男は、隣国へ~その前に~
男は、ギルドマスターとの面会に4時間も待たされる。
ギルドマスターリーゼルは、男に『酒場の修繕』と引き換えに『依頼を頼みたい』といいだす。
酒場の修繕はすでに終えており、男は渋々承諾することに・・・。
男は、立ち去ろうとするが、戦闘狂のリーゼルは、男を逃がさない。
『戦闘狂なんて嫌いだあああああああ~!!』
『冒険者ギルド』
「・・・・さん・・・・・おきて・・・ください。」
誰かの声が聞こえる。
「レイダスさん!!」
俺は、声の大きさに驚き、絶妙なバランスが崩れた。
俺は、態勢を立て直そうとするが、無理だった・・・。
俺は、椅子ごと倒れる。
ガルムがその音にビックリして、目が覚める。
「・・・・・・・・。」
痛くはなかったのだが・・・。『ダサすぎる・・。』
「あの・・・。大丈夫ですか?」
声をかけてきたのは受付嬢だったのか・・・。
「ああ。大丈夫だ。」
と言って、起き上がる。
「で?」
と俺は、受付嬢に要件を聞く。
「ギルドマスターと面会が可能となりましたので、お呼びに来ました。」
俺は、受付嬢に言う。
「30分と言ったよな? あれから4時間経ってるのだが?」
『説明して貰おうか?』
受付嬢は、震え始めた。
「す、すいません。ギルドマスターが書類を溜め込んでいたもので!」
どうやら、受付嬢の所為ではないようだ。
俺は謝罪した。
「すまない。 それなら仕方ない。」
「本当にすいませんでした!」
受付嬢は、体を震わせながら頭を深々と下げる。
『そんなに怯えなくても!?』
「俺は、別にお前を責めてるんじゃない。書類を溜め込んでたのは、ギルドマスターだ。本来の職務を放棄するのは上に立つものとしてどうかと思うがな。」
と俺は言う。
すると、2階から1人の男が降りてくる。
「ほーう。 言ってくれるじゃねーか。『期待の新人ルーキーさん』よー!」
俺は、2階から降りてきた男を鑑定した。
人間種/『斧使い』職
lv/35 名前/リーゼル・マクシアノ
体力/10000
防御/ 3500
攻撃/ 6600
速度/ 3500
持久力/7000
魔力/ 800
魔力量/3000
魔法適正/D
剣術適正/B
『あれがギルドマスターか・・・。』
体力と攻撃力が極端に高いな。
『斧使い』職は、『剣士』職から派生するワンランク上の職である。
職名から専門武器しか扱えなくなる。
ギルドマスターの場合は『斧使い』だ。よって使用できる武器は『斧』に限定される。
ギルドマスターと言われるだけあって、lvは今まで出会った人物の中で一番高い。
防具もそれなりに質の高い物を装備しているようだ。
「マ、マスター!?」
受付嬢は驚いている。
そして、ギルドマスターにズイズイ近づいて行く。
「マスター! 私言いましたよね!? 書類にサインしながら部屋で待っててくださいって!」
ギルドマスターは受付嬢に言い寄られてたじろぐ。
「お、おう。すまない・・・。」
『ギルドマスターってもっと・・こう・・・威厳があると思っていたが、俺の勘違いだったようだ。』
俺の目の前で、受付嬢とギルドマスターの喧嘩が行われる。
『まあ、受付嬢が一方的に攻めてるけどな・・・。』
数分後―――ギルドマスターが項垂れる
受付嬢は、満足そうな顔をしている。
「2階の俺の部屋に来い。そこで話をしよう。」
ギルドマスターは項垂れながら、2階へ上がって行った。
俺は、それについて行く。
階段を上って右手にある部屋だ。
俺は、扉を開ける。
『これが、ギルドマスターの部屋か。』
俺が想像していた通りの部屋だった。
大きなデスクが中央から少し窓際よりに置かれている。
デスクとその周りには、山積みになっている書類が置かれている。
窓の外は、今日も晴天だ。
「さてと、」
ギルドマスターリーゼルは椅子に座り、一息つく。
「俺は、お前と会うのを楽しみにしていた。レイダス・オルドレイ。」
リーゼルの雰囲気が一変する。
1階での受付嬢とのやり取りが嘘だったかのように・・・。
威厳に満ちた発言に俺は息をのむ。
『これがギルドマスターか。』
俺は、勘違いをしていなかった。スイッチの切り替えの速さは見事なものだ。
『俺も見習わないとな。』
「俺もだ。ギルドマスター『リーゼル・マクシアノ』。」
俺は雰囲気に呑まれない。
「今日、貴方にお会いしに来たのは、酒場の件です。」
