を吸収してしまったようで


 思っていた程の効果は・・」


ハワードがボソリとつぶやく


「そんな報告はどうでもよい・・・


 これで地球は人類はおしまいなのか・・・」


ガックリと膝を落とし眼にはうっすら涙を浮かべながら力ない声で呟いた


他の職員も呆然とする者、泣き叫ぶ者、その場にへたり込む者とさまざま


な反応であった、リチャード・ハウゼンのみが落ち着きはらった態度で


静かにハワードに近づき耳元に話しかける


「大統領、まだ人類救済の可能性が無いわけではありません」


絶望にくれていたハワードがハッと振り向いた。




朝7時50分 埼玉県の○○駅にはサラリーマンと学生で溢れかえっていた、


その流れはオフィス街のある東方向へサラリーマンが


私立XX高校のある南方向へ学生が川の支流のように自然に流れていく


その学生の一人に沢渡拓斗がいた、寝癖の残った髪と朝から気怠げな目


シャンとしていればモデルと名乗ってもいい程のルックスを


全て台無しにしているたたずまいである


そんな彼をよそに周りの学生が朝の挨拶を交わしている


「おはよー」


「おはよー、今日も寒いね」


「オッス、昨日のサッカー見たか!?」


「やべー俺昨日出された宿題やってねー、今思い出した・・」


さまざまな学生の会話が交わされる中、俺には関係ないとばかり


歩いていた拓斗だが後ろからの呼ぶ声と


背中を軽くたたかれた感触で後ろを振り返った


「おはよう拓斗君、今日も眠そうだねまた夜中までゲームしてたの?」


そこには明るく笑う女子の姿があった、その笑顔は性別を問わず


好感の持てるものである、実際彼女は見た目の可愛さと


明るい性格でクラスの人気者であった


そんな羽島唯の屈託のない笑顔に睡眠時間を削ってまでゲームをしていた


拓斗にはなにか罪悪感に似た後ろめたさみたいな感覚を少し覚えた


「おはよ唯、今日も元気だなお前は」


「高校生で元気なかったら社会人になったらどうなっちゃうのよ?」


と笑いながら話す彼女の姿に自分も少し元気をわけてもらった


気がしていた


「おーおー朝から熱いねぇ~」


後ろから二人組の男子生徒が近づいてきた、声をかけてきたのは


茶髪で短髪の一見軽そうな感じの男子


「うるせーな、今時そんな冷やかし方があるかよ、さとし」


軽く笑いながら拓斗もまんざらでもない態度でさとしに返す


「朝から登校時のイチャつきは迷惑防止条例に引っ掛かるからな!!」


もう一人のメガネに長身の男子が拓斗に声をかける


「お前が言うと冗談に聞こえないんだよ慎吾・・


なんで軽くおこっているんだ!?」


拓斗が少し笑いながら答える


「朝からそんなもの見せられるこちらの身にもなれ


 子供のころ人の嫌がることをするなと親にいわれなかったか?」


慎吾は真顔で答える、傍から見ると確かに本気か冗談かわからない程だ


「まぁ両方なんだろうけどな・・・」


拓斗はつぶやくとさらに


「なら将来お前が知事になってその条例を作ってくれ、待ってるよ」


と軽くかえす


「知事か・・・まあ悪くないな、俺が知事になったら美人秘書を


 いっぱいはべらせてその条例もつくるか・・・」


慎吾がまじめに考え込む、みんなヤレヤレとばかり顔を見合わせる


そして話かけるタイミングをはかっていた唯が二人に話しかける


「おはようさとし君、慎吾君!!」


「おはよう羽島さん、今日も朝から元気だねぇ」


「おはよう羽島さん、君も僕の将来の秘書候補だねその時は頼むよ」


羽島唯はわざと考え込むフリをしてから答える


「じゃあ40歳まで結婚してなかったらお願いしようかな」


屈託のない笑顔で答える唯に


「残念だけど僕の秘書は27歳までと決まっているんだよ


 羽島さんの場合その他の基準はクリアしてるから残念だけどね」


とまじめ顔で答える慎吾に唯はわざとガックリ肩を落とす


リアクションを交えながら


「まだ高校2年生で就職活動失敗か・・・前途多難だなぁ」


といってみせる、続けて唯が質問する


「さとしくんは進路希望とか将来の夢とか決まってるの?」


