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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~エルフの国『ヴァルハラ』戦争編~
62/218

男の1日

『大決闘演武大会』に優勝した次の日。男は、王都へ向かう。

冒険者ギルドを尋ねると、ヴィラルの姿があった。

「実は――――――――――――」

ヴィラルの話を遮るように来訪者が冒険者ギルドに現れる。

『国王・・・。』

『夢見の森 ログハウス』


「ふああぁ~・・・。」

『大決闘演武大会』の次の日の早朝。


『なんであんなことしたんだっけ?』


俺は『大決闘演武大会』決勝で『サラル・ユーギニウス』と決闘をした。

『命』を賭けて決闘をした結果、サラルは死んだ。

それだけに留まらず、俺は同時に国王を貶めようとした。

俺は姫様の戦いに手を出したのだ。


「・・・・・・・・・。」


俺はベットから起き上がる。


畑で育てていた『ワイルドトマト』を収穫。

顔を洗い装備を着用した。

ガルムを起こして、俺はさっさと王都へ出かけるのだった。

『久しぶりに―青薔薇―にでも行こう・・・。』


―――――『宿屋―青薔薇―』―――――


「ファルいるか?」

俺は宿屋の扉を開ける。


ファルが駆け寄ってきた。

「お久しぶりです!ずっと来られないから、もう来ないのかと・・・。」

ファルは涙ぐんでいた。

『泣くほど!?』


「『大決闘演武大会』で来られなかったんだ。これで許してほしい。」

俺は、謝罪として、カバンから白い袋を取り出す。


「これは?」

ファルは首を傾げながら、袋を受け取る。


「『ワイルドトマト』だ。俺が育てたんだ。」

ファルの顔は明るくなる。


「ありがとうございます!」

ファルの嬉しそうな顔に俺はホッとした。


「あと・・・ファルにお願いがあるんだ。」


「お願いですか?私にできる事であれば!」

ファルはやる気満々だった。


「実は・・・ぐううう~・・・。」

俺の腹が鳴った。

朝食を作るのがめんどくさくて放棄してきたのだ。

以前、『朝食をデザート付きで用意してくれる』と

ファルが言っていたので、食べていこうと思ったのだ。


「フフフ。そういう事ですか。」

ファルは口に手を当てて笑う。

ファルは「どうぞこちらへ」と言って、テーブルを指す。

俺は、宿屋―青薔薇―の料理を堪能した。


「『マッシュドカリー』の味が活かされていておいしかったと、料理長に伝えて置いてくれ。」

ファルは「はい。」と頷いた。


俺は冒険者ギルドに向かう。

宿屋―青薔薇―をあとにするのだった。


―――――『冒険者ギルド』――――――


俺は冒険者ギルドの扉を開ける。

中に入ると影が覆いかぶさる。

『なんだ?』


人影だった。俺はそれを横に避ける。


「のわああああ!?」

影に人が落下していった。床に顔をぶつけたようだ。


「なんで避けるんだよ!レイダス!!」

ガランだった。気づけば防具を着用していなかった。


『大決闘演武大会』でガランはサラルに負けた。

その時に防具も壊してしまったのだ。

体中に包帯を巻いている。

顔にも巻けば、ミイラ男の完成だ。


「急に飛び掛かったお前が悪い。」

ガランに精神を傷つける透明な槍が突き刺さる。

ガランは暫くその場を動かなくなった。


受付に向かって歩いて行くと、横から声をかけられる。

「昨日ぶりだな!」

俺は酒場の方を見た。

カイルたちと1人のエルフが一緒にいた。


「ヴィラル。」

『ヴィラル・アルスール』『大決闘演武大会』準決勝の相手だった女エルフだ。

エルフの戦士である。


俺はカイルたちの席に座った。

「傷の方はもういいのか?」

ガランと同様ヴィラルも重症だった。

昨日の今日で元気なのが不思議だった。


「エルフは人間と比べて自然治癒力があるから治りが速い。貴殿の心配は不要だ。」

『そうだった・・・。』

エルフは人間と比べて、少しの差だが、傷の治りが速い。

