男は夢を見る。
男は夢を見る。懐かしい夢だった。
しかし、男は覚えていない。
『ヴァルハラ』に着いた男は、ヴィラルと別れ宿屋で泊まる事に―――
夜空の下――――――2人の人物が話をしている。
平原にたたずむ2人を俺は知っている。
2人が懐かしい――――――
俺はそれを遠くから見ていた。
「――――に―――な―――きか―――――。」
「あ―――人――――・・・。生―――――死――――――。」
聞こえない。
俺は近づこうとするが足がない・・・。
「ま――――て!―――――や―――――!。」
俺は腕を伸ばそうと試みるが腕がない・・・。
2人は誰だ―――――?
俺は2人を知っている・・・。
知っているのに――――知らない――――――。
――――思い出せない――――――
2人が遠のいていく―――――
「や―――く――――だ。――――――ず――――――・・。」
「――――!・・・。――――だ!」
――――違う――――俺が遠のいている。
何故か苦しくなる。
俺の奥底から―――――が込み上げてくる。
俺は―――――――・・・・・。
俺は―――――――・・・・・!
「起きろ!敵襲だ!」
俺は目を覚ます。
仮眠のつもりが寝入ってしまったらしい。
『夢を見ていたような・・・。』
気がするが、俺は夢の内容を覚えていなかった。
それよりも敵だ。
『『探知』を発動させていたのに・・・俺の油断か・・・。』
『探知』には既に反応が出ていた。
数は5人。人間だ。
速度からして馬に騎乗しているのだろう。
盗賊の類と俺は推測した。
俺は荷馬車の上に上った。
「方角は?」
「北西だ。私がやる。」
ヴィラルは弓を出そうとする。
距離がある今なら、遠距離攻撃ができるヴィラルが有利だからだ。
「残った敵は俺がやる。外しても構わないぞ?」
俺はヴィラルを挑発するが、笑みを浮かべる。
「私を誰だと思っている?私は『ヴィラル・アルスール』!誇り高きエルフの戦士!
昨夜の恩を今ここで返そう!!」
俺は一時的に手綱を預かる。
ヴィラルはスキルを発動した。
『太陽の弓兵専用スキル:必中一殺』
『太陽の弓兵専用スキル:複数掃射』
『太陽の弓兵専用スキル:天の雨』
ヴィラルは『天の雨』を放った。
『天の雨』は時間差で相手を攻撃するスキルだ。
敵がこちらに近づけば、俺たちが被害を受ける。
それだけヴィラルには敵を近づけない自信があるのだ。
「おらあああ!身ぐるみ置いてけやあああ!!」
盗賊の1人が盗賊らしい台詞を吐く。
『盗賊って・・・・。』
俺は笑いを必死でこらえた。
『腹が痛い・・・・・。』
俺が笑いに堪えていても戦闘は続く。
ヴィラルは、盗賊の『馬』を狙って矢を放つ。
『馬』は矢の痛みに暴れた。
「うおあ!?」
1人また1人と落馬していく。
俺もヴィラルと同lvで遠距離攻撃を主体とするなら、同じ攻撃を仕掛けただろう。
盗賊たちが落馬して、立ち上がる頃・・・
その時がやってくる―――――
「いつつ・・・。」
盗賊たちがヴィラルを見る。
ヴィラルは天を指さしていた。
『上を見ろ・・・。』
盗賊たちはゆっくりと空を見上げた。
「な・ん・・・。」
盗賊たちは驚愕する。
空から大量の矢が降ってくる。
俺と決闘をした時は不発で終わったが、この世界において『天の雨』は強力である。
ヴィラルは不敵な笑みを浮かべた。
「くらえ!」
矢の雨が盗賊たちを襲う!
