男は、試験を受ける。part6ーカイルvs試験官ー
男はカイルに作戦を授ける。「博打で卑怯な作戦だ。」
作戦1、相手の魔力量を消費させる。回復に回させない。
作戦2、砂を舞い上げ視界を奪う。
その隙に、試験官を攻撃!という作戦だ。
果たして作戦は成功するのだろうか・・・。
カイルvs試験官! 勝敗はいかに!?
『決闘場 控室』
俺は、控室に戻ってきた。
「ああー。 疲れた!」
『色んな意味で・・・。』
俺は、控室の椅子にドカッと座りこむ。
「おう! お疲れさん! レイダスはもちろん決闘に勝ったんだろう?」
ガランが俺に声をかける。
「ああ。 勝ったぞ。」
と俺が言うと「流石だ! はっはっはっ!」と背中をバンバン叩かれた。
『別に痛くないけどな。』
フェノールは離れた場所に座っている。相変わらず無口! 通常運転だ。
只、口角を上げて静かに笑みを浮かべていた。
俺がフェノールの表情を気にしているとガランが
「あいつもお前の試験合格を喜んでいるんだ!」と言っていたが・・・。
『本当にそうか・・・?』
「あ、あの!おめでとうございます!レイダスさん」
そこにカイルが近づいてきた。
「クウ―――ン!!」
ガルムも目を覚まして俺に飛びついてきた。ガルムは定位置である俺の肩にのぼる。
「ありがとう。 次はお前の番だな。青年。」
そう、残り試験者はカイルのみとなった。
カイルは、俺の言葉にビクッと反応する。
『あ、やば・・・。 緊張ガチガチモードのスイッチを入れたか?』
俺は、カイルのメンタルケアをすぐさま開始する。
「不安がるな青年。ガラン、フェノール、俺と順番に実技試験を受けてきたが、全員決闘に勝利している! きっと青年も勝てる。」
「そ、そうですよね! 俺も勝てますよね!」
カイルの元気が戻ってきた。
俺は、『メンタルケア』に成功したと、心の内でガッツポーズする。
「それでだ。青年に勝率を上げるための作戦を授けたいと思うのだが、聞く気はあるか?」
と俺は、カイルを指さす。
カイルは「はい!」
と元気よく返事する。
「では、青年に作戦を与える作戦はこうだ―――――――――――――――――――――。」
「では!行ってきます。」
作戦を授けて貰ったカイルは、受付嬢について行った。
受付嬢は去り際に俺をチラ見していたようだが、俺は気にしない。
――――――――――――『カイルが去った後の控室』――――――――――――
ガランが不安そうに俺に聞く。
「なあ。あんな作戦で本当に良かったのか?」
「なんだ? もっといい方法があると思うのか? 青年が決闘に勝利するにはあの方法しかない。」
俺の言葉にフェノールは頷き、ガランは黙り込む。
カイルは冒険者を名乗るにはまだ未熟だ。そんな彼でも勝てる方法を俺は教えた。
「悩んでも仕方ないだろう。 俺たちにはどうしようもないんだ。 控室で、彼が戻ってくるのを待つとしよう。」
俺は、昼寝を始める。
これは成功率が低い『博打』であり、『卑怯な』作戦だ。うまくいくかどうかはカイル次第・・・。
チャンスは一度きりだ――――――――――。
――――――――――――『決闘場 フィールド』――――――――――――
カイルと試験官は向き合う。
試験官は、カイルより頭一つ分身長が高い。細身な体形をしている。
互いに武器を構える。
カイルは、片手剣を試験官は『杖』を構えた。
『レイダスさんの言っていた通りだ。』
俺は、カイルに相手の職を教えていた。残りの最後の試験官は『ヒーラー』職
『ヒーラー』職は回復が可能な職である。戦闘は不向きとされているが、戦えないわけではない。
あくまで不向きなだけで、『ヒーラー』職にも攻撃用の魔法は存在している。
監督役が試験の合図をかける。
「これより、実技試験を開始します!」
「始め!」
試験官が、合図と共に魔法を唱える。
