男の攻防戦part1
――――『新天地』――――
翌朝、俺は新天地に訪れた。
『偵察の情報は漏れていないようだな・・・。』
王都に戻れず、不満を抱いている者はいるようだが、
住人は昨日と変わらず、過ごしている。
《不死者の人間》は厄介だ。
もし、住人達が王都に戻っていたら、数が増えていただろうな・・・。
俺はガルムと一緒に冒険者ギルドに向かった。
――――『冒険者ギルド』――――
「なんだ?」
冒険者ギルドの入り口に住人達が群がっていた。
3人の冒険者が住人達の行く手を阻んでいる。
住人達の顔に俺は見覚えがあった。
『昨日、冒険者達といた住人達か。』
「王都に帰れないってどういうことだよ!?」
「私たちは一生をここで過ごすの?」
「頼む!報酬を出すから、不死者の人間を討伐してくれ!」
俺は、項垂れると同時に怒った。
『あいつ等!昨日の住人達にだけ情報を伝えたな!』
「そこをどけ!」
俺は一喝し、住人達と3人の冒険者を押しのけて冒険者ギルドに入る。
扉を勢いよく開けたため、扉は壁に叩きつけられる。
「ドン!」と凄まじい音に冒険者ギルド内にいた人間達は驚いた。
静寂の中、俺は視線を動かし、昨日の偵察隊(冒険者達)を探す。
昨日の偵察隊(冒険者達)は酒場でのんきに酒を飲んでいたようだ。
俺に驚き固まっている。
俺はズカズカと歩いて行き、偵察隊(冒険者達)の1人の胸ぐらを掴み上げ、
そのまま壁に押さえつけた。
「ぐは!!」
他の偵察隊(冒険者達)メンバーは酒場の席を慌てて立ちあがって、
俺から少し距離を取る。
「昨日俺が何を言ったか覚えてるか?」
俺は、壁に押さえつけている冒険者を睨みつけた。
「覚えてます!覚えてますから!・・・離して・・ください!!」
冒険者は必死に俺の手をどけようとするがびくともしない。
「じゃあ、入り口のあれはなんだ?」
俺は、視線を冒険者ギルドの入り口に向ける。
他の偵察隊(冒険者達)メンバーはうつむいて顔を上げようとしない。
「理由があるなら言ってみろ。」
「ッ・・・・・・。」
偵察隊(冒険者達)は黙り込んで答えない。
後先考えず、住人達に伝えたのだろう。
『結果がこの様だ。』
俺はこうなる事が分かっていた。
だから、偵察隊(冒険者達)に口止めをした。
それをこいつらは!
俺の腕は次第に力が強まる。
「あ・・・。ぐああ・・・。」
「その辺にしてやれ。」
1人の人物が俺の腕に手をのせる。
横を見るとリーゼルの姿があった。
俺は、胸ぐらを掴んでいた手を放し、冒険者は床に腰を下ろした。
「ゲホ!ゴホ!」
冒険者は涙目で、首を抑える。
他の偵察隊(冒険者達)メンバーが駆け寄り「大丈夫か!」と声をかけている。
「リーゼル。何故止めた?」
俺は、リーゼルに向き直る。
「俺が話せと言ったんだ。」
リーゼルの言葉に俺は少し驚いた。
ギルドマスターの地位に着いているリーゼルが、
誤った判断をすると思っていなかったからだ。
「ギルドマスターのお前が過ちを犯すなんてな。
俺を納得させられる理由があるんだろうな?」
俺は、リーゼルを睨みつけた。
俺の瞳から何を感じたのか、リーゼルは少し体を震わせた。
額からは汗が流れ落ちる。
「ああ、理由ならあるぜ。
遅かれ早かれ、住人達は王都に帰れないという事実を知る。
まだ公にはしていないが、姫様もそう決定を下した。」
「そうか。それで?」
「ッ。それでってお前・・・。」
「今、情報を住人に渡したのは愚策だ。
段取りを置いて住人達に聞く姿勢を取らせるべきだったんだ。
事実を知った住人達はどう行動するか考えたのか?」
リーゼルは俺の言葉に黙り込む。
「考えてなかったんだな。
まず、住人達は情報を広める。街中は混乱し、各々行動を取るだろう。
王都に戻りたい人間は、王都に行き、不死者の人間の仲間入りだ。
それがお前達が犯した過ちの結果なんだよ。」
「うッ・・・。」
リーゼルの胸に俺の言葉が深く突き刺さった。
己の過ちで罪のない人間が死ぬ。
しかし、後戻りは出来ないのだ。
「全く・・・。俺はあと何回お前達の尻を拭えばいいんだ。」
俺は、呆れた。
「こうなった以上、手を打つしかない。俺の指示に従い行動しろ。いいな?」
リーゼルは、呆然と俺を見つめる。
