『大決闘演武大会』優勝!
男は、呑まれる。
『命』を賭けた決闘で『サラル・ユーギニウス』を男は殺した。
男は、それだけに留まらず『国王』を『奈落』へ突き落すべく、発言する。
「称号も賞金もいらない・・・。下層を俺にくれないか?」
――――――『フィールド』――――――
『教えてやろう。』
この世界の強者を――――――
『教えてやろう。』
死の恐怖を―――――――――
ガガガガ・・・・・―――ステ・・タス――――精神・・・変・・・
動・・・により・・・――上―――・・昇・・ガガ・・・・ガガガ・・・
俺の中の何かが蠢く。
俺は何を考えている――――――?
鑑定――――
人間種/『流水』職
lv/40 名前/サラル・ユーギニウス
体力/15000
防御/ 8000
攻撃/ 9000
速度/12000
持久力/10000
魔力/ 5500
魔力量/10000
魔法適正/B
剣術適正/A
『流水』職は、『剣士』職から2つ上の職だ。
『剣士』職、『レイピア使い』職を経て『流水』職になる。
サラルが左腕を後ろに回し、右腕にレイピアを構える。
サラルの笑みから、やる気を感じる。
『そんなに殺したいのか―――――』
サラルは死の恐怖がないのではない。
死の恐怖を知らないだけだ。
己を武の『最強』と思うが故に、死をなんとも思っていない。
サラルは『無知』なのだ。
国王も同じだ。この国で国王の権力は絶対だ。
覆ることはないと、本気で思っている。
己を権力の『最強』と名乗る愚者なのだ。
俺は剣を抜く。
「『大決闘演武大会』決勝!開始!」
監督役の合図が出る。
サラルは、俺に迫る。
俺は棒立ちで動かない。
サラルはレイピアを突く。
頭に直撃――――
「な!?」
サラルは驚く。
俺はレイピアの先端を人差し指と親指で掴んでいた。
「どうした『最強』?終わりか?」
俺はサラルを見下す。
「まだです。」
サラルはガランを仕留めた連撃を俺に叩き込む。
突く、斬るを繰り返した。
レイピアのしなりを見極めるのは難しい。
それは、同lvで戦う場合だ。
サラルはまたしても驚愕する。
「な・・・に!?」
俺は、傷一つ負っていないのだ。
人差し指と親指でサラルの攻撃を全て受け切ったのだ。
俺は、もう一度サラルに尋ねた。
「終わりか?」
サラルは一旦距離を取る。
汗を流しているように見えたが、気のせいだろう。
『最強』を名乗るのだから―――――
「まだまだです!」
サラルは魔法を発動させる。
『魔法/第3番:肉体強化』
『肉体強化』はどの職でも習得可能な魔法だ。
ステータスを一時的に上昇させる。
『魔導士』職や『ヒーラー』職のような大きな効果は得られない。
上昇したとしても、ほんの少しだ。
サラルは再び俺に攻撃を仕掛けるが――――
人差し指と親指で全て防がれる。
サラルは焦っていた。
『何故!私の攻撃が通じない!?』
サラルは恐怖を抱き始めていた。
今までこんなことはなかった。
相手は自分の剣技で倒れていった。
私は、『最強』のはずなんだ!!
しかし―――――
俺に攻撃は当たらない。
「うああああああ!!」
サラルは、レイピアを突く。
俺はあえて避けた。
サラルは思った。
『オルドレイさんを避けさせた』と――――
自分の攻撃が俺を引かせたのだと思った。
事実は違う。
俺が避けたのは、サラルの足を斬り落とす為だ。
ズバン!と斬れる音がした。
『良い音だ――――』
俺は心の中で笑みを浮かべる。
サラルは、地面に倒れた。
悲鳴を上げない。サラルはまだ気づいていないのだ。
自分の左足がないことに―――――
『一瞬だったからな・・・。』
「うううぅーーーー・・・。」
サラルは立ち上がろうとするが、立ち上がれない。
サラルは、足を見てようやく気が付いた。
「う、うああああああ!?」
『ハハハハハハハハッ!』
俺は心で笑う。
サラルの顔は恐怖で歪んでいる。愉快だった。
サラルの足はどこにあると思う?
