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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~大決闘演武大会編~
58/218

『大決闘演武大会』4回戦―男ver―

男は、決闘相手をフィールドで待つ。相手は『アドラス・ネーガウス』

赤い防具。赤い髪。男を嫌うSランク冒険者である。

アドラスは『命』を賭けようと言い出すが、男は拒否する。

それは国王の手の平で踊る行為だからだ。

男は、国王の企みを回避すべく、アドラスに提案を持ちかけるのだった。


『観客席』


ガランがサラルに敗北した。

俺は、観客席からその瞬間を見ていた。

ガランはピクリとも動かない。そのまま回復要員たちに運ばれていった。


観客席の熱気は、最高潮に達していた。

決闘は観客たちの心を熱くさせる。

灯った炎は、歓喜となって会場を盛り上げた。


俺は、歯を噛みしめる。

ガランが負けたのはどうでも良かった。

あいつの実力が通じなかった・・・。それだけだ。

俺が許せないのは―――――――


アイテムから音が鳴る。

「くそが!」


俺は、観客席からフィールドに向かう。

ガルムをフィールドの入り口に待たせた。

「ガルム・・・。この先は危ないから入ってくるなよ?」


ガルムは尻尾を振って肯定する。

「ワフゥ!」

ガルムは俺の顔に飛びついて顔を舐めた。

ガルムなりの応援だった。

俺は、ガルムを優しく撫でて、フィールドの入り口に置いた。


「ありがとな。ガルム・・・。」

それだけ言って、俺はフィールドに入って行った。


――――『フィールド』――――


俺がフィールドに現れると、観客たちが歓声を上げる。

近況報告1位の俺は、観客たちからすれば一番の目玉なのだろう。

『俺には・・・・。わからない。』


何が楽しい?――――

他人の殺し合いがそんなに面白いか?――――

お前たちも参加させてやろうか?――――

俺からどす黒い感情が漏れる。


俺は、チラッと国王を見た。

『大決闘演武大会』開催日と変わらない表情をしている。

俺は、視線を戻す。


受付嬢から貰ったアイテムが音を発してから5分後――――

俺の相手がフィールドに入場する。


『アドラス・ネーガウス』だった。

赤い鎧。赤い髪。身の丈ほどある大剣を背負うSランク冒険者。

ユウキとパーティを組んでいる男だ。


「よう・・・。」

アドラスは笑みを浮かべる。


「決勝で戦うはずだったのに、予定が早まったな。」

俺は冗談交じりに言う。


「別に関係ねー。勝つのは俺なんだからよ!」

アドラスは、背の大剣を右手に持つ。

そして、切っ先を俺にむけた。


アドラスの傲慢な態度に観客たちが歓声を上げる。


『相手の実力も測れないのかこいつは・・・。』

俺は、少し殺気を放ってアドラスを脅した。


ピリピリと放たれる殺気はアドラスに伝わった。

俺に向けていた切っ先を下ろし、少し距離を取った。

俺の殺気に引け越しになったのかもしれない。


「傲慢なのは結構だ。決闘ルールはどうする?」

俺は、距離を取ったアドラスに尋ねる。


「俺が決めてもいいのか?」

アドラスは笑みを浮かべる。

俺は「ああ。」と返事した。


アドラスはルールを提示する。

1、消費アイテムの使用を禁止する。

2、観客席を巻き込む魔法の使用を許可する。

3、互いに1つ大切な物を賭ける。

4、戦闘不能者からかけた対価を奪い、決闘は終了とする。


の4つがアドラスの提示したルールだった。


「互いに大切な物を1つ賭ける・・・。お前は何を賭けるんだ?」

俺は尋ねた。


「『命』だ!」

観客が湧く。

何よりも喜んだのは『上層』の住人と国王だった。

俺は国王に視線を移す。


『ああ・・・。俺が想像していた通りだった。』

国王は笑みを浮かべていた。

歪んでいた―――――

あれがこの国を支配する国王の正体だ。


俺は、国王の企みを覆す。

アドラスに視線を戻し、俺は言った。

「却下だ。」


俺は、アドラスの条件を断った。

観客たちは静まり返る。


一番驚いているのはアドラスだった。

「なんだと!?」


「お前の命は俺には不釣り合いだ。よって、断る。」

アドラスは俺の態度に怒る。

アドラスはそれを納得できない。


「ふざけるな!お前のそれは傲慢だ!」

アドラスも傲慢で、俺も傲慢だ。

アドラスは自分が傲慢である自覚がないらしい。

Sランク冒険者だからという自信か・・・。

それとも俺に負けたくないという感情なのか・・・。


「そうだな。俺は傲慢だ。それは認めよう。

だが、お前の賭ける対価を俺は承諾しない。」

俺は、アドラスに言う。

俺が俺であるためには――――――こうするしかないんだ。


「その代わり、お前には『腕』をかけて貰う。」


「腕?」

アドラスは己の腕を見る。


「そうだ。戦士である以上剣を振るう『腕』は『命』に等しい対価だ。」

腕を失えば、剣を振るえない。

Sランク冒険者として活動もできない。

アドラスからしたら、生き地獄だ。

しかし、『命』は助かる。


「じゃあ。お前も腕を賭けるのか?」