「なんだ?俺の顔に何かついてるか?」
リーゼルは、我に返って俺に言う。
「いや・・・いいのかよ?俺達なんかの為に・・・。」
「しょうがないだろ。これを気に学習してくれ。ただし、次はないからな!」
リーゼルの表情が明るくなった。
俺の手をガッシリと両手で握り、頭を下げる。
「すまねー!恩に着る!」
『やめろ!離せ!気持ち悪い!』
俺は、リーゼルの手を振りほどき、酒場の椅子に座った。
「これから指示を出す。俺の発言は絶対だ!破った奴には容赦しないからな。」
俺の威圧に、その場にいたリーゼルと冒険者達は背筋を凍らせた。
「返事は?」
「「「はい!!」」」
リーゼルと冒険者達は大きい声で返事をした。
「よし。それでは指示を与える。
まず、住人達が外に出る際に使用しそうな経路を全て封鎖。
姫様に現在の状況を報告し、演説の準備をさせろ。
後に、住人達を城に追いやれ。」
「経路の封鎖はともかく、住人を城に追いやるには人数が足りない。
それはどうすりゃいい?」
リーゼルが俺に質問する。
「簡単だ。住人は魚、経路を封鎖している冒険者は網だ。
網を小さくしてやれば、魚の群れも自然に小さくなる。
黒い番犬に協力を要請するのも有りだ。」
リーゼルと冒険者達は「成る程。」と納得する。
「網を抜ける住人もいるかもしれません。その場合どうすれば?」
冒険者の1人が手を上げて質問する。
「1人なら、むやみに追うな。放って置け。」
「何故です?」
「冒険者や黒い番犬はともかく、力を持たない住人は1人で王都まで辿り着けない。
ここは、メイサの森の隣だ。魔物が襲ってこないのは、結界を張っているからだ。
魔物と遭遇すれば、嫌でも戻ってくる。
数人で突破しよう等と考える住人がいた場合は軽傷を負わせてでも止めろ。」
「他に質問はあるか?」
俺は尋ねるが、全員首を横に振る。
大丈夫なようだ。
「よし、行動を開始しろ!」
「「「はい!」」」
俺の号令に冒険者達は行動を開始する。
リーゼルは城に向かった。
『まるで、兵士だな・・・。』
俺は、冒険者という職が《兵士》になりつつあるような気がしている。
このまま冒険者が兵士になれば、俺も兵士という枠組みに組み込まれてしまう。
それだけは嫌だった。
『俺は自由で居たい・・・。』
縛られず、自由に生きたい。
兵士は、命令に従順で命令は絶対だ。
俺のしている行為は《兵士の上官》の真似事だ。
俺は心の中で決断をする。
『もし、冒険者が兵士になるようであれば、俺は冒険者をやめる!』
冒険者をやめたとしても、収入を得る方法はいくらでもある。
俺は、酒場の椅子から立ち上がって、横で伏せていたガルムに声をかける。
「ガルム行くぞ。」
「ワオオ~ン」
俺は冒険者ギルドをあとにする。
―――――平地―――――
数人で網を突破する住人がいるはずだ。
「軽傷を負わせてでも」とは言ったが、おそらく冒険者達には無理だ。
冒険者達は住人の気持ちを理解している故に攻撃ができない。
ならば、俺とガルムはそれに備える。
つまり、《二重の網》だ。
王都に向かうまでには、平地が広がっている。
網から抜けた住人を見落とす事はまずないだろう。
それに俺は、冒険者達を信用していない。これっぽっちも!
『あいつ等が情報を勝手に伝えなければ・・・。』
後先を考えない馬鹿だと思っていなかった俺のミスでもあるから
あの程度で済ませたが、まさかリーゼルも馬鹿だったとは・・・。
俺は頭を抱える。
「めんどくさい・・・。」
俺は平地に座り込んだ。
「ク~ン。」
ガルムが俺にすり寄ってくる。
『俺を元気づけてくれるのはお前だけだよ。ガルム・・・。』
俺は、ガルムを優しく撫でる。
ガルムは俺の横に伏せた。
数時間後――――――
携帯食料を魔法のカバンから取り出し、ガルムと昼食を食べていると、
新天地の方から人間が数人姿を現す。
「やっぱり突破されたか。」
俺は立ち上がり、ガルムに離れるよう指示を出す。
『巻き込みたくないからな。』
ガルムは素直に俺から離れる。
新天地から王都へ向かう住人はまだまだここを通るだろう。
「さあ、俺と遊んでいけ。」
俺は不敵な笑みを浮かべて、住人達の前に立ちはだかるのだった。




