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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~エルフの国『ヴァルハラ』戦争編~
75/218

両国は準備に忙しい。

戦争が始まる―――――

両国共に、戦争に向け着々と準備が進められていた。


『王都グラントニア』


リーゼルは『検問所』に訪れて、ウェルダンと話し合いをしていた。

リーゼルの隣にはクレアが、ウェルダンの隣にはライラが座っていた。


「ウェルダン。突然俺が来て、驚いてるだろーが、これを読んでくれ。」

リーゼルは、レイダスから預かったメモをテーブルに置き、差し出す。


「これはこれは・・・。あの御仁から受け取られましたかな?」

リーゼルはウェルダンの言葉に頷く。

ウェルダンは同じ用紙を厳重に保管している。

メモを見た瞬間察したのだ。


ウェルダンはメモを受け取り、読む。

「これは!・・・また・・・。」


ウェルダンは驚愕しながらも冷静を装う。

実際、メモの内容にウェルダンは可能なのか不安を抱いている。

成功する確率が低い内容がそこに記されていたからだ。


「今回、お前にこのメモを見せたのは、『中層』から『下層』の奴隷まで、

王都から逃がすには黒い番犬の協力が不可欠だからだ。」

リーゼルはウェルダンに説明する。


「協力してくれないか?」

リーゼルはウェルダンに尋ねるが――――


ウェルダンから覇気のない声で返答される。

「残念ながら・・・それはできません。」

ライラも歯を噛みしめ、拳を握りしめている。

クレアはそんなライラを心配そうにみつめていた。


「理由は何となくわかるが・・・。」

リーゼルの言う理由とは、黒い番犬もまた王命を受けているのだ。

『王都を守護する者として戦争に参加せよ。』

それが彼らに与えられた使命だった。


「だからこそ!やるべきだ!」

リーゼルは言いきる。


「『王都を想う』のなら、メモの内容に従うべきだ!」

リーゼルはそう判断したのだ。


「・・・・・・・。」

ウェルダンは黙り込む。

王都は救われるのに、滅びるという『矛盾』に彼は、納得ができなかった。

出来る事なら、王都を戦争という名の脅威から救いたい。


しかし、『王都グラントニア』は『ヴァルハラ』には勝てない。

圧倒的な戦力差があるからだ。

エルフは誇り高い種族かつ、屈強な戦士たちだ。

武力でも、心の持ちようでも、全て相手が上回っているのだ。


そして、メモの内容に従えば、黒い番犬は王命に背くことになる。

冒険者とは違い、黒い番犬は国の守護者だ。

国に縛られ、国に尽くすのが、黒い番犬である。

『黒い番犬が無くなる・・・。』

ウェルダンはそれを考えただけで胸が苦しかった。


ウェルダンが悩んでいるとライラが膝に手を添える。

「きっと・・・大丈夫ですよ!レイダスさんの考える事ですから、成功しますよ!」


ライラは笑みを浮かべる。

クレアはそれを見てふと笑う。


「そうですね・・・。」

ウェルダンはライラの明るさに救われた。

黒い番犬が無くなろうと、信念は己と共にある。

そして、メモの内容に反対するという事はあの御仁を疑っているのと同じだった。


ウェルダンはライラに尋ねる。

「ライラ。国が無くなろうと黒い番犬としての信念を抱き続けられるか?」

ライラは立ち上がってウェルダンに敬礼する。


「もちろんです!」

とライラは宣言した。

それに、ウェルダンが嬉しそうに笑みを浮かべる。


ウェルダンはリーゼルに向き直り、改めて返答する。

「改めまして、黒い番犬は冒険者ギルドに協力いたしましょう!」


ウェルダンの色よい返事にリーゼルは嬉しさの余り立ち上がる。

「本当か!!」

リーゼルは「よっしゃあああ!」と雄たけびを上げてから、

ウェルダンに手を差し伸べた。

ウェルダンもまた立ち上がり、リーゼルの手を握り、握手する。


ここに冒険者ギルドと黒い番犬の同盟が誕生した。

しかし、これは第一段階に過ぎない。

彼らにはやるべきことが山積みなのだ。


リーゼルとクレアは『検問所』をあとにし、

ウェルダンとライラは早速作業に取り掛かるのだった。


――――――冒険者ギルド――――――


リーゼルは冒険者ギルドの扉をあける。

1階では冒険者たちによる準備が進められていた。


「あ!ギルドマスターだ。」

「どうでしたか?」


と数人の冒険者がリーゼルに寄って行く。

「おお!上手くいったぜ!問題は山積みだけどな。」


リーゼルの言葉に冒険者たちは笑みを浮かべた。

所々「良かった・・・。」と安堵する声が上がる。


この先、どうなるか手探り状態の彼らにとって、

率先して先頭に立つギルドマスターは心強かった。


「そういや、お前らテペリを見なかったか?」

リーゼルは冒険者たちに尋ねた。


「テペリさんならギルドマスターの部屋にいますよ。」

冒険者の言葉を聞いたリーゼルは「ありがとよー。」と言って部屋に向かった。


――――――『ギルドマスターの部屋』――――――


リーゼルが扉をあけるとテペリが言う。

「私をいきなり呼び出す要件とは何ですか?」

テペリの顔はムスッとしていた。


「まあまあ、落ち着け!これから話すからよー。」

リーゼルはテペリをなだめる。


リーゼルがデスクの椅子に座るとテペリは視線をソファに移す。

「要件というのは彼女に関係しているのですか?」


ソファには1人のエルフ女性が座っていた。

彼女からは意思という物が感じられない。

テペリは『まるで、置物』のように感じていた。


エルフの女性は時々か細い声でつぶやく。

「私の・・・行いは・・・全部・・無駄だった・・。」

瞳には色がない。覇気も感じられない。

彼女に一体何があったというのだろうか?


