男は、初依頼を受ける。part3ーリリィverー
リリィは冒険者ギルドで『ドレッド・ベアの討伐』依頼を受ける。
パーティと共にドレッド・ベアに戦いを挑むが、逃げられてしまう。
森の中で、喧嘩をしていたパーティは、ドレッド・ベアの接近に気付かない。
アルテール、グラド、ヴィヴィと死んでいく中で、リリィは絶望していた。
『冒険者ギルド』
私は、リリィ・マクラード。
私とお兄ちゃんとアルテールとヴィヴィの4人でパーティを組んでいます。
私たちは、新人冒険者だけど、新人の中でもそこそこ実力があって、名が通っていた。
だけど、最近パーティでの連携が全然取れなくて、アルテールと喧嘩になる。
『元々連携がうまくいかないのはアルテールが原因なのに、私に押し付けないでよ!』ってイライラする。
そんな時、冒険者ギルドに依頼がきた。
『ドレッド・ベアの討伐』
ドレッド・ベアは、ボアル・ベアと並び、新人には強敵な魔物だ。
冒険者ギルドの貼り紙を見ていた時、ふと耳にする。
「あいつが黒い番犬のライラに勝ったていう新人らしいぜ。」
「それマジかよ!?」
「試験官は黒い番犬で、新人育成も兼ねてるって噂本当だったんだな・・・。」
「でも、黒い番犬の実力者No,3が負けるなんてなー。信じらんねーよ。」
私は、噂の人物を見た。
受付カウンターで受付嬢となにやら話をしているようだった。
その人物はよく目立つ。まるでアルテールのようだった。
でも、雰囲気が違う。
新人とは思えない空気が彼の周囲を漂っている。
見ただけで納得してしまう。『彼は強い』と――――――――
彼は、金髪で赤い眼をしていた。
背中まであるだろう赤い布を頭に巻いているのが特徴的だった。
身につけている服や防具はどれも高そうで、私の手に入りそうにない。
彼は、受付を離れ、去って行く。一体どこへ向かうのだろう?
そう思っていると、お兄ちゃんが、ドレッド・ベアの依頼を勝手に請け負ってきた。
「グラド!勝手なことをされては困ります。」
アルテールがお兄ちゃんを怒る。
「お兄ちゃんを怒らないでよ!」
私はアルテールを怒る。
アルテールはいつも自分が不満になると他人に怒りをぶつける。
『なんて自己中心的なのかしら!!』
「お兄ちゃんが取ってきた依頼にケチ付けないで!
そんなに怒るなら、自分で依頼を取ってくればいいでしょ!」
私は、アルテールに言ってやる。
「なんですって!!」
アルテールが余計怒る。
「やめてよ2人とも~。」
ヴィヴィはいつもオドオドしていて頼りない。
私たちの喧嘩を仲裁しようとするけど、怖くてできていない。
私は、ヴィヴィを睨みつける。
そうするとヴィヴィは委縮して、何もしゃべらなくなる。
「なによ? 私は間違ったことなんて言ってないわよ!」
するとお兄ちゃんが、「落ち着け」と私をなだめようとする。
『私はお兄ちゃんを庇ってあげているのに・・・。お兄ちゃんはアルテールの味方なの?』
私は、ショックだった。
――――――――――――『メイサの森』――――――――――――
私たちは、無言のまま『メイサの森』に足を踏み入れる。
南門で、黒い番犬の人から、「危険な魔物がいるかもしれないから、気を付けるように!」と注意を受けた。
私は、慎重に進みたいのに、アルテールは、奥にザクザクと進んで行く。
『注意を受けたばかりなのに、どうして慎重に行動しないのよ!』
私は、アルテーヌに怒りを募らせる一方だった。
目的のドレッド・ベアに遭遇し、私たちは、姿勢を低く保ち接近する。
一気に強襲をかけ、仕留める作戦だ。
なのに――――――――――
「はあああああああ!!!」
アルテールがまだ距離も遠いのに飛び出して行った。
「馬鹿なの!?」
と私は叫んだ。
アルテールが飛び出して行ったことで、強襲作戦は無意味に終わる。
仕方なく、私は、弓矢を構えて矢を射る。
お兄ちゃんもドレッド・ベアに斬りかかる。
ヴィヴィは、サポートに回る。
だけど――――――――――――
ドレッド・ベアにアルテールが薙ぎ払われる。
ドレッド・ベアは走り出し、突進でお兄ちゃんは飛ばされる。
「お兄ちゃん!!」
私は、お兄ちゃんに慌てて駆け寄る。
「大丈夫?」
私がお兄ちゃんに聞くと、「ああ。 大丈夫だ!」と返事が返ってくる。
私は、お兄ちゃんの無事に安堵した。
ドレッド・ベアを逃がした私たちは、休息を取る。
無事だったとは言え、アルテールとお兄ちゃんの傷は深い。
ヴィヴィが2人の傷を治してくれた。
「ありがとうヴィヴィ。」
「ありがとう。」
私とお兄ちゃんはヴィヴィにお礼を言う。
ヴィヴィは嬉しそうに頷く。
それに引き換えアルテールは、「『ヒーラー』職は回復するのが仕事でしょ?」とヴィヴィを馬鹿にしていた。
『自分もヴィヴィに直してもらっていたくせに!!』
もう――――私の怒りは、すぐそこまで迫っていた。
私たちは、メイサの森でドレッド・ベアの捜索を続けるが、一向に見当たらない。
すると、アルテールが文句を言いだした。
「誰かさんが依頼を勝手に受けなければ、こんな苦労しなくて済んだのにね!」
お兄ちゃんがアルテールの言葉に傷つく。
「すまない・・・。」
なんでお兄ちゃんを傷つけるの? どうしてお兄ちゃんが謝るの?
