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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~決戦編~
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決戦編part14


最上階に戻ってきてから三日が経過しようとしている。

俺達は老化しないが、時間に対して気長という訳ではない。


「オルドレイがやり過ぎるから・・・。」


「すまん。」


オルドレイは頭を下げて俺に謝罪した。

ちゃんと反省しているようで、肩を竦め、翼を斜め前に倒れ気味にしている。

渋い顔をしていて、黙って眺めていると面白い表情だなと思ってしまう。

本人は反省しているのに、失礼な男だ俺は。


「あれから上層へ移動しないな。円になって話し合ってばかりだ。

ケアがどうのこうの言ってるみたいだけど・・・

精神的にダメージが大きかったのか?あの程度で(・・・・・)?」


「執事がまとめているようだが、神エーテルの主張が目立つな。」


「確かに・・・。」


俺は椅子に座る足をプラプラと揺らしながら、透過で観察していた。

神エーテルは神オーキスの遺志を継ぎ、

元々の目的により一層尽力を尽くす姿勢を示していた。

気力を無くした人間達を使命感や責任感で立たせようと奮闘している様だが、

それで人間は付いて行かない。


何故なら、人間は利益と不利益を兼ね、やる気があってこそ動くからだ―――


執事は「多少時間が掛かっても休むべきだ。」と主張しているに対し、

彼女の意見はこじつけに過ぎない。

周囲は周囲で自分の事で一杯一杯な状況で「出来る訳ねーだろ。」と発言していた。

それでも、彼女は我を通す。

簡単に言うと「つべこべ言わず付いて来い!」だ。


「独裁者だなあー。」


追い詰められて、神エーテルは変わったと思う。

ああいうタイプになってしまったら、最後には毒を盛られて死ぬというのが定番だ。

そして、彼女がたじろいだ時、俺は「ふふふ。」と静かに笑い声を上げる。

彼女を見つめる人間の視線が―――瞳が良い色をしているからだ。


疑心と不信に満ちた目だ。もう、彼らは彼女に付いて行かない。


彼女の偽善者ぶりに飽きたのだろう。

俺も正直、後半から耳が痛かったのだ。

夢や理想は叶えば楽園だが、それは、叶えばの話し・・・。


では、叶わないと分かり切った夢や理想に誰が投資するのか?


俺だったら投資しない。

金をつぎ込むだけつぎ込んで、最後には「ダメでした。」という落ちは最悪だ。

彼女の偽善に巻き込まれて道連れにされて終わるのは御免だ。

それでも許せる輩は、相当な甘ちゃんだろう。

人間達も(彼らも)それを理解している。だからこそ、不信がるのだ。


「人間は自分が可愛い生き物だから・・・。」


俺は手の中に砂を創造して床にパラパラと落下させる。

砂時計のように流れ落ちる様は、寿命に思える。

宙を漂うオルドレイはそれを見て、何かを閃いたのかクスリと笑った。


「勝手にしろ! 私は行く!」


彼女は奥歯を噛みしめて、一人で上層へと向かって行く。

周囲が彼女を見捨てたのか?

彼女が周囲を見捨てたのか?

