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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~エルフの国『ヴァルハラ』戦争編~
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姫様を誘拐!王都からの脱出!

――――『王都グラントニア』作戦決行日 前夜――――


テペリは『上層』へ通じる門の前に立っていた。

『上層』の門は、『上層』の住人が『中層』や『下層』に用がない限り開かない。

ただし、例外・・はある。


『上層』へ通じる門が静かに開いた。

黒い番犬が門を開けてくれたのだ。

「ありがとう。」

テペリはそれだけ言って、『上層』に侵入する。

黒い番犬もまた頷くだけだった。


テペリは初めて『上層』に入り、綺麗な街並みに妬んだ。

『こんな・・・裕福な暮らしをして!』

テペリは歯をくいしばる。

怒りを『上層』の住人にぶつけたい気持ちがあった。

しかし、そんな暇はない。


今回のテペリの仕事は『姫様の誘拐』である。

夜が明ける前に、姫様を連れ『上層』を出なければ、失敗に終わる。

又、『上層』の住人に発見されても失敗だ。

それは、姫様を連れて逃げ切ることは不可能だからだ。


テペリの仕事に今回の作戦の全てが掛かっていると言っていい。

テペリは仕事の重要性に息をのむ。


初めて、『上層』に入ったテペリは道が分からない。

幸いなことに、王城が目立っているおかげで、方角が分かる程度だ。

テペリは巡回する兵士から隠れ、時には暗殺し、死体を隠す。


王城に着実に接近するテペリは、建物の影から王城の外見を観察する。

テペリはリーゼルから姫様の部屋について情報を得ていた。

『王城の一番高い場所・・・。』

王城には、いくつか高い塔がある。

その中の一番高い塔に姫様がいるらしい。


テペリは王城の外壁を上り、侵入を試みる事にした。

王城の警備は少人数で、王城の入り口付近に集まっている。


テペリの身軽さなら外壁を上るのは簡単だった。

しかし、姫様のいる塔は王城から西側、テペリがいるのは王城から東側だった。

反対側に一旦移動しないといけないテペリは、王城周辺の茂みに身を隠す。

その時に通り過ぎる兵士の会話を聞いた。


「姫様が国王を怒らせたらしいぜ?」

「それがどうしたんだ?」

「塔に監禁されたらしいぜ?」

「姫様を監禁とは、怖い怖い。一体何をやったんだか。」

「奴隷制度を撤廃しろとかなんとか・・・。あと、戦争に奴隷を使うなとか。」

「そりゃあ怒るわ。馬鹿な姫様だなー。」


姫様を馬鹿にしながら楽しそうに会話をする兵士たちに

テペリは怒った。

出来る事なら今ここで殺してやりたいと思うテペリだが、冷静になる。

『上層の住人は姫様以外死ぬのだから・・・。』


テペリは、反対側に移動し、外壁を上りはじめる。

『待っていてください。姫様!』

テペリは慎重に塔を上っていく。

そして――――――


―――――『王城 塔』―――――


シャーロットはベットに腰かけながら悲しい表情を浮かべていた。

「どうして受け入れてくれないの・・・。」


少し時間を遡る―――――


国王に戦争になることを聞かされたシャーロットは、国王に尋ねた。

「父上、『ヴァルハラ』の軍勢にどう立ち向かわれるのですか?」


国王はシャーロットの問いに淡々と答えた。

「エルフの奴隷を使う。同胞同士で殺し合いはできまい?

あとは、冒険者ギルドと黒い番犬にも協力させる。」


シャーロットは国王の発言に異を唱える。

「おやめください父上!民を傷つけるような行いをしないでください!

何故、王都の兵士たちを出撃させないのですか!?」


王都にも兵はいる。

何故兵の消耗を嫌うのかシャーロットには不思議だった。


「民は国王を守る物だろう?兵を出す理由がないではないか。」

シャーロットは国王の発言に驚愕した。


国王は、根本から間違いを犯していたのだ。

『民があってこその国』なのに、国王は己を守る為の道具としか見ていないのだ。

民を失ってようやく兵士を投入する。

本来守るべきはずの民を捨て、己を守る為に兵士を使うのだ。


「狂ってる・・・。」

シャーロットは一言そうつぶやいた。


「父上は間違っています!国は民があってこその国なのです!

『命』は玩具でもましてや道具でもありません!父上考え直してください!!」

異を唱え続けるシャーロットに苛立ったのか国王は兵士に命令する。


「黙れシャーロット!兵よ!我が娘を塔に監禁しろ!」

兵士たちはシャーロットの両腕を抑え、連れていく。


「やめてよ!離して!

