男は獣人の国に行く。
俺は、目を覚ます。
「ふぁ~・・・。あーよく寝た。」
俺は、立ち上がって、大きなあくびをした。
「変な夢を見たな・・・。」
俺は夢の内容を覚えていた。
夜空の下、二人の人物が平原で寝そべり、会話をしていた。
どんな会話だったかまでは覚えていないが、楽しそうな表情をしていた。
俺は、遠目からその様子を眺めていただけだった。
『あの二人を俺は、知ってる・・・?』
俺は奇妙な感覚に襲われた。
会ったこともない二人を俺は知っているような気がしたのだ。
『気のせいだ。気のせいだ。』と俺は顔を叩いて感覚を追い払う。
俺は寝ているガルムを起こし、階段から冒険者ギルドの1階に下りた。
『多分、もう夜だろうな~。』
俺は長い時間寝ていた。日が暮れているはずだ。
そこへ、一斉に冒険者達と受付嬢達が駆け寄ってきた。
「う、うお!?」
勢いに気圧された俺は、壁際に移動させられ、逃げ場を失くした。
ガルムが俺の隣で冒険者達と受付嬢達を威嚇する。
押し寄せてきた冒険者達と受付嬢達の口から言葉が発しられた。
「レイダスさん!大丈夫ですか!?」
「まだ体調が優れませんか?」
「怪我とかしてませんか?」
「は?」
間の抜けた声を出してしまった俺を余所に言葉は続けられる。
「いえ、倒れられたと聞いたので病気かなと・・・。」
「ギルドマスターが担いで来た時は驚きました。」
「俺達のミスですいませんでした!」
あちこちから言葉が飛びかってくるので、俺は、話を整理できなかった。
一度皆を宥めて落ち着かせる。
「俺はさっき起きたばかりなんだ。勢いで話されても困る。」
そういうと、1人の受付嬢が代表して前に出た。
クレアだった。
「皆さんに代わり私がご説明致します。」
俺と受付嬢は酒場の席を借りて話を始めた。
冒険者達と受付嬢達は、自然と散って行った。
「で、なんで騒いでたんだ?」
俺は、受付側に顔を向けた。
いつもと変わらず、依頼を受けて冒険者ギルドを後にする者や
荷物の整理をする姿がそこにある。
俺には冒険者達と受付嬢達の行動が理解できなかった。
俺が倒れたからなんだというのだろうか?
「それもこれからご説明致しますので、ご安心を。」
俺は受付嬢に向き直り、話しを聞いた。
「シャーロット様の演説が終わり、住人達はここを新たな王都として認めました。
しかし、演説の間、旧王都に向かう者達を止め切れませんでした。」
受付嬢は淡々と言葉を続けたが俺はここで1つ加える。
「アドラスが混じってたんだ。抜けられても仕方ないだろ。」
元Sランク冒険者のアドラスは、冒険者の道を捨て解体場で奮闘しているはずだった。
それを裏切るように大剣を背にし俺に立ち向かった。
『恩を仇で返された気分だ・・・。』
俺の気分はアドラスのせいで最悪だった。
次に会った時は煮て焼いてやろう。そうしよう。
「そう言って頂けるとこちらとしても助かります。ですが、問題はここからです。」
受付嬢は再び語りはじめる。
「貴方が何時間経っても冒険者ギルドに現れなかった為、捜索に妹が駆り出されました。
貴方と旧王都へ向かおうとした住人達を発見した妹は、直ぐに連絡。
ギルドマスターに抱えられ運ばれてきた貴方の顔色は良くありませんでした。」
『俺、リーゼルに運ばれたのか・・・。』
「その場にいた冒険者達は、驚愕しました。
その話は、急速に広まり今に至ります。」
「成る程と言いたい所だが、何故俺が倒れた程度でこんな騒ぎに発展する?」
俺は、尋ねた。
「それは、貴方が超人だからです。」
受付嬢の言葉に俺は首を傾げた。
「超人・・・?」
「はい。今までの貴方の行いは評価に値します。