アドラスは俺に尋ねる。


「さっきも言っただろう。俺とお前で賭ける対価は不釣り合いだと・・・。

それは本人たちの価値観も含まれる。俺が賭ける対価は『命』だ。」


俺は宣言した。俺は命を賭けると・・・。

俺にとって『命』は一度終わりを告げた物だ。

神様に2度目の人生を貰った俺は、自分の『命』を軽視していた。


それに、俺には『不老不死』がある。

俺が一度死んだとしてもスキルによって蘇生される。


観客たちは再び沸く。

俺は、アドラスを生かす・・・。俺は、死なない。

これが国王に逆らう最善の策だった。


「この条件なら、俺は承諾する。どうだ?」

俺はアドラスに聞く。

アドラスは頷いた。

「ああ。いいだろう。その条件乗った!」


アドラスは俺が嫌いだ。

アドラスは努力で勝ち上がってきた人間だからだ。

俺の才能が疎ましく、そして羨ましく、妬ましいのだ。

『腕』程度で『俺を殺せる』なら、安い物だと思っているに違いない。


『こいつは、後先を考えない馬鹿だ。』

俺は、正直アドラスが馬鹿で助かった。

国王の企みから免れたのだから―――――。


お互い臨戦態勢に入る。

俺は剣を抜いた。そして、鑑定する。


人間種/『血気大剣』職

lv/35 名前/アドラス・ネーガウス


体力/12000

防御/ 7000

攻撃/12000

速度/ 5000

持久力/14000

魔力/ 4500

魔力量/9000

魔法適正/B

剣術適正/A


「『大決闘演武大会』決闘!開始!」

決闘が監督役の合図で始まる。


アドラスは、魔法を放つ。

『魔法/第2番:ファイアジャベリン


炎の槍は俺に向かって飛んでいく。

難なく俺は避けた。

『決闘で瞬殺は良くない。もう少し様子見だ。』

俺は、アドラスを観察する。

『努力の成果を俺に見せて見ろ!』


『魔法/第2番:ファイアジャベリン


アドラスは連発して、魔法を放つ。

アドラスの魔力は高くない。

相手にさほどダメージを与えられないのだ。

『時間稼ぎか・・・。』


アドラスの剣を見ると、赤い光が剣に集まりつつある。


『血気剣士専用スキル:ダメージ倍加』


『血気剣士』職は、『大剣使い』職から派生する。

対人や魔物に大ダメージを与えるスキルを習得できる。

その内の1つが『ダメージ倍加』だ。

効果は、『物理』攻撃を相手に浴びせるまで、攻撃力が上昇し続けるというものだ。

ただし、lvによって限界値が定められている。


俺は、アドラスに接近する。

俺は、剣を優しく振るった。

アドラスは大剣でガードする。


「ぐ・・おああああ!」

アドラスが声を漏らす。

俺は優しく剣を振るっているが、この世界の人間からしたら凄まじい威力だ。

アドラスの背後に爆風が起きる。

舞い上がった砂は観客席に覆いかぶさった。


「うわああああ!」

観客たちは慌てる。

『上層』の人間たちだった。


『ざまあみろ・・・。』

と俺は、思った。


アドラスは、大剣でガードしたが、弾き飛ばされる。

壁に激突し、口から血を吐く。


「ゲホッ!」

直ぐに壁から抜け出し、大剣を構えたアドラスを俺は褒める。


「よく受け切ったな。」

俺は、剣で肩をトントン叩き、余裕ぶる。

実際、スキルで相手の体力は1残るようになっている。

生きててもらわないと困るのだ。


「ゲホッ!この程度・・・へでもねー!」

アドラスは強がる。

足元はふらついておぼつかない。

余程、俺に負けたくないらしい。


『魔法/第2番:ファイアジャベリン


アドラスは、魔法を放つ。

動けない状態の攻撃手段はそれしかなかった。


『魔法/第2番:ファイアジャベリン


俺は、前進しながら魔法を避けていく。

そして、アドラスの目の前にたった。

「よう―――。」


アドラスは、ゾッとしていた。

『俺の力が全く通用しない・・・。俺は一体何を相手にしている!?』

自分は強いはずだ・・・。

努力してきたはずだ・・・。

アドラスは、その全てを全否定・・・された。

アドラスは今頃気づいたのだ。

圧倒的な強者と戦っているという事実に――――


俺は、「今頃気づいたのか?」とアドラスに言い放つ。

そして躊躇なく、アドラスの左腕を斬り落とす。


「ぐあああああああああ!?」

アドラスの悲鳴が上がる。


アドラスは悲鳴を上げながらも、大剣を右腕で振る。

俺は少し後退した。


「はあ・・・。はあ・・・。」

アドラスは汗を拭いながら、荒い息を上げる。

斬り落とされた左腕の断面からは、鮮血が滴る。


「あと1本・・・。」

俺はそう言った。

アドラスの右腕を斬り落とせば俺の勝ちなのだから。


俺は、アドラスに尋ねた。

「今の心境はどうだ?」


傲慢な態度で挑んだアドラスは、体も精神もボロボロだ。

プライドは折れた。事実を突きつけてやった―――

俺が圧倒的な強者だと知り、何を思う?――――


「俺は・・・・。間違ってない・・・。」

荒い息を上げながら、アドラスは言う。


「俺は、努力を無駄とは思わない!」

アドラスは片腕で大剣を振るう。

俺はそれを難なく避け続ける。


「俺は!お前に勝てなくてもいい!お前にどれだけ否定されようと!

