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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~最終回~
217/218

最終回 Aパート

※決戦編part16からどうぞ!


時が動き出す―――


「望んで良い筈が・・・無いだろう。」


「え?」


「レイ・・・ダス?」


彼らの頬に血が飛び散る。

重力で下に滴るそれは、彼らのものではなかった。

敵である創造主が自身の心臓に剣を突き立てる光景を彼らは信じられない。

新手の幻術か?と否定したい気持ちもあるが、

先ず、彼らには整理が必要だった。


話しをしていた―――

会話をしていた筈が―――どうしてこうなった?


創造主は俯いており、表情は読み取れない。

口元だけがちらりと見えたガランは「笑っている?」と呟いた。

そう、彼は笑っていた。


彼の望んだ結末―――


創造主は・・・いや、俺は人間として人生を謳歌出来ないと悟った。


姫様を殺した、テペリを殺した、リリィを殺した、オーキスを殺した、

エーテルを殺した、リーゼルを殺した、クレアを殺した、アドラスを殺した・・・。

数え切れない程殺してきた。


どれだけ、未来を連想しても望む結果は生まれない。

俺に想像力が足りていないのかもしれない。

だが、これだけは言えるのだ。


「俺は何度も同じ過ちを繰り返すだろう。」


新たな世界を生み出して、人間として生きるのも有りだと思った。

彼らの魂を別世界へと移して、同じ世界を生きるのも有りだと思った。

でも、幸せになれるイメージが湧かない。

人間が再び増殖し、繁栄したとして―――神が再臨するのだ。


神アデウスが俺を殺しに来るだろう。

俺は憎悪に呑まれるだろう。

繰り返し、繰り返し、巡ってくるのだ。

だから、俺は俺を終わらせるしかなかった。


俺が唯一幸せになれる方法は、死ぬ事であり、人生をあきらめる事―――

それが、俺の望んだ結末だ。


「ガフッ!」


『ああ、いいね・・・赤色は好きだ。』


俺は血を吐いて、手にぬるりとした感覚を覚える。

自分が大量に流した血を見るなんて久しい経験だ・・・。


そして、俺の膝が折れる。

吐き出される血の量は尋常ではなかった。

すると、真っ先にセレスとガルムが駆けてくる。

「レイダス様!?」と慌てた表情は非常に珍しい。

ガランとフェノールも倒れかける身体を支えてくれて、涙を流していた。


『なんで泣いてる・・・俺は敵だろ?』


そうだ・・・俺は敵だ。大量殺戮を決行し、

世界を滅ぼそうとした、結果的に世界を滅ぼす元凶となった俺を心配する理由が

何処にある?


「っ! レイダス!お前なんて事を・・・止血だ!

なんでもいい、フェノール布くれ。」


「うん。」


「クッソ! 心変わりしたなら先に言えよ!」


ガランは俺の腹に刺さった剣を少しずつずらしていく。

セレスも回復魔法で治療を始めるが、傷は一向に癒える気配を見せない。


「ッ! 治らない!」


「なんで!? もう一回だ!」


当然だった。

自ら心臓に刺した剣は、神々が俺を殺す為に作り上げた彼らの中で至高の一品。

この世界の回復魔法程度で治る筈が無かった。

そして、血は奥から奥から溢れて止まらない。

口からも血が溢れて来て、次第に苦しくなっていく。


何度も味わった感覚が戻ってくる―――


『俺は死ぬ。創造主である俺が断言しているのだから、そうに決まっている。』


決めつけのような物言いだが、事実なのだ。

血の巡りが悪くなり、瞼が重くなる。

いっそ、閉じてしまいたい・・・。


「おい・・・レイダス! 寝るな!」


寝るのではない―――俺は死ぬのだ。

帰りたかったあの場所に、帰るべきあの場所に、俺は旅発ちたい。

人間達には巻き添えにして悪いと思う。この感情は良心だろうか?

最後に余計な感情移入で、心残りをしたくないのだが、

セレスとガルムを見ていると死ぬに死ね無くなってしまう。


『世界を一つだけ残すべきか・・・。』


人間には、世界を創造出来ない。では、俺がやるしかないだろう。

俺は手を地に触れて、世界を上塗りする。

修復ではなく―――上塗りだ。

下地を隠すように空の上に空を重ね、空いたスペースには新たな大地を創造する。


城の窓から見える光景は、彼らが知る世界とは全く異なるだろうが、

冒険心でも躍らせて、満足してくれれば良い。

これで、ガラン達は俺を治そうとはしなくなる筈だ。

彼らの目的は世界の修復なのだから・・・。


「フェノール、まだ清潔な布はないか!?」


「ある・・・少しだけ!」


それでも―――彼らは俺を諦めない。


「レイダス・・・お前が生きていないと何の意味もないんだよ!