さとしはその質問に意表をつかれた感じのリアクションをしたのち


「俺?まだ全然考えてないよ、今はそんな先のことより


 目先のゲームに夢中だしね」


と笑って答えると続けて信吾が口を開き


「さとし、お前今どこまでレベル上げたんだ?」


「よくぞ聞いてくれました!!今レベル53でハイウォリアーだ


 このままいけばナイトも夢じゃないぜ」


「ほぅそれは凄いな、さとしがナイトか!?もしお前が


 ナイトになれたら俺がラーメンおごってやるよ」


慎吾がまた本気とも冗談ともわからない口調で対応すると


唯が不思議そうな顔で


「拓斗君も含めてみんな同じゲームやってるんだよね?


 そんなに面白いの?」


その質問に嬉しそうな顔でさとしが答える


「うん、オンラインヴァーチャルゲームは数々あるけど


 このワールドファンタジアは他のゲームとはクオリティが


 段違いなんだよ!?本当に凄いんだぜ!!」


唯は”ふ~ん”とうなずいて


「で何がそんなに面白いの?」


と改めて問うとさとしが嬉しそうに


「まぁ基本設定は30近い国々が全大陸制覇を目指して


 戦争をしている世界にプレイヤーとして参加するんだけど


 楽しみ方はそれぞれでね、どこかの国に所属して出世しながら


 大陸制覇を目指すとか、仲間とモンスターを倒して金やアイテムを


 集めるとか、数人でパーティーを組んでレアアイテムを


 探す旅に出るとか、各国で行われる武術大会や野試合で


個人の強さをひたすら追求するとかね」


それを聞いた唯は又うなずくと


「面白そうだけどどちらかというと男の子向けのゲームなのかな?」


「それがそうでもないんだよ最近女子のプレイヤーが急増しててね


 なんでかわかる?」


さとしが得意げに問いかけると唯は少し考えたのち首を振る


「わからないわね、なんで?」


「デートスポットとして使われるんだよ、学生にしろ社会人にしろ


 付き合っていても会う時間や日にちは限られているだろ!?


 だからお互い時間を合わせてログインしてデートするんだよ


 ワールドファンタジアには凄くきれいな景色の見れる場所が


 いっぱいあるからね」


それを聞いた唯は始めて食いつき気味に聞き入る


「それは凄いじゃない、家に帰ってからでも毎日拓斗君に会って


 素敵な場所でデートできるってこと・・」


唯はうつむき気味に考えながら聞こえるか聞こえないかくらいの小声で


呟いた


「羽島さん、声にでてる 声にでてる そんなこと聞くと


 また信吾の機嫌が悪くなるし・・・」


と笑いながらさとしが忠告ともツッコミとも取れることを唯に告げる


すかさず慎吾が強めの口調で

「ふん、そんな恋愛脳バカ共はアク禁にしろって言いたいな


 そういえば一昨日パナキュース大国の湖で

 

 ボートに乗って逢引きをしていたカップルがタイガーホエールに


 襲われたって聞いたな、実に痛快だった」


「あったなそんな話(笑)」


とさとしが合わせると拓斗も少し笑った、その時拓斗の背中を


”バン”と強く叩く音がして振り向くと


「おっす、相変わらず寝ぼけた顔してるな拓斗!!」


そこには人懐っこい笑顔で笑いながら話しかける女子がいた


サラリとした黒髪に整った顔立ち、和服でも着ておしとやかにしていれば


かなりの和風美人で通るルックスだが


中身はまるで真逆な女子、それが東条みゆきであった


「痛ってーな、いつもお前は・・・朝からガサツな挨拶だなみゆき」


「あっおはようみゆき!!」


「おはよ、なんかうれしそうだね唯」


「そ、そう!?そんなことないよ」


と言いながらニヤケ気味な顔を戻すのに必死になる唯


その光景を見ていた慎吾は


「拓斗、日本は重婚を禁止する法律があるのは知っているよな・・・」


「お前な・・みゆきは俺が子供の頃通っていた剣道道場の


 家の子だったから昔から知ってるってだけだ」


とめんどくさそうに答える拓斗に


「被告人の反対弁論はそれで終わりか?あんなかわいい彼女と


 幼馴染がいるとか許されるのは漫画の中だけだ!!


