『大決闘演武大会』4回戦―男ver―
男は、決闘相手をフィールドで待つ。相手は『アドラス・ネーガウス』
赤い防具。赤い髪。男を嫌うSランク冒険者である。
アドラスは『命』を賭けようと言い出すが、男は拒否する。
それは国王の手の平で踊る行為だからだ。
男は、国王の企みを回避すべく、アドラスに提案を持ちかけるのだった。
『観客席』
ガランがサラルに敗北した。
俺は、観客席からその瞬間を見ていた。
ガランはピクリとも動かない。そのまま回復要員たちに運ばれていった。
観客席の熱気は、最高潮に達していた。
決闘は観客たちの心を熱くさせる。
灯った炎は、歓喜となって会場を盛り上げた。
俺は、歯を噛みしめる。
ガランが負けたのはどうでも良かった。
あいつの実力が通じなかった・・・。それだけだ。
俺が許せないのは―――――――
アイテムから音が鳴る。
「くそが!」
俺は、観客席からフィールドに向かう。
ガルムをフィールドの入り口に待たせた。
「ガルム・・・。この先は危ないから入ってくるなよ?」
ガルムは尻尾を振って肯定する。
「ワフゥ!」
ガルムは俺の顔に飛びついて顔を舐めた。
ガルムなりの応援だった。
俺は、ガルムを優しく撫でて、フィールドの入り口に置いた。
「ありがとな。ガルム・・・。」
それだけ言って、俺はフィールドに入って行った。
――――『フィールド』――――
俺がフィールドに現れると、観客たちが歓声を上げる。
近況報告1位の俺は、観客たちからすれば一番の目玉なのだろう。
『俺には・・・・。わからない。』
何が楽しい?――――
他人の殺し合いがそんなに面白いか?――――
お前たちも参加させてやろうか?――――
俺からどす黒い感情が漏れる。
俺は、チラッと国王を見た。
『大決闘演武大会』開催日と変わらない表情をしている。
俺は、視線を戻す。
受付嬢から貰ったアイテムが音を発してから5分後――――
俺の相手がフィールドに入場する。
『アドラス・ネーガウス』だった。
赤い鎧。赤い髪。身の丈ほどある大剣を背負うSランク冒険者。
ユウキとパーティを組んでいる男だ。
「よう・・・。」
アドラスは笑みを浮かべる。
「決勝で戦うはずだったのに、予定が早まったな。」
俺は冗談交じりに言う。
「別に関係ねー。勝つのは俺なんだからよ!」
アドラスは、背の大剣を右手に持つ。
そして、切っ先を俺にむけた。
アドラスの傲慢な態度に観客たちが歓声を上げる。
『相手の実力も測れないのかこいつは・・・。』
俺は、少し殺気を放ってアドラスを脅した。
ピリピリと放たれる殺気はアドラスに伝わった。
俺に向けていた切っ先を下ろし、少し距離を取った。
俺の殺気に引け越しになったのかもしれない。
「傲慢なのは結構だ。決闘ルールはどうする?」
俺は、距離を取ったアドラスに尋ねる。
「俺が決めてもいいのか?」
アドラスは笑みを浮かべる。
俺は「ああ。」と返事した。
アドラスはルールを提示する。
1、消費アイテムの使用を禁止する。
2、観客席を巻き込む魔法の使用を許可する。
3、互いに1つ大切な物を賭ける。
4、戦闘不能者からかけた対価を奪い、決闘は終了とする。
の4つがアドラスの提示したルールだった。
「互いに大切な物を1つ賭ける・・・。お前は何を賭けるんだ?」
俺は尋ねた。
「『命』だ!」
観客が湧く。
何よりも喜んだのは『上層』の住人と国王だった。
俺は国王に視線を移す。
『ああ・・・。俺が想像していた通りだった。』
国王は笑みを浮かべていた。
歪んでいた―――――
あれがこの国を支配する国王の正体だ。
俺は、国王の企みを覆す。
アドラスに視線を戻し、俺は言った。
「却下だ。」
俺は、アドラスの条件を断った。
観客たちは静まり返る。
一番驚いているのはアドラスだった。
「なんだと!?」
「お前の命は俺には不釣り合いだ。よって、断る。」
アドラスは俺の態度に怒る。
アドラスはそれを納得できない。
「ふざけるな!お前のそれは傲慢だ!」
アドラスも傲慢で、俺も傲慢だ。
アドラスは自分が傲慢である自覚がないらしい。
Sランク冒険者だからという自信か・・・。
それとも俺に負けたくないという感情なのか・・・。
「そうだな。俺は傲慢だ。それは認めよう。
だが、お前の賭ける対価を俺は承諾しない。」
俺は、アドラスに言う。
俺が俺であるためには――――――こうするしかないんだ。
「その代わり、お前には『腕』をかけて貰う。」
「腕?」
アドラスは己の腕を見る。
「そうだ。戦士である以上剣を振るう『腕』は『命』に等しい対価だ。」
腕を失えば、剣を振るえない。
Sランク冒険者として活動もできない。
アドラスからしたら、生き地獄だ。
しかし、『命』は助かる。
「じゃあ。お前も腕を賭けるのか?」
アドラスは俺に尋ねる。
「さっきも言っただろう。俺とお前で賭ける対価は不釣り合いだと・・・。
