ルーカスの災難―ルーカスver―
弱い俺たちはlv上げと依頼を兼ねて『トーリカの森』に行こうとしていた。
「俺らなら楽しょーだっつの!」
バゼットは依頼書を片手に握って、戦闘を歩く。
『どこから来るんだその自信・・・。』
俺はバゼットに呆れる。
今回の依頼を勝手に引き受けたのもバゼットだ。
「そーよ!あたしたちなら何とかなるって!」
メリーはガッツポーズを決める。
メリーもバゼットに賛同していた。
バゼットとメリーは自信過剰なのだ。
『このパーティでまともなのは俺だけか・・・?』
俺は、依頼を受ける前にバゼットに言っていた。
「俺たちの実力じゃあまだ『トーリカの森』は無理だ!」と。
しかし、バゼットは耳を傾けようともしなかった。
俺は心の中で決めていた。
『今回の依頼が終わったら、パーティを解散しよう!』と―――
一応『パーティリーダー』は俺という事になっている。
リーダー権限で強制的な解散はできるのだ。
俺たちは北門を抜け、『トーリカの森』にむかった。
森が見えてきた頃、森の方から人が歩いてきた。
「誰だありゃ?」
先に気付いたのは、戦闘を歩いていたバゼットだった。
その人は俺たちを見るや否や突然話しかけてきた。
「新人冒険者か?」
「はい!そうですが・・・。って『大決闘演武大会』の優勝者!?」
俺は、驚いた。
『大決闘演武大会』の優勝者『レイダス・オルドレイ』
しかも、生で会って話ができるなんて思ってもみなかった。
金髪、赤い眼、漂う武人としてのオーラに俺は痺れた。
「ルーカス。この人誰だよ?」
とバゼットは俺に聞く。
知らないのかよ!クールで冷静沈着、誰もが憧れる冒険者だぞ!?
俺はバゼットに教えてやったこの人の凄さを
「知らないのか!?『大決闘演武大会』で『白騎士サラル』に勝利したお方だぞ!」
『白騎士サラル』この世界では知らない人間の方が少ない。
巧みに操るレイピアは神の御業――――――
『剣士』職の到達点と言われていた男だ。
それが目の前にいる人物に覆されたのだ。
「へええ~。」
バゼットは『レイダス・オルドレイ』に近づいてジロジロと観察する。
観察を終えるとバゼットは笑みを浮かべた。
突然だった。
バゼットが拳を握って『レイダス・オルドレイ』に殴りかかった。
「!?」
「バゼット!?」
俺とメリーはいきなりの事で何もできなかった。
しかし――――――
「やるじゃん。」
『レイダス・オルドレイ』はバゼットの拳をいとも簡単に止めて見せた。
そのままバゼットは腕を捻られ、体を地面に押し付けられた。
「いだだだだだ!!」
俺は、『凄い・・・。』の一言だった。
俺は『レイダス・オルドレイ』に憧れた。
「駄犬はちゃんと躾けないとな。」
『台詞もかっこいい!!』
俺はここで我に返った。
『パーティは助けないといけないよな・・・。』
まだ解散はしていない為バゼットを助ける。
俺は頭を下げて謝る。
「すいませんでした!!離してあげてください!」
『レイダス・オルドレイ』はバゼットの腕を離す。
バゼットは捻られた腕を抑えながら、俺の後ろに隠れた。
「ちくしょー~!」
バゼットは『レイダス・オルドレイ』を睨む。
『なんて失礼な奴だ!』
俺は、バゼットの態度に幻滅していく。
「そいつのせいで話が逸れた。」
『レイダス・オルドレイ』は一瞬バゼットを見るが俺に視線を向ける。
「新人冒険者で良いんだよな?」
俺とメリーは「はい。」と返事をする。
「『トーリカの森』に向かうのか?」
俺が『レイダス・オルドレイ』の質問に答える。
「はい!依頼とlv上げを兼ねて向かう予定です。」
「依頼内容は?」
「鉱石の採掘です。」
俺は全ての質問に答えていった。
すると、『レイダス・オルドレイ』は俺たちに事実を突きつける。