 お前みたいなのがいるから・・お前みたいなのがいるから・・・」


ヤレヤレとばかり慎吾の相手をするのをやめようとしたとき


「ねえ拓斗君とみゆきは剣道してたの?」


と唯が問いかける、そこにさとしが代わりとばかりに答える


「やってたなんてもんじゃないよ、この二人は2年続けて全国大会まで


いってるんだぜ!!特に拓斗は全国大会で準優勝してるんだから」


それを聞いた唯はびっくりした様子で


「凄いじゃない!?でもウチの高校剣道部なかったよね


 なんで剣道辞めちゃったの?」


「まぁ・・色々あるんだよ・・」


と歯切れの悪い返事をする拓斗に


「その辺は俺たちが何度聞いても教えてくれないからな・・・」


とのさとしの発言に


「まぁでもそのおかげでこの高校で拓斗君に会えたんだから


 私には良かったのかな!?」


と笑い、それ以上追及しようとしない唯に少し感謝した


「そういえば拓斗、ワールドファンタジア近日中に


 大型アップデートするって知ってるか?」


「そんな噂あったけど公式HPでもそんな告知なかったし


 単なるデマだろ!?」


「でもさ、最近やたらメンテナンスの為って追い出されること


 多いじゃん、偶然にしては・・って思うんだけどな」


さとしが続けざま


「そういえば拓斗はどのくらいレベル上げてクラスや


 ジョブはどうなっているんだ?」


という質問にかすかに笑って


「まぁ俺はぼちぼちだよ・・」


と返すだけの拓斗だった




ミサイルによるセドリア彗星の軌道変更が失敗した1時間後


NASAの会議室にはハワードをはじめセドリア彗星対策本部の


面々が集結していた、NASAの職員や軍事関係者


彗星関係の専門家などハワードとも何度も対策を検討したメンバーで


見覚えのある面々であったが会議のテーブルの一番端に


見覚えの無い人物がいた、白髪で背の低い東洋人大きめな


丸メガネを掛け無精髭を生やした白衣の男性、あれは誰なのだろう?