「あー。話せば長くなるが・・・それでもいーってんなら話すぜ。」

リーゼルがそう言うとテペリは黙ってうなずいた。


リーゼルはテペリに全てを説明する。

「戦争・・・ですか?」

テペリは驚きつつも冷静だった。

エルフの女性は『戦争』という単語にピクリと体を震わせた。


「ああ。獣人のお前にはどうでも良いことだろうが・・・。」

リーゼルがそう言うとテペリは首を横に振る。


獣人は『王都グラントニア』を憎んでいる。

その気持ちはエルフたちよりも強いだろう。

しかし、テペリは違う。


「いえ!そんなことありません。奴隷を玩具がんぐとして扱う『上層』は嫌いですが、

『中層』の人間たちは、獣人である私に優しくしてくれました。

『中層』の方々の為なら、私は何でもできます!」


テペリは王都に来て、レイダスと姫様に出会った。

テペリを獣人だと知って尚、見下さない態度にテペリは好意を抱いていた。

姫様は奴隷制度を失くそうと奮闘している。

テペリはそれを心の底から応援していた。


「その言葉が聞けて嬉しいぜ・・・。」

リーゼルはテペリの言葉に安堵した。


リーゼルはテペリに要件を伝える。

「お前に頼みたい仕事があるんだ。」

テペリは「はい。」と返事をする。


「内容は?」

とテペリが首を傾げるとリーゼルは笑みを浮かべた。


「『王都グラントニア』国王の一人娘『シャーロット・ツヴァン・グラントニア』の

誘拐だ。」

テペリは驚愕する。

誰の依頼なのだろうか?という考えがよぎるがそれはどうでも良かった。


「ゆ、誘拐って!?どういう事ですか?」

テペリはリーゼルに説明を求める。


リーゼルはウェルダンに見せたメモ用紙をテペリにも見せる事にした。

『そっちの方が手っ取り早い』という彼なりの判断だった。

席を立ちあがった彼は、テペリにメモを手渡す。


「読んでみろ。」

というリーゼルの一言でテペリはメモを開く。


「こ、これ!?」

テペリは驚きすぎて、メモを落としてしまったが、拾ってリーゼルに返却する。

『驚くよな~。』とリーゼルは内心テペリの反応が予想で来ていた。


それは、自身がテペリと同じように驚いたからだ。

テペリは子供だが、頭が回る。メモの内容は直ぐ理解できた。


「成功率の低い賭けですね。」

とテペリは脱力する。


「ああ。俺もそう思う。

でもな・・・これが成功すりゃあ王都の膿は消えてなくなるぜ?」

テペリは「ですね。」と頷いて肯定した。


「それに、このメモはあいつが置いていった物だからな。」

リーゼルの発言にテペリは察する。


「そうだったんですね。では、成功間違いなしです!」

テペリはライラと似たような言葉を口にした。

リーゼルはそれに笑った。


「なんで笑うんですか!?」

とテペリはむくれる。


レイダスは口数が少なく、冷静で時に冷酷だが、

周囲の者たちから慕われていた。

テペリもその1人だった事にリーゼルは笑っていた。


「いやー。すまんすまん。何でもねーよ。

それで・・・仕事の方は受けてくれるか?」

リーゼルがテペリに尋ねる。


テペリは真剣な眼差しでリーゼルに頷く。

「はい!必ず、成し遂げて見せます!」


リーゼルはその言葉に頷く。

「決行日は作戦当日の前夜だ。チャンスは1度きり、しくじるんじゃねーぞ!」

リーゼルの力強い言葉にテペリは「はい!」と大声を出す。

そして、テペリは仕事の準備の為に部屋から退室していった。


リーゼルはふーッと息を吐く。

「やれやれだぜ・・・。」


リーゼルはテペリを説得でき、脱力していた。

「断られたらどうしようかと・・・。」


獣人のテペリからすれば、断っても可笑しくなかった。

これも全ては、姫様とレイダスのお陰だ。

しかし、リーゼルには休んでいる暇がなかった。

戦争の時は刻一刻と近づいているのだ。


リーゼルは気を引き締め、

次の行動に移るべくギルドマスターの部屋を退室する。


『今日の仕事は忙しい。』と感じるリーゼルなのだった。


―――――その頃の『ヴァルハラ』―――――


国王『ヴェル・フュアレ・三世』は頭を抱えていた。


王室内には国王の身を守る近衛兵と『バロン・アルスール』の姿がある。