英雄、勇者として称えられても可笑しくないでしょう。」
「俺は、英雄でも勇者でもないぞ。」
俺が否定すると―――――
「はい。だから超人です。」
と受付嬢は無表情に答えた。
俺はため息を吐いて項垂れた。
「その超人がぶっ倒れるはずがないと全員信じていたわけだな?」
受付嬢は「はい。」と肯定した。
俺は「馬鹿だろ?」と正直に言った。
「俺は人間だ。皆から見えてる観点が少し違うだけで大げさなんだよ。
後、腹が減れば食事はするし、眠たくなったら寝る。疲れが溜まれば倒れる。
当たり前で普通な出来事に動揺しすぎなんだよ。」
俺がそう言うと無表情だった受付嬢はクスッと笑った。
「そうですね。当たり前で普通でした。」
受付嬢は席を立ち上がった。
「説明は以上になりますので、私は業務に戻ります。
冒険者達には私から今の内容をお伝えしておきましょう。」
俺は「頼む。」とだけ言った。
受付嬢は軽く頭を下げて業務に戻った。
「さてと。」
俺は席を立ち上がり、冒険者ギルドを後にする。
外に出ると吐き出される息は白く、空を見上げれば星空が広がっていた。
『この世界にも四季はあるんだな。』
俺はそんな事を考えながら、美しい夜空を眺める。
寒い時期は空気が澄んで星が綺麗に見えるという。
俺は、唐突に獣人の国に行きたくなった。
《イスガシオ》の近くに《星波の丘》と呼ばれる場所がある。
そこから見える星空は、今眺めている星空とは比べ物にならないらしい。
らしいと言うのは、俺が《星波の丘》に行った事がないからだ。
『FREE』をプレイしていた時は、獣人の国に行く事はあっても
寄り道する事なく、魔物狩り依頼に明け暮れていた。
《星波の丘》は当時から綺麗な夜空で有名だったが、俺は行かなかった。
前世でも星は見れた。
前世の俺は見れるだけで満足していたのだ。
けど、今は違う。
俺は『見たい!』という衝動に駆られていた。
俺は、ガルムと夢見の森のログハウスに帰宅し、準備を整える。
「ガルム。明日にでも出発するぞ!」
俺の言葉にガルムは嬉しそうに尻尾を振る。
俺とガルムは、食事をしてベットに横になった。
明日は《飛行》を使用してでも行くつもりだ。
それだけ俺は、《星波の丘》に執着している。
『何でだろう・・・。こんな気持ち初めてだ。』
俺は、胸をギュッと握りしめる。
嬉しくて、楽しみで、俺はワクワクしていた。
そしてどこか懐かしい―――――――
明日の早朝――――――
俺とガルムは夢見の森を後にし、新王都から南へと《飛行》する。
《透明化》も発動させている為、発見はされない。
《イスガシオ》までの距離は、大体と同じくらいだ。
馬で5日間の距離を俺は、《飛行》で省略する。
《イスガシオ》よりさらに南に進めば、《海》がある。
海では、魚型の魔物が出現したり、食用アイテムの魚介類が手に入る。
「とにかく、イスガシオに着くことが先だ。」
俺は飛行速度を速くする。
ガルムも俺の飛行速度に合わせてついてきている。
『夢見の森に帰ったら、久しぶりに鑑定でもするか・・・。』
ガルムを見ていた俺は、前方に気付いていなかった。
「いやああああ!!お母さん!お父さん!」
女の子の声に俺は前を見る。
魔物が獣人の子供を抱えて飛行していた。
『あれは、炎龍・・・の子供か?』
魔物の姿は正しく《龍》。赤い鱗は、炎龍の象徴だ。
しかし、龍の体は小さくフラフラと飛んでいる。
時折、炎を吐くが、強弱に差があった。
巣立ちして間もない炎龍なのだろう。
炎龍は高lvの魔物だ。
lv100だとしても討伐には時間がかかる強敵だ。
しかし、今の俺にとって、炎龍は赤子の首を軽くひねるようなものだ。