と考えていたところでハウゼンがおもむろに立ち上がり口を開く


「緊急事態なので細かな段取りや挨拶は省きます


 本日はセドリア彗星の軌道変更オペレーションが失敗した今


 別の作戦に対する検討をおこなう為に皆様に集まっていただきました」


「ハウゼン君あのセドリア彗星にミサイルで対抗する以外の


 対策などあるのかね!?」


ハワードが待ちきれないとばかりに口をはさむ


「落ち着いてください大統領、その説明を今からしていただきますので


 脳科学研究の権威の鳴沢英治博士です」


ハウゼンが目線と手のリアクションでテーブルの端に座る


60歳前後の人物を紹介した、その人物こそ先程ハワードが誰なのか⁉︎


と考えていた人物である


鳴沢博士はハウゼンの紹介を受けおもむろに立ち上がると


「はじめまして大統領、鳴沢英治と申します」


「挨拶はいい、鳴沢博士あなたは人類と、地球を救える


 オペレーションをもっているというのかね!?」


ハワードは食い気味に問いただす、もういてもたってもいられない


という様子である


「大統領、私のオペレーションは地球は救いません


 人類のみを救うのです」


鳴沢は淡々とした口調で答える


「ん!?どういうことなんだ?地球を救わないが人類を救うとは・・・


 どういうことなのか説明してもらえないだろうか?」


ハワードが不思議そうに質問する、そもそも彗星への対策に


なぜ脳科学の権威が来てるのか?という疑問も感じていた


「よろしいお答えしましょう、私のオペレーションは人類を


 ゲームの中に避難させるというものです」


それを聞いたハワードは益々混乱した


「どういうことなのだ?全く意味がわからない


 もう少しわかりやすく説明してもらいないだろうか?」


鳴沢はややワザとらしく咳払いをした後説明を始める


「まず前提としてセドリア彗星は今の人類の力では対処できない


 ということです、ならば人類を避難させなければなりませんが


 全人類100億人を避難させるには時間も宇宙船も足りません


 仮に避難できたとして人類が居住可能な星を見つけるまで食料


 水が持ちませんしその星に着くまで人間の寿命が持つかどうか


 不明です」


ハワードもこの説明にフムフムとうなずきながら聞き入っていた


「ですから人類の意識というか精神というか心のみを


 別の場所に避難しようというプランなのです」


「な!?そんなことが??・・」


ハワードが思わず立ち上がり質問しようとしたとき


鳴沢がさっと手のひらをハワードに向け発言を制止した


「これから説明しますからまずは落ち着いて聞いてください大統領」


鳴沢はなにか得意げそうに説明を続けた


「私は脳科学の研究をしていますがその一環として


 ワールドファンタジアというゲームを運営している


 MDDHという会社も同時に経営しています


 このゲームは人間の脳波をゲーム機にリンクして


 ゲーム内でプレイヤーがそのまま活動しているかのような


 感覚で遊べるゲームです、今回はこれを利用して人類を


 救済しようというプランなのです」


ハワードが続けざまに質問したかったのだが、まずは落ち着いて


聞けという忠告を思い出し色々な疑問を飲み込んだ


「さてこのゲームをどう利用するか?という説明します


 通常ゲームをプレイしている時はゲーム機と脳波をリンクし


 ゲームを止める時はゲーム機と脳波のリンクを切って


 ログアウトします、今回は大型人工頭脳と巨大な容量を持つ


 サーバーを宇宙船に積み込み全人類をゲーム内にリンクさせたのち


 先程言った精神というか心を人工頭脳を経由してサーバーに


 避難させるのです」


「な!?そんなことが・・・・」


ハワードはあまりのプランに絶句した、その後我を取戻し思わず質問した


「鳴沢博士、君は人類はゲームの中で疑似生活をすれば


 体というか本当の肉体は必要ないというのかね?」


鳴沢はフッと笑うと


「そんなことは申しません、まだ説明は途中なのです


 よくお聞きくだい、私のプランはゲーム内で疑似生活を


 している間に人類が居住可能な星をみつけてそこに移住する


 というものです」


ハワードが質問したくてしょうがないという態度をみて


どこか嬉しそうに説明を続けた


「今すべての人は政府による検診を義務付けされていますよね?


その検診により各個人のデータは完璧に把握されています


人間を形成する物質要素は単純な物ですから移住可能な星に着いたら


人間の構成要素物質をプラントで量産しデータによりクローンを


生成するのです、そこにサーバーに保存してあったデータ化した


個人の意識をクローンにダウンロードしてしまえば各個人の再生は


可能となる、これが私の計画です」


ハワードはもはや驚きを通り越して茫然とする寸前で我に返り質問した


「まず聞きたいのがクローンに精神をダウンロードするなんて技術


 私ですらはじめて聞いたぞ!?そんなことが本当に可能なのか?」


「はい可能です、なぜ大統領ですら知らなかったのかのは


 超極秘裏におこなわれていた研究だからです、この研究は


 精神も含めた完全なクローンの量産が可能になるため


 それこそ優秀な人間や重要な人物を複数量産したり永遠の命を


 得るなんてことも理論上可能です、それは神の領域すら犯す


 行為ですし一部の権力者や資産家のみ不当な恩恵を受ける・・


 なんてことにもなりかねませんからね、ただ今回は


 そんなことも言ってられない状況ですから」


それもそうだな・・とハワードは無理やり納得し他の質問に移った


「そのゲーム内に避難するというのはわかったが人類の全てが


 そのゲームを持っているわけではないだろう?そこはどうするのだ?」


その質問に鳴沢は待ってましたとばかりに


「大統領、今アメリカはTCMVという電波兵器をお持ちですよね?」


その質問に意表をつかれ余りの驚きに立ち上がると


「な、なんで君はTCMVを知っているんだ??あれは軍や首脳でも


 ほんの一部しか知らない極秘情報だぞ!?」


会場がざわつきはじめ鳴沢は皆の顔を見渡すとまた得意げに語り始めた


「この際極秘とか言ってられないでしょう会場の皆様にも簡単な


 説明をさせていただきますTCMVとは電波兵器の一つで


 かなりの広範囲の人間の脳波に対して干渉できるという


 アメリカの最新兵器です、今回はこの兵器を使用して


 半ば強制的にでも全人類をワールドファンタジアに避難させる


 というものです、TCMVの効果範囲を考慮すれば


 6~7回発動すれば地球全土をモーラできるでしょう


 なぜTCMVについて私がこれほど詳しく知っているか?


