『上層』は蹂躙される。part2―国王ver―
『上層』
『何故だ・・・・。』
どこで間違えた―――――?
私は、『大決闘演武大会』以来『中層』と『下層』の連中に睨まれるようになった。
『カス共が・・・。国王である私にその目はなんだ!?』
私はそれが嫌で『上層』に閉じこもった。
『全てはあいつのせいだ!!』
「レイダス・オルドレイ!」
私は憤怒に表情を歪める。
あいつが王都に来てから、私の人生が狂い始めたのだ。
レイダス・オルドレイは『大決闘演武大会』に優勝した。
優勝者には『最強の称号』と『優勝賞金』を与えるのが毎年の決まりだった。
優勝者は喜んでそれを受け取る。
しかし―――――レイダス・オルドレイは「いらない。」と公言した。
公言した日から数日して『中層』と『下層』の住人によるデモが始まった。
『玩具の分際で!!』
その情報が私の元へ入ってきて、私は王座から立ち上がった。
握られた私の拳からは血が滴る。
『私は国王!この国では私は絶対なのだ!!』
それから約1か月――――――
『ヴァルハラ』国王『ヴェル・フュアレ・三世』から書状が送られてきた。
今までそんな事はなかったのに・・・。
私は王座に腰を据え、書状を読む。
「戦争か。」
私の一言に周囲にいた側近たちからはどよめきの声が上がる。
「戦争だと!?」
「上層まで進行してくるのでは!?」
私は王座から立ち上がり、側近たちに宣言した。
「上層に『ヴァルハラ』の軍は来ない!
何故なら『中層』と『下層』の奴隷が敵を撃退させるからだ!」
側近たちが安堵すると共に私は心の中で笑みを浮かべた。
『これでいい。』
戦争を利用して目障りな無能共を一掃してしまおうと私は考えたのだ。
『私は天才だ。』
私は自分を褒めたたえた。
そんな時、1人の女が私の前に現れる。
『シャーロット・ツヴァン・グラントニア』私の一人娘だ。
私の可愛い娘であり、目障りな娘だ。
シャーロットは私に考え直せと公言する。
『国王である私に指図するな!』
私は兵士にシャーロットを塔に監禁させた。
これで、邪魔者はいなくなった。
私は、側近たちに命じ、『冒険者ギルド』と『黒い番犬』に
王命を記した書状を送らせた。
『戦争に参加せよ』と―――――――
私は王座にふんぞり返った。
『これで、全てが消える』そう思うだけで、心が躍った。
そして戦争の時が訪れる―――――
『『中層』と『下層』が戦場に赴いた頃か・・・。』
私はいつものように王座に腰を据えていた。
敵の軍は上層には来ないと確信していたからだ。
憎き『レイダス・オルドレイ』も戦争に参加しているだろう。
私はあいつが死ぬ光景を想像し、高々と笑った。
その時一人の兵が私の前に現れる。
『良い気分だったのに・・・。』内心で舌打ちした。
「申し上げます!『ヴァルハラ』の軍が『上層』へ侵入!
そのまま王城へ向かっております!我々が食い止めていますが、時間の問題です!
どうか非難を!」
「ッ!?」
私は驚愕した。
「ち、『中層』と『下層』は何をしておる!?」
私は兵士に尋ねた。
「それが・・・。」
兵士は言葉を詰まらせる。
「命令だ!」
私は兵士に話をさせる。
「『中層』も『下層』の奴隷も姿がありません・・・。」
「は?」
私は呆けた声を上げる。
『逃げたのか・・・?』
私はそれを真っ先に考えた。
私を守らずに、あいつらは逃げたのか?
「『中層』と『下層』は私の物だ!何故従わない!」
私は王座から立ち上がり、あたりを蹴散らした。
怒りが奥から込み上げる。
「国王どうか落ち着いてください!どうか非難を!」
「五月蠅い!!」
私は兵士に怒鳴る。
それから右往左往と歩き回る。
『糞!糞!糞!』
私は指を噛みしめて考える。
しかし、何も思いつかない。
私はどうしたらいい!
私を守る為に残した兵たちも『ヴァルハラ』の軍に歯が立たない。
いずれ私も――――――殺される!
私は塔に閉じ込めた娘を放置し、自分が生き残る事を最優先に考えた。
「私は逃げる!私を先導せよ!」
「はっ!」
兵士は私の先頭に立ち、私を先導する。
外に出れば、『上層』の住人が次々と死んでいくのが目に入った。
『私もあのようになるのか・・・。嫌だ!』
「いやああああ!!がふっ!」
「来るな!来るなああああああ!?」
「うああああああ!!」
矢が『上層』の住人を襲う。
胸を貫き、頭を貫き、次々と倒れていく。
私は何としても生き延びて、『私の為の国』を築き上げる!
