男は、初依頼を報告する。
男は、『メイサの森』でリリィを救出する。
男は、王都に戻る道中リリィの夢を聞く。
「私は、冒険者でためたお金で、お店を建てるの!」
「店が出来たら、呼んでくれ。」
男とリリィは約束を交わす。
『メイサの森』
「う・・・ひっく・・・・・。ずびばぜんでじだ・・・。」
リリィは、大分泣き止んだようだ。
それでも、止まらない涙をリリィは頑張って拭う。
俺は、『もう大丈夫だろう。』と判断し、立ち上がる。
「同じ場所に長いするのはよくない。 血の匂いにつられて他の魔物も寄ってくるだろう。」
俺は、リリィに手を差し伸べる。
リリィは俺の手に引っ張られる勢いで立ち上がる。
『リリィの顔が若干赤いような気がするが・・・。気のせいだろう。』
「ガルム。魔物が出たら頼む。」
「ワオーン!」
ガルムは元気よく返事をする。
俺たちは、『王都グラントニア』に向け移動を開始した。
ドレッド・ベアを倒してから、4体の魔物に遭遇するが、難なく撃退。
只、ドレッド・ベアを倒してからというものの、ガルムのlvの上りが遅い。
4体倒してlv1しか上がっていないのだ。
『ガルムのlv上げは、『メイサの森』以外のエリアでやるか・・・。』
メイサの森の魔物のlvは1から10代である。
今出てきた4体の魔物のlvは低かったから、lvの上りが遅いのも頷けるのだ。
俺たちは、休むことなく森を歩き続ける。
しかし、リリィに異変が起こっていた。
「大丈夫か?」
「だい・・・・じょうぶです。」
尋常じゃない汗の量。
それもそのはず、彼女は、ドレッド・ベアとの戦闘による疲労だけではなく、精神もすり減らしている。
大丈夫と言っているが、彼女は俺とガルムのペースに無理に合わせているのだ。
ドレッド・ベアを倒した場所から大分離れたのもあり
「少し休憩しよう。」
と俺は、リリィに進言した。
俺たちは、地面に座る。
休憩中リリィは語る。
「先程は、本当にありがとうございました!
私は、『リリィ・マクラード』。Cランクの冒険者です。
私は、冒険者ギルドの依頼で『ドレッド・ベアの討伐』に来てました。
結果は・・・あなたが知っての通りです。」
俺は、リリィたちが喧嘩をしていて、ドレッド・ベアに襲われるまでの一部始終を見ていた。
彼女が死のうとしていたのを防ぎ、今こうしているのだ。
「礼は言わなくていい。俺はただの通りすがりだ。
薬草採取をしていた時に、戦闘をしているパーティが見えて加勢しただけだ。」
と俺は言う。
「いいえ! 貴方がドレッド・ベアを倒してくれてなかったら、私は、死んでた!
私は・・・・人生を棒に振っていた・・・・。」
リリィは死のうとした時の事を思い出し、暗い表情をする。
胸に手を当て、縮こまる。
「貴方が言っていた通りなんです。 私は、先の事を考えてなかった。
自分は不幸だと・・・1つしかない貴重な命を捨てようとした・・・。
私にはやりたいことがまだ沢山あるのに・・・。私は・・・馬鹿だ!」
リリィはさらに縮こまる。
リリィは顔を隠してしまったため、どんな表情をしているのか分からない。
只、これだけは言って置こうと思った。
「人間の誰もがチャンスを与えられる。成功するか失敗するかなんてやってみないと分からない。」
『今の俺もそうだ。手探り状態で、いつまで経っても先が見えない。』
俺には、まだよくわからないけど、それが――――――――――――――
「それが、『人生』だ。」
と俺は思いたかった。
リリィは俺の言葉に顔を上げる。
泣いていたのか、彼女の目元は少し赤くなっていた。
そして、リリィは「そうですね!」と笑みを浮かべて言う。
リリィは立って砂を払う。
「休憩は終わり! もう大丈夫行きましょう!」
リリィはそう言って歩き出す。
『やれやれ・・・。』
俺も立ち上がり、移動を開始する。
移動をしながら、俺はリリィに聞いてみた。
「王都についた後はどうするんだ?」
リリィはしばらく無言だったが、答えてくれた。
「冒険者ギルドに依頼を報告した後、冒険者をやめようと思います。」
何故?とは聞かなかった。彼女の覚悟がにじみ出ていたからだ。
「冒険者をやめて、今まで貯めてたお金で、お店を開こうと思うんです!