俺からしたらどうでも良い事だが、

敢えて述べるとするなら、見捨てられた側は彼女だろう。


「一人で突破出来ないよう設計されているとも知らずに、哀れだなあ・・・。」


俺は片膝を抱えて、顔を突っ伏す。

そして、片手に握られていた砂が等々無くなってしまった。

その時、オルドレイが俺を呼ぶ。


「遊ぼうぜ。」


彼の抱える大きな砂時計は人一人のサイズがある。

中身の砂は元は白い砂らしいが、感情で変化するよう創造したらしい。


「良いけど・・・これをどうするんだ?」


俺には使用用途がさっぱり理解出来なかった。

首を傾げている様子がその証拠である。


「あの女が一人で四階層へ向かったな?」


「ああ。」


「四階層の仕掛けにこれをセットするとどうなる?」


「・・・ああ、成程!」


俺は片手に拳をポンと置いて、納得した。


「オルドレイは本当に凄いな。」


思いつかない閃きをポンポン出しては、実行に移す行動力は見習いたいと思う。

そうして、彼は笑みを浮かべながら背を向けた。

「凄いのはお前だよ。」という呟きを俺は聞き取れなかったが、

彼は嬉しそうに踊り、口笛を吹く。

彼が楽しそうなら俺はそれで良い。

俺にとってオルドレイは大切だから・・・だけど・・・。


ドクン―――


「どうした?」


俺は首を振って「何でもない。」と言う。

胸の奥が一瞬だけ痛みを訴えた。けれど、ほんの一瞬だ。

『気にするほどでもない。』と判断した俺は、透過で四階層の彼女を覗う。

彼女は前後左右を見渡し、舌打ちをしていた。

それもその筈で、神エーテルが迷い込んだ鏡だらけの部屋が行く手を阻んでいた。


鏡を殴っても割れなければ、蹴りも無効である。

よって、彼女は鏡を避けて行くしかないのだが、上空を飛行できる彼女には関係のない事。


「甘いな・・・。」


だが、四階層の仕組みは二階層と似ている。

二階層では、宝玉を揃えるという条件を満たすと階段が出現する仕組みだった。

四階層も条件を満たさなければ、最上階には到達できず、その条件は少し残酷(・・・・)だ。


「オルドレイの閃きが輝く時だ。」


俺は残酷に、凶悪に笑って見せる。

彼女は俺達が転移させた砂時計の存在に気が付くと地に降り立つ。

怪しみながらも触れた矢先に砂の色が変色し、彼女は驚愕した。

手を放そうにも強力な磁石に張り付いたが如く動かない。

そうして、次第に焦りと困惑で表情を歪める彼女は鏡に映る自分の姿を目撃する。


皺皺に垂れ下がる皮膚、抜け落ちる髪、浮き出る骨の形状―――


「いやあああああああああ!?」


彼女の悲痛な悲鳴に俺は大笑いだ。

俺の腹筋は強いから腹筋崩壊とまでは行かないが、いつ以来だろうか・・・。

久しぶりに涙が出る程笑わせて貰った。


空いた片手で自身の顔を必死に触れる彼女は滑稽である。

しかし、実際は美を失ってはいない。

失ったように錯覚している(・・・・・・)のだ。


俺達が設置したあの砂時計は、己が感情に比例して幻術の度合いを測定し、

自動的に彼らに幻術を施す仕組みとなっている。

つまり、彼女は五感を狂わせる程の強力な幻術にかかってしまった状態だ。


俺達に対して憎悪を抱いていなければ、

彼女のように皮膚を爪で引き裂いたりはしないのだが、

神オーキスの死は俺を憎むに値するらしい。


幻術(これ)を乗り越えれば、最上階に登る権利が与えられるのに・・・無理そうだな。」


俺達からは彼女がどんな幻術を見ているか分からない。

予想は出来てもそれが正解かも怪しくて、オルドレイと賭け事も出来ない・・・。


「俺に操られて心臓を取り出すに一万!」


「エグッ!てかなんで賭け事してんだよ!?」


「え? 砂時計(あれ)は俺が創造したんだ。構造は隅々まで理解している。」


「賭けになってないぞ・・・てかズルい!」


オルドレイは棒読みが如く「はっはっはっ!」と笑う。

その間にも神エーテルは苦しんでいて、綺麗だった瞳は白目をむいている。

砂時計から手が離れるや否や彼女は自分の胸に指をめり込ませた。

そして―――


ずりゅり・・・と心臓が引きずり出される。


心臓は脈打っており、未だ数本の血管と繋がっているが、時間の問題だ。

肩を引きつかせて、涙を流す彼女の口元はボソボソと呟いている。

それは「ごめんなさい」だった。


「今更謝っても遅いのに・・・。」


俺が溜息を漏らすと心臓はピタリと停止し、彼女は仰向けに倒れ伏す。