『おかしいじゃない!!!』
「嫌なら来なければいいじゃない! 森の中で1人ぼっちになれば?」
私の怒りは、爆発した。
「いつもいつも文句ばっかり、自分の失敗を他人に押し付けて、みっともないわよ!」
私は、怒りを全てアルテールにぶつける。
「何ですって!? もう一回言ってみなさいよ!」
もう一回?何度だって何百回だって――――――――――――――――――――――
「言ってやるわよ! いつもいつも文句ばっかり! 自分の失敗を他人に押し付けんじゃないわよ!この役立たず!」
私は言ってやった。
アルテールはわなわなと体を震わせる。これは怒りだ。
「貴方とは、もうパーティなんて組めません! 解散です!」
アルテールはパーティの解散を宣言した。
「それはこっちの台詞よ! アルテールがドレッド・ベアをちゃんとガードして引き付けてくれないから逃げられたんじゃない!」
そう、それは私の台詞よ!そして、解散はあなたのせいなのアルテール!
「ふ、2人ともやめてよお~!」
ヴィヴィ止めないでよ・・・。こいつのせいでパーティはうまくいかないのよ。
ここで別れないと私たちはこの先ずっと――――――
「リリィ!いったん落ち着け! もう一度冷静に話し合おう!」
『お兄ちゃん!?・・・・私を止めないでよ!どうしていつもアルテールの味方をするの?
どうして!!!!』
「嫌よ! どうしてお兄ちゃんはアルテールの方ばかり味方するの!? どうしてよ!?」
お兄ちゃんは、うつむく。
どうして・・・。どうして答えてくれないのよ・・・・。
「お兄ちゃん!!!」
『答えてよ!!』
「俺は!!・・・・俺はアルテールが好きなんだ!!」
衝撃だった。
「・・・・・え?・・・・・・・」
アルテールが好き?・・・・どうして?
今までアルテールの為にお兄ちゃんは頑張ってきたの?
ずっと私とヴィヴィを利用していたの?
「リリィ・・・。こんな兄を・・・・。」
『許してくれ』と言おうとしたんだろうけど、言わせない!
「ゆるさない・・・。ゆるしてたまるもんか!!」
お兄ちゃんは私をずっと利用していた。
お兄ちゃんは私の事なんてどうでも良かったんだ。私が邪魔だったんだ。
アルテールとずっと居たかったから、私の怒りをなだめてきたんだ!
「リリィ・・・・・・。」
お兄ちゃんが私の名を呼ぶ。甘い声で私を呼ばないで!!
お兄ちゃんは両手を広げて私に近づいてきた。
だけど、私はそれを払う。
「私に触るな!!」
「っ!・・・・・。」
お兄ちゃんは弾かれた手を抑える。
「嫌いだ!・・・・嫌いだ!お兄ちゃんなんて!大っ嫌いだ!!」
その声に呼応したかのように、魔物の影がアルテールに襲い掛かる。
一瞬だった。
気が付けばアルテールの上半身は消えていた。
残ったアルテールの下半身はパタリと倒れ、血の池ができる。
お兄ちゃんは唖然としていた。
何が起こったか理解できていない。そして、遅れてやってくる。
アルテールが死んだという事実が―――――――――――
「あ・・ああ・・・あああああああああああああああああああ!!」
お兄ちゃんは泣き叫びながら、アルテールの下半身を抱き上げる。
そして、彼女の名前を呼び続ける。
「アルテール・・・・・アルテール・・・・・・・・。」
なんでこんな兄を持ったんだろう?