俺は、今日ギルドマスターの彼に礼をしに来たのだ。
「ああ! あの穴の件か。 冒険者にとって酒場は癒しだ。それをあのまま放置しておくわけにもいかん!俺も酒が好きだからな。」
リーゼルは二カッと笑う。
「俺が負うはずだった責を・・・。感謝する。」
俺は、頭を下げない。
その態度にリーゼルが大声で笑う。
「ハハハハハッ! あくまで対等で会話を持ちかけるか!やっぱ、面白いなお前!」
『俺は、面白くない!』
「ただ、勘違いしてもらっては困るな。」
不敵な笑みを浮かべるリーゼル。
「あれは、お前に恩を売ったんだ。借りは返してもらう。」
「というと?」
どうやら俺は、仕事を押し付けられるようだ。
『やっぱり他人は信用ならん!』
「お前に頼みたい仕事があってな。」
俺は、やっぱりか!と心の中で項垂れる。
「仕事内容は? 天井に隠れている『暗殺者』職の獣人と関係しているのか?」
俺は、そう言って、天井を見る。
「私の存在に気付かれるなんて、相当な強者とお見受けします。」
「とう!」という掛け声と共に天井から『暗殺者』職の獣人が飛び降りて、俺の横に華麗に着地する。
獣人種/『常闇』職
lv/20 名前/テぺり
体力/6000
防御/ 1900
攻撃/ 2100
速度/ 2400
持久力/7000
魔力/ 1000
魔力量/2000
魔法適正/C
剣術適正/C
暗殺適正/A
『茶色髪、茶色い獣耳、茶色い尻尾・・・。獣人だな。』
獣人は人間よりも身体能力に優れ、ステータスが伸びやすい傾向にある。
ライラと同lvにも関わらず、ステータスは、ライラよりも上だ。
それにしても、
『生の獣人なんて、転生してから初めて見たぞ!』
ふわふわな尻尾を触ってみたくて仕方がない俺である。
『我慢だ俺!俺には、ガルムがいるじゃないか!』
ガルムは、俺の肩で寝息を立てている。
『ガルムの毛並みも負けず劣らずふわふわだぞ!』
「自己紹介させて頂きます! 私の名はテペリ! 獣人です。」
と言った。
だが、1つ言わせてもらおう・・・。
「子供じゃないか。」
そう子供だ。俺の背丈を半分にしたくらいの子供だ。
俺からしたら足手まといだ。
おもりなんて御免だ。
「失敬な!私はこれでも14歳です!」
『やっぱり子供じゃないか!』
「そこで虚勢を張るのは子供だけだ。」
と俺は、正論をいう。
子供は皆虚勢を張る。『私は、僕は、大人だ!てな。』
「くううううぅ!!」
テペリは悔しそうに気持ちを抑える。
俺の言葉が効いたのだろう。
「ハハハハハッ! 仲がいいようでなによりだ!」
俺とテペリのやり取りを見ていたリーゼルが笑う。
『どこをどうみたらそうなるんだ!?』
「まあ、それは置いといてだな。話を戻すぞ!」
俺は、頷く。
「レイダスが言った通り。頼みたいという仕事は、テペリと関わっている。テペリと協力し、隣国『リゼンブル』まである人物を護衛してもらいたいんだ。」
「護衛?俺の冒険者ランクはDランクだ。護衛は受けられないはずだが?」
Dランクには採取納品依頼しかない。
Cランクに上がり、ようやく魔物の討伐が受注できるのだ。
しかし、護衛依頼は、強敵から護衛対象を守るという難易度の高い依頼だ。
DやCランクが受けられる依頼ではない。
「俺は、レイダス。お前の功績を認めているんだ。黒い番犬No,3のライラを倒し、ドレッド・ベアを討伐!冒険者1名を救出。そして、クレアとの決闘で無傷だったらしいじゃねーか。Dランクの冒険者ができる事じゃねー。」
俺の話をするリーゼルの口調はギルドマスターの威厳を発していない。
発しているのは、獣が獲物を狙うような・・・。
俺は、なんとなく理解した。リーゼルは俺と『戦いたい』のだと――――。
「だから、特例として護衛依頼を引き受けてくれ。ランクについては俺の方から言っておくからよ!」
リーゼルは、ギルドマスターの威厳を発した。
そもそも俺は、リーゼルの依頼を断れない。
酒場の修繕をしてもらったのもある。俺は、仕方なく承諾した。
「分かった。護衛依頼を引き受けよう。で、護衛対象は?」
『護衛依頼なのだ。護衛対象の人物を教えて貰わないと護衛できないだろ?』
「護衛対象は、王都グラントニア 国王の1人娘・・・『シャーロット・ツヴァン・グラントニア』だ。」
『・・・・は?・・・』
今、なんて言った?国王の1人娘と言ったか?