「やめておけ。お前たちの今の実力では無理だ。」
『やっぱりか』と俺は納得したがメリーが歯向かう。
「どうして言い切れるんですか!?」
怒りの表情をメリーは浮かべる。
『実力者が無理だと言っているのになんで歯向かうんだ!?』
俺は奥歯を噛みしめる。
「断言した方がいいのか?」
俺は息をのむ。
「お前たちが『トーリカの森』で魔物と戦えば、間違いなく死ぬ。」
俺たちは死の宣告をされた。
俺は噂で聞いたことがあった。
『レイダス・オルドレイ』の行動や言動には意味があるという。
この宣告は絶対なのだ。
そして、遠回しに『トーリカの森を諦めてメイサの森に行け』と言っている。
俺は、「トーリカの森は諦めます!」と言おうとしたが――――――
「俺は行くぞ!んなの信じられっかよ!」
俺が言う前にバゼットは、『トーリカの森』に走って行った。
『レイダス・オルドレイ』の発言は絶対だ。
バゼットの行動は死にに行くようなものだ。
「バゼット!」
とメリーが叫んで、バゼットを追いかけていく。
『馬鹿だ!!』
「バゼット!メリー!」
2人の名を呼ぶが届かない。
『くそ!』
俺は『レイダス・オルドレイ』に
「忠告ありがとうございました!」
と頭を下げて、走り出す。
2人の姿は既に見えなくなっていた。
――――『トーリカの森』――――
「はあ・・・・はあ・・・」
俺は森に入った2人を探し回った。
息は絶え絶え、一旦休憩しよう・・・。
俺は、地面に座り込む。
「どこ行ったんだ・・・。2人とも・・・。」
影も形も見当たらない2人に俺はさらに怒りを募らせる。
パーティリーダーだからという責任で俺は森に入ったが、
実際、森が広すぎてどこに自分がいるのか分からない、迷子状態だった。
俺は、再び立ち上がり、2人を探す。
10分後―――――
「きゃあああああ!!」
メリーの悲鳴だった。
俺は茂みを掻き分けて、メリーの元に向かう。
「メリー大丈夫か!?」
俺はメリーを見た。腰を抜かしていたが、外傷はないようだった。
俺は安堵するが、メリーは震えながら、指を指していた。
「あ、あれ・・・・・。」
指の先を俺は見る。
そこには、血だらけで倒れているバゼットの姿があった。
「バゼット!」
俺はバゼットに駆けよって、上半身を抱き上げる。
「しっかりしろよ!」
バゼットからかすかに反応が返ってきた。
「いてー・・・よー・・・。」
バゼットの自業自得だった。痛いのもつらいのも全て自分のせいだ。
バゼットの腹は、食い破られていた。
『一体何の魔物にやられた!?』
俺は、バゼットを抱き上げて、メリーに声をかける。
「息はある・・・。メリー・・・。」
俺は驚愕した。
『なんだあれは・・・・。』
メリーの背後に巨大な昆虫がいた。『蜂』だ。
メリーは気づいているのか?
確認を取る必要はなかった。
メリーの目は視点が合っていない。彼女はそのまま横になる。
俺の方からは見えないが、メリーの後頭部には針が撃ち込まれていた。
蜂のお尻部分に新しい針が生える。液体が地面に落ちると同時に、
地面が溶けた。『毒針』だ。
俺は、バゼットを抱いたまま後ずさる。ゆっくりと――――――
バキッ!と折れる音がした。
下に視線を移すと俺の足の下に折れた小枝があった。
『しまった!!』
巨大な蜂は俺に迫ってくる。
「うあ!」
避けた拍子にバゼットを離してしまった。
「バゼット!」
俺は、しりもちをついたがすぐに立ち上がる。
『蜂』が旋回してくる間に安否を・・・・。
俺は、バゼットの顔を見て目を背けた。
バゼットは既に死んでいた。
『俺は・・・悪くない!!』
俺は、その場を離れる。がむしゃらに走った。
『あいつらが勝手に死んだんだ!