 という質問ですがこれは脳波に干渉する兵器ですので


 軍に技術協力した科学者が私だったというだけの話です」


ハワードが椅子に座り直し僅かに冷静さを取り戻す


そして会議に参加している各関係者はみな不満げに鳴沢を


見ていることに気が付いた、中には明らかに鳴沢をにらんでいる者


すらいた、気になって隣に座っているハウゼンに小声で質問した


「ハウゼン君、なぜ各関係者はみな鳴沢博士に対して


 あんなに敵意を示しているのだ?」


ハウゼンは静かに話し始めた


「実は鳴沢博士は当初セドニア彗星の対策本部のメンバーの


 一人だったのですよ」


少し驚いてハワードが訊ねる


「しかし私が参加した会議では一度も会っていいないぞ!?なぜだ??」


ハウゼンが一つため息をつき答える


「大統領に会議で報告する前にそれぞれのプランを述べて


 ある程度の意思疎通というか意見のすり合わせをする機会が


 ありまして、鳴沢博士の案はあまりに奇抜で皆の想像を


 はるかに超えるプランだったので他のメンバーから批判的な


 意見が多かったんですよ、しかも他のメンバーの案を全て否定・・・


 まぁ論破してしまったんですな、かなり痛烈に・・・


 それで他メンバーから鳴沢博士を外さないなら協力できない


 と言われまして・・やむなく鳴沢博士をメンバーから外しました」


ハワードがなるほど・・とうなずくと


「結局他メンバーのプランではダメだということは正解だった訳です


 他メンバーのメンツがどうのと言ってられる状況では無い為


 私が鳴沢博士を呼んでおいたというわけです」


ハウゼンが淡々と説明する、それを聞いたハワードは改めて


鳴沢に問いかける


「鳴沢博士、大体のプランの内容はわかりましたが一番の不安は


 人間の精神を人工頭脳を経由してサーバーに保存しそれを


 クローンにダウンロードして再生するという点だ


 理論上で可能だったとしても実際本当にそんなことができるのか?


 という不安がどうしても払拭できないんだが・・・」


ハワードの意見に会議に参加しているメンバーのほとんどが


大きくうなずく


「大丈夫ですなんども検証し理論上の不安点はほぼありません


 何度も動物実験を行いそれなりの成果・・・


 まぁ一応成功しております」


あれほど自信満々に発言していた鳴沢のやや歯切れの悪い返答を聞き


ハワードがもう一度質問をしようとしたその時メンバーの一人が


立ち上がり語気を強めて


「あれが・・あの実験が成功だと!?ふざけるな!!


