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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~決戦編~
215/218

決戦編part15


オルドレイが牙を剥く―――


「何故? どうして?」と言うよりも先に彼は動き出していた。

手にするは大鎌―――命を刈り取る死神の象徴。

振り下ろされる大鎌を避けると同時に「ぐっ!」と声を漏らした俺は追撃を受けた。


繰り出された蹴りで押し出された俺の身体は宙を舞うが華麗な着地をして見せる。

だが、見上げればそこに彼が居る。

止む無く、創造によって生み出した剣を使用するが、

彼の一撃を真面に受けて無事で済む筈が無い。


大鎌を受け止めた刀身には亀裂が入り、床に足が埋まって行く。

『俺が何をした?』と考えても答えは出ず、歯を噛みしめるばかり・・・。

そんな俺に苛立ちの表情を見せるオルドレイは言った。


「無自覚で居られるのここまでだ! 覚悟を決めろレイダス!」


覚悟?覚悟ならしたではないか―――


「上っ面な覚悟は覚悟とは言わない!」


オルドレイの力が増す。

プレッシャーと純粋な腕力が本気を物語っていた。

『このままでは、潰される!』と判断した俺は剣に込めていた力を徐々に抜き、

左へと滑らかに流す。

けれど、オルドレイには俺の考えが駄々洩れだ。


距離を取ろうと下がった瞬間を狙われ、間合いを詰められる。

彼が手にしていた筈の大鎌の姿形は無く、代わりに剣が右手に握られていた。


「それは!?」


俺は驚愕する。

忘れる筈が無い。

忘れられる筈が無い。

彼の握り締める剣は過去に俺達を襲撃した神々が研究に研究を重ねて生み出した

創造主(俺達)を―――レイダス()を殺せる唯一の武器。


目にした瞬間、俺の中の何かが弾け飛ぶ。

()を向けられて悲しいのか?怒っているのか?

その衝動がオルドレイに同じ物(・・・)を突きつける。


「っ!?」


ザザ・・・ガガガ・・・覚醒・・・ガガ・・・・


瞬間的な覚醒を予期していなかったオルドレイは咄嗟に上体を右へ逸らすが、

左頬の皮が薄く斬れる。

俺の中では負の感情が渦巻いて、黒い瞳は彼を捕まえた(・・・・)