俺はそれをすっかり忘れていた。


「そうか。お前に質問したいんだが、いいか?」

俺の言葉に「ああ。良いとも。」とヴィラルは頷く。


「なんでカイルたちといるんだ?」

俺はカイルたちを指さした。


カイルはビクッと体を震わせる。

イリヤは緊張感のかけらもなく、この世界のお菓子を口に頬張っていた。

そんな2人を見て、ゲイルが答える。


「ヴィラル殿がオルドレイ殿はいないかと冒険者ギルドに尋ねてきたのです。

その時に私たちが偶然居合わせて・・・。」


「今に至るわけだ。」

と俺は納得した。


「俺に用とは?」

ヴィラルに向き直り、尋ねる。


「そうだな。単刀直入に言おう実は・・・・。」

そこでヴィラルの言葉は遮られる。

1人の来訪者によって――――――


バン!と力強く扉が開けられる。ガランが扉の勢いで階段側に飛ばされる。

冒険者ギルド内の視線は入り口に集中した。


『上層』に引きこもっていた国王が冒険者ギルドにやってきたのだ。

お供に護衛を3人連れている。

国王はあたりを見渡し、声を発する。


「レイダス・オルドレイなる者はいるか!」


俺たちは、酒場の奥の席に座っていた。

気づかなかったのだろう。


カイルがひそひそと俺に言う。

「どうするんですか?」

『どうしようか・・・。』


俺は国王が直接・・冒険者ギルドに来るなんて考えていなかった。

「仕方ないな。」

俺は酒場の席を立ち。国王の前に出る。


「レイダス・オルドレイ本人だ。俺に用ですか国王様?」

俺は国王に頭を下げない。


「国王に無礼であるぞ!!」

と国王の護衛が怒鳴るが、国王がそれを止める。


「良いのだ。下がれ。」

護衛たちは国王の指示で後ろに下がる。


「レイダス・オルドレイそなたに――――――」

国王が言い切る前に俺は国王に言う。


「『下層』を譲ってくれる気になりましたか?」


「・・・・・・・。」

国王は黙る。

悪評が広まるのを懸念して別の物を俺に与えようと考えていたのだろうが―――

『残念だったな国王――――』


「そうですか。やはり国王は器が小さいようだ。」

俺は、カイルたちの席に戻ろうとするが、国王が止める。


「待て!何故『下層』にこだわる!?」

国王は冷や汗を流している。


「『下層』以外にも欲しい物はあるだろう!?」


俺は『下層』に固執している。

国王にはそれが分からないのだ。

富―――名声―――国王に望めば全て与えられるだろう。

しかし、俺は断り続ける。


「ないな。」

俺はきっぱりと言いきった。


国王は呆然とする。

護衛の1人が声をかけて国王は我に返る。

「そうか・・・。気が変わったら、私に伝えてくれ。」


国王が護衛の3人と共に冒険者ギルドを去ろうとした時、

俺は言う。


「国王、それは貴方の方だ。俺の気は変わらない。前向きに検討してくれ。」

俺は、カイルたちのいる席に戻った。


遠くにいても分かる。

歯を噛みしめ、拳を握りしめるお前の姿が――――

俺の中の何かが笑う。

『ざまあみろ――奈落に落ちるが良い―――』


国王は冒険者ギルドを去って行った。

冒険者たちは去ったと同時に歓喜を上げる。


「ざまあみやがれ国王!」

「あの顔見たか?笑っちまうよな~。」

「レイダス・オルドレイ万歳!!」


酒場の雰囲気は一気に盛り上がる。

ヴィラルはテーブルを叩いて爆笑していた。

「アハハハハハ!!」


「何が可笑しい?」

俺はヴィラルに聞く。

可笑しいことをしたと思っていないからだ。

カイルたちもヴィラルの爆笑っぷりに少し引いていた。


「貴殿は面白い御仁だなあ。」

ヴィラルは涙目になっていた。

『そんなにおかしかったか?』


「話を戻そう。国王が来る前に言いかけてたな。」

ヴィラルはゴホン!と1つ咳払いをして改めて話を始める。


「そうだな。では改めて・・・。

実は、貴殿をエルフの国『ヴァルハラ』に招待したいと思ってな。」

『俺をヴァルハラに?』


理由が分からなかった。

ヴィラルの気まぐれか?

はたまた俺を利用しようとしているのか?


