男は、うつになる。
解体場で、素材の換金取引を行った後、
『メイサの森』で薬草採取、
そして、ドレッド・ベアからリリィを救出した男。
冒険者ギルドに戻るとクレアが、酒場の席で待っていた。
男は、クレアと会話をするが、『話にならない!』と怒りのあまり、酒場の備品を壊してしまう。
男はうつになった・・・。『冒険者ギルド行きたくない・・・。』
『冒険者ギルド』
俺は、初依頼を終えた。
依頼の道中色々あったが、無事達成!
「冒険者証をお返ししますね。」
俺は、受付嬢から冒険者証を受け取る。
一緒にいたリリィは報酬を受け取り、先にどこかへ行ってしまった。
『引退だから、冒険者証返すだけだし・・・。』
今日は、もう日が暮れている。
『夢見の森』のログハウスに戻りたかったが、仕方ない。
と俺は判断し、宿屋で泊まる事にする。
『宿屋―青薔薇―に行くか・・・。』
俺は、冒険者ギルドから出ようと受付嬢に背を向けた。
「待ってください!」
『またか!!!』
俺は、受付嬢に呼び止められた。
俺は前も受付嬢に呼び止められて、『弁当を届けるように頼まれた。』
『今度は何を頼まれるのだろう・・・。』
と俺は振り返る。
「なんだ。」
俺は、受付嬢に要件を聞く。
「えっと・・・。貴方とお話をしたいと言っている方がいるんです。」
と受付嬢は、酒場の席に座る1人の女性を指す。
俺は、受付嬢が指す先を見る。
ライラの姉にして、冒険者ギルド受付嬢の一人―――――――
『クレア・シュバーン・へレンツ』
が座っていた。
受付嬢の恰好でないものの見間違えるはずがなかった。
『表情筋、固まってるんだろ・・・あいつ・・・。』
クレアは、いつも通り無表情を貫いている。
ジーッとこっちを見ているが、俺は動かない。
『俺、あいつと話したくないんだよな・・・。』
理由は、冒険者ギルドの実技試験だ。
俺の相手はライラだった。クレアの妹にして黒い番犬の実力者。
俺は、クレアに『手を抜いてほしい。』と言われたが、断った。
『恨んでいるに違いない・・・。』
俺は、冷や汗が止まらない。
そんな俺に、受付カウンターにいた受付嬢が耳元でつぶやく。
「仕事が終わってからもずーっとあそこで待ってたんです。話ぐらい聞いて頂けませんか?」
俺は、受付嬢の言葉にため息をつく。
『なんで俺なんだよ・・・・。』
俺は恐怖を抱きながら、クレアの元に近づいて行く。
そして、席に座る。
「・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
互いに何も話さない。静寂がおりる。
『き、気まずいいいいい! 空気が重いいいいいい! ここは一旦冷静になるんだあああ!』
俺は、1つ息を吐く。
「俺に何の用だ・・・。」
『言ったああああ! 言っちまったあああああ! ぬおおおおお!』
俺は1人心の中で、転げまわっている。
「・・・・・弁当・・・・ありがとうございました。」
『へ?・・・弁当?』
もしかして、『解体場』にいたという受付嬢は、クレアだったのか!
