『大決闘演武大会』初戦―男ver―
男は、『夢見の森』で3日間過ごし、『大決闘演武大会』当日、王都にやってきた。
中層は、お祭り騒ぎ!男は屋台に目を惹かれ、祭りを堪能するのだった。
一方、姫様の父親に当たる国王の発言に男は幻滅。
初戦で最も注意すべき相手は『鎌使い』デッズ。男はどう立ち回るのか!
『大決闘演武大会』開催!!
『大決闘演武大会―開催日―』
俺とガルムは王都に来ていた。
中層は、煌びやかに彩られお祭り騒ぎだ。
他国からの観光者や旅人が来ている。
『エルフ種もいるな・・・。』
エルフ種は長寿で弓の扱いに長けている。
エルフ種で職を『弓兵』に選択するとステータスの伸びが良い。
外見の特徴は長い耳ぐらいだろうか。
俺とガルムは会場に向かって歩きながら、祭りを楽しむ。
『大決闘演武大会』の開催までには少し時間がある。
焦る必要はないのだ。
『お。屋台もあるのか!』
俺は、屋台を発見する。
屋台は道を塞がないように横一列になっている。
『な!あれは!?』
俺は、とある屋台に向かう。
「らっしゃい」
その屋台には、俺が食べてみたかった前世の定番が置かれていた。
『チョコバナナ!!』
『リンゴ飴!』
前世の俺は、1人で祭りに行っていた。
買いたくても買えない。金がないからだ。
他人が食べているのを俺は、黙って眺めていた。
『今は違う!俺には金があるんだ!
買うぞ!チョコバナナあああ!リンゴ飴ええええ!』
「これとこれをそれぞれ2本ずつくれ。」
俺は、屋台のおっさんからチョコバナナとリンゴ飴を購入した。
勿論ガルムの分もある。
リンゴ飴はリンゴ部分が袋で包まれているから楽しみに取っておくことにした。
俺は、チョコバナナをガルムに与える。
「どうだ?」
ガルムは気に入ったようで、チョコバナナを完食した。
俺もチョコバナナを口に入れる。
『うまい!そして甘い!』
俺は、バナナの柔らかさとチョコの甘さに感動した。
『これが・・・チョコバナナか・・・うまい・・。』
俺は、屋台にあった食材をいずれ購入することを心に決める。
それから俺とガルムは会場に向かいながら屋台をまわるのだった。
―――『決闘場=会場』――――
俺とガルムは、食べ物を口に頬張りながら
決闘場の入り口前に立っている。
「間に合ったな。 ・・もぐもぐ・・」
会場の周辺には、人が沢山集まっている。
大会の出場者や観戦者たちだろう。
俺は、食べ終え、受付カウンターに行く。
「大会出場者なんだが。」
そこへ受付嬢がやってきて、椅子に座る。
「参加者の方ですね。説明をさせて頂きます。長くなりますのでご了承ください。」
俺は、頷く。
「えっとですね・・・。『大決闘演武大会』では、控室はありません。
試合時間になるまで観客席でお待ちになられるか、屋台やお店をまわられても結構ですよ。」
と説明される。
「試合時間は?」
と俺が尋ねると、受付嬢がアイテムを手渡ししてきた。
「そちらのアイテムは試合時間が迫ると音がなります。
音が鳴りましたら、フィールド内に入場してください。
尚、試合開始時間から10分遅れた場合、棄権と見做されますのでご注意ください。
以上が説明となります。ご確認したいことはありますか?」
俺は、1つ質問した。
「資料を見たんだが、消費アイテムに関して記載がなかった。
使用可能と判断していいのか?」
受付嬢は俺の質問に答える。
「原則、消費アイテムの使用は禁止されております。
使用した場合は、即時失格となります。」
『つまり、回復魔法しか回復手段がないということか・・・。』
俺は、受付嬢の説明に納得し、観客席に向かう。
『開催の儀』というのが行われるらしく、前世で言う『開会式』みたいなものだ。
国王が国王用の席から『大決闘演武大会』の開催を宣言するらしい。
俺は、国王を見てみたかった。
護衛依頼の護衛対象の父親だ。