頑張って、冒険者を続けてきたけど、私には合わないみたい・・・。
だから、別の道を進もうと思うんです。」
俺は、彼女の発言にほほ笑む。
『それが―――――リリィの人生だ。』
「そうか。店が出来たら、教えてくれ。」
リリィは、「はい!必ず!」と約束するのだった。
――――――――――――――数十分後――――――――――――――――
俺たちは『メイサの森』を抜けた。
「抜けたアアアア~!」
とリリィは大喜びだ。
俺たちは、王都の南門に向かう。
――――――――――――――『王都 南門』――――――――――――――――
「あ! レイダスさん。 依頼はどうでしたか?」
俺は、ライラに声をかけられた。ライラだけじゃない。
その横には、ウェルダンさんが立っていた。
「冒険者ギルドより情報は来ております。冒険者になられたそうで、遅れながらおめでとうございます。」
『相変わらずのオーラだ・・・。』
「ありがとうございます。 2人で出歩いているなんて珍しいですね?」
と俺は言う。
すると、ウェルダンさんがライラの頭をワシャワシャといじる。
「私の部下がまた、やらかしまして・・・。」
『なるほどなー』
と俺は頷く。
ライラは「やめてくださいー!」と言いながら、ウェルダンさんから逃れる。
「あれ?そちらの方は・・・確かリリィさんですよね? どうしてお2人が一緒に?」
とライラがリリィの存在に気付く。
仕事柄、冒険者の顔や名前を憶えているのだろう。
俺は事情を説明する。
依頼で薬草採取をしていた俺が偶然 ドレッド・ベアに襲われているパーティを見つけたこと。
俺が加勢したときには、パーティメンバーの3人は既に殺されていたこと。
救えた人間がリリィ1人だけだという事を――――――――――――――――
「そんな事が・・・・。」
「・・・・・・・・・・・。」
ライラとウェルダンさんは消沈してしまい、暗い雰囲気を放つ。
消沈している2人にリリィは声をかけた。
「パーティの連携はバラバラ・・・。ドレッド・ベアに逃げられ、復讐の機会を与えてしまったのは私たちなんです。最・・・自分たちの実力を考慮すべきだったんです!
パーティの仲間は皆死んじゃったけど、私は生きて戻ってこれました!
だから、大丈夫なんです! 私は仲間の分も生きますから!」
『パーティの皆が嫌いだ!とかいいながら、命の重みは理解できているんだな・・・。』
俺は、リリィの前向きさを見習わないとなと思った。
『信念を持って生きている人間―――――――めげずに立ち向かう勇敢な人間―――――――』
俺は、人生の生き方をもう少しよく考えないといけないのかもしれない。
『不老不死』のスキルがあるから、ただ生きるのではなく、
ライラやガラッドやリリィや―――――今まで会った人間たちみたいに―――――――――。
「そうですか・・・。リリィさんは強いんですね!」
とライラは明るくなる。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
ウェルダンさんは無言だが、リリィにほほ笑んでいる。
無言だったウェルダンさんが口を開く。
「辛いことは、多々あるでしょうが、努力はいつか報われるもの。
私たちは、王都を守る者として王都で働く貴方たち冒険者を応援させていただきます。
依頼の報告もあるでしょう。足止めして申し訳ない。」
「いえ、こちらこそ長話してしまい、すいませんでした。
時間がある時にでもゆっくり話をしましょう。それでは、失礼します。」
と俺はウェルダンさんとライラに別れを告げ、リリィと共に『中層』の冒険者ギルドに向かう。
――――――――――――――『冒険者ギルド』――――――――――――――――
俺たちは、冒険者ギルドの受付に向かう。
「依頼の報告に来た。」
俺はそう言って、依頼書と薬草を提出する。
「畏まりました。 数を確認させていただきましたが、問題ないようですね。」
と受付嬢は、言う。
「それでは、冒険者証をお出しください。」
俺は、冒険者証を受付嬢に手渡す。
「冒険者証の更新しますので、少しお待ちください。」
と俺は、待機することになった。
「更新している間に、こっちの依頼報告をしたいのだが、構わないか?」
と俺は、リリィに振る。
受付嬢は、リリィを見てから、「問題ありません。」と答える。
俺は、リリィに「報告してこい。」と言うがリリィは動かない。
『どうしたんだ?』
リリィは、俺に面と向かって、
「ドレッド・ベアを倒したのはあなたです。貴方が報酬を受け取るべきです。」
と言い出した。
『何を言ってるんだ!?』
「俺はDランカーの新人冒険者だ。 俺が加勢したとはいえ、報酬は全てリリィが受け取るべきだ。」
そもそも、『ドレッド・ベアの討伐』依頼は、『C』だ。
Dランク冒険者である俺が、受けられる依頼じゃない。
「ですが・・・!」
リリィは不満そうだった。自分たちの実力で勝ち得た報酬でないからかもしれない。
仲間は死んだ。報酬を独り占めしているようで気が引けているのかもしれない。
「俺は、冒険者を続ける。コツコツランクも上げていく。ランクが上がれば金にも困らない。」
俺は、言葉を続ける。
「それに、お前にはその報酬を店の建設費用に充てて貰いたいんだ。」
俺は、本音を言っている。
店を見て回るのは嫌いじゃない。
他人と話すのがあまり好きじゃないだけだ。
「約束しただろ? 店ができたら、呼んでくれるって。」
そう、俺とリリィは約束した。
店が出来たら、俺を呼んでくれると。
「分かったわ。」
リリィは納得してくれたようだ。
「私はこの報酬で、立派な店を立てる! 有名にしてみせる! 絶対来てよね。」
とリリィは拳を突き出す。
俺も拳を突き出す。
「ああ。絶対行く。」
そして、リリィは依頼を報告して、冒険者を引退した。
後にリリィの店は、リリィの宣言通り有名店にまで成長する。
――――――――――――それはまだ、先のお話――――――――――――――




