ヴィラルは男を探すpart2―ヴィラルver―
ヴィラルは男を探す為、王都に来ていた。
中層を走っていると、デモが行われており、驚くヴィラルだが、彼女には時間がなかった。
彼女は冒険者ギルドを訪れるが、男はそこにいなかった。
『王都グラントニア』
「はあ・・・はあ・・・着いた・・。」
私は息を切らしていた。
服と馬はボロボロだ。
道中、魔物との戦闘をした私には最早戦う気力すらない。
「それでも!行かなければ!」
私は馬を下りて王都に足を踏み入れる。
中層を走っていると妙な一団と遭遇する。
「なんだ?」
私は咄嗟に物陰に隠れた。
一団は大きな旗や文字の書かれた板を持ち、『上層』の方へと向かって行く。
中層や下層の住人だと見受けられた。
表情は険しく、雄たけびを上げる。
「奴隷を開放しろおおおおお!!」
「奴隷制度反対だああああ!!」
「上層の糞共がああああ!」
デモ活動だった。
『上層』の住人と国王を批判する声が上がる。
『私が以前来た時に、こんな事は・・・・。』
私が『大決闘演武大会』で王都を訪れた時には、デモは行われていなかった。
私は知らなかった。
レイダス・オルドレイ殿に負けて治療を受けていた私は、
国王と彼のやり取りを目撃していないのだ。
中層や下層の住人は『レイダス・オルドレイ』と
奴隷解放派の『シャーロット・ツヴァン・グラントニア』を
英雄と称える。「真の国の救世主だ!」と――――――
一団が目視できなくなった頃、
私は物陰から出て、冒険者ギルドに走る。
「彼ならきっと冒険者ギルドにいるはずだ。」
『彼は冒険者だ。依頼を受けているに違いない。』
私はそう考えた。
私は冒険者ギルドに着くや否や扉を勢いよくあけた。
扉から音が鳴り響く。
冒険者ギルド内の冒険者や受付嬢は私に視線を向ける。
「はあ・・・はあ・・・。レイダス・オルドレイ殿はいるか?」
私は声を振り絞る。
肺が辛い。
しかし、私は国の為!レイダス・オルドレイ殿の為!にやらねばならない。
私はフラフラしながら、受付に行く。
受付カウンターに両腕をのせ、しがみつく。
「レイダス・オルドレイ殿は・・・いないか?」
私は受付嬢に訪ねた。
受付嬢は無表情で、私に言う。
「いいえ。彼はまだ冒険者ギルドに顔を出しておられません。
貴方と『ヴァルハラ』に行ったきり、私は彼を目撃しておりません。」
受付嬢ははっきりとそう言った。
私の足は力が抜ける。
足が床についた。
私はうつむき、床を見ながら、受付嬢に言う。
「そうか・・・。」
彼は王都に戻ってきていないのかもしれない。
それか、戻ってきているが、姿を隠しているのかもしれない。
『私たちが彼にあんな事をしなければ・・・!』
私は膝に両手を当て、拳を握る。
体は悔しさと後悔で震えていた。
そこへ受付カウンターにいた受付嬢が私に近づいてきて、しゃがむ。
片手を私の背中に回し、胸に私の頭を押し当てる。
そして、彼女は私の頭を優しく撫でた。
「彼に何かあったのでしょう?ですが心配しないでください。
彼の行動には意味があります。それは私が保証しますから。」
受付嬢は優しくそうつぶやいた。
私は泣きそうになるが堪える。
ここで泣いてしまえば、覚悟が崩れ去ると思ったからだ。
『私は国を!彼を!―――――救いたい。』
私は、受付嬢に感謝を述べた。
「ありがとう・・ございます・・・。」
彼女は私を励まそうとしてくれたのだ。
礼はするべきだと思った。
暫くして――――――
私と受付嬢はゆっくりと立ち上がる。
私は、受付嬢に尋ねる。
「レイダス・オルドレイ殿が行きそうな場所に心辺りはないか?」
受付嬢は無表情のまま黙り込む。
きっと考えてくれているのだろう。
受付嬢は私に言った。
「心辺りはありません。ですが、闇雲に探すより効率の良い方法があります。」
そう言って、受付嬢は私を2階の右手の部屋に案内する。
そして、扉をあけた。
「失礼致します。」
受付嬢と私は部屋に入室する。
部屋は書類の山だった。
その中に1人威厳を放つ男が窓を眺めて立っている。
