男は獣人の国に入国した。
《イスガシオ》に到着した俺とガルムは門に向かっていた。
『ヴァルハラみたいに、ならないと良いが・・・。』
俺は不安を抱いていた。
王都グラントニアの上層は獣人を奴隷としていた。
テペリによれば、奴隷の割合は、獣人が占めている。
ヴァルハラで俺がエルフに攻撃を受けたように、
イスガシオで同様な目に合う危険性があるのだ。
戦争を回避するための切り札として、獣人奴隷をまだ開放していない。
いわば人質だ。
「《星波の丘》に直接行ければいいのだが、それが出来ないんだよな。」
俺はため息を吐いた。
《星波の丘》に直接行かない理由は、シンプルに《許可》が必要なのだ。
旧王都グラントニアに入国する際受け取った《認可証》みたいなものだ。
それがないと《星波の丘》周辺に張られている結界に弾かれる。
今の俺なら、結界を容易に破壊できるが、
それをしたことで戦争を吹っ掛けられるのは困る。
その為、穏便に事を済まさねばならない。
「許可を貰って《星波の丘》に行く!」
シンプルイズザベストこそが、俺の策だ。
門番が近づいてくる俺とガルムに気が付いた。
『襲ってくるなよ・・・。』と内心冷や汗を流すが――――
その緊張や不安は無駄となった。
俺とガルムは何もされることなく、門をくぐる事に成功した。
俺は、門番に振り返った。
すると、体を震わせて目を背けられた。
「ん~?」
俺は、違和感を感じながらも、足を進める。
イスガシオの中心に来た俺は辺りを見渡す。
『FREE』をプレイしていた時と同様、あまり変わっていない。
獣人は簡単な作りをした家に住まう。
それは、獣としての本能が関係している。
獣人は、獲物である魔物を狙いやすいポイント、洞窟や木の上を好む。
魔物を狩りに出る事が多い為、あまり家に帰ってくることもないのだ。
簡単に表すと『眠れればそれでいい』という事だ。
つまり、マイホームを手抜きで作ろうと気にしない。
最近、製作に目覚めた俺としては、手を加えたいが、我慢するしかない。
「それにしても・・・。」
俺は、辺りを見渡して、いくつか気になった。
まず、獣人達の体型だ。
皆、ガリガリにやせ細っていて今にでも倒れそうな感じだ。
『スラム街じゃあるまいし・・・。』
次に、獣人達が俺と視線が合うなり、目を背けるのだ。
明らかに避けられているのは理解できた。
もしかしたら、ヴァルハラとは反対なのかもしれない。
ヴァルハラのエルフ達は好戦的で、復讐をする元気があった。
しかし、イスガシオは、完全に人間を恐れている。
そして、国内で食糧難でも抱えているのかそのせいで元気がない。
前世で、俺もガリガリだったから何となく気持ちが分かる。
腹が減っては戦は出来ぬという。
きっとそれなのだ。
『本当は人間を恨んでいるだろうに・・・。』
食料が不足している現状化では、自分の事で精一杯なのだろう。
俺は、獣人に少しばかり哀れみを抱いた。
俺はガルムと一緒に、とある建物に訪れた。
俺は、扉を開けて中に入る。
そこに冒険者の姿はなかった。
俺が訪れたのは、イスガシオの《冒険者ギルド》だ。
『FREE』をプレイしていた当時は、人間や獣人問わず賑わっていたのに、
その面影はない。
そして、『FREE』をプレイしていた当時のままなら、冒険者ギルドで《許可》を貰えるはずだ。
俺は、受付カウンターにいる受付嬢に声をかけた。
「すまない。《星波の丘》に行きたいのだが、許可を貰えないか?」
受付嬢は「はい。」と俺の顔を見るなり、硬直した。
体をプルプルと震わせて、勢いよく席から立ち上がる。
そのまま、後ずさりしたかと思えば、腰を抜かして、へたり込んだ。
「に、人間が何故ここにいる!?」
獣人の受付嬢は、かなり動揺しているようだ。
俺は、受付嬢の発狂ぶりに驚いたが、取り敢えず、宥める。
『許可が貰えないと《星波の丘》に行けない!』
「落ち着いてくれ。俺は、星波の丘に行きたくて、許可を貰いに来ただけなんだ。
だから・・・。」
俺の言葉は受付嬢に届かなかった。
「いやあああああああ!!」