だから、死ぬな!」


「お願い・・・生きて! お願い!」


俺には彼らの必死さが分からない。

俺が生きて何になると言うのか?

敵が死んで喜べば良いではないか。


それとも、新たに創造された大地に気付いていないのか?

いや、先程彼らの視線は外を向いていた。

気付いていない筈が無い。

等と考えていると、変にエネルギーを使ってしまった。


『オルドレイ・・・俺は何をしても間違いばかりだ。』


『そういう時もあるさ。』


『生き続けたら、いつか成功したのかな?』


『どうだろうな。』


『俺は、幸せ・・・だったのかな?』


『多分、俺達が気づいていなかっただけなんだろうな・・・。』


『俺は馬鹿なんだな。』


『そうだな。俺達は馬鹿だった。』


目の前に答えが合ったにも関わらず、俺は目を背けていた。

気づける筈が無かった。でも、最後には気づけた。

・・・それだけで十分。


「レイダス!逝くな! 俺は・・・まだ、お前に謝れてねえんだ!

頼むから・・・俺に謝らせてくれよ!」


ガランの顔は涙でグシャグシャだった。

胸の剣を抜くべきか戸惑う手は震えていて、七天塔での事を話し出す。

俺を止められなかったと、弱音と後悔ばかりを口にする彼の姿は小さく見える。

隣に居るフェノールも顔を俯かせて、膝に置く手は震えていた。


『ずっと、気にしてたのか。』


「謝る・・・必要は・・・ない。ゲホッ!」


「レイダス!?」


俺は荒い息を上げる。

実際、血を流し過ぎてフラフラしていた。


「ゼ―・・・こういう時は・・・ゼ―・・・見送るだろ、普通。」


「出来るかよ!?」


俺は力を振り絞って、ガランの胸ぐらを掴む。

血の付いた手と俺の瞳で真剣さが伝わってくれるとありがたい。


「やれ、俺はもう・・・楽に、なりたいんだ。」


努力はした。やれる事もやった。

それでも俺は人間になれない。希望や夢や理想を胸に抱けない。

俺と彼らとの決定的な違いだ。

なにより、幸せに気づかず、自ら不幸になっていた俺に幸せを掴める筈もない。


頼む、頼む、頼む、頼む、頼む、頼む・・・。


「俺を・・・帰らせてくれ。」


俺の手から力が抜けるとガランは「分かった。」と頷いた。


「ガラン!」


「いいんだ!・・・レイダス、これでいいんだろう?」


俺は笑って見せる。

創造主でもなく、殺戮者でもなく、一人の人間として見送られるのは悪くない。

彼らは俺が居なくなってからどうするだろうか?

この世界を必死に守り、人間の醜さと尊さを露呈させ、

様々な出来事に直面するのだろうか?


『結局、俺は・・・。』


復讐に駆られ、最終的には自分の思う通りに走り切った。

だけど、何も残せず、何も成せずに死んでいく。

残念さと無念さに気力を無くしつつあると、セレスが俺の前に跪く。

ガルムは、俺の手を鼻で跳ね上げて上に乗せる。


『ああ、あるではないか・・・。』


俺は残せなかった訳ではなかった。これも、気付けていなかっただけだ。

セレスとガルム―――俺の大切な(・・・・・)この世界で(・・・・・)の家族(・・・)

俺の身体が脱力すると、彼らは叫ぶ。

薄れていく肉体は消失して、

仰向けになったカイルの瞳からは涙が止めどなく溢れていたが、彼は隠していた。


――――――。


あれからどうなったのか・・・。

体が軽い―――いや、身体は無かった。

足も無ければ、腕も無く、頭も無ければ、目もない。

俺は如何やら死んだらしい。

創造主としてあの世界に居た俺は、輪廻の輪を通らずに、我が家へ帰宅した。

肌は無いが、外部から感じる静けさと混沌とした空気は相変わらずで、

俺の心は落ち着いている。


『オルドレイ。 俺達は帰ってきたぞ。』


『ああ、帰ってきたな。』


創造主としての力を使う気も起きなければ、動く気もさらさらない。

俺は、ずっと留まり続ける。

やっと死んで、帰って来れたのだ。肉体を得て溜まるものか・・・。

と思っていると遠くで温もりを感じた。

ほかほかと太陽のように温かい光に俺は惹きつけられていく。


『何だろう?』


目は見えないが、外部はガヤガヤと騒がしい。


「スメール山脈に挑むってあんた正気なの!?」

「おうよ!これでもlv80なんだぜ? いけるいける。」

「何処から来る自信よ!」

「全くです。世界の守護者じゃあるまいし、冗談はほどほどにして下さい。」

「お前は見た事あるんだっけ?その・・・。」

「世界の守護者です。」

「そうそう、それそれ。」

「それじゃないでしょ・・・。」

「創造神の使いだそうで、外見に寄らず、凄まじい実力の持ち主です。

なんでも人間から外れた者を裁いて回っているとか、確か今年で丁度1000歳・・・。」

「え?」

「俺はレーガン一族の人間だぜ? 負ける訳ねー!」

「それを言うなら私だってフェノール様が編み出した新魔法を

この身に授かってるわ!」

「どうせ、効果薄いだろ?」

「なんですって!?」

「まあまあ、二人共落ち着いて・・・。」


冒険者だろうか?