俺は、自分の耳がおかしくなったんじゃないかと疑った。
「今、国王の1人娘と聞こえたが・・・?」
俺は、再度確認する。
「言ったぞ?」
リーゼルが首を傾げる。
『うそだろおおおおおああああ!!』
俺以外にも、上位ランカーの冒険者はいるはずだろ?なんで俺とテペリだけなんだ!?
一国の姫なら狙いに来る輩は大勢いるはずだ。
俺は、自分の考えをリーゼルに言う。
「俺から意見と質問をさせてもらおう。一国の姫の護衛というのは理解した。しかし、護衛がテペリと俺だけとはどういうことだ?隣国行きの情報が漏洩して見ろ。一国の姫を狙う輩は大勢いる。
冒険者ギルドには俺よりもランクが高い冒険者がいるはずだ。他の冒険者にも協力を要請すべき案件だろ?それとも、隣国行きはお忍びで、人数は少数がいいのかな?」
リーゼルは、鼻を鳴らす。
「はっ! 頭のいい奴は色々鋭いな。」
俺の言った事は全て的を射ていたらしい。
「姫は、お忍びで隣国『リゼンブル』に行く。なるべく少数精鋭で行きたいが、冒険者ギルドも人手不足でな・・・。上位ランカーがほとんど出払っている状況だ。
そこで、俺が選抜したのが・・・お前とテペリだ。」
『そういうことか・・・。』
リーゼルは、「納得してくれたか?」と聞いてくる。
俺は、「ああ。」と頷くのだった。
「依頼は、無事に姫を隣国に届けることだ。隣国までは『疾走する馬』で行く。
決行日は、明日の早朝! 人気のない内に出発する。」
リーゼルはノリノリに説明する。
テペリがここで手を上げて質問する。
「姫様は、中層の冒険者ギルドまで来られるのですか?」
確かに・・・。
俺たちは、下層から中層までの出入りしか許可されていない。
上層にはいけないはずだ。
「その点は問題ねー! 姫様の方から馬車で来てくださるそうだ。」
リーゼルは、得意げに語る。
『馬車ね・・・。姫とか・・・国王とか・・・金持ちは違うな・・・。』
俺は胸のあたりがチクチクした。棘が刺さったような感覚に襲われるが一瞬で消えた。
「それじゃあ。それまでは自由行動なんだな?」
と俺は、リーゼルに言う。
「ああ。自由だぜ。テペリはな・・・。」
俺は、部屋を出ようとしていた。背中に悪寒を感じ、ゆっくりと振り返る。
『やっぱりやる気満々だった!』
「レイダス!俺と決闘だああああ!!!」
『ひいいいいいいいい~!!!』
――――――『決闘場 フィールド』――――――
『どうしてこうなる・・・。なんでだあああああ~。』
俺とリーゼルは、決闘場のフィールドにいた。
『街に被害が出るからな・・・。』
そして、リーゼルの声は、1階まで届いていたらしく。
今回もギャラリーが観客席にいる。
『人数増えてるし・・・。』
俺は、ガルムを観客席に置いてきていた。
『戦いに巻き込むと危ないからな。』
「決闘ルールはどうする?」
俺は、リーゼルに尋ねる。
「クレアとやった時はどうだったんだ? 俺はそのルールでいいぜ!」
リーゼルが俺に任せると言ったので、決闘ルールを言う。
1、挑発行為や発言は許可するものとする。
2、周囲の人間を巻き込む攻撃は禁止とする。
3、制限時間はないものとする。
「4、俺が『死ぬ』、またはリーゼルの戦闘不能で、この決闘は終了するものとする。」
リーゼルは大声をあげて笑う。
「ハハハハハッ! レイダス。俺はますますお前を気に入った! 俺は強い奴が好きだ!」
『それ以上好きにならんでいい! 戦闘狂め!』
リーゼルは、戦闘狂だ。
強い者に惹かれる。
遅かれ早かれこうなっただろう。
『ギルドマスターは温厚だと思っていたかったのに・・・。』
俺の中のギルドマスター像が崩れ去っていく。
「上には上がいるってことを教えてやるぜ!」
リーゼルのやる気は120%だ。
俺は、物理的には強いかもしれないが、精神力は、ガラス並みだ。
このままだと精神崩壊で俺が倒れかねない・・・。
「早急に終わらせるしかない・・・。」
俺は、『あ・・・。』となった。心の声が漏れてしまった。
リーゼルに聞こえていたらしく。
「ほう・・・。」と言いながら、斧に力を籠める。