『ヒーラー専用魔法/第1番:光炎』
光り輝く聖なる炎がカイルに襲い掛かる。
「うわ!」
カイルは、魔法を左に避ける。
試験官は続けて魔法を唱える。
『ヒーラー専用魔法/第1番:光炎』
『ヒーラー専用魔法/第1番:光炎』
2つの聖なる炎がカイルに襲い掛かるが、カイルは必死に避ける。
これは、俺から指示された作戦の1つだ。カイルはそれを実行に移している。
作戦その1 攻撃魔法を避け続け、相手の魔力量を消費させる
カイルの防御は低い。攻撃を数発受けただけで動けなくなるだろう。
ただし、それは当たればの話だ。
『ヒーラー』職は攻撃魔法を持っている。当たれば、カイルからしたら痛いダメージになるだろう。
しかし、『ヒーラー専用魔法/第1番:光炎』は攻撃速度が遅い。
無ダメージのカイルなら、なんとか避け続けられる。
魔力量を消費させるのは、回復魔法を使わせない為でもある。魔力量が減れば、魔法使用回数も減る。
決闘は、1対1だ。魔力量を自動回復する時間はほぼないと言っていいだろう。
『ヒーラー専用魔法/第1番:光炎』
『ヒーラー専用魔法/第1番:光炎』
カイルは放たれる魔法を避け続ける。
試験官はここにきてカイルの狙いに気付く。
試験官は攻撃魔法を中断。 カイルからさらに距離をとる。
ここでカイルは、2つ目の作戦を決行する。
片手剣や足を使い、砂を舞い上がらせる。
カイルは、試験官に近づきながら、それを繰り返す。
風の流れを感じながら、砂をうまく試験官にかぶせる。
風がカイルを味方したのか
砂埃はフィールド全体に広がる。お互い視認するのが困難な状況になっていた。
これが―――――――――
作戦その2 視界を奪う
視界を奪えば、相手がどこから攻撃してくるか分からない。それを利用する。
「クゥッ! 卑怯な!」
試験官は砂埃で、カイルが見えていない。
『ヒーラー専用魔法/第1番:光炎』
『ヒーラー専用魔法/第1番:光炎』
と魔法を放つが、カイルの悲鳴が聞こえない。
当たっていないのだ。
試験官は、周囲を見渡す。すると後ろから、何者かが迫っているのに気づく。
振り返るが、誰もいない―――――
試験官が振り返った直後、試験官の背中に痛みが走る。
「ぐああ!」
背中を襲う痛み。試験官は、再び振り返るが、誰もいない―――――
試験官を襲ったのは『斬撃』。
カイルの斬撃だ。
試験官は、背中に続いて、右腕を斬られる。先ほどよりも深く斬りつけられ、試験官は『杖』を落としてしまう。
「うあ!! グッ・・・。」
試験官は思う。『何故こちらの位置が!・・・・私が見えている!?』砂埃で視界を奪われているのは同じはず・・・。なのに、こちらの居場所が分かっているかのような動きに試験官は、動揺する。
試験官は落とした杖を急いで拾おうとしたときに、左足が斬りつけられる。
「あああ!!」
試験官は痛みに耐えきれず膝をつく。
『ヒーラー』職は後方支援が主な役割である。
近接戦闘で戦い続ける『剣士』職や『騎士』職等とは違い、『痛み慣れ』していない。
それは、この世界での『ヒーラー』職の弱点だ。
俺の作戦はそこを突いている。
カイルだけが視界が見えているのは、砂が目に入るのを無視しているからだ。
カイルは、冒険者になるためなら砂が目に入る痛みぐらい我慢できるのだ。
痛みに苦しむ試験官にカイルは近づく。『これで・・とどめだ!!』カイルは剣を振りかぶる。そして、振り下ろす。
しかし、試験官はカイルの存在に気付く。
『!? 気づかれた!』
カイルは未熟だ。気配を隠し切れなかったのだ。
俺は、この状況を想定していた。――――『カイルの剣と試験官の魔法 どっちが上をいくのか・・・。』
カイルには、「気配を感づかれることも想定して動け」とは言ってある。
カイルには、この状況を打開しなければ勝ち目はない。
しかし、カイルの剣は、止まらない。止められない!