ピタリと身体を固定されたオルドレイは、強制転移で脱出。


そして、己の思考を無視した剣が空を斬った―――

時空が裂け、物体の一部が呑まれて消えて行く。


それだけに留まらず、俺の一撃は床を悉く破壊した。

最上階の隅まで行き渡った衝撃は大地を揺らし、俺達を落下させる。

そうして、四階層へと落下した俺達は最上階の瓦礫の上に立っている。

「プチッ!」と虫を潰す様な音がしたが、恐らくエーテルの死体だろう。

配置していた鏡も砂時計も瓦礫の下敷きで、破片が俺達の姿を映し出す。


「なんだ!?」


「くっ!?」


三階層の人間達は激しい揺れで立っていられず、地べたに這いつくばる。

天井には微かな割れ目が見え、階段は崩れ去ろうとしていた。


「休憩している場合じゃねー! 崩れる前に行くぞ!ガラン、もう平気だな?」


「ああ、大分休ませて貰ったからな。」


「では、私が先導します!」


彼らは揺れでふらつきながらも、階段を駆け上がる。

落下する瓦礫を執事と狼、アドラスが弾き返し、粉砕。

ガランとカイルがフェノールを引っ張った。


だが―――足場がもたない。


「のわっ!?」


アドラスが踏んだ箇所が崩れ落ちる。

バランスを失った彼の身体は階段から投げ出された。


「アドラス!」


ガラッドの伸ばした腕が届く筈もなく、彼は身を投げる決断をする。


「若い奴が死ぬには早い!」


そうして、掴み取ったアドラスの腕。

しかし、このままでは二人共、落下と落石で死ぬだろう。

ガラッドは自慢の腕力でアドラスを階段の方角へ放り投げる。


「うお!?」


アドラスはギリギリ階段に届いたらしく、執事と狼に引き上げられた。

だが、ガラッドは―――


「ガラッドさん!」


「おっさん!」


「行け!振り返るな!」


ガラッドは笑って見せた。

最後に辛気臭い顔で死ぬなど彼の性格上有り得ない。

なにより、先達者の足枷にはなりたくなかった。

そして、光が差し込み、辿り着いた先で彼らは意外な光景を目にする。


創造主同士が取っ組み合い、俺が下となっていた。

俺の握り締めていた剣は床に転がり、逆に肩には剣が突き立てられている。

流れ出る鮮血、苦痛に顔を歪める俺の視界の端には彼らが映りこんでいた。

彼らが登ってくると察知した瞬間、俺の気が緩んだ結果が現状だ。


その隙を突かれて、首から押さえつけられた俺は床を背にした。


「ぐぁ・・・!」


「お前の感情はお見通しだ。人間を前にしても殺気が湧かない・・・。

つまり、口先だけって事だ。」


オルドレイは険しい表情で俺に顔を近づける。

瞳には俺がハッキリと映り込み、鼻を鳴らすと手を離した。

むせ返る俺を無視して人間達の方へと歩いて行く彼を俺は只眺める。


「野郎・・・っ!?」


「か、身体が!?」


彼らは武器を構えるが、そこから先の動作が出来ない。

オルドレイの視界に入った以上、彼らの死は確定事項であり、逆らえない天命なのだ。


「最上階が無くなっちまったからな。 ここが最終ステージ。

死ぬ覚悟は出来てるだろう?」


淡々と語り、邪悪な笑みを浮かべるオルドレイの手には、

新たに創造された刃物が握られている。

足取りは軽く、楽しみを最後に取って置こうとしない彼の姿勢は人間側にとって恐怖だ。


時間は与えない。走馬灯すら見る事なく死んで行け―――

彼の心が読み取れた瞬間だった。


「ぐっ!」


彼らはオルドレイの呪縛から逃れようと腕や足に力を籠める。

血管が浮かび上がり、激しい抵抗をしているのだと理解できているが、

脳に直接指令を出されている為、意志が強かろうと弱かろうと意味を成さない。

その時、俺の鼓動が高鳴った。


ドクン―――


『俺は何をしている? 全て、オルドレイに殺さ(やら)せるのか?

違う・・・違う!そうじゃない!

あいつの真意を俺は見抜けていない。』


俺は歯を喰いしばる。

あいつは俺で―――俺はあいつ。二人で一人の創造主。

だが、繋がりを片側に断たれては、相手の動きが読めない。

考えが分からない。理解出来ない。


『俺には・・・何も出来ないのか?』


俺達の復讐は成就される筈なのに、何故胸が苦しくなるのだろう・・・。

思い出せ―――この気持ちは俺が忘れてしまった物だ。

思い出せ―――オルドレイが内側から囁き続けた言葉を。

思い出せ―――あいつがこれまで俺にしてくれた優しさを。

そうして、俺が思い出したのは、あいつが俺にかけてくれた言葉だった。


「凄いのはお前だよ。」

「お前を一人にはしない!」


そうか―――お前は今でも俺を(・・・・・)待ち続けて(・・・・・)いたんだな(・・・・・)・・・オルドレイ。

俺が結論に至る頃、オルドレイは既に彼らの目の前に立っていた。


「簡単には殺さん。 永久に等しい苦痛を味わえ。」


「やれるもんならやって見やがれ! お前に負けてたまるかよ!」


「ほう・・・威勢の良い奴だ。 では、お前から―――」


オルドレイの手がアドラスに伸びる。


「アドラス!」


「アドラスさん!」


瞼を閉じて、苦痛に耐える準備をしているアドラス。

一度折れた心だが、物理的な痛みなら大決闘演武大会でも味わった。

あれと同程度、それ以上だとしても彼には耐えられる自信がある。

しかし―――


「・・・・・・。」


苦痛は訪れない。

激痛の余りに痛みを感じていないのか?と疑ってしまうアドラスだが、

瞼を開けず、確認しない訳にもいかない。

そして―――瞳に有り得ない光景を焼き付ける。


オルドレイの腹部に深々と一本の剣が刺さっていた。

背後には柄頭を押し込む俺の姿がある。

肩口から鮮血を流し続ける俺だが、今までの痛みに比べれば屁のような物だ。


「レイダス・・・覚悟が、出来た・・・みたいだな。」


オルドレイは振り返って、俺の顔を見る。

微笑んで、俺に伸ばす手の平には血がべっとりと付いていた。

俺の頬に触れる彼の手は温かくて、優しくて、俺が懐かしみ、

過去で、夢で、彼がしてくれた行為だった。


「ああ、この先は俺が決める。 お前は・・・眠ってろ!」


「それで良い・・・それで・・・。」


ザザザ・・・覚醒・・・完・・・了・・・ガガ・・・


オルドレイは力なく崩れると俺の中へと消えて行く。

光る粒子は幻想的で、人間達は見惚れていたが、俺は悲しかった。


俺の所為で今まで苦しめてしまったもう一人の(オルドレイ)

俺の気持ちを代弁し、俺の代わりに憎しみと恨みを一身に受け止めてくれた(オルドレイ)