『ざまあみろ・・・・私を騙し続けた報いを受けたのよ・・・。』
私は、不思議だった。何も込み上げてこない。
アルテールは死んだ・・・嫌いだったけど、パーティを組んでいた仲間だった。
怒りも―――――悲しみも――――――なにも込み上げてこない・・・。
多分、アルテールを殺したのは魔物だ。
『じゃあ・・・どんな魔物?』
再び魔物の影が現れる。影はお兄ちゃんに向かって、襲い掛かる。
「あ・・・・・・・・・・。」
お兄ちゃんは死んだ。グシャッという音が鳴り響く。
一撃だった。
当たりに、お兄ちゃんの血と肉塊が散らばる。
ヴィヴィは腰を抜かして動けなくなっていた。
「あ・・・ああああ、あれは!?」
ヴィヴィはお兄ちゃんを襲った魔物を指さす。
私は、たったまま、アルテールとお兄ちゃんを襲った魔物と対峙していた。
「ドレッド・ベア・・・・。」
私たちの探していたドレッド・ベアだった。
無数の傷跡は紛れもなく、私たちがやったものだ。
ドレッド・ベアは私たちに見向きもせず、アルテールとお兄ちゃんを食べ続ける。
グシャ―――ゴシャ――――という音が聞こえる。
私はそれを呆然と見つめていた。
けど、ヴィヴィは違ったみたいだ。
ヴィヴィは震える手で杖を握る。そして、ドレッド・ベアに向けて攻撃魔法を放つ。
『ヒーラー専用魔法/第1番:光炎』
魔法は、ドレッド・ベアに直撃。
「や、やった!!」
ヴィヴィは座り込んだまま、喜ぶが――――――――――
聖なる炎の中からドレッド・ベアは姿を現す。
健在――――――ドレッド・ベアはヴィヴィの魔法を受けてもダメージをあまり感じていないようだ。
ドレッド・ベアはヴィヴィを睨む。
ヴィヴィは握っていた杖を落とす。
自分の渾身の魔法を受けて、ドレッド・ベアはピンピンしているのだから・・・。
「そ、そんなあー・・・・。」
ヴィヴィの最後の言葉だった。
ドレッド・ベアはヴィヴィに飛び掛かる。
ドレッド・ベアはヴィヴィを引き裂き、かみ砕き、捕食した。
残ったのは、私一人だけ―――――――――
「いい最後だわ・・・。」
ドレッド・ベアがヴィヴィを食べ終われば、次は私の番――――――
『もう、考えるのも疲れちゃった・・・。』
私は、フラフラしながら、ドレット・ベアにゆっくり近づいていく。
アルテールとお兄ちゃんに散々利用された―――――
その2人を殺してくれたドレッド・ベア・・・。
私は、『死んでもいい』と思った。
やりたいことは一杯あった。
『可愛い洋服が着たい。お店を立てたい。かっこいいお婿さんが欲しい。』
でも、私は、過去を忘れられない!―――――――過去を背負って生きていける自信がない。
こんな世界で生きていたくない!
生き残っても、私は――――――――――1人だ!
「いっそ・・・・死んで・・・・楽になりたい・・・。」
死んでしまえば、嫌なことも全部忘れられる。
私は、忘れてしまいたい。
「天国じゃなくてもいい!地獄に落ちてもいいから!・・・・・私を殺して!!!」
ドレッド・ベアが私の絶望の声に振り返る。
ドレッド・ベアが私に牙を剥く。
『ああ。死んだな私・・・・。』
これでいいのよ――――――――これで――――――――――
でも、『死はやってこなかった。』
私は、目を開ける。
目の前に、金髪で赤い防具を身に纏う冒険者の姿があった。
『あの時の・・・・冒険者ギルドにいた!?・・・』
彼は、ボアル・ベアの牙を剣を鞘に納めたまま、素手で受け止めていた。
私はその光景が信じられなかった。
「ガルムやれ!」
彼の肩にのっていた小さい狼が地に降りるとドレッド・ベアに攻撃を仕掛ける。
ドレッド・ベアは傷ついて行く。
小さい狼の攻撃速度が徐々に上がっていき、ドレッド・ベアの命を削っていく。
ドレッド・ベアは力なく崩れる、ドレッド・ベアは絶命したのだ。