『上層』で奴隷制度反対派は姫様1人だけ、つまり父親である国王は賛成派という事になる。
『まともな国王だといいんだが・・・。』
俺は、観客席に座る。
ガルムは相変わらずの定位置だ。
「あれ? レイダスさん!?」
『ん?この声は?』
俺が横を向くとカイル、ゲイル、イリヤの3人がいた。
全然俺は気づいていなかった。
「お久しぶりです!」
とカイルは挨拶する。
俺も「久しぶりだな。」と挨拶する。
ゲイルもイリヤも頭を軽く下げる。
「観戦しにきたのか?」
と俺は3人に尋ねた。
「はい!この大会を参考に戦い方を研究しようと思いまして!」
カイルは、闘志を燃やしている。
『戦うわけじゃないのになんでそんなやる気なんだよ・・・。』
「私も戦い方を学びたいと思いまして・・・。」
「私は、カイルの付き添いだよ!」
とそれぞれ理由があるようだ。
「レイダスさんは出場者ですか?」
というカイルの質問に俺は「ああ。」と頷く。
すると、3人共「応援してます!頑張ってください!」
とエールをくれた。
俺はたじろぎながら「お、おう。」と返事をするのだった。
数分後―――――
国王が席を立った。
『あれが国王か・・・』
60代くらいに見える。黒髪で白髪がない。染めているのかもしれない。
顔にはしわがあり、片手に金で装飾された杖を握っている。
頭には、王様に相応しい王冠を被り、赤い毛皮のコートを身に纏っている。
王は述べる。
「民よ!他国の来訪者たちよ!よく集まってくれた!
集いし猛者たちは、己の腕を磨き上げ、ここにいる!
最強の称号を我が物とする為に!
民よ!他国の来訪者たちよ!これは『祭りだ』!
存分に楽しむが良い!!
これより『大決闘演武大会』を開催する!!」
会場が国王の発言に沸く。
雰囲気に誰もが呑まれる。
俺の横にいるカイルたちもだ。
冷静でいるのは俺だけだ。
『国王・・・。お前は、『大決闘演武大会』の出場者を玩具としか思っていないんだな・・。』
俺の決めつけかもしれないが、国王は『殺し合い』を所望している。
これは、祭りだ。
俺は決闘のルールに納得がいった。
人数が32人になった時、ルールは戦う者同士で決める。
命を懸けることも可能だ。
国王の顔は、歪んだ笑みを浮かべるだろう。
俺は、奥歯を噛みしめる。
姫様に俺は同情する。
『姫様・・・あんたは勇敢だ・・・。』
観客たちの熱気がおさまった頃、
受付嬢から預かったアイテムのアラームが鳴る。
『早速か。』
俺は、席を立つ。
「カイル。俺の従魔を預けてもいいか?」
カイルは、承諾する。
俺は、ガルムを残し、フィールドへ向かう。
――――『フィールド内』―――――
フィールド内に俺を含めた4人が集まって、一定の距離を取る。
監督役らしき男がフィールドの端に立っている。
監督役の周りには俺からしたら、低位の魔法だが、結界が張られている。
監督役が戦闘に巻き込まれることはまずないだろう。
俺は、対戦相手の3人を見る。
右と左はそれほど強くない。
問題は、俺の正面に立つ男だ。
人間種/『鎌使い』職
lv/28 名前/デッズ・メイデンス
体力/9000
防御/ 2900
攻撃/ 4050
速度/ 4000
持久力/6000
魔力/ 4500
魔力量/5000
魔法適正/B
剣術適正/B
状態:殺戮衝動
細身で背の高い男だ。
前髪で目が見えない。
『後ろは、ショートなのに前髪がロングとか・・・意味がわからない。普通逆だろ?』
身の丈程ある鎌を軽々と振り回しながら、
「殺す殺す殺す・・・・・。」
とブツブツ言っている。
これは、殺戮衝動状態にある為だ。
『鎌使い』職には、『スキル:殺戮衝動』がある。
自身の攻撃力を高くするだけのスキルだが、この世界では、精神も変化するようだ。
『剣士』職で鎌を使い続ける事で『鎌使い』職になる。
防御力が低い代わりに攻撃力が高い。