動揺している私をみかねて受付嬢が無表情に説明する。
「この方は、王都グラントニア冒険者ギルドのギルドマスター『リーゼル・マクシアノ』
ギルドマスターにして、戦闘狂です。」
受付嬢の発言でギルドマスターは振り返って、デスクの椅子に座る。
「クレア・・・。戦闘狂はねーだろ?」
「事実です。」
受付嬢はきっぱりとギルドマスターに言う。
ギルドマスターはあからさまに項垂れた。
「で?俺に連絡もせず、部屋に客人連れてくるたー珍しいじゃねーか。
エルフに知り合いはいねーからよ。大事でもあったのか?」
ギルドマスターは受付嬢に話を振る。
「いえ。レイダス・オルドレイAランク冒険者を探していると。
闇雲に探すよりギルドマスターに事情を説明した方が速いと思ったまでです。」
と受付嬢は説明する。
「じゃあ。その事情とやらを聞こうじゃねーか。」
私は、一瞬息をのんだ。
そして、『ヴァルハラ』であった事を全て説明した。
「・・・・・・・・。」
ギルドマスターは黙り込む。
そして、つぶやいた。
「戦争か・・・。」
ギルドマスターの目は悲しそうだった。
私は拳を握りしめる。
「私たちのせいなのです!エルフたちが彼を殺そうとしなければ!」
『こんなことにはならなかったんだ!』
それからの彼の言動に私は呆然とする。
「しょうがねーよ。起っちまった事はもうどうにもならねー。
レイダスはむやみな争いはしない。それは俺もそこのクレアも知っている。
エルフたちから攻撃を仕掛けたのも分かった。
とにかく、あいつを探し出さねーと事は進まない。
俺たち冒険者ギルドで良ければ、手を貸そう!」
何故ギルドマスターは手を貸してくれるのだろう―――――
私たちがレイダス・オルドレイに強制的に戦争の引き金を引かせたのに――――
「ありがとうございます!」
私は頭を下げた。そして、質問する。
「失礼は承知で質問をさせてください。何故私に協力してくださるのですか?」
ギルドマスターや受付嬢からすれば、私たちは憎い敵のはずだ。
話を聞いていただけで分かる。
彼らは『レイダス・オルドレイ』という1人の人間を尊敬している。
そんな御仁を犯罪者に貶めたのはエルフなのだ。
「簡単な質問だな。」
「ですね。」
受付嬢とギルトマスターは笑みを浮かべる。
ギルドマスターが私の質問に答えた。
「お前たちを人間としての立場で言わせてもらうと『敵』に分類されるだろう。
でもな、それ以前に俺たちとお前は同類なのさ。」
ギルドマスターは私を指さす。
「私たちが同類?」
「そうだ。お前を見ればわかる。お前もあいつを気に入ってるんだろう?」
私は否定しなかった。
私は彼を気に入っている。
ギルドマスターの発言は的を射ていた。
私は頷く。
「じゃあ、あとは理解できるだろ?俺たちがお前に協力する理由はそれだけだ。」
子供のような理由だった。
それだけで、ギルドマスターは私に協力してくれると言ったのだ。
私の目から涙がこぼれる。
私は、もう一度頭を下げる。
「ありがとう・・・ございます!」
私は1人だと思っていた。
他人は信用できないと思っていた。
種が違う者たちに協力してもらえる等考えもしなかった。
私は素直に――――――『嬉しかった』
「よっしゃあ!そうと決まれば、早速行動開始だ!
クレア。ありったけの冒険者に連絡しろ!
レイダスの野郎を捜索するぞ!」
受付嬢はギルドマスターに軽く頭を下げ、部屋を退室していく。
私は頭を下げたまま、動けなかった。
涙が奥からあふれてきて・・・止まってくれないのだ。
ギルドマスターが私の肩に手をおく。
私はそこでようやく頭を上げた。
ギルドマスターは笑みを浮かべている。
「あいつを探すんだろ?泣いている暇があんなら、行動を起こせ!」
私はギルドマスターの言葉を聞き、涙を拭った。
私は、お辞儀してギルドマスターの部屋を退室する。
前だけを見て――――私は進む。
『レイダス・オルドレイ殿!私は貴殿を探し出して見せる!』
―――この日から冒険者と私による『レイダス・オルドレイ』の捜索が始まった。―――