俺のせいじゃない!
2人が死んだのは俺のせいじゃない!』
俺は、自分が酷い目に合っているのを2人のせいにする。
『俺は反対したんだ!なのに・・・・!!』
「うわああ!!」
俺は、崖に気付かず地面にたたきつけられた。
「ぐああ!!」
背中に衝撃がはしる。
俺は一旦うつぶせになって、ゆっくりと立ち上がる。
「う、おえ!!」
立ち上がった途端、異物がこみ上げてきて俺は―――吐いた。
異物に血が混ざっている。
俺は、口元を拭いて、足を進める。
『一歩でも・・・前へ・・・。』
足元がおぼつかない。木々を支えに一歩一歩前に進む。
「俺は、生きたい。」
――――死にたくない――――
「俺はまだ・・・・・。」
独り言をつぶやいていると、段差に驚いて転がった。
「うあ!?」
起き上がると、そこは平地だった。
俺は、王都グラントニアとリゼンブルの間に出たのだ。
目を凝らすと―――――――
「道だ・・・・。」
人工的に整備された道が見えた。
俺は、一歩一歩進み続ける。
自然と涙がこぼれる。
『俺は助かる・・・・。』
そう思えたのは束の間だった――――――
「ギギギ!」
平地は障害物がなく、相手に見つかりやすい。
俺は、小柄な人のような魔物に見つかる。
「ゴブリン・・・。」
ボロボロな状態でなければ、相手にできるlvだった。
けど―――――
『今は無理だ!!』
俺は、道に向かって走り出す。
足を踏み出すたびに背中に痛みが走る。
『痛みは無視しろ!』
俺は、歯を食いしばる。
「ギギギギアアアアア!!」
ゴブリンが俺に近づいてくる。
「うおおおおおおおお!!」
俺は残りの力を振り絞って、走り抜ける。
目の前には、グラントニアに向かっている馬車の姿があった。
御者は俺に気付く。
「助けてくれ!」
俺は必死に叫んだ。
御者は俺の後ろの魔物に視線が行き、驚愕する。
「ゴ、ゴブリン!? はっ!!」
御者は馬に鞭を叩きつける。
馬車は走り出した。
「助けてくれよ!!お願いだ!!」
俺は死にたくない―――――――
俺の願いは虚しく――――――砕かれる。
俺は絶望と共に腰の片手剣を抜く。
「うおあああああああ!」
他人を頼った俺が馬鹿だったんだ―――――
他人に流された俺が馬鹿だったんだ―――――
俺はゴブリンを斬りながら、認める。
「ああ。全部俺が悪いんだ・・・。」
リーダーとして、メンバーを止められていれば――――
俺の足が速くて、バゼットたちに追いつけていれば――――――
こうすればよかった――――
ああすればよかった――――
そんな考えばかりが浮かんでくる。
その中には楽しい思い出も含まれていた。
『これって走馬灯って奴だ・・・。』
俺はゴブリンを斬りつけるたび、ゴブリンから攻撃を浴びていた。
こん棒で殴られ、骨はボロボロだ。
俺は、『気力』だけで動いている。
立っているのが奇跡なくらいだ。
俺は――――――――生きたかった―――――――
俺の願いは砕かれる。
『命』を奪うこん棒が俺に振り下ろされた―――――――
「レイダス・オルドレイ・・・さん。すいま・・せ・・・。」
俺は最後に謝った。
俺の『憧れの人物』に・・・。
『貴方が言った通りでした。』
『レイダス・オルドレイ』の背中が見えた気がした。
俺は、倒れながら手を伸ばす。その背中は俺の手には届かない。
「待ってください!」
『レイダス・オルドレイ』の背中は遠のいて行った。
届かない―――――届くことのない憧れにすがって―――俺は死んだ。