受付嬢は、受付カウンターから、一直線に出ていった。
受付嬢の嫌がる態度に俺は呆然とした。
『そんなに人間は嫌われているのか!?』
「マジか・・・。」
と心の声が漏れた。
俺のシンプルな作戦は失敗した。
《許可》は貰えず、受付嬢は逃亡。
俺は仕方なく、冒険者ギルドを後にした。
俺は、当てもなく、ウロウロしながら考えを巡らせた。
『獣人国では、人間は恐怖の対象ではなく、もはや象徴の域に達している。
それに、受付嬢もやせ細っていた。
食糧難で苦しんでいるのは、当たっているかもしれない。
そうなると、イスガシオを治める王が無能か、不在か、将又食料を独占している可能性があるな。』
「よし!決めた。」
俺は、考えを巡らせた結果、王に直接会いに行く事にした。
『王から直接許可を貰えば、星波の丘に直ぐ行ける!』
という楽観的な考えだった。
俺とガルムは、イスガシオの王城へ向かった。
そして、王城を見て絶句する。
言葉を発したのは、何分後だったか・・・。
「ボ、ボロ!?」
王城と言われるだけの大きさは有している。
しかし、外壁は剥がれ落ち、あちこちに爪痕らしき傷がある。
塔の一部は半壊し、もはや塔とは呼べない。
王城を守る警備兵もおらず、俺は首を傾げた。
「そんなに経済状況が悪いのか?」
俺は、王城の扉を開けた。
扉は軋み、嫌な音をたてる。
「ワオ――――ン・・・。」
ガルムは音が嫌で、耳を垂らした。
「ガルムすまない。もう少し我慢してくれ。」
俺は、扉を開け、王城内へと足を踏み入れた。
王城内は埃だらけで、王城を支える柱が数本折れていた。
中央には、シャンデリアが粉々に砕け散っている。
「まるで廃城だな・・・。」
俺は、城の中を歩いて、辺りを見渡す。
入り口から真っ直ぐ行った先には、
王座らしき椅子があるが、脚が折れていた。
その上を見れば、国王の肖像画らしき絵画が飾られている。
俺は、《リワインド》を唱え、絵画を綺麗にした。
『埃のせいで、見えなかった・・・。』
絵画には若い白髪の獣人が描かれていた。
毛皮のマントを羽織り、金の王冠を被っている。
「この世界の王は、マントとか王冠が好きなのか?」
俺は、白髪の獣人が握っている物に視線が行った。
「炎華龍撃槍」
白髪の獣人が握る一振りの槍は、対龍用の武器だ。
武器の中でもレア度が高く、製作には、貴重な素材を使用する。
素材の効果で、龍の得意とするブレスを封じる事が可能だ。
俺は、絵画を見た後、王城内を歩き回るが、どこも荒れている。
棚は倒れ、壁には大穴があいていた。
廊下を歩いていると、突然底が抜けたりと、驚かされた。
結局、王城内には誰もいなかった。
「どうなってる・・・?」
俺は、王城を出て、考えに耽る。
『イスガシオの食糧難に、国王の不在・・・。
王城は老朽化が進んでいる。国王が不在になったのは最近じゃないな。
もっと前だ。後は、荒らされた形跡があったから、襲撃でもされたか?』
判断材料が足りない俺は、それ以上の考えが浮かばなかった。
受付嬢の逃亡に国王が不在となると、《星波の丘》に行けない。
俺は、項垂れた。
「イスガシオの問題を解決した方が良いのか?」
俺は再び考える。
結局の所《許可》出せる者がいない現状では、《星波の丘》には行けない。
それは明白だった。
しかし、国事情に手を出して余計な目に会いたくない。
元気を取り戻した獣人がどんな行動に出ると思う?
真っ先に新王都に矛先が向くと俺は考えている。
アドラスのように、恩を仇で返すに違いない。
俺は、しゃがみこんで頭を抱えた。
俺の中で天秤が揺れる。
「くそおお~・・・。」
俺は、立ち上がる。
俺の中の欲には敵わなかった。
俺は《星波の丘》に何としてでも行きたい。
その為にはイスガシオを救う必要がある。
もし、恩を仇で返すようであれば、《許可》を貰った後に殺せばいい。
テペリには悪いが、そうなった場合は仕方がない。
俺は、歩き始める。
「まずは、事情を知っていそうな獣人を捕まえる。」
俺とガルムは、イスガシオの獣人が集まりそうな場所に向かう。
俺の獣人捕獲作戦が始まった。




