女を追え!part5
吹雪の中、激しい戦闘が繰り広げられていた。
戦闘音は小さくなっていき、やがて聴こえなくなった。
『終わったのか・・・?』
ガルムとテペリが吹雪の中から現れる。
俺を見るなり、テペリが俺に駆け寄ってきた。
「レイダスさん!大丈夫ですか!?しっかりしてください!!」
テペリの胸元には、魔物から受けたであろう切り傷があった。
俺は、腕を動かし、テペリの手に触れた。
「揺するな・・・。」
俺がそう言うと、テペリは安堵したようで、雪の中に腰を下ろした。
肩で息をしている様子から、戦闘の疲労は抜けていないようだ。
「俺より・・自分の・・・心配をしたらどうだ?」
俺の言葉にテペリは、言った。
「仲間が最優先です!さあ、安全な場所に移動しますよ。」
テペリは、小さな体で俺を担ごうとするが、俺の重さで雪に埋もれた。
雪の中から顔だけ上げたテペリは、背中が軽くなった事に気付く。
ガルムが、俺を背に乗せたのだ。
「ワオ――ン!」
「俺に任せろ。」と言っているらしく、ガルムの様子にテペリは頷いた。
安全な場所へ移動すべく、テペリとガルムは歩を進めた。
そして、歩く事約1時間――――
山道沿いに小さな洞窟を発見する。
「ここで休みましょう。」
テペリとガルムは洞窟に入って行き、俺を下ろして横にした。
適当な木を切り倒し、薪を入手したテペリは、たき火を起こした。
パチパチと木の燃える音が聴こえてくる。
「レイダスさんは、持病でもお持ちなんですか?」
というテペリの質問に動けない俺は答えた。
「まあ、そんな所だな。突然意識が飛んだり、動けなくなる。」
テペリは横になっている俺を見て納得する。
「治る手立てはあるのですか?」
と聞かれた俺は「ない。」と即答した。
俺のこれは、治せない。
本人である俺がそう自覚している。
「取り敢えず、明日までには動けそうだ。」
『全く・・・。どっちが足手まといなんだか・・・。』
俺は、ため息を吐いた。
テペリに「足手まといだ。」と遠回しに言っておきながら、現状、俺が足を引っ張っている。
テペリはコクリと頷き、俺に言う。
「分かりました。明日の早朝出発しましょう。私も傷の手当てをしたいですし・・・。」
俺は頷いて、即意識を手放した。
本当は、ガルムとテペリが戻って来た時点で限界が来ていた。
それをここまで耐えたのは《探知》で周囲を警戒する為だ。
休息を取る俺達に接近してくる敵がいないとも限らない、不安要素は少ないほどいいからな。
――――――――
俺は、夢を見る。
夜空の下、いつもの平原が広がっていた。
しかし、2人がいない。
俺は辺りを見渡すが、2人は何処にもいなかった。
「何処にいるんだろう・・・。」
今回の夢の中では、俺には体があるようで、動き回る事が出来た。
そんな俺の元へ来訪者達が現れる。1人1人から凄まじい力を感じた。
「2人を探せ!生かして帰すな!殺せ!」
来訪者の声で、他の者たちが平原を焼き始めた。
綺麗だった平原は、炎で赤く染まる。
夜空に浮かぶ月が赤くなった。
「誰だ・・・。お前は?」
俺は、来訪者に尋ねるが、来訪者は俺に気付かない。
俺は、来訪者を知らないはずなのに、憎しみが、怒りが込み上げてくる。
『殺してやりたい!』俺の感情がドロドロになる。
止めどない負の感情が俺を汚染していく。
「こいつは、俺の大切な物を奪った!」
『俺は何を言っているのだろう・・・。』
「憎い憎い憎い!殺してやる殺してやる殺してやる!!」
名も知らぬ来訪者に俺は、殺気を放つ。
しかし、来訪者は気づかない。
俺は、腰の剣を抜き来訪者に襲い掛かった。
俺の力なら容易に殺せる―――――はずだった。
突如、俺の体に刃が突き刺さる。
心の臓を的確に貫かれた俺は、血を吐き出した。
「ガフッ!」
来訪者が俺を攻撃した訳でもない。
他の者達が俺に襲い掛かった訳でもない。
何処から?