ただ―――――
『どうしたものか・・・。』
俺は悩んだ。
下を見れば、獣人の子の両親と思しき男と女の獣人がいた。
その横には、もう1人子供がいる。
両親は、炎龍の向かう方向へと走って行く。
もう1人の子供は腰を抜かして立てずにいた。
「飛行している魔物に攻撃すれば、透明化が解除されるからな・・・。」
《透明化》の欠点は、攻撃すれば終わりだという事だ。
攻撃後に《透明化》を発動させれば、姿を再び隠せるが――――
「唱えるのがめんどくさい・・・。」
俺は奉仕活動が好かない。
それは誰も俺を助けてくれなかったからだ。
損をするだけの行いに、俺は嫌気が指すし、偽善のような行いに増々嫌気が指す。
その時、俺は、ライラを治した時やリーゼルに運ばれたと聞かされた時を思い出す。
この世界に転生してから奉仕活動なんて既に何回もしているし、
助けて貰ったりしている。
『助けて貰ったのは1回だけか・・・。』
それは置いといて――――
奉仕活動をした結果が、今の新王都になるのだが・・・。
振り返れば、矛盾している事なんて数え切れないほどあった。
俺は諦めた。
俺は矛盾した人間だ。
自分の感情と行動が一致していない変人なのだ。
「もう、それでいい・・・。」
俺は、剣を抜いて炎龍に向かって飛んでいく。
ガルムは、その場で待機し、俺を待った。
俺は、剣を振って炎龍の片翼を斬り落とした。
「ギャアオオオオオオオ!?」
炎龍の声に両親は足を止め、もう1人の子供は肩を震わせた。
片翼の落ちる様子と空中にいる1人の人間を目に焼き付けた獣人の子の両親は、
お互いを抱きしめ、祈る。
「どうかあの子をお救いください!」
俺は、もう片方の翼を斬り落とし、炎龍を地面に落下させる。
『落下の衝撃に獣人の子供は耐えられない!』
炎龍の右腕に捕まれていた獣人の子供は気を失っていた。
俺は、《瞬間移動》を発動させ、地に足をつける。
そこから跳躍し、右腕を斬り飛ばした。
「ギャアアオオオオオアア!!」
右腕は炎龍本体から離れ、獣人の子供を手放した。
俺は、女の子の体を優しく受け止め、《重力》を唱える。
自分の体を重力で軽くし、地面に着地した。
そのまま地面に着地した衝撃は獣人の子供に伝わる。
俺は、それを無にしたのだ。
炎龍は起き上がり、俺を見る。
炎龍は口から炎を漏らしていた。
「《炎龍の獄炎》か。」
体は小さいと言えど、相手は炎龍。
放たれた炎は周辺を焼き尽くすだろう。
強弱はあるもののその程度は可能なはずだ。
俺は、獣人の子供を下ろし、炎龍に向き直る。
「放たれる前に斬るだけだ!」
俺は、剣を振り下ろす。
普段より強めに振り下ろされた一振りは、炎龍を容易に両断し、大地を斬り裂いた。
周辺の木々は衝撃でなぎ倒され、緑なんてどこにもない。更地と化した。
斬撃のあとは、深々と残っている。
俺は心の中で叫ぶ。
『やりすぎたああああああ!!』
ガルムは、俺の傍に下りてくる。
ガルムは、俺のズボンの裾を引っ張った。
「獣人の子供の両親がこっちに来る前に行こう。」
ガルムはそう言っているに違いない。
俺は《透明化》と《飛行》を使用し、ガルムと空中へ戻る。
下を見下ろすと、獣人の子供の両親が子供に駆け寄って抱きしめている。
腰を抜かしていたもう1人の子供も駆け寄り、泣く。
「良かった!良かった!ううう・・・・。」
我が子の無事を安堵する獣人の子供の両親に俺は背を向けて
《イスガシオ》に飛ぶ。
「俺の両親がまともだったら良かったのに・・・。」
と思うのは傲慢だろうか?
俺は、そんな事を一瞬考えたが直ぐに捨てたのだった。