 あんな不安要素の多いものに人類の命運を委ねるなんてできるか!!」


その激しい態度に不安を感じたハワードはすかさず


「どういうことだ?実験でなにかあったのか?」


ハワードの質問に今激しく意見したメンバーがなんとか


自分を落ち着けて答える


「確かに動物実験で精神を肉体に戻すこと自体は


 成功したようですが・・・・」


「だったらなにが?・・・・」


と問いかけようとするハワードがしゃべり終わる前に


「戻って来た実験用動物が凶暴化していたんです!!」


予想もしていなかった返答に唖然とするハワード


それを聞いた鳴沢は目を閉じて頭をかきながら


「その問題は解決済みです、その問題はね・・・」


あれほど自信満々だった鳴沢のまた歯切れの悪い物言いに


「鳴沢博士、なにか他の問題があるのか?」


「実験動物の凶暴化問題の原因はわかっているのです


 ワールドファンタジアというゲームは様々な国が戦争を


 繰り返しているのが基本ですが複数のモンスターも出現します


 我々は人類を避難させる為にゲーム内のNPCやモンスターを


 出現させない設定でテストを行いました、すると精神が


 ゲームから帰って来る時、モンスターのデータを拾ってしまう


 バグが出てしまうのです」


ハワードが不安げに問いかける


「ではどうするのだ?そのバグは取り除けるのか?」


鳴沢は首を横に振り


「バグの原因を追究して解決しテストを行う時間はもうありません


 我が社のスタッフも彗星問題が出てから不眠不休で取り組んで


 おりますが全人類が移住しても大丈夫な居住区間を制作するので


 精いっぱいなのです、私の意見にもっと耳を傾けてもらえていれば


 もっと人員を増やすこともできたのでしょうが・・・」


少し恨み言とも取れるセリフを吐いた鳴沢に対しハワードは


「今更そんなことを言っても始まらない、でどうするのだ鳴沢博士?」


「選択肢は一つしかありません、ゲーム設定をいじらないまま


 人類をゲーム内に避難させるのです」


ハワードがつぶやく


「それはつまり・・・」


「そう、各国が戦争を繰り広げ凶暴なモンスターが出現する世界に


 そのまま人類を送り込むのです」


ハワードがすかさず聞く


「しかしゲームなのだから死亡しても復活できるのだろう?」


その質問に首を振る鳴沢


「死亡から復活させらるほど容量に余裕がありません


 つまり死んだら本当に死亡です」


その提案に唖然とするハワード、他メンバーからも声があがる


「ふざけるな!!そんな危険な場所に人類を送るつもりか!!」


「人の命をなんだと思っているんだ!!」


「人類はお前の実験動物じゃないんだぞ!!」


様々な怒号があがる中、しばらく黙って聞いていた鳴沢が口を開く


「じゃあみなさんはどうするおつもりですかな?


 彗星が地球に到達するまであと2日もないんですぞ!?」


あれほど声をあげていたメンバーが一言も返せなかった


鳴沢は改めてハワードに問いかける


「大統領決断を、私のプランを採用したとしても大型人工頭脳


 巨大サーバー、プラント制作用ドローンを宇宙船に積み込まなければ


 なりませんしTCMVとワールドファンタジアのリンクも


 行わなくてはなりません、なにより全人類に向けて報告と警告を


 しなければなりません時間は迫っています」


決断しきれないハワードに鳴沢が続ける


「ワールドファンタジアに移住したのち戦争に巻き込まれたり


 モンスターに襲われたりしてある程度の被害者は出るでしょう


 私が計算した被害予想では最大で全人類の25%が死亡すると出ました」


ハワードがやや青ざめた表情で


「25%!?25億人もの人間が死ぬというのか!?」


鳴沢がコクリとうなずくと


「あくまで最大被害を想定しての話です、しかしなにもしなければ


 全人類が死滅するのです、人類はいくつもの危機を乗り越えて


 きました、今回も必ず乗り越えてくれると私は信じています」


選択肢のない問題に苦渋の決断をしなければならないハワードが


最後の質問をした


「鳴沢博士、最後に聞きたいそのワールドファンタジアの住人・・・


 NPCというのか?そちらの人間とは共存できるのか?」


鳴沢は少し考えて


「それはわかりません、ただこのゲームのNPCは本物の人間と


 全く変わらないと言って差し支えないレベルです


 人間の行動&思考パターンを数百、数千、数万にわたり組み込み


 それをランダムでパラメータ化しています、ですからプレイしている


 人間でも相手がプレイヤーなのかNPCなのか全くわからないほどです


 実際ゲーム内のNPCも自分が本物の人間と思い込んでいる

 

 のですから・・・」


少し間をあけて続ける


「それ故にわからないのです、人間にも色々なタイプがいますでしょう?