私は国王で絶対なのだ!
思い通りにならない国なんて私には不要の長物だった。
『私がこの国にいたのが間違いだったのだ!』
私は、兵士の先導により、王都の外へ脱出した。
息を切らした私は膝に手を置く。
『これでやり直せる!』
私は息を整え、前を見た。
私は驚愕し、後ろに後ずさった。
「な!?」
目の前には隊列を組んだ『弓兵』が待ち構えていた。
兵士は真っすぐに向かって行く。
「どういうことだ!?」
私は兵士に怒鳴った。
「こういうことですよ。」
兵士は兜を外す。
兵士の顔は人間ではなかった。
老兵のエルフ―――――
私はまんまとエルフたちにおびき出されたのだ。
老兵のエルフは射程から外れた位置に立ち、手をかざす。
『弓兵』は老兵の動きに合わせて、弦を引く。
「私は国王だ!!死んでたまるものか!」
私は足が震えて動けなかった。
「いえ。貴方様は死ぬのです。我が種族を苦しめた罪は重い。」
老兵の言葉に私は笑った。
「ハハハハハッ!!罪?罪だと?私に何の罪がある?
お前たち無能を私の為に使ってやったのだ!私は感謝されるべきなのだ!」
私は両腕を広げ、高々と宣言する。
私は国王―――――
全ては私の為に存在しているのだ!
私には『命』をもてあそんでもいい権利が与えられているのだ。
私は間違った行いはしていない!
「やれやれ・・・。」
老兵は呆れて、首を横に振る。
「馬鹿に付ける薬はありませんなあー。」
『馬鹿と言ったのかあの老兵は!?』
国王である私に馬鹿と言った老兵は万死に値する。
私は老兵に言い放つ。
「私が馬鹿だと!?貴様は万死に値する!大人しくその首を私の前に差し出せ!」
私は老兵に向かって歩き出す。
『私が直々に殺してやろう!!』
その時、私の肩に矢が刺さる。
私は地面に転がった。
「ぐああああ!?痛い痛い!!」
左肩が赤く染まる。
私が痛みで涙を流していると、老兵が語る。
「その程度の痛みにも耐えられないのですか?
王としても戦士としても貴方は失格です。」
私は老兵が憎くて仕方がなかった。
私は国王だ!
それを罵倒しただけでなく、このような醜態をさらさせた!
私は憎しみで顔が歪む。肩に刺さった矢を抜き、立ち上がった。
「ほう。」
老兵が意外そうな声を上げる。
「舐めるな!エルフごときが!!お前たち種族を必ず滅ぼしてやる!!」
それが私の最後の言葉となった。
「出来るといいですな。」
老兵は掲げた腕を振り下ろす。
矢が私に放たれる。
腕に足に胴に頭に――――
ありとあらゆる場所に矢が突き刺さる。
私は仰向けに倒れ伏した。
『私は国王だ!私は間違っていない!』
私は、空に手を伸ばす。
そこへ老兵がやってくる。
「まだ息がありましたか・・・。しぶといですねー。」
老兵はため息を吐く。
『私を救え!これは国王の命令だ!私を救えええええ!』
声を出したくても、喉が潰され出てこない。
「どの道この深手です。貴方は助かりません。私たちは引くとしましょう。」
老兵はそう言って私から立ち去っていく。
『待て!!行くな!私を置いて行かないでくれええええ!!』
私の瞳から涙が落ちる。
私はまだ死にたくない。
私は私の為の国を築くのだ!
老兵は『弓兵』隊に指示を出し、移動を開始する。
老兵の姿は私の視界から消えていった。
私は一体どこで間違えた―――――?
私は自分の為に生きたいだけなのに・・・。
何故それが許されない・・・。
私は死んで初めて理解した―――――
私の横暴は度が過ぎていたことに・・・。
私が許されない行いをしていたことに・・・。
でも―――――やり直すことはできない。
『命』は1つなのだから―――――
私の死体は空を見つめたまま、その場に放置された。
時は流れて、私の体はいずれ腐敗する。
私の死体に誰も気づくことはない。
気付いたとしても、誰もが私の死体を素通りするだろう。
私は元国王『エリック・ツヴァン・グラントニア』。
『王都グラントニア』を滅びへと導いた最低な男だ。
『可愛い娘よ――――――どうか愚かな父を・・・許しておくれ―――――』
娘は絶対に私を許さないだろう。
しかし、私は願う。
私が愛した女の娘だ―――
私が歪んでしまうまで娘を愛していたのは本当なんだ。
だから――――――
『アルメリア・・・。シャーロット』
最後に心の中で愛した女と娘の名を呼ぶ。
――――――――私の意識は沈んだ。――――――――