「うおあああああ!!」
「ぎやああああ!?」
「おああああああああ!?」
盗賊たちは倒れていった。
急所に矢が刺さったようで、盗賊たちは動かない。
「お疲れ。」
と言って俺は手綱をヴィラルに返す。
「ありがとう。」
ヴィラルは手綱を受け取った。
俺たちは荷馬車を止めることなく、戦闘を終了させた。
『俺の出番はなかったけどな・・・。』
俺は一時的に手綱を握っただけだ。
改めて、ヴィラルの戦闘を見学できただけでも良しとする。
俺は荷馬車の中には戻らず、そのままヴィラルの横に座った。
俺がどれくらい寝ていたか確認する為だ。
「俺はどれくらい寝ていた?」
「そうだな。3時間ほどだ。」
俺は「そうか。」と頷いた。
俺は暫く黙り込んで腕を組む。
「まだ眠いのなら寝ていても大丈夫だぞ?この先は魔物が少ないからな。」
ヴィラルは黙り込んでいる俺が眠そうに見えたらしい。
「いや、心配には及ばない。考え事をしていただけだ。」
本当はボーっとしていた。
俺は周囲に広がる平原が懐かしく感じていた。
荷馬車に揺られながら、平原を眺める。
俺の脳内は、自然とフワッと軽くなる感覚に襲われる。
『五月病かなー・・・。』
俺は、前世でこんな景色の良い場所に来たことがない。
俺のいた世界は――――
汚くて、血にまみれてて、真っ黒で・・・。
『生きたい』と思えない世界だった。
俺は環境が変わりすぎて、きっと適応ができていないのだ。
俺は、体を伸ばして、深く息を吸った。
『酸素も足りていないのかもな。』
それから静かな時が過ぎていく―――――そして何も起こらなかった。
―――――『ヴァルハラ』―――――
俺たちは魔物にも盗賊にも襲われることなく5日で『ヴァルハラ』に到着した。
国全体が『神木』の柵で囲われている。
『ヴァルハラ』周辺は緑に囲まれていて自然が豊かだ。
『神木』と呼ばれる大樹があちらこちらに生えている。
あと、空気中に小さな光が漂っていて幻想的だ。
小さな光は『光虫』と言われ、レア度の高い『虫網』で捕まえられる。
また『光虫』は身体に自然と吸収され、魔力量に還元される。
つまり、『光虫』は魔力量の塊なのだ。
その為、『ヴァルハラ』周辺にいる限り、魔力量の回復速度は上がる。
ヴィラルは、ヴァルハラから100m離れた場所に荷馬車を止める。
「貴殿はここで待っていてくれ!」
ヴィラルは『ヴァルハラ』の門番のもとへ向かった。
ヴィラルは人間を国に入国させる許可を取りに行ったのだと思われる。
『俺は、人間だ。エルフたちは人間の俺を受け入れるだろうか・・・。』
俺は考えただけで、背筋に悪寒が走った。
俺を見る視線を――――
陰口を―――――
俺は想像してしまった。
俺はガルムも守らなければならない。
『俺はやらないといけない!』
俺は、自分を奮い立たせる。
15分後―――――――
ヴィラルが荷馬車に戻ってきた。
「話はついた!貴殿ならこの国は大歓迎だ!」
ヴィラルは機嫌が良かった。
『どんな話をしたんだ?』
「門番に何を言った?」
ヴィラルは手綱を握り、荷馬車をゆっくり進めながら答える。
「ありのままを話しただけだが?」
『その内容を知りたいんだよ!?』
俺はヴィラルとは反対側を向き、ため息をついた。
『ヴァルハラ』の門に荷馬車は接近していく。
10人の門番が敬礼して荷馬車を出迎えた。
「ヴィラル・アルスール様がご帰還なされた。全員敬礼!」
エルフたちの敬礼は軍隊そのものだった。
門番全員、弓を装備していることから『弓兵』職という事が分かる。
俺たちは門をくぐった―――――
周辺も幻想的だったが、国の内部はそれを凌駕していた。
『現実味を帯びるとこんなにも美しいのか!』
俺は『ヴァルハラ』の美しさに魅了されていた。
『FREE』をしていた時とは変わらず、
国の象徴『神樹』は国の中央に健在である。
周辺に生えていた『神木』よりも大きく、
エルフたちからは『神聖物』と崇められている。
エルフたちの家は地面だけでなく、木の上にもある。
木々の間に橋をかけ、行き来をしているのだ。
「『ヴァルハラ』が気に入ったか?」
ヴィラルは俺に言う。
表情に出ていたのだろうか?