杖がなくとも威力は落ちるが試験官は魔法が使える。
『くそ! やるしかない!』
カイルは魔法を受ける覚悟で、試験官に剣を振るう。
試験官も残りの魔力量を消費し、魔法を発動させる。
「うおおおおおおおおおおおお!!!」
「うああああああああああああ!!!」
2人の勝利への執念がぶつかり合う。
『ヒーラー専用魔法/第1番:光炎』!!!
「くらええええええええええええ!!!」
試験官の魔法がカイルに直撃する―――――――――
カイルの剣が試験官を斬りつける――――――――――――
そして、砂埃が風に流れて――――――――――――消えた。
監督役は、2人の姿を目にする。
カイルは攻撃魔法の直撃を受け、装備が壊れた。皮膚は光炎で焼かれ、黒くなっている。
口からは少量の血を流している。
試験官は、カイルの渾身の一撃に肩から心の臓にかけて深々と斬られていた。
「ゴフッ!」
「ガ八!」
カイルと試験官は同時に倒れる。
どちらも瀕死の状態だ。
監督役が2人のそばに駆け寄り、2人の治療を行いながら
「引き分け」と宣言しようとした時だった。
「ゲホッ! わたしの・・・・負けだ!」
試験官が降伏を宣言した。
監督役はそれを聞き、改めて宣言する。
「実技試験! 決闘! 勝者『カイル・ラ―ギンス』」
「・・・・・・。どうして・・ですか?」
カイルは、監督役に治療されながら、試験官に尋ねる。
「お前の・・戦いぶりは・・・見事だった! 私は・・・決闘・・する前から・・お前を・・格下と見下していた・・・。しかし、・・・誤算だ・・・たな。 私が・・負けるとは・・・」
カイルは試験官の言葉を黙って聞いていた。
試験官が自分の事を評価してくれている。それはとても嬉しかった。
でも、カイルは、試験官に言いたかった。言わなければいけないと自分が自分を駆り立てる。
「ち・・・がうんです。・・・・俺だけの・・・力じゃ・・・ないんです。」
「??」
「俺は、こうして・・・試験官の・・方に・・・みとめて・・貰うまで・・・沢山の・・人たちに・・・助けて・・もらいました。
俺は・・・自分が・・・弱いこと・・を知っています。・・・こうして・・・あなたに・・・勝てたのも・・奇跡みたいな・・ものです。
ある人が・・俺に戦い方を・・・教えてくれ・・ました。・・・作・・セン・・・をたてて・・・くれました。・・・・俺は・・・・もっと―――――強くなりたいです。」
試験官はカイルの言葉に笑う。
「ふふふ・・・。自分が・・・弱い・・か。
お前は・・・・まだ・・まだ・・強くなれる・・よ。カイル・・・ラ―ギンス」
2人は、空を見上げたまま、治療を受け続ける。
―――――――――こうして、実技試験は幕を閉じた。―――――――――――
試験合格者8人中、4人。
レイダス・オルドレイ
ガラン・レーガン
フェノール・スタレイン
カイル・ラ―ギンス
は冒険者ギルドに認められ、冒険者と名乗ることを許されたのだった。
神様「緊張ガチガチモードwwwwwwww」
男「笑いすぎでは?」
神様「ツボにはまった。 ひ――www 腹いたいwww」
男『カイル=緊張ガチガチモードw』