俺の代わりに行動し、舞台を用意してくれた(オルドレイ)


オルドレイが肩代わりしてくれたから、俺は俺で居られた。

若干の漏れが俺の精神に異常を発生させたが、あれでも効果は薄い方。

もし、オルドレイが居なかったら、世界は疾っくに無くなっていた筈だ。

恨みのままに、憎しみのままに破壊して、人間達と神々を見定める所では無かった。


『まだ、間に合うだろうか?』


彼は囁く―――『お前の道はお前が決めろ。』

彼は囁く―――『俺とお前は一緒だ。』


彼は「殺せ」とも「存在意義を示せ。」とも「復讐を果せ。」とも、最早言わない。

何故なら、俺が決める事柄だからだ。


死を味わった―――地獄を味わった。地獄を見た。地獄を見た。

俺は創造した者として、世界の存続か、破壊かを決断しなければならない。


『まあ、記憶を取り戻してからの話しだが・・・』


俺は人間達にちらりと視線を向けた。

先程の殺し合いを目撃して人間達は呆然と立ち尽くしていた。

武器を構える、戦うという意思が欠落してしまったのか、

肉体に漲っていた気力は失せている。

そんな中、俺に平然と近寄ってきたのは執事の傍に居た狼だ。


「あ、危ない!?」と青年が声を張り上げるが、俺はしゃがんで狼の頭を撫でる。

気持ちが良いのか「クウゥ―ン。」と声を漏らして、

お腹を見せる狼に増々呆然とする人間達。


「む、これでは話が進まんな。」


俺が立ち上がると狼は、名残惜しいのか耳と尻尾を垂らす。


「おい、そこの人間。」


「は、はい!」


呼んだのは、オドオドとした青年だ。

手に巻き付いた記憶の糸を消さないと記憶が戻ってこない。


「手を前に出せ。」


「・・・・・・。」


彼は警戒して、手を逆に隠すが糸は見えている。

俺は糸を手繰り寄せて引っ張った。

すると、「プツン!」と音を立てて、いとも簡単に切れた―――と同時に記憶が戻る。

膨大な情報量で、普通なら気を失う所だが、生憎俺は創造主。

平然と耐えて見せ、髪をかく仕草をする。

そして、一息置いた俺は真剣な表情をして、両手を広げた。


「カイル、ガラン、フェノール、アドラス、セレス、ガルム。

ようこそ最終ステージへ。 さっきは驚かせたが、やる事は変わらない。

場所を移して殺し合おうか。」


それに待ったをかけたのはカイルだった。


「俺達はあ、貴方にお願いをしに来たんです。 戦う意思はありません。」


「お願い?」


俺は目を細めた。

『さっきまでオルドレイに武器を向けていたではないか。』と―――


「残念、記憶は戻った。総合的に判断しても人間は不必要な生き物だ。

それに、そこの女は俺を殺す気満々らしいから、相手をしない訳にも行かないだろ?」


俺が指さした先には赤子を抱くフェノールが居る。

瞳には憎しみの炎が灯り、彼女は魔導書を開いていた。

『この場でおっぱじめても良い。』と言っているような態度は、俺が招いた結果だ。


「赤子を巻き込んでも良いんだな? フェノール。」


「どっちみち・・・死ぬなら・・・意味ない。」


「ほう。 諦めてはいるが、夫の仇は取りたいと?」


ギリギリと俺の所にまで歯を喰いしばる音が聴こえて、

俺は笑みを浮かべる。

咄嗟に口元を押さえたが、負の感情は完全に払拭出来ていないらしい。


『ぶちまけるのは、彼らを始末してからだ。

最悪の場合、彼らを甚振ってしまうかもしれないが、それはその時か?』


周囲の人間達が否定しない所を見ると、どうやら決まりらしい。

場所を移す気もないようだ。


「では、お前達の土俵で戦うとしようか。」


俺は距離を取り、両翼で身を包むと、姿形を変え、装備品を創造する。

そうして、姿を現した俺に彼らは目を丸くして、

フェノールは咆哮を上げて走り出した。

至近距離から顔面目掛けて発射される「《魔法/第9番:フレイム・フロウル》」を

腰から引き抜いた片手剣で両断した俺の身なりは彼らがよく知る格好だ。


金髪に赤い布が巻かれ、赤い服の上から装備された防具は特別頑丈。

腰に携える剣は業物である。

良心の俺は遠くで笑っていて、

セレスは「お懐かしい・・・。」と声を漏らした。


「さあ、死にたい者からかかってくるが良い。」


俺は片手剣を正眼に構えて、人間達を残滅していく。

最終回が近づいてきました・・・。

まるっと収まって行くか分かりませんが努力します(・w・)キリッ!

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