それは本人たちの価値観も含まれる。俺が賭ける対価は『命』だ。」
俺は宣言した。俺は命を賭けると・・・。
俺にとって『命』は一度終わりを告げた物だ。
神様に2度目の人生を貰った俺は、自分の『命』を軽視していた。
それに、俺には『不老不死』がある。
俺が一度死んだとしてもスキルによって蘇生される。
観客たちは再び沸く。
俺は、アドラスを生かす・・・。俺は、死なない。
これが国王に逆らう最善の策だった。
「この条件なら、俺は承諾する。どうだ?」
俺はアドラスに聞く。
アドラスは頷いた。
「ああ。いいだろう。その条件乗った!」
アドラスは俺が嫌いだ。
アドラスは努力で勝ち上がってきた人間だからだ。
俺の才能が疎ましく、そして羨ましく、妬ましいのだ。
『腕』程度で『俺を殺せる』なら、安い物だと思っているに違いない。
『こいつは、後先を考えない馬鹿だ。』
俺は、正直アドラスが馬鹿で助かった。
国王の企みから免れたのだから―――――。
お互い臨戦態勢に入る。
俺は剣を抜いた。そして、鑑定する。
人間種/『血気大剣』職
lv/35 名前/アドラス・ネーガウス
体力/12000
防御/ 7000
攻撃/12000
速度/ 5000
持久力/14000
魔力/ 4500
魔力量/9000
魔法適正/B
剣術適正/A
「『大決闘演武大会』決闘!開始!」
決闘が監督役の合図で始まる。
アドラスは、魔法を放つ。
『魔法/第2番:炎の槍』
炎の槍は俺に向かって飛んでいく。
難なく俺は避けた。
『決闘で瞬殺は良くない。もう少し様子見だ。』
俺は、アドラスを観察する。
『努力の成果を俺に見せて見ろ!』
『魔法/第2番:炎の槍』
アドラスは連発して、魔法を放つ。
アドラスの魔力は高くない。
相手にさほどダメージを与えられないのだ。
『時間稼ぎか・・・。』
アドラスの剣を見ると、赤い光が剣に集まりつつある。
『血気剣士専用スキル:ダメージ倍加』
『血気剣士』職は、『大剣使い』職から派生する。
対人や魔物に大ダメージを与えるスキルを習得できる。
その内の1つが『ダメージ倍加』だ。
効果は、『物理』攻撃を相手に浴びせるまで、攻撃力が上昇し続けるというものだ。
ただし、lvによって限界値が定められている。
俺は、アドラスに接近する。
俺は、剣を優しく振るった。
アドラスは大剣でガードする。
「ぐ・・おああああ!」
アドラスが声を漏らす。
俺は優しく剣を振るっているが、この世界の人間からしたら凄まじい威力だ。
アドラスの背後に爆風が起きる。
舞い上がった砂は観客席に覆いかぶさった。
「うわああああ!」
観客たちは慌てる。
『上層』の人間たちだった。
『ざまあみろ・・・。』
と俺は、思った。
アドラスは、大剣でガードしたが、弾き飛ばされる。
壁に激突し、口から血を吐く。
「ゲホッ!」
直ぐに壁から抜け出し、大剣を構えたアドラスを俺は褒める。
「よく受け切ったな。」
俺は、剣で肩をトントン叩き、余裕ぶる。
実際、スキルで相手の体力は1残るようになっている。
生きててもらわないと困るのだ。
「ゲホッ!この程度・・・へでもねー!」
アドラスは強がる。
足元はふらついておぼつかない。
余程、俺に負けたくないらしい。
『魔法/第2番:炎の槍』
アドラスは、魔法を放つ。
動けない状態の攻撃手段はそれしかなかった。
『魔法/第2番:炎の槍』
俺は、前進しながら魔法を避けていく。
そして、アドラスの目の前にたった。
「よう―――。」
アドラスは、ゾッとしていた。
『俺の力が全く通用しない・・・。俺は一体何を相手にしている!?』
自分は強いはずだ・・・。
努力してきたはずだ・・・。
アドラスは、その全てを全否定された。
アドラスは今頃気づいたのだ。
圧倒的な強者と戦っているという事実に――――
俺は、「今頃気づいたのか?」とアドラスに言い放つ。
そして躊躇なく、アドラスの左腕を斬り落とす。
「ぐあああああああああ!?」
アドラスの悲鳴が上がる。
アドラスは悲鳴を上げながらも、大剣を右腕で振る。
俺は少し後退した。
「はあ・・・。はあ・・・。」
アドラスは汗を拭いながら、荒い息を上げる。
斬り落とされた左腕の断面からは、鮮血が滴る。
「あと1本・・・。」
俺はそう言った。
アドラスの右腕を斬り落とせば俺の勝ちなのだから。
俺は、アドラスに尋ねた。
「今の心境はどうだ?」
傲慢な態度で挑んだアドラスは、体も精神もボロボロだ。
プライドは折れた。事実を突きつけてやった―――
俺が圧倒的な強者だと知り、何を思う?――――
「俺は・・・・。間違ってない・・・。」
荒い息を上げながら、アドラスは言う。
「俺は、努力を無駄とは思わない!」
アドラスは片腕で大剣を振るう。
俺はそれを難なく避け続ける。
「俺は!お前に勝てなくてもいい!お前にどれだけ否定されようと!