バロンは王座の隣に立ち、近衛兵たちは国王の目の前に整列していた。


「ヴィラルに何と説明すれば良いのだ!!」

国王は王座から立ち上がり、右へ左へと右往左往する。


バロンは頭を下げてから、国王に言う。

「失礼ながら、国王様。民を抑えるのにも限界がございます。

正しきご判断だったと私が保証いたしましょう。」


右往左往していた国王の動きが止まる。

「本当にそうなのか?」

国王は拳を握り、表情を歪める。


国王はヴィラルを待つことなく、書状を『王都グラントニア』に送った。

そうしなければ、民たちの怒りが収まらなかった。

バロンが言うように、国王にも民を抑える限界がある。

その一線を越えてしまったのだ。


『ヴァルハラ』の民たちは奮起していた。


「人間たちに復讐を!」

「エルフの誇りを忘れるな!」

「私たちは戦士だ!」


国王は戦争を出来る事ならしたくなかった。

しかし、民たちがそれを許さない。

戦争になれば、両国共に甚大な被害が出る。


『民たちには生きてほしい』という国王の願いは叶わないのだ。

そして、ヴィラルもまた国王と同じ願いを抱き、国を発ったはずなのに、

彼女は道化を演じる事になってしまった。


国王はそんな彼女の心境が気がかりで仕方がなかった。

「ヴィラルには悪いことをした・・・。」


そう呟いた国王にバロンは言葉を発する。

「国王様、ヴィラルは戦士です。国王様のご判断に納得するでしょう。

我が弟子にして、祖父である私の言葉です。どうか信じてください。」

バロンは国王に頭を下げた。


「・・・・・・・・・。」

国王は暫く沈黙する。

それから王座に腰を据えた。


「分かった。お前を信じよう。バロン・・・。」

国王はバロンを信じた。


バロンは深々と頭を下げる。

「感謝致します。」


国王は、サイコロを投げたのだ。

どの目が出ようと、やり直すことはできない。

国王は覚悟を決めた。


「我が近衛兵たちよ!我々は、王都グラントニアに戦いを挑む!

民に告げよ!勇敢なる戦士は神樹に集えと!」

国王の言葉に近衛兵は敬礼する。


「「「「はっ!」」」」

近衛兵は王室をあとにする。

バロンも近衛兵の隊長として指示を出す為、王室から出ていった。


国王は1人、王室に残された。

目を閉じ、胸に手を当てる。


胸に当てられた手は服を掴む。

胸が痛い――――――

国王は胸に立ち込めるモヤが晴れない事に嫌気をさす。

『光明が見えない・・・。』


国王は1人、静かに王室を眺める。

誰もいない王室を――――――


―――――――『神樹』―――――――


バロンが近衛兵の先頭に立ち、民たちに語りかける。

「民よ!国王様は下された。戦争の時が来たのだ!

勇敢なるエルフの戦士よ集え!我々の屈辱な日々は戦争を持って、終焉を告げるのだ!

我々の力を人間たちに見せつけろ!」


バロンの声に惹かれて神樹の前に集まったエルフの数は尋常ではなかった。

国の2/3が集ったのだ。

その数およそ15万――――――――――


民は雄たけびを上げる。

片腕を天に向かって突き上げるその姿は、正しく戦士の姿だった。


エルフたちは一致団結し、戦争の準備に取り掛かる。

人間を殺す為に―――――

復讐を果たす為に―――――


民の行動力の高さにバロンは少しばかり驚いていた。

『それだけ人間を憎んでいた・・・。ということか・・・。』


バロンは近衛兵たちに指示を下しながら、そんな事を思うのだった。

バロンも同胞たちが人間に苦しめられるのを見てきた。

バロンも人間を憎んでいる。

しかし、憎しみや恨みは繰り返されるのだ。


バロンはそれを非常に理解している。

国王の苦渋の決断がよくわかった。


バロンは国王を尊敬する。

『私はあのお方の為であれば・・・。』

『命』を惜しまない―――――――


戦争の準備は着々と進められた。

準備に要した期間は約2週間。

『ヴァルハラ』の軍勢は王都に出発する。


―――――戦争の時がやって来たのだ。―――――

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