どれだけ笑われようと!俺は―――――」

アドラスは大剣を振るい続ける。


「俺の信じる道を歩む!」

俺は、振り下ろされたアドラスの一撃を横に避ける。


「そうか・・・。俺は否定もしないし、笑わない。俺を超えて見せろ!『アドラス・ネーガウス』!」


俺は、アドラスの右腕を斬り落とした。


「ぐああああああああ!!」

大剣が地に刺さり、右腕は地に落ちる。

アドラスは膝をついた。

顔は真っ青、激痛で意識がとんでもおかしくない。

Sランク冒険者としての人生に終わりを告げたのに、アドラスは笑みを浮かべていた。


「超えて見せろ・・・か。言ってくれるぜ・・・。」

『どう超えて見せろ』というのか、アドラスの瞳は俺に訴えかけてくる。


「お前の努力次第だ。」

俺は、アドラスの努力を笑うつもりはない。

ただ、『俺に勝てない』という事実を突きつけただけだ。

努力を否定したつもりもない。

アドラスがそう感じただけだ。


努力は報われる方が少ない。

俺は前世でそれを痛感している。

だから、諦めるのも早い。

アドラスは傲慢だが、努力家な所は尊敬している。

アドラスは俺にないものを既に持っているのだ。

本人が気づいていないだけで・・・・。


アドラスは、両腕を失ったが、命がある。

彼の冒険者としての人生が終わっても、新しく見つけるだろう。

彼に合った何かを――――アドラスは努力家なのだから――――


「『大決闘演武大会』決闘!勝者『レイダス・オルドレイ』!」


観客たちから歓声が上がると同時に拍手が送られる。

『中層』に住む住人や冒険者、観光客たちだった。


「いい試合だったぜ2人とも!!」

「アドラス!これからも応援してるぜ!」

「ルーキー!良いこと言うじゃねーか!」

「きっといつか強くなるわよ!応援してるから!」


アドラスはうつむいて涙を流す。

「ぐすっ・・・・ううう~・・・。」


「アドラス。胸を張れ!顔を上げろ!」

俺はアドラスに言った。


アドラスは、顔を上げる。

「お前を認めている観客は大勢いる。これで終わりじゃない!

お前はこれから始まるんだ!」

アドラスは涙を流し続ける。


「俺に負けたからなんだ!お前は諦めるのか?お前の努力は無駄じゃない!」

アドラスは黙って頷く。


「言ってみろ!お前の努力は無駄だったのか!?」

アドラスは言う。


「無駄じゃねえええ!!」

アドラスはもう泣いていない。

瞳の色は輝いている。

俺は、アドラスの発言に笑みを浮かべた。


「もう大丈夫そうだな。」


「ああ。お前の事は今でも嫌いだが、感謝している。」


「お前に感謝されると気持ち悪いな。」


「はっきり言うな!」

俺とアドラスは、他愛ないやり取りをする。


そうしている間にアドラスは、出てきた回復要員たちに応急処置を受ける。

回復要員たちは、

『部分を完全復活』や『蘇生』等の高位の回復魔法が使えない。

よって、アドラスの腕は元に戻らない。

俺が治してやってもいいが、はできない。


それは国王や『上層』の目があるからだ。

『大決闘演武大会』が開催されている間は、我慢してもらおう。


『アドラスを回復させたあとは口止めも必要だしな。』

アドラスの腕は公の場で失った。

体の一部を完全に復活させる回復魔法の使い手がいるとなったら、どうなる?

しかも、それが『剣士』職の人間だったら?

噂が広まれば、俺はあちこちから目を付けられることになる。

勿論『上層』にもだ。


『なんだかんだで、爆弾を抱えたな~。』と思う俺である。


アドラスは回復要員たちに担架で運ばれていった。

俺もフィールドを出る。

フィールドの入り口で待っていたガルムが肩に飛び乗る。

「待たせて悪かった。」


「ワフゥ!」

ガルムは嬉しそうだった。


俺は、理性を保ったまま戦い抜くことができた。

感情よりも理性が勝ってくれてホッとしている。


しかし、『大決闘演武大会』は続く。

32人しか出場者はいない。

今日中に決着がつくだろう。気は抜けないのだ。


――――『大決闘演武大会』4日目、決闘はまだ終わらない。――――

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