俺は、仰向けに倒れていく。それをある人物が受け止めた。
「あの・・・時の・・・。」
夢で見た人物だった。
そして、いつの間にかあの平原とは違う場所に来ていた。
森林に囲まれた場所で赤い眼が俺を見つめる。
瞳からは悲しみが伝わってきた。
『なんで泣いてるんだ・・・?』
俺の瞳からも自然と涙が溢れてきた。
俺は涙を流さないはずなのに、涙を流す。
俺の瞼は次第に重くなり、俺は目を閉じた。
意識のない俺を、ギュッと抱きしめてその人物は放そうとしない。
俺の夢はそこで終わった。
―――――――――――
目を覚ますと、眼前にはテペリの顔があった。
ガルムも心配そうに俺を見つめている。
「魘されていたようですが、大丈夫ですか?顔が真っ青ですよ。」
『俺は、魘されていたのか・・・?』
夢の一部を所々しか覚えていなかった俺は、魘されていた自覚がなかった。
俺は、上体を起こし身体を確認する。
呼吸が浅く、汗が酷い。
けど、身体はしっかり動くようだ。
俺は、立ち上がって、テペリに言う。
「大丈夫だ。身体は動く。」
「・・・分かりました。準備は出来ているので、行きましょう。」
テペリは返事をするまでに間が開いた。
「大丈夫。」という俺の顔色がどう見ても悪いからだろう。
しかし、俺達が立ち止まっている間にもマリー・フラクトは移動している。
それを考えると長く休憩していられないのだ。
俺達は洞窟を出て再び《氷河山》へ歩を進める。
幸いにも吹雪が弱まっていたお陰で、速めに《氷河山》に到着した。
――――《氷河山》――――
氷河山に到着した途端、吹雪が強くなった。
それが《氷河山》である。
遠くからでも魔物の鳴き声が聞こえる。
俺の《魔物探知》に複数の反応がある。
どれも龍の反応だった。
その内の1つが突然消滅する。
「テペリ、龍が1体消滅した。恐らくマリー・フラクトだ。」
俺がそういうと、テペリは「分かりました。」と頷いた。
マリー・フラクトとの決戦が近い。それが俺とテペリの気を引き締めた。
俺の体調も完全に戻り、俺はいつでも戦える状態になった。
俺達は、反応が消えた《氷河山》の西側へと向かう。
そこで、俺達は惨状を目にした。
《氷龍》の無残な死体が転がっていた。
四肢は斬り落とされ、首がない胴からは、鮮血が滴る。
『ボアル・ベアを思い出すな・・・。』
俺も似たような殺し方をしたことがあるからマリー・フラクトの今の心境が理解できた。
「殺しを楽しんでいるな。」
素材も回収せず、死体を転がしているのが良い例だ。
俺がその素材を貰っておくとしよう。
一方テペリは俺の発言に身体を震わせていた。
「殺しを楽しんでいるって、どうして・・・?」
獣人であるテペリは、命の重みを知っている。
奴隷にされた同胞を見てきたテペリには理解できなかった。
俺は、素材を回収しながら答える。
「理由は特にないだろうな。」
「ないってどうして言い切れるんですか?」
「マリー・フラクトにとって殺しそのものが快楽だからだ。」
俺は、質問ばかりするテペリに向き直ってハッキリと言った。
テペリは耳と尻尾を垂らして、沈黙する。
「そう落ち込むな。会えば分かる事だ。」
俺は、素材の回収を終えて、テペリの頭を雑に撫でた。
俺は、《気配探知》を発動させ、マリー・フラクトの場所を割り出す。
「《氷河山》の頂上に行くぞ。魔物の接近には注意しろ。」
髪を直しながら「了解です。」とテペリは頷くのだった。