父上!愚かな行為をやめてください!父上!父上!」

シャーロットの叫びも虚しく、シャーロットは塔に監禁された。


それから1週間、食事は与えられるが塔からの外出を許されることはなかった。

シャーロットは、ベットの傍にある窓から夜景を眺める。


『中層』には明かりが灯っていた。

その輝きにシャーロットの気持ちは癒される。

『いつかこの国の夜景が無くなるのですね・・・。』

シャーロットは胸に手を当てる。


その時だった――――


窓の外からひょこッと獣人の女の子が顔をのぞかせた。

「きゃあああ!」

シャーロットは驚きのあまり、声を上げたがすぐに冷静になった。

知っている獣人の女の子だったからだ。

『私の友達――――』


「姫様どうなされましたか!?」

塔を見張る兵士が扉越しに確認をするが、

「なんでもありません。」とシャーロットは嘘をついた。


テペリは、姫様に窓を開けるように合図する。

シャーロットは窓を開け、テペリを塔内にいれた。


「テペリさん。どうしてここへ?」

シャーロットは尋ねるが、テペリは答えない。


「時間がない。今は私を信じて一緒に来てほしい。」

テペリはシャーロットに手を差し伸べる。

シャーロットは迷うことなくその手を握った。


2人は友達なのだから―――――


「信じます!テペリさん。私を外に連れ出してください!」

テペリは笑みを浮かべる。

小さな体でシャーロットを背負うテペリは窓から降りて行った。

そして、身を潜めながら『上層』から脱出を図る。


途中見つかりそうになるが、テペリの対応力のお陰で乗り切った。

2人は『上層』の門から『中層』に駆け抜け、無事脱出に成功した。


黒い番犬が『上層』の門を閉め、テペリの仕事は完了した。


テペリは姫様の手を引いて、冒険者ギルドへ向かう。

「ギルドマスターが姫様と話がしたいって言ってるの。いい?」

テペリは姫様に尋ねる。


姫様は頷き、返事をした。

「はい。私を『上層』から連れ出したのと関係しているのでしょう?」

テペリはコクリと頷いた。


姫様は笑みを浮かべて、楽しそうに歩く。

それを見ていたテペリも楽しくなって笑みを浮かべた。

冒険者ギルドに着くまで、2人はずっと手を繋いでいたのだった。


―――――『冒険者ギルド』―――――


冒険者ギルドの扉をテペリは開ける。

その後入ってきた人物に、冒険者たちは呆然とした。

『シャーロット・ツヴァン・グラントニア』が目の前にいるのだから。


2人は冒険者たちを無視して、冒険者ギルドの2階に上がる。

ギルドマスターの部屋に入室した。


「ギルドマスター『リーゼル・マクシアノ』お久しぶりです。」

姫様は会釈する。


「お久しぶりです。お姫様。」

リーゼルは振り返りそれだけだった。


「フフフ。性格と言葉遣いは相変わらずですね。」

と姫様は笑う。

リーゼルは「すいません。」と謝罪する。


そして、姫様は本題に入る。

「私を塔から連れ出した理由を教えて頂けますか?」


テペリはメモを見て知っている。姫様に説明しても良かった。

しかし、リーゼルが首を振った。

「俺が直接話をする。」と


「その前に、テペリそいつを冒険者ギルドの1階に連れて見張って置け。」

リーゼルは、ソファに座るエルフの女性を連れ出すようテペリに指示を出した。

テペリは頷いて、部屋からエルフの女性と一緒に部屋を退室した。


「これで話せる。」

リーゼルはそう言って、姫様に説明を始めた。


「俺たち、冒険者ギルドと黒い番犬は『中層』の住人と『下層』の奴隷、姫様を

『王都グラントニア』から逃がす為に動いている。

そして、俺たちも『王都グラントニア』から逃亡する。」


「それは!王命に背くという事ですか!?」

姫様の言葉にリーゼルは「はい。」と肯定した。


「『王都グラントニア』の現勢力では『ヴァルハラ』に勝利することは難しい。

そして、『ヴァルハラ』は王都の人間を皆殺しにする。

それだけ、人間は他種族の恨みを買ってるってことだ。」


リーゼルの説明に姫様は目を背ける。

しかし、それは事実だ。

奴隷制度がある限り、人間は他種族を見下し、恨みを買い続けるだろう。


「その膿を取り除こうと思って、俺たちが動いた。」

リーゼルは椅子から立ち上がり、メモを姫様に渡す。


「そのメモは『レイダス・オルドレイ』が書き残した物だ。

俺たちは、それに従って行動している。」



「・・・・・・。」

姫様はメモを読み、笑みを浮かべる。

読み終わったメモを姫様はリーゼルに返却した。


「なるほど、私を『上層』から連れ出したのに納得がいきました。

大胆な方ですね。」


「全くだ。」

リーゼルは姫様の言葉に同意した。


「決行日は明日の早朝。

冒険者ギルドの一室を貸すから今日はそこで休んでくれ。」

姫様は頷いた。


こうして、『中層』と『下層』の準備は整った。

そして、早朝を迎える―――――


――――その日『中層』の住人と『下層』の奴隷は姿を消した。――――

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