「警戒しないでくれ。私の気紛れだ。私は貴殿を気に入ったのだ!」

ヴィラルはそう言った。

けれど、俺は警戒を解かない。


「嘘をつくな。」

俺は腕を組む。

『ヴァルハラ』は馬に乗っても5日かかる。

途中で魔物に襲われるだろう。


それに、『FREE』をプレイしていた当時、俺は『ヴァルハラ』に行ったことがある。

NPCのエルフたちが鍛錬をしていた。

エルフたちは、自分たちの種族に誇りを持っている戦士だ。


「俺を見本にしようとしているだろ。」

カイルたちは黙って俺とヴィラルのやり取りを聞いている。


「ハハハハッ!バレてしまったか。しかし、貴殿が気に入ったのは本当だ。

私は、貴殿が『下層』を欲しがる理由が分かるぞ?」

ヴィラルは笑う。

俺は、警戒を強めた。


「エルフは『奴隷制度反対派』か?」

俺が『下層』を欲しがる理由が分かるのは、『ヴァルハラ』に奴隷制度がないからだ。

エルフは奴隷制度を嫌う。

獣人と同じように人間に奴隷にされているからだ。


「そうだ。奴隷は良くない。種族は違えど、人間と同様、感情がある。

特に『王都グラントニア』は奴隷制度の筆頭だ。私は許せない!」

ヴィラルは怒りの余りジョッキを握りつぶした。

割れたガラスが周囲に飛ぶ。


ヴィラルは周囲に「す、すまない!」と謝罪する。


『テペリと同じだ・・・。』

獣人のテペリは奴隷制度を嫌っている。

今のヴィラルと同じことくを言っていた。


「『大決闘演武大会』に出場していたのは、王都の様子を見に来たのか?」

話を聞く限り可能性はあった。

ヴィラルは「ああ。」と肯定する。


「それで、準決勝・・・というわけか。」

俺はヴィラルへの警戒を解く。


この世界の『ヴァルハラ』に行ってみたいと思っていたし、

何より、鍛錬をしていたNPCたちがどう動いているのか見てみたかった。

『見本にされても真似られるはずがないからな・・・。』

俺の戦い方や技術を盗まれるわけではない。

今は依頼も受けてない。俺はヴィラルの招待にのっかることにした。


「いいだろう。その招待、受けよう。」

ヴィラルは、椅子から立ち上がって、顔を俺に近づける。


「ほ、ほんとうか!?」

かなり嬉しいようだ。瞳がキラキラと輝いている。

『手は握らないでくれるか・・・。』

俺は片手を両手でガッシリと掴まれていた。


「あ、ああ。だから、一旦落ち着け。」

俺の言葉でヴィラルは我に返る。

そして、椅子に座った。


「す、すまない!」

ヴィラルは謝る。


「気にするな。」

と頭を上げさせる。


「で、いつ頃出発するんだ?」

俺は、日取りを尋ねる。


「そうだな。『ヴァルハラ』まで馬で5日かかる。準備は念入りにしたい。

3日後でどうだ?」

俺はヴィラルの提案に「ああ。」と頷いて肯定する。


俺とヴィラルは3日後に王都の北門で待ち合わせを約束した。

ヴィラルは席を立ちあがる。

「もう行くのか?」


ヴィラルは背を向けたまま言う。

「準備は速い方がいい。」

俺は同感だった

ヴィラルは冒険者ギルドをあとにした。


ヴィラルとすれ違いにガランがこっちにくる。

「いてててっ・・・。」


「だいじょうぶ~?」

顔面を抑えるガランにイリヤは声をかける。


「おう・・・。ありがとな・・・。」

ガランは席に座る。


「遅くなったが、大会優勝おめでとう!レイダス!」

ガランは顔を抑えながら俺を祝う。


「ありがとう。しかし・・・ガラン、お前は自分の行動を自重しないと寿命が縮むぞ?」

俺はガランに注意した。

俺に飛び掛かる行為といい、

扉に飛ばされるといい、傷が増える一方だ。


「うう、すまん。」

ガランのテンションが下がる。


「レイダスさん!怒らないで上げてください。」

『俺は別に怒っていないぞ?注意しただけだ。』

カイルに心の中で突っ込む。


「酒が飲みたい。」

という俺の一言でカイルが酒を注文する。

人数分のジョッキがテーブルに置かれた。


「オルドレイ殿の優勝を祝して・・・・」

「「「「カンパーイ!!」」」」


俺たちは、酒を飲む。

周りの冒険者たちも酒を頼みまくっていた。

気づけば冒険者たちによる大宴会だ。

受付嬢は仕事を放棄して、一緒に酒を飲んでいる。


『リーゼルまでいやがる・・・。』

ギルドマスターの男が冒険者たちと飲み比べを始めていた。

いいのかよ・・・・。


両腕を失くしたアドラスも酒場のマスターにストローをさしてもらって酒を飲んでいる。

冒険者仲間と何やら話をしているようだ。

『今後どうするか聞いてみるか・・・。』


俺は、壁際で1人ジョッキに入った酒を飲んでいた。

『なんか・・・落ち着くな・・・。』

前世で友人や知人が大勢いたらバカ騒ぎができたのかもしれない。

そんな事をふと考えた。


暫く1人でいるとクレアが俺の横に来る。

手にはジョッキが握られていた。


クレアは壁に背をつけて俺に尋ねる。

「楽しいですか?」


「・・・・・・。」


「楽しいですか?」

無言でいる俺にクレアは2度尋ねる。


俺は笑みを浮かべて答えた。

「ああ。楽しいよ・・・。」

俺とクレアはジョッキに入った酒を飲む。


大宴会は1日中続いた。

酔って眠った冒険者たちに毛布を被せていく。

俺は、深夜に『中層』を歩く。


夜空には綺麗な星が浮かんでいた。

『前もこうして空を見てたな・・・。』


姫様の護衛依頼を思い出す。

あの時の夜空も綺麗だった――――――――


俺は笑みを浮かべながら、『夢見の森』に帰って行った。


『他人は所詮他人でしかない・・・。』

そんな考えが薄れる1日だった――――――


酒場のマスター「毛布かけといて」

店員「マスター・・・。毛布が足りません!」

酒場のマスター「安心してくれたまえ!この日の為に用意しました!」

店員「マスター!素敵です!」

冒険者たち「zzzzzzzz」

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