『上層』は蹂躙される。part1―ヴァルムックver―
色んな登場人物の視点から書いて行こうと思ってます。
『上層』
僕の名は『ヴァルムック・ハイト・ルメエール』
王都グラントニア『上層』の由緒ある貴族だ。
そして、国王の一人娘『シャーロット・ツヴァン・グラントニア』の
またいとこでもある。
僕は貴族に生まれて幸せだった。
優雅な暮らし、豪華な料理、裕福な生活に僕は満足していた。
でも、ここ最近、楽しいと感じなくなった。
自分の気持ちをハッキリ言うと『飽きた』のだ。
裕福な生活をしていても、刺激が足りなかった。
最、刺激が欲しい―――――
刺激を求めた僕が真っ先に手を出したのは『奴隷』だった。
蹴っても殴っても文句一つ言わない奴隷に僕の心は満たされていった。
相手を見下すことで自分が頂点に立っている優越感に浸れたのだ。
僕は奴隷を『下層』で購入し、こき使った。
「のろいんだよ!さっさとやれ!」
僕は奴隷を殴り倒す。
奴隷は上体を起こして、殴られた頬を抑える。
僕を見つける瞳には憤怒が宿っていた。
僕はそんな奴隷の瞳にイラっときて、奴隷の腹部を蹴り上げた。
奴隷は腹部を両手で抑えて、横になる。
「ゲホ!ゲホ!・・・。」
『奴隷風情が!ざまあみろ!』
僕の気持ちはスッキリした。
奴隷の血で汚れた手と靴をハンカチで拭う。
僕は奴隷の血が嫌いだった。
理由は単純で、『奴隷は汚い』からだ。
人間という種に逆らう種族は愚かだ。
『下等種族が人間様に敵うわけがないだろ?』
僕たち人間は優秀だ。特に『上層』の住人は!
それを無能共は理解していないのだ。
僕は『上層』の中でも力がある。権力もある。
国王以外、誰も僕には逆らえないのだ。
僕は腹部の痛みで横になっている奴隷の首を掴み上げ、
屋敷の地下にある牢屋にぶち込む。
奴隷は、体を震わせていた。
「寒いのか?」
と尋ねると、奴隷はコクリと頷く。
僕は笑みを浮かべてその場を立ち去った。
『凍え死んでしまえばいい。』そう思ったのだ。
「無能は無能らしく死ねばいいんだ!」
僕は屋敷の中央で高々と笑う。
楽しくて仕方がなかった。これが僕の求めていた刺激だった。
その時―――――ドーーーーン!!という爆音が鳴る。
屋敷の外からだった。
『なんだ!?』
僕は武器を持ち、屋敷の外へ出る。
そこには驚く光景が広がっていた。
『上層』が――――――燃えていた。
『どこから!?』
僕はあたりを見渡す。『上層』の住人は敵の攻撃に逃げ惑う。
「きゃあああああ!!」
「いやあああああ!!」
「たすけ・・・おぼあ!?」
『上層』の住人は矢に射抜かれる。
矢が飛んできた方向を見ると、『上層』の門からエルフが侵入してきていた。
エルフの軍勢は門から『上層』へと一気に流れ込む。
「進めええええええ!!」
エルフの老兵が雄たけびを上げる。
それがエルフ軍の士気を上げた。
「冒険者ギルドは!?黒い番犬は何をしている!?」
僕は無能な『中層』の民たちに舌打ちして、その場から離れる。
『死ぬのはごめんだ!』
僕は王城に向かって走るが――――
僕の右足を矢が貫く。
「ぐあああああ!?」
僕は痛みのあまり、倒れ込む。
エルフ軍は僕に気付いていない。
何故、僕に矢が当たったのか謎だった。
しかし、その謎は直ぐに解明される。
僕の頭の横を矢が通り過ぎるのを見て、確信した。
『上か!!』
僕は『上層』と『中層』の間にある壁の上を見る。
そこから数えきれないほどの矢が放たれていた。
正しく『矢の雨』だった―――――
僕は片足を引きずりながら、王城へ向かう。
『僕は、人間だ!下等種のエルフなんかに負けるはずがない!』