それをさらに強化しているのだから、同lvの相手からしたら厄介だろう。
『瞬殺したら、怪しまれるよな・・・。』
俺は、対処法を考える。
「開始!!」
考えている間に監督役が開始の合図を出す。
俺から見て、右の相手はデッズに
俺から見て、左の相手が俺に向かってくる。
左の相手は『剣士』職だ。
片手剣を俺の首めがけて振るうが、俺は見切る。
スレスレで回避した。
『これぐらいしとかないとな。』
相手は、肩、腕、足と狙うが俺はスレスレで避ける。
そして、俺は剣を抜いた。
相手が攻撃が当たらず、下がった所を狙う。
俺は相手の腕を斬り飛ばした。
「ぐああああああ!」
斬り飛ばされた相手の腕は宙を舞う。
ここで、俺の剣の効果が発動した。
『疲労』により、相手は立てない。
そもそも腕を斬り落とされた痛みで立つことができない。
俺の相手は「降参だ」と降伏する。
これで1人脱落した。
俺は、『鎌使い』職のデッズの方に向き直る。
右にいた相手は『騎士』職だ。
槍と盾を使い分け、デッズの攻撃を防いでいる。
「ぐっ!!」
『騎士』職の相手は、デッズの攻撃に盾が弾かれた。
「殺してやるウウウウうう!!」
デッズの鎌が防具ごと相手を斬り裂く。
「ぐあああああ!!」
『騎士』職の相手は倒れる。
痛みで意識を失ったようだ。
残るは、デッズと俺だけ・・・。
デッズはずっとブツブツ言っている。
「殺す殺す殺す・・・・・・・・」
鎌を振り上げ肩に担ぐ構えを取るデッズに対し剣を収める俺。
観客席がざわつく。
「あいつなにを!?」
という声が観客席から沸き起こるが、気にしない。
「居合って知ってるか?」
精神がいかれているデッズに言う。
デッズは、ブツブツと言い続ける。
俺は、居合の姿勢をとる。
すり足をしたことで砂がジャリジャリと音を立てる。
一瞬の静寂。
誰もが息をのんだ。
デッズは、叫びながら俺に向かってくる。
「殺してやるウウウウううう!」
フィールド内の人間は既に俺の攻撃範囲に入っている。
それでも手を出さないのは、俺の異常さをこの世界の人間に知られたくないからだ。
デッズの鎌が俺に振り下ろされるまで、剣を抜かない。
俺は、ギリギリまで引き付けた。
鎌が―――振り下ろされる――――
一瞬だった。俺は剣を抜いたが、誰もが抜いた瞬間を見抜けない。
デッズは地に伏す。
俺は、腰から肩にかけて斬りつけた。
デッズの体はくっついているように見えて 実は、お別れしている。
2つに分かたれた断面からは血が噴き出す。
鮮血がデッズを中心に広がった。
そして、勝者は君臨する。
「勝者!レイダス・オルドレイ!」
観客席から歓声が沸く。
対戦相手たちは、控えていた回復要員たちに治療される。
俺は、堂々とフィールドから立ち去った。
数分後――――
――――『観客席』――――
俺は、観客席に戻ってきた。
カイルに預けていたガルムが肩に飛び乗る。
「どうやったんですか!?」
戻ってきてからの第一声がそれだった。
カイルだけじゃない。ゲイルも興味津々だった。
「是非教えてください!!」
『ゲイル・・メモ帳なんて持ち出すなよ・・・。』
俺は、ため息をつく。
「居合だよ。」
カイルとゲイルは首を傾げる。
「居合ってなーに?」
とイリヤが尋ねる。
「居合っていうのは、剣を鞘に納めた状態から瞬間的に剣を抜く抜刀術だ。
まあ、分かりやすく言うと剣の速度が増す。」
俺の説明にカイルとゲイルは「すごい」の一言だった。
『この世界に抜刀術は存在しないのか?』
俺は不思議だった。
『FREE』には『侍』職があるからだ。
スキルで『スキル:居合斬り』がある。
俺の抜刀術は見様見真似に過ぎない。
『大決闘演武大会』の参加者に『侍』職がいるかもしれないし、
俺は、自分の番がくるまで試合観戦をするのだった。
――――俺の初戦は圧勝で終わった――――