 共存は可能ですが攻略法なんてものはありません


 それぞれがその場その場で解決していくしかないんです」


ハワードはそれを聞いてうなづくと


「そうだな、人類の力に期待するしかないのだな・・わかった!!」


ハワードは決断すると各部所に指示を出していった


「すぐに宇宙船にサーバーと人工頭脳、ドローンの積み込みを


 TCMVとゲームのリンクは鳴沢博士を中心に行ってくれ


 それから至急全世界に向け緊急会見の準備を


 必ず全ての人間に伝わるよう各マスコミにも協力を要請しろ


 私は今から各国首脳に説明する回線の用意をしてくれ


 あとワールドファンタジアの資料を作成してくれ


 このゲームをプレイしてない人にもわかるような内容にして


 なるべく多くの人に見てもらえるようにしてくれ


 もう時間がない人類最大の危機にみんなの力を貸してくれ!!」


大統領の言葉に今まで沈んでいた空気は一変した、その光景を見て


何度もうなづくハウゼンがいた




沢渡拓斗達の通う学校では朝から異様な雰囲気が漂っていた


本来一時限目は体育のはずが中止になり教室に集められた窓の外を


見渡してもグランドに出ている生徒は一人もいない


心なしか道を歩く通行人や道路を走る車もやけに少なく感じた


異様なムードを感じていた生徒達がややざわつき始めていた時


担任の教師が急いだ様子で入ってきた


「今からプリントを配るしっかり読むように」


配られたプリントを見て拓斗は驚いた、それもそのはずプリントの


題名は”ワールドファンタジア”について


と書いてあり内容はワールドファンタジアに関する基礎知識や注意点


初心者用の簡単な攻略法まで書いてあったのだ、


「おい拓斗!!」


後ろの席のさとしが話かけてくる


「どういうことなんだこれは?なんで学校がワールドファンタジアの


 プリント配ってるんだ!?」


問われた拓斗もさっぱりわからない、むしろこちらが聞きたい


ぐらいである、少し離れた席の慎吾に目線を移すと慎吾も


こちらを見ながら困惑している様子である


クラスのざわつきが広がっていく中でしばらく黙っていた教師が口を開く


「みんな静かに!!色々疑問点はあるだろうが後5分程で

 

 緊急放送がある、それまでにしっかりプリントを読んでおくように


 とのことだ以上!!」


担任教師の態度を見ているとどうやら生徒と同じくなぜこんな


プリントが配られたのか全くわからない様子である


だから自分に聞かれても困るぞ!!と態度でしめしていた


それを生徒の皆は空気で感じ取った


教室の大型モニターに緊急放送の文字が書かれていて


静止状態がしばらく続く、右下には”緊急放送まであと2分25秒”と


秒単位で示されているのでその時間が来るまでジッと待つしか


なさそうだと皆理解した


「今からアメリカ合衆国大統領の緊急会見を始めます


 大変重要な報告ですのでなるべく多くの人が聞いてください」


と金髪のベテラン女性アナウンサーらしき人が真剣な口調で伝える


そして画面が切り替わりハワードの緊急会見が始まる所が映し出された


「みなさん私はアメリカ合衆国大統領ジェームズ・ハワードです


 今から我々人類にとって大変重要な報告をしなければなりません


 みなさん気持ちをしっかり持ってお聞きください」


ハワードは最初の前置きをして一息飲んだ


「今我々は人類史上最大の危機を迎えています、それはこの地球に


 巨大彗星が接近しているのですこのままいけば後13時間後には


 地球に直撃します、しかし安心してください全人類をある場所へ


 避難・移住させますそこはワールドファンタジアという


 ゲームの中です、お聞きのみなさんは私が何を言ってるんだ?


 と思いでしょうがこれは本当の話です


 ワールドファンタジアです!!まだ納得できない人も大勢いる


 とは思いますがとにかく理解してください


 我々はゲームの中に避難・移住するのです・・・


 しかしその世界は今我々の世界とは違い世界中が戦争を


 している状態です、凶悪なモンスターも数多くいるとのことです


 大変な危険が待っているかもしれません


 しかし皆さん生きてください!!なんとしても生き抜いてください!!


 我々人類には過去にも数々の試練がありました


 今回も我々人類なら必ず乗り越えられると信じています!!


 これから30分後そしてその後一時間おきにあちらの世界への


 転送が始ります あちらの世界では十分な居住スペースが


 各地に設置されています、そこを目指して進んでください


 近くにワールドファンタジアのプレーヤーがいたら


 その人を頼ってください、最後にもう一度お願いします 

 

 皆さん生き抜いてください!!」


ハワードの熱意のこもった演説は終了したが聞いていた民衆は


全く理解できない人間がほとんどだった


各国の軍隊や警察は暴動やパニックを抑えるのに必死であった


その軍隊や警察からもパニックを起こす人間も出ているのだから


当然である 鳴沢の被害予想にはこの時の人数も含まれていたことを


ハワードには伝えていなかった。


はじめて小説というものを書いてみました、感想とかいただけるとうれしいです。

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