どれだけ笑われようと!俺は―――――」
アドラスは大剣を振るい続ける。
「俺の信じる道を歩む!」
俺は、振り下ろされたアドラスの一撃を横に避ける。
「そうか・・・。俺は否定もしないし、笑わない。俺を超えて見せろ!『アドラス・ネーガウス』!」
俺は、アドラスの右腕を斬り落とした。
「ぐああああああああ!!」
大剣が地に刺さり、右腕は地に落ちる。
アドラスは膝をついた。
顔は真っ青、激痛で意識がとんでもおかしくない。
Sランク冒険者としての人生に終わりを告げたのに、アドラスは笑みを浮かべていた。
「超えて見せろ・・・か。言ってくれるぜ・・・。」
『どう超えて見せろ』というのか、アドラスの瞳は俺に訴えかけてくる。
「お前の努力次第だ。」
俺は、アドラスの努力を笑うつもりはない。
ただ、『俺に勝てない』という事実を突きつけただけだ。
努力を否定したつもりもない。
アドラスがそう感じただけだ。
努力は報われる方が少ない。
俺は前世でそれを痛感している。
だから、諦めるのも早い。
アドラスは傲慢だが、努力家な所は尊敬している。
アドラスは俺にないものを既に持っているのだ。
本人が気づいていないだけで・・・・。
アドラスは、両腕を失ったが、命がある。
彼の冒険者としての人生が終わっても、新しく見つけるだろう。
彼に合った何かを――――アドラスは努力家なのだから――――
「『大決闘演武大会』決闘!勝者『レイダス・オルドレイ』!」
観客たちから歓声が上がると同時に拍手が送られる。
『中層』に住む住人や冒険者、観光客たちだった。
「いい試合だったぜ2人とも!!」
「アドラス!これからも応援してるぜ!」
「ルーキー!良いこと言うじゃねーか!」
「きっといつか強くなるわよ!応援してるから!」
アドラスはうつむいて涙を流す。
「ぐすっ・・・・ううう~・・・。」
「アドラス。胸を張れ!顔を上げろ!」
俺はアドラスに言った。
アドラスは、顔を上げる。
「お前を認めている観客は大勢いる。これで終わりじゃない!
お前はこれから始まるんだ!」
アドラスは涙を流し続ける。
「俺に負けたからなんだ!お前は諦めるのか?お前の努力は無駄じゃない!」
アドラスは黙って頷く。
「言ってみろ!お前の努力は無駄だったのか!?」
アドラスは言う。
「無駄じゃねえええ!!」
アドラスはもう泣いていない。
瞳の色は輝いている。
俺は、アドラスの発言に笑みを浮かべた。
「もう大丈夫そうだな。」
「ああ。お前の事は今でも嫌いだが、感謝している。」
「お前に感謝されると気持ち悪いな。」
「はっきり言うな!」
俺とアドラスは、他愛ないやり取りをする。
そうしている間にアドラスは、出てきた回復要員たちに応急処置を受ける。
回復要員たちは、
『部分を完全復活』や『蘇生』等の高位の回復魔法が使えない。
よって、アドラスの腕は元に戻らない。
俺が治してやってもいいが、今はできない。
それは国王や『上層』の目があるからだ。
『大決闘演武大会』が開催されている間は、我慢してもらおう。
『アドラスを回復させたあとは口止めも必要だしな。』
アドラスの腕は公の場で失った。
体の一部を完全に復活させる回復魔法の使い手がいるとなったら、どうなる?
しかも、それが『剣士』職の人間だったら?
噂が広まれば、俺はあちこちから目を付けられることになる。
勿論『上層』にもだ。
『なんだかんだで、爆弾を抱えたな~。』と思う俺である。
アドラスは回復要員たちに担架で運ばれていった。
俺もフィールドを出る。
フィールドの入り口で待っていたガルムが肩に飛び乗る。
「待たせて悪かった。」
「ワフゥ!」
ガルムは嬉しそうだった。
俺は、理性を保ったまま戦い抜くことができた。
感情よりも理性が勝ってくれてホッとしている。
しかし、『大決闘演武大会』は続く。
32人しか出場者はいない。
今日中に決着がつくだろう。気は抜けないのだ。
――――『大決闘演武大会』4日目、決闘はまだ終わらない。――――