俺は、確認の為聞いてみた。
「・・・解体場にいた受付嬢はお前か?」
クレアは、「はい。」と肯定した。
「お礼を言う為だけに俺を待っていたのか?」
俺は、クレアに尋ねるが、クレアは黙っている。
「・・・・・・・・・・・・・・。」
『なんかいえよ・・・・・。』
俺は、席を立とうとする。弁当の礼だけなら、もう用はないはずだ。
「実技試験・・・・・気にされていますか?」
俺の動きは、ピタリと止まる。俺は、席に座り直し尋ねる。
「俺が、お前の願いを断った件か? それとも、ライラに重傷を負わせた件か?」
クレアは、無表情のまま黙る。
俺の中でイライラが募っていく。
ガルムは、離れた場所に退避する。
俺は、酒場のテーブルに握りこぶしを優しく打ち付けた。
『手加減できないって大変だよ・・・。』
ドン!とすさまじい音と衝撃が響き渡る。
冒険者ギルド内にいた者の動きが一瞬止まった。
1階にいた者の視線は勿論俺に集まる。
テーブルは縦に割れ、破片が飛ぶ。
床は衝撃で穴が開いている。
クレアはそれでも表情を崩さない。
俺は、椅子から立ち上がって、クレアにイライラをぶつける。
「言いたいことがあるなら言え!!」
『俺に用事があるんだろう?なんで言わない!!』
クレアも椅子から立ち上がる。
クレアは、背筋をまっすぐ伸ばし、深々と頭を下げる。
「申し訳ありませんでした・・・・。」
「あ゛あ゛?」
急に頭を下げだすクレアに、俺は動揺した。
クレアがしたいことが理解できない俺は、怒りの矛先を失う。
俺は、椅子に再び座り、怒りを鎮めた。
クレアは、立ったまま俺を見つめる。
「俺に対して謝っているのか?それは?」
俺は、クレアに尋ねる。
クレアは、「はい。」と肯定する。
しかし、クレアは、再び沈黙する。
俺は怒りが限界だった。俺は、椅子を立ち上がって、酒場のマスターに聞こえるように言う。
「マスター。すまない。勢い余って備品を壊してしまった。弁償はする。修繕ののち、俺に請求してくれ。」
酒場のマスターは驚きながらも
「わ、分かりました。」と返事をした。
一方クレアは、俺を見つめたまま動かないし、発さない。
俺は、そんなクレアを無視し、冒険者ギルドをあとにした。
―――――――――『宿屋―青薔薇―』―――――――――
俺は宿屋にやってきた。
テンションはクレアのせいでダダ下がりだ。
受付のファルが俺に近づいてくる。
「いらっしゃいませ。 どうされたのですか? 体調が悪そうですが・・・?」
俺は、表情に出さないよう頑張っていたが、無理だったようだ。
「ああ。ちょっとな。」『精神がな・・・。』
と俺は誤魔化して、ある物をファルに手渡す。
「これは?」
とファルは手渡された袋に首を傾げる。
俺は、「開けてみろ」と言う。
ファルは、袋の中身を見て喜ぶ。
「これは!『マッシュドカリー』!?『メイサの森』の奥地でしか取れない。貴重なキノコじゃないですか!」
俺は、依頼で『メイサの森』に薬草を取りに行っていた。
余分に採取する為、森の奥まで行っていたかいがあり、丁度、群生地帯を発見したのだ。
「森の奥まで行っていたからな。ついでに採取してきたんだ。ファルは、色々育ててるって言っていたし、食用アイテムだから料理にも使えるだろ?」
ファルは嬉しさの余り飛び跳ねる。
そして、俺に頭を下げる。「ありがとうございます!」
「それぐらいで大げさだな。 また良さそうな物を見つけたら持ってくる。
今日もここに泊まりたいんだが、空いてるか?」
「空いてますよ!」
とファルは、素早い動きで受付カウンターに戻る。
そして、受付を済ませるのだった。
俺は、ガルムと2階の個室に入る。そして、そのままベットにダイブした。
俺は、寝転がりながら、1日を振り返る。
解体場に行き、素材の換金取引をした。あと、弁当を持って行った。
南門で、ライラの治療。
ガルムのlv上げ。
『メイサの森』で薬草採取ついでに『マッシュドカリー』も採取。
ドレッド・ベアを討伐。
『冒険者ギルドに戻ってクレアに会うまで・・・順調だったのに・・・。』
クレアは俺に用事があって待っていたと他の受付嬢から聞いた。
なのに、クレアは、要件を言わなかった。
俺は、クレアについて1つハッキリした。
俺は、アイツ(クレア)が苦手だ・・・。そして――――――『嫌いだ!』
1日の振り返りはこれぐらいだなと俺は、上体を起こす。
それよりも重要な問題があるのだ。
『冒険者の視線がああああ~!』
俺は、手加減していたが、酒場の備品を壊した挙句、床に大穴まで開けてしまった。