僕は剣の鞘を捨て、剥き身の剣を右手に握りしめる。
『来るなら来い!』
僕は、王城に向かいながらエルフ軍の様子を伺う。
エルフ軍は僕の存在にまだ気づいていない。
『このまま行けば逃げ切れる!』
そう思った時だった。
僕の左肩に矢が命中する。
「ぐあああああ!!」
僕は左肩を抑えて、膝をつく。
後ろを見ると、誰もいない。
僕はその場を立ち上がって、周辺を見渡す。
「卑怯者!姿を現せ!」
僕は剣を構えて辺りを警戒する。
すると、1人のエルフが外壁の上から『上層』側へ華麗に着地する。
先程、エルフ軍を指揮していた老兵だった。
老兵は僕と一定距離を開けて止まる。
「私は卑怯者などではありません。これは策略です。」
老兵の言葉に僕は冷静さを欠いた。
「ぬかせ!」
僕は老兵に斬りかかった。
しかし、僕の斬撃は全て避けられる。
僕は、『上層』で剣の腕を磨いてきた。
その僕がエルフごときに負けるはずがない!
僕は、剣を老兵に斬りつけるが―――――紙一重で避けられた。
「ちっ!」と僕は舌打ちするが、老兵の動きがここから変わる。
落ち着いていた動きが獰猛さを増す。
『弓兵』職は近接戦が苦手なはずなのに、老兵はそれを感じさせない。
老兵は矢を片手に持ち、僕の背中に刺す。
「ぐああ!?」
僕は剣を背後に振るが、老兵は既に距離を取っていた。
「つっ!?」
僕は息をのむ。
『まさか・・・。そんなはずがない。
僕は貴族で権力者だ。その僕がこんなところで・・・。』
信じたくなかった。僕はここで死を迎える。
老兵の背後にはエルフの『弓兵』部隊が控えていた。
いつでも、攻撃ができる態勢だった。
冥途の土産なのか老兵は僕に語る。
「勘違いされているようなので、1つ言わせていただきましょう。
これは『戦争』です。『戦争』には卑怯も糞もありませんので・・・。」
老兵は片手をゆっくりと上げ、振り下ろす。
「撃てええええ!」
号令と同時に無数の矢が僕を貫いた。
『痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!』
僕は地面に仰向けに倒れる。
「ゴホ!ゲホ!」
僕の血が池を作り出す。
池の拡大は止まらない。池が拡大するごとに、僕から力が抜けていく。
『嫌だ!死にたくない!死にたくない!』
僕は身体を必死に起こそうとするが、全く動かない。
激痛で立ち上がれなかった。
僕の元に老兵がやってくる。その手には剣が握られていた。
「そ・・・れは!?」
僕の剣だった。
老兵は僕の剣を眺める。
「いい剣ですね。この剣は死にゆく貴方に不要な品です。
私が代わりにいただきましょう。」
老兵は僕の胸に剣を突きつける。
『畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生畜生おおおおおお!!』
老兵は僕の胸を貫いた。
痛い―――――――
僕は老兵を恨んだ。僕から全てを奪った老兵が憎い。
『人間の誰でもいい。エルフに・・・愚かな種族に復讐してくれ!』
それが僕の願いにして最後の想いだった。
僕は死に際に、老兵の足を握りしめる。
精一杯の力で、老兵を睨みつけた。
僕は、老兵を睨みつけた後、絶命した。
その後の事を僕は知らない。
老兵は僕が死んだ後、少しの間僕から目を背けて固まっていた。
何を思っているのか僕は知らない。
だって―――――死んでるんだから・・・。
エルフ軍の侵攻は止まらない。
『上層』はエルフたちに蹂躙されていくことになる。
―――――戦争はまだ始まったばかりだ――――――