俺は正直に答えた。
嘘をつく理由もないからだ。
「ああ。気に入った。」
俺の発言にヴィラルは笑みを浮かべる。
「それは良かった。」
というヴィラルの声は嬉しそうだった。
ヴィラルは荷馬車を宿屋の前に止める。
「今日はこの宿屋で1日ゆっくりしてくれ。私は『お師様』と話をしてくる。
明日の早朝、迎えに来る。宿屋の入り口で待っていてくれ。」
「俺は国を見て回りたいのだが?今日はダメなのか?」
俺は今日にでも『ヴァルハラ』を見て回りたい気持ちに駆られていた。
「明日、私に案内をさせてくれないか?実は楽しみにしているんだ。」
ヴィラルはそう言ってふと笑う。
「ああ。分かった。宿屋で待っている。」
俺はヴィラルと約束をし、ヴィラルは荷馬車に乗って去って行く。
俺とガルムは宿屋に入った。
「いらっしゃい・・・・。」
宿屋の店員が固まる。
「どうした?」
俺は尋ねる。
『大体想像はできているが・・・。』
「いえ、何でもありません。一応お名前をお伺いしても?」
俺は数秒悩んだ。
『正直に名乗っていいものか・・・。』
俺は悩んだ末、正直に名乗った。
「レイダス・オルドレイだ。」
店員は頭を下げ、受付カウンターに向かった。
「こちらへどうぞ。」
と受付に呼ばれる。
俺は、受付を済ませ、部屋を1つ借りた。
「部屋は階段を上がり、一番奥の部屋となります。」
俺とガルムは階段を上がる。
2階の廊下は真っすぐ奥へと続いていた。
奥の部屋にたどり着く前に客室をいくつか通り過ぎる。
俺は、部屋の扉を開けた。
部屋の中は広かった。
ベットは大きくて丸いのが部屋の中央に2つある。
右を見れば個室がある。開けてみるとトイレとシャワーだった。
俺はベットに腰を下ろす。
ガルムはもう1つのベットの中央に丸くなった。
「宿屋なのに落ち着かない。」
俺は宿屋の店員が気になっていた。
俺とガルムを見るや否や固まっていた。
その後の反応が問題だ。
店員のエルフはにこやかに笑っていた。
『その笑顔が・・・・。』
怪しく思えた。
俺の勘や直感はよく当たる。
この世界に転生してからずっとそうだった。
俺は『探知』を発動させる。
俺が発動させたのは『悪意探知』だ。
使わないように控えていた・・・。
使わざるを得なかったんだ・・・。
この世界にも少なからず悪意がある。
俺たちの泊まっている部屋を囲むように悪意を抱くものが集まっている。
それは徐々に近づき、集束していく。
『長い夜になりそうだ。』
俺はベットから立ち上がり、腰の剣を抜く。
ガルムもベットから立ち上がる。
「ガルム・・・分かってるか?」
俺はガルムに確認する。
こくんと頷いた。
いつもだったら尻尾を嬉しそうに振るのに、ピクリとも動かない。
「お前も・・・嫌だよな・・・。」
『俺も嫌だよ・・・ガルム・・・。』
俺たちの泊まっている宿屋の外では、
エルフの集団が魔法を発動しようとしていた。
そして――――――――
「撃てえええ!!」
1人のエルフの号令で魔法が放たれる。
放たれた火の玉は業火となって宿屋の1室を燃やす。
『畜生が・・・・。』
俺の中の何かが蠢く――――――『全員殺せ』
――――俺の殺戮劇が幕を開ける。―――――