倒れる際、衝撃で心臓と繋がっていた血管は糸が切れるように

「ブチブチ!」と音を立てて転がった。

彼女の手から離れたそれは、膨らみを無くして元のサイズの半分に収縮。


ヘラべったくなった心臓からは噴水のように血が飛び出して、

オルドレイはクスクスと笑っていた。


神々はこれで全員死亡―――俺達の望みの一つが叶った。


最上階で始末出来なかったのは非情に残念だ。

だけど、彼女には資格が無かった・・・それだけなのだ。


「オルドレイ、死体を回収しないと砂時計の危険性を察知されるんじゃないか?」


「察知するも何も砂時計に触れないと最上階には来れない。」


「全員振るい落とされたらどうするんだよ。厳選した意味が無くなるじゃないか。」


「んー・・・もう少し軽めの幻術にするか?」


俺はコクリと頷いた。

オルドレイは砂時計を新しい砂時計と入れ替えると破壊する。

それを経て、中身の砂は俺の玩具となった。

床にサラサラと流れ出た砂の山に触れると色がコロコロ変化してこれが又面白い。

俺の心がそれだけ激しく変動している表れなのだろうが、

指の間から流れ落ちる砂を眺めていると落ち着くし、

時折赤くなる砂の色がオルドレイと同色で嬉しい。


そんな俺を眺めているオルドレイの表情はほっこりしていて、

先程の残酷さは見受けられない。

子を見守るような母親姿勢は相変わらず健在のようだ。


『俺、そこまで幼稚じゃないけどなあ・・・。』


「オルドレイも触らないのか?」


「え? 俺は十分癒されたよ。」


「そうか?」


俺は首を傾げて、再び砂を眺める。

流れ落ちる砂は重力で落下していくが、それはとある国を襲っていた。


ドワーフの国、ルーナ―ンの空がひび割れる―――


上空を見上げる彼らは能天気に「祭りごとか?」と呟いていた。

けれど、祭りでもなければ、祝い事でもない。

アルとバルマンも空を見上げていたが、それを悟っていた。


「ワシは間違っておったのかのう?」


そう言うアルにバルマンは首を振る。


「何一つ間違っておらん。ワシらは信じた道を歩んだのだ。自信を持てい。」


バルマンは死に際まで真っすぐなドワーフだった。

そんなバルマンが友でアルはホッとする。

自分を見失わずにあの世へ旅発てるのだ―――彼にとってこれ以上の喜びは無いだろう。

そして、塞き止められていた黒い液体が国全体に流れ込む。

津波となって押し寄せるそれに成すすべなく呑まれていくドワーフに悲鳴を上げる暇もない。


唯一、出来た者は高台に店を構えていたバルマン位で、

近くにはアルを含めたドワーフが数人立ち尽くしている。

頭で理解していてもやはり死は恐ろしい・・・。


アルの視線はカタカタと震えるバルマンの腕に移り、青ざめる表情は吐き気を堪えている。

息を大きく吐いたアルが空を見上げるとそこにもひび割れがあり、

ガラスが割れるような音が響き渡る。

落下する破片に驚き、戸惑うその他のドワーフを除いてアルは悲しい表情をしていた。


『ワシらが死んだら・・・お前は泣くかレイダス?』


その場に居ない人間が悲しむかどうか分かる筈もなく、彼は推測するしかない。

恐らく悲しむだろう。だが、今ではない。


『お主の事だから、押し留めるんだろうなあ・・・。』


塞き止められたダムはいずれ決壊する。

それと同じように感情もあふれ出る物だ。

アルは知っている―――彼の知らぬ所で、

感情が溢れ出ようと、顔を出そうともがいている事を―――


「またの。」


アルは一言残し、笑みを浮かべると黒い液体に呑まれた。

バルマンもその他のドワーフも全員だ。

彼の被っていた帽子が酸で溶かされるように消えてなくなると、俺の肩がピクリと動く。

手の平に収まっていた砂が又、無くなったのだ。


「オルドレイ・・・。」


「?」


「俺は大切な何かを失った気がする。」


俺が無表情で手の平を眺めていると、彼は背を向けた。

繋がりも遮断した彼の心と表情は読めない。けれど、溜息を吐いているのは分かった。

俺に向き直った彼の表情は真剣で、俺は目を逸らせない。

逸らしてはいけない気がした・・・。


「レイダス。」


彼が俺を呼ぶ。

少し低くなったトーンに俺は「ん?」と声を漏らした。

そして、オルドレイが発した言葉は俺を驚愕させる事となる。


「お前は復讐をやめろ(降りろ)。」


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