――――『国王の席』―――――
国王は笑っていた。
「良いぞ!良いぞ!これが私の望んだ祭典だ!」
そこへ―――物体が空から飛んでくる。
国王の足元に物体は転がた。
「なんだ?これは?」
サラルの失われた足だった。
「ひいいいいいいい!!」
国王は腰を抜かす。
『何故このような場所にいいいいい!?』
「国王どうされ・・・・!?」
国王の側近が国王の元にやってくるが、サラルの足に驚愕する。
側近は即、サラルの足を始末する。
国王は動揺と恐怖で気づいていない。
俺の視線が向けられていることに――――――
―――――フィールド―――――
サラルは、片足を失った痛みに襲われる。
「痛い・・・。」
『痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い・・・・。』
サラルにとって初めての痛みだった。
サラルは今まで相手に痛みを与える事はあっても、
自分が痛みを感じる経験はなかった。
「痛いか?」
俺は尋ねる。
強がっているのか、サラルは片足で立ち上がる。
食いしばった歯茎から血が流れる。
「全然・・・。この程度・・・。」
サラルは器用に片足でバランスを取る。
サラルは、俺にレイピアを振るう。
片足を軸にレイピアで突いてくる。
バランスを保つために左腕は、横に出ていた。
『次は・・左腕を貰おう。』
俺は、サラルの左腕を斬り飛ばす。
「うおあああああああああ!?」
痛いか?――――――
苦しいか?―――――
それが『恐怖』だ。
サラルに死が近づいて行く―――――
サラルはバランスが保てなくなり、地面に倒れる。
『サラル。お前はローズルを簡単に殺したよな?』
俺はそんなに―――――――『甘くない』
俺はサラルの利き腕に剣を突き立てる。
「あああああああああ!?」
レイピアがサラルの手から離れる。
サラルはこれで戦えない。
『どうだ―――――怖いか?』
サラルは震えながら、涙を流す。
「た・・・・す・・・けて・・・。」
サラルはつぶやく。
「たすけて・・・くだ・・さい。」
サラルは死にたくなかった。
死ぬと思っていなかった。
無知だったサラルは知ったのだ。
『死の恐怖』を――――――
「残念だったな。決闘ルールは絶対だ。『命』を賭けた自分を恨め。」
決闘はどちらか死ぬまで終わらない。
サラルが「『命』を賭けましょう!」なんて言わなければ、
俺の中に渦巻く感情が、俺の中に蠢く何かが理性で制御できていれば―――
こんなことにはならなかっただろう。
『――――死は救いだ――――』
俺は、サラルの首を跳ね飛ばした。
サラルの頭は宙を舞った。
サラルの首が太陽の光を遮る。
そして、フィールドの地面に頭はたたきつけられる。
頭はゆっくりと転がり、止まる。
サラルの目は見開かれ、涙を流していた。
『死にたくないと懇願した』彼の最後の姿だ。
俺は剣を納める。
圧倒的な勝利に観客たちは言葉を失う。
一早く言葉を取り戻したのは監督役だった。
「だ『大決闘演武大会』決勝!勝者『レイダス・オルドレイ』!」
「う・・・・・」
「うおおおおおおおおおお!!」
観客たちが雄たけびを上げる。
『大決闘演武大会』の優勝者が決まったのだ。
観客たちの歓声はおさまらない。
「静まれええええいいい!」
そこに1人の人物が大声を上げる。
歓声はピタッと止まる。
国王だった。
『国王どうだった俺からのプレゼントは?サラルの足は気に入ったか?』
国王の表情は硬い。
こわばっているようだ。
俺からのプレゼントは気に入ったらしい。
「『大決闘演武大会』優勝者『レイダス・オルドレイ』!
そなたに『最強の称号』と優勝賞金を与えよう!!」
観客たちは、また歓声を上げて騒ぎだす。
しかし―――――――
「いらない。」
俺の言葉に、国王と観客たちは固まる。
「聞こえなかったのか?いらないと言っている。」
会場にいる者全てが俺の発言を信じられなかった。
出場者が命を賭けて取り合った『最強の称号』と『優勝賞金』を
放棄したのだ。
「何なら受け取るというのだ?」
国王は俺に問う。
『それを待っていた・・・。』
「そうだな・・・。『下層』の権限を俺にくれないか?」
「な!?」
国王は驚愕する。
『上層』の住人も驚愕していた。
俺みたいに外から来た者には『中層』から『下層』までの出入りが認められている。
でも、下層にはいかない。門が『中層』から外まで直通だからだ。
『中層』から『下層』に行ったことのある者はいるだろう。
権限は与えられているのだから。
テペリの話では『下層』は奴隷が住まうエリアだ。
『奴隷』の売買もされている。
権限を譲渡するという事は、
俺が許可を出さない限り『下層』へ『上層』の人間はいけないのだ。
ある意味、『下層』という1つの国ができるわけだ。
「そんなことができるものか!?」
国王は俺に怒鳴る。
国王は権限を譲りたくないだろう。
しかし、強制的に俺が譲らせる。
「国王から聞いてきたんだ。何なら受け取るか・・・。
俺は素直に『下層』と答えただけだ。
それとも、『命』を賭けてまで戦った優勝者に、優勝賞品すら用意ができないと?」
「むう・・・・・。」
国王の言葉が詰まる。
「他の物では―――――」
「いらない。下層がいい。」
俺は国王の言葉を切る。
「国王様聞いてはなりませんぞ!?」
「冒険者風情に下層を与えるなど!!」
『上層』連中がしゃしゃり出てきた。
『下層』の権限を手に入れられなかった場合、
俺は今回の優勝賞金と称号を受け取らないつもりだ。
国王は『命』を懸けて戦った優勝者に何も与えなかった。
その結果はこれから先に影響を与えるだろう。
どっちに転ぼうが俺の勝ちなんだよ!
『ハハハハハハハハッ!!』
国王は演技はうまいが、馬鹿だ。
『上層』という裕福な環境で民を見下している人間が王の器か?
否国王にあらず!
俺の中で蠢く何かが囁く――――『国王を奈落に落とせ!』
いずれ国王は地位を失う。
その時期が早くなるというだけの話だ。
俺はしゃしゃり出てきた『上層』連中がうるさいので、
今回は手を引く。
「そうか・・・。『命』を賭けたのに貰えないのか・・・。」
国王は俺の発言に冷や汗をかく。
「国王は器が小さいらしい。ガッカリだ。」
俺は、それだけ言って会場を去って行った。
『上層』以外の観客たちは俺と国王のやり取りに、こう思っていた。
『下層には何がある?』
『奴隷だよ!ど・れ・い!』
『国王は器が小さい。』
『民を何だと思ってやがる!?』
『平民だから?冒険者だから?舐めやがって!!』
『優勝者は奴隷を救おうとしたのかな?』
『自分が裕福な暮らしがしたいだけなんだ・・・。』
『あんな奴国王じゃねーよ!屑だ!』
『大決闘演武大会』はこうして幕を閉じた。
俺は優勝したが、結局何も受け取ることはなかった。
『中層』に『下層』に他国に――――国王の悪評は広まっていくことになる。