今回リーゼルが監督役を連れてきたから、開始宣言を任せる事にした。
「両者準備はよろしいですか?」
俺とリーゼルは、一定の距離を保ち、頷く。
「それでは・・・・・始め!」
監督役の宣言のもと決闘が始まる。
先に動いたのは、リーゼルだ。
『斧使い』職に似合わぬ速さだ。
「おらああああ!」
リーゼルは斧を振り下ろす。
しかし、俺から大分外れた位置に振り下ろした。
『これは!?・・・目くらまし!』
リーゼルの斧の衝撃で、フィールドの砂が舞い上がる。
俺は、砂が舞っていない場所へ移動する。
『戦闘狂なのに頭を使うとは・・・』
『FREE』をしていた時、戦闘狂のプレイヤーと戦ったことがある。
単純な強さなら負けていた。
しかし、戦闘狂は防御に回らない。直進的攻めに転じる傾向がある。
ダメージを受けても、お構いなし・・・。
ダメージを受けてもその分相手にも与えてやればいい。
勝っても負けても戦闘が楽しめればそれでいい。
それが俺の知る戦闘狂だ。
だけど、リーゼルは違う。彼は、確かに戦闘狂だ。
でも、勝つ為に工夫している。勝ちにこだわっている。
この世界の戦闘狂は、勝ちにこだわるのかもしれない・・・。
俺は、リーゼルの戦闘を様子見することにした。
リーゼルは、舞い上がった砂の中から現れる。
砂から現れた斧は、俺の胴めがけて横に一閃。
俺は、その一閃を踏み台にする。普通だったら見えない一閃を俺の目は捉えていた。
片腕で斧を踏み台に跳躍。
1回転して地面に着地する。
リーゼルはそれを気にも留めず、斧を振りかざす。
「うらあああ!」
俺に斧を振り下ろす。
俺は、両手で斧を受け止める。
リーゼルの斧の衝撃で、フィールドの地面に割れが生じる。
しかし、今の俺はへでもないのだ。
俺は、受け止めた斧を蹴りで弾き飛ばす。
斧が飛んだ先は、ギャラリーがいる観客席だ。
ギャラリーには当たらなかったものの、斧は、深々と刺さっている。
『軽く蹴ってこれか!』
リーゼルは、斧を失った。
『降参するか?』
俺に拳が飛んでくる。リーゼルはあきらめていない。
斧を振り回す腕力は『拳闘士』職には及ばないが、
鍛え上げられた彼の肉体から放たれる拳は、新人冒険者なら悶絶するだろう。
俺は、右へ左へと避ける。
最後の中央に飛んできた拳を片手で受け止める。
「終わりだ!」
俺は、リーゼルの腹部に拳をねじ込む。
『手加減はしている!大丈夫なはずだ!』
クレアの時とは異なり、剣から伝わっていた感触が、直に伝わる。
肉がはじけ飛び、部分的に吹き飛ぶ。
リーゼルはフィールドの壁に激突。
そのまま地に伏せる。
俺の腕には、真っ赤な血の色がびっしょりと付いていた。
『これは、決闘だ!決闘なんだ!』
俺は、自分にそう言い聞かせ、リーゼルに近づく。
監督役は恐怖のあまり、終了の宣言を忘れている。
「リーゼル!」
俺は、地に伏すリーゼルを仰向けにする。
「ゲホッ!」
意識はないが、生きていた。
俺は魔法のカバンから回復ポーションを取り出し、傷口にかける。
傷は、完治してないだろうが、塞ぐことはできた。
「監督役!」
俺は、大声で叫ぶ。
監督役は声に反応し、宣言した。
「け、決闘終了!! 勝者『レイダス・オルドレイ』」
ギャラリーのざわめきは止まらなかった。
「ギルドマスターが負けた!?」
「おい・・・マジかよ・・・・」
「あいつ本当に新人なのか?」
俺は、観客席にいるギャラリーに言う。
「おい! リーゼルの斧を持ってきてくれないか? あとは、担架だ! 回復はしたが意識がない。急げ!」
俺の指示で、ギャラリーたちが動き出す。
それよりも・・・・
『腕のついた血の匂いが鼻にくる・・・・。』
俺の腕にはべっとりと血が付いていた。
俺はそれが気持ち悪くて―――――心地よかった――――。
前世でもよく見た赤い色―――死に際に見た鮮血の赤――――
リーゼルは担架で冒険者ギルドまで搬送されることになった。
俺は、明日に備え、宿屋へ行く。
勿論、宿屋―青薔薇―だ。
俺はガルムを呼び。
そのまま宿屋へ向かうのだった。
――――『冒険者ギルド ギルドマスターの部屋』―――――