二人がいがみ合い、カイルの声に似た一人が宥めているのが分かる。


『人間・・・か。』


残された世界は一つだけ。

その世界で、人間は日に日に増えている様だ。


『気になるか?』


『気にならないって言ったら嘘になる。』


『だろうな・・・。』


『でも、俺は見てるだけで良いよ。』


俺は人間にはなれない。

未だに自分自身は嫌いだが、

愚かで、尊くて、儚くて、そんな人間に興味があり、今では好きだと言える。

まだ、神々の存在は確認されていないし、もう少し様子を伺おう。


『耳しかないけど・・・。』


「そういや、創造神ってどんな神なんだ?」

「んー、私も具体的には知らないかな。おばあちゃんからは悲しい神様って聞いたわ。」

「悲しい神様?」

「うん。名前は知らないけど創造神以外にも神様が居たらしいの。

その神様が創造神の逆鱗に触れて、創造した全てを破壊したらしいわ。」

「へー。」

「始まりの神とも呼ばれていて、人間を創造したのも創造神ですよ。」

「マジか!?」

「世界の守護者を創造したのも創造神で、本人はとても誇らしげでした。」

「ひょえー、スケールがデカいな。」


『もしかしなくもないが、創造神って俺の事か?』とオルドレイに尋ねると、

彼は『もしかしなくもないな!』と笑っていた。


「でも、世界の守護者は創造神を人間として見て欲しいって言ってました。」

「え? なんで?」

「彼は人間になりたくても許されない宿命にあったそうです。」

「どういう事?」

「一時期、人間として転生していたそうですが、彼は不幸でした。

人間に惹かれても、彼は苦しいだけだったそうです。」


『『・・・・・・。』』


「悲しい理由が分かるわね。」

「だから、世界の守護者は彼が転生しても幸せであれるように、下準備をしています。

僕のラ―ギンス家もそうですから。」

「俺の家もそれっぽい事言ってたかもなー。

ご先祖様は兎も角、創造神絡みになると親父が豹変するぞ。」

「私もそうね。おばあちゃんに両肩を鷲づかまれて、頭をシェイクされたわ。」

「あははは・・・ご愁傷様です。」

「ほんとよ!」

「全くだ!」

「でも・・・幸せになって欲しいわね。」

「そうだな、人生は楽しくてなんぼだからな!」


ガランのような笑い方をする男と、フェノールの子孫らしき女は笑う。

姿形は分からずとも、話しを聞けて俺は嬉しくなった。

俺が創造した世界には幸せが待っている―――

顔が無いのに、顔が緩む感じがするのは人間の名残が残っているからだろう。


『行きたいか?』


『行きたいけど、俺には幸せを掴めない。』


目の前の幸せに気付けない俺が幸せになれる保証は何処にもない。


『それでも行くべきか?』


『以前とは違う。 お前には味方が居るだろう。』


『味方・・・仲間・・・家族・・・?』


言い慣れない単語にオルドレイは『そうだ。』と言う。


『ああ、そうだった。俺は又忘れる所だったよ。』


人間に気持ちは早々に伝わらないし、理解はされないし、恨みや憎しみは湧く。

殺したくもなるだろう。

尊く、哀れで、愚かで、優しくて、温かい人間に存在理由は無く、

彼らは只々生にしがみ付く。

神という居るか居ないか定かでない存在を信じ、運頼みだってする生き物。

マイナスしか持っていない人間ではあるが、彼らには可能性がある―――

いつかは伝わる―――


それがいつになるかは分からないが、必ず分かってくれる。

人間は捨てたものではないのだ。

不器用で、どうしようもない愚か者も彼らは受け入れてくれるだろう。


俺はレイダス・オルドレイ、元人間―――


俺のあきらめていた人生は、ここから始まって行く。


無事、最終回Aパートを迎えました!うわああん、最後まで書けました。

殴り書きでここまで来れて、ホッとしていますw

ここまで読んで下さった方ありがとうございます!<(_ _)>


※期間は空きますが、新しい小説を投稿していく予定ですので、

 これからもよろしくお願い致します!


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