『結構深そうな穴だったな・・・。』
俺は、ベットの上を転げまわる。
途中ガルムとぶつかりそうになった。
『明日も冒険者ギルドに行って、依頼を受けないとランクを上げられないんだ・・・。』
俺は、いやいやでも行く以外の選択肢がないのだ。
『クレアもいるんだよな・・・。』
クレアがいると思っただけで怒りがこみ上げてくる。
「今日はもう寝よう!」
俺は、考える事を放棄した。
前世は、悩みすぎて気づけば『朝でした。』というのがざらにあった。
俺は、自分が『少し楽観的になったな。』と思う。
そして、俺は寝た――――――――――――――
「ふぁああ~・・・。」
俺は、防具を身につけたまま寝てしまっていたことに気付く。
「あ! ベットも汚れてるな・・・。」
俺は、身につけていた装備を全て外し、一か所に集める。
『魔法/第2番:リワインド』
ベットから装備まで全部綺麗になった。ガルムも巻き添えに・・・。
ガルムは空中でくるくると回転する。
「アウアウワフワフウウウ~」
そして、着地。
俺は、ガルムに謝る。
「ごめんな!」
ガルムの毛並みは、魔法によって、汚れ一つないふわふわな毛並みになっていた。
『まあ・・・綺麗になったし、良かったのかな?』
と内心思う俺である。
俺は、服や防具を装備し、準備を終えて、1階ロビーに行く。
そこには、ファルもいた。
「おはようございます。 今日もお早いですね。」
ファルは俺に挨拶する。俺も挨拶する。
「おはよう。・・・どうしたんだ?」
ファルは挨拶してから元気がなかった。
理由を聞くと、まだ朝食ができていないらしい。
「料理長が寝坊しちゃいまして、現在料理中なんです。大変申し訳ありません。」
とファルは頭を下げる。
俺はファルに言う。
「寝坊したのなら仕方がない。今度泊まりに来るとき、デザートを付けてくれ。それで手を打とう。」
ファルは、俺に感謝して、見送ってくれた。
―――――――『冒険者ギルド』――――――――
俺は、冒険者ギルドの扉を開ける。
すると視線が俺に一斉に集まる。
『ぐぅっ!・・・・これは・・・・・・』
思っていた以上にきつかった。
『やはり、昨日のはまずかったか・・・。』
あちらこちらから声が聞こえる。
「あいつだぜ。酒場に大穴開けた新人て・・・。」
「まじかよ!? あんな大穴どうやったら開くんだよ?」
俺があけた大穴は、まだ残っていた。
俺は、依頼を受けてさっさと出よう!と心に決める。
俺は受付カウンターに行く。
「依頼を受けた・・・・い!!」
受付カウンターの受付嬢を見て俺は、驚きと困惑に襲われる。
『受付嬢!?・・・・・・・・新手の嫌がらせか!?』
俺は受付カウンターから少し距離をとる。
『あいつが今日受付カウンター担当なんて想定外だ!』
そう思っていると、クレアは無表情に俺に尋ねてきた。
「依頼はどれをお受けになられますか?」
俺は、依頼書をカウンターに並べられる前に、クレアからまとめて取り上げる。
『薬草採取』
『マッシュドカリーの採取』
『マッシュドカリーの採取』
の3つを請け負うことにした。
『マッシュドカリー』の採取依頼は2つあるが、『依頼主』が異なる。
同じ採取素材ならまとめて取ってくれば済むのだ。
俺は、それ以外の依頼書をクレアに返し、冒険者ギルドから出ていく。
――――――――『冒険者ギルド』俺が去った後―――――――――
「・・・・・・・・・・。」
クレアは、無言だった。
俺が去った後、冒険者ギルドの2階から1人の男が降りてくる。
「なんだあ? 騒がしい・・・。」
俺の噂をしていた冒険者たちが、ざわつく。
「ギルドマスターだ!!」
ギルドマスターと呼ばれる男は、受付カウンターのクレアに尋ねる。
「おい!クレア! 説明してくれ。」
クレアはギルドマスターに言う。
「レイダス・オルドレイ・・・。新人冒険者が来ておりました。」
ギルドマスターは笑みを浮かべる。
「ほほう! 噂の新人か!! 黒い番犬ライラを倒し、ドレッド・ベアから冒険者を救出!
酒場に大穴を開けた奴か! それならそうと何故俺を呼ばん・・・。会うのを楽しみにしておったのに・・・。」
ギルドマスターは項垂れる。
「申し訳ありません。 呼び止める前に、依頼を受けていかれました。」
俺は、クレアと居たくなかった。だから、直ぐに冒険者ギルドから出ていった。
クレアの呼び止める暇がないくらいに―――――――――――
ギルドマスターは「そうかい。」と言って2階へ戻っていく。
「そいつが来たら今度こそ呼べよ!」と付け加えて―――――――――