「うう・・・・・・・。」
リーゼルは目を覚ます。
頭が、ぼんやりしていて視点が定まらない。
「俺の・・・部屋か・・・?」
リーゼルは、ギルドマスターの部屋のソファに寝ていた。
「はっ! 決闘は!?」
リーゼルは、勢いよく起き上がるが腹部に痛みが走る。
「ッ!・・・・。」
レイダスに回復してもらったリーゼルだが、完治までは至っていない。
「あまり動かない方がいいですよ。」
リーゼルに声をかけたのは受付嬢だった。
リーゼルはつぶやく。
「俺は・・・負けたのか・・・。」
そんなつぶやきにクレアは直球だった。
クレアは「はい。貴方の負けです。」と言った。
リーゼルは苦笑する。
「上には上がいるってことを教えてやるぜ!・・・てほざきながら教えられたのは俺だった。」
リーゼルは、再び横になる。
「強くなりてーなー・・・・。」
リーゼルの切実な思いだった。
リーゼルは自分を理解している。
戦闘狂で、戦いになると楽しくて仕方がない。
そして、『強者』に惹かれる。だから彼はレイダスに勝負を挑んだ。
結果は惨敗。自信があった彼の心を簡単にへし折っていった。
受付嬢にはリーゼルの気持ちがよく分かった。
自分も彼に負けた。
「彼は・・・レイダス・オルドレイは、無意味な戦いをしません。」
受付嬢は1人の敗者としてリーゼルに語り掛ける。
「ギルドマスター・・・。貴方も得た物があるはずです。」
自分もレイダスと戦い得た物があった―――――だから――――――
リーゼルは、目を閉じて、笑みを浮かべる。
「そうだな・・・。」
リーゼルは、その日から少しずつ変わっていく。
――――『宿屋―青薔薇―』―――――
「いらっしゃいませ・・・・て、きゃああああ!」
ファルが悲鳴を上げる。
腕が血まみれの俺が目の前に立っているのだから・・・。
「ああ・・。すまん。これ返り血だから」
と俺は、説明する。
「そうですか・・・。決闘でもされたんですか?」
俺は、ファルの質問に「ああ。」と頷く。
俺は、話題を変える。
「実は、明日、大仕事で早朝から出ないといけない。部屋に空きはあるか?」
ファルは、言う。
「あ! はい。一室開いております。」
俺が受付をしていると
「何かあったんですか!?」
と2階から女の声がした。
『聞いたことのある声だ・・・。』
俺が、2階の階段をみるとそこにはイリヤがいた。
「イリヤか?」
俺は、声をかける。
「ん~? ああ!レイダスさん! お久しぶりです~。」
俺は、イリヤから話を聞いた。
カイルに合う防具を探しているらしいが、中々見つからないらしい。
日が暮れるまで、中層を歩き回っているのだとか・・・。
『実技試験の後、青年は反省し、学習したようだ。』
自身の弱点をカバーする大切さを―――――――
「俺は、明日早いからもう寝る。 あ、言伝を頼みたいのだが、いいか?」
イリヤは「いいよ~。」と言ってくれた。
「解体場のガラッドという男に、『仕事で遅れる』と伝えてくれないか?」
遅れてもいいとは言っていたが、伝えておくのは大事だ。
俺は、ガルムと個室に入る。
「明日は、大仕事だ。」
ゲームみたいにリトライはできない。
失敗は許されないのだ。
『護衛対象が一国の姫だしな・・・。』
俺の胸にまた、棘が刺さるが・・・直ぐに感覚はなくなる。
無意識になにか思っているのかもしれない。
俺は、装備を外し、ガルムと寝る。
「相変わらず、ふかふかだな~。」
俺は、ガルムと宿屋のベットに癒されながら、眠りに落ちるのだった。
カイル「防具が見つからない~~。」
イリヤ「カイル~! レイダスさんに会ったよ!」
カイル「え!? 本当かイリヤ?」
イリヤ「でもね。明日早朝に出発するから~って寝ちゃったんだ~。」
カイル「そうか・・・。久しぶりに話をしたかったけど、省がないよな。」
イリヤ「あ!そうそう レイダスさんから言伝頼まれたよ!『解体場に遅れる』って言っといてくれ てさ!」
カイル「分かった! 明日は解体場に行こう!」
イリヤ『カイルは、レイダスさんの事になると元気になるな~。』




