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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~決戦編~
210/218

決戦編part10


極寒の大地は身体を凍てつかせ―――灼熱の大地は芯をも溶かす。


城の二階層は様々な地形を織り成し、形を変えていく。

一時間ごとに変化する地形は、変化では留まらず、天変地異そのもの。

雷雨が発生し、竜巻が起れば、地が割れるなどザラにある。


俺にとっては只の庭。けれど、人間(かれら)にとっては地獄だ。


身体を寒さで震わせ、霜焼けした手は悴む。

足元は一面真っ白な雪で覆われている彼らはいきなり天変地異に見舞われ、

分断されていた。

散り散りに行動する構成人数は二人から三人。

同職の人間と組む者も居れば、執事と狼なんて変わった者と組む人間もいる。

神は神で宙を飛行し、楽にしている状況で・・・実質自由だ。


「ああー・・・ま、まじ寒い。」


「が、ががが、我慢しなさいよ! 男でしょ!」


「おおお、男でもなあ! さ、ささ寒いものは寒いんだよ!」


ガランとリリィは吹雪の中で喧嘩を始める。

皆とはぐれてから彼らはずっとこの調子で、俺はあくびを一つする。


「喧嘩ばっかり・・・元気な奴らだなー。」


二階層から三階層に上がるには、二階層にある三つの宝玉を一か所に集める必要があるのだが、

これだと時間が掛かりそうだ。

他の面々も似たような感じで、俺は肩を竦めた。


「元気な人間を観察したい訳じゃないんだけどなあー・・・。

最こう・・・地形変化に巻き添えを食う感じで、

逃げ惑う様子が見たかった!」


気付けば、床を連打で叩きまくっている俺。

再び透過で二階層の様子を眺めると神エーテルと神オーキスの二人に動きがあった。

誰かを見つけて地に降り立つ。

その時、俺の脳内に映像が流れた。

モザイクとノイズでハッキリとしない映像は、新王都の風景。

人混みの中を歩く俺に住人達が頭を下げていた。

大人から子供までが目をキラキラと輝かせ、尊敬の眼差しを送っている。


「俺・・・新王都に行った事あったっけ?」


「新王都」という単語が出る時点で可笑しい・・・。

俺は人間達の街に行った事(・・・・)など無い筈(・・・・・)だ。


神エーテル達から視線を逸らした俺は、他を観察する。

すると、映像はプツンと途切れた。

頭がクラクラして、床に「コテン」と倒れ込んだ俺は、

ずるずると地面を這いつくばって移動する。


「オルドレイが最上階に居たら怒るだろうなあ・・・。服が汚れる!って。」


そうして辿り着いた最上階の隅っこには、放置されたチェスの盤がある。

倒れた駒と乱雑に散らばった駒を搔き集めて、現在の配置に駒を置いて行った。


「見事なまでのバラけぶりだ。」


顎に手を当てて、見つめる盤上の駒は適度に離れており、尚且つ合流し辛いポイント。

地形が変化するまでは合流出来ないとして、

彼らは地形ダメージをどう乗り越えるか・・・。

実に見ものである。

そして、後一つ付け加えるなら―――


「オルドレイも動きやすくなる。」


俺は笑みを浮かべて、lvの低い二人を眺める。

膝丈まである雪の中を懸命に歩く姿は必死だ。

軽装備で腰に小さなカバンをぶら下げている男剣士は寒さで感覚が麻痺している。

手先が木々に触れて、切れていると気づいておらず、白い息を一気に吐き出す。


その後方には魔導書を開いて小さな炎を灯す魔導士の姿がある。

自分の身体を温める事しか考えておらず、男は差し詰め風除けだろう。


「ちょっと、もう少し早く歩いてよ。

魔力が切れる前に誰かと合流したいんだから。」


魔導士の女は眼鏡を「クイッ」と指で上げてから男を突き飛ばす。

本当は突き飛ばす気なんて無かったのだろうが、

男には堪えられるだけの体力が残っていない。


「ご、ごめん。」


「全く! 使えない男ねえ・・・。」


男剣士は眉を顰めた後、ゆっくりと立ち上がる。

足に力が入らない為、両腕で足を叩き、気力で踏ん張っていた。


「あんた私に助けて貰った恩を忘れてるんじゃないでしょうねえ?」


「そんな事・・・ないよ。」


男剣士が女魔導士に逆らえない理由は至って単純。

恩による縛りがあった。

一階層での争いで危機に陥った男を女が魔法で救出。

その見返りとして、「自分をを守るように」と女と男は契りを交わしていた。


「じゃあ、さっさと行くわよ。」


女魔導士は立ち上がった男を蹴飛ばし、再び雪に叩きつける。

男の心はズタボロで、死んだ方がマシな位だった。

けれど、彼の生存本能が舌を噛もうとする行動を止めてしまう。


『畜生・・・。』


男には黙って女魔導士に従うしか道が無かった。

そうして歩き続ける事、20分が経過した頃、男の足に限界が来る。

ガクンと落ちた膝に力が入らず、男剣士の顔色は悪い。

体力が底を尽きかけ、瀕死の状態に陥っていた。


「早く立ちなさいよ。」


回復系アイテムは空で、女魔導士にアイテムを分け与える意思は無い。


『糞女め!』


男が内心で女魔導士を罵倒した時、彼らの前方に人影が現れる。

それは生き残った30人の内の一人。

腰にぶら下げる剣は業物。

着こなす執事服は貴族に仕える者に相応しい。

なにより真っすぐな背筋は歳を若く感じさせる。


「む? 貴方達は?」

と口を開いた執事に男剣士を差し置いて、女魔導士は真っ先に飛びついた。

両腕を執事の腕に巻きつけて、胸を押し当てる。


これぞまさにに色仕掛け―――


福与かな胸は異性を虜にするには最大の手段。

微かに漏れる吐息と目を細める仕草は、

女魔導士の正体を知らぬ者なら頬を赤らめ、唾を飲むだろう。


「ああ、良かった! 私達、積雪の中二人きりで・・・。

貴方のようなお強いお方と再会出来るなんて嬉しい限りです!」


女魔導士は嬉し涙を流し、執事の顔を見る。

けれど、彼女が期待した表情はそこになかった。

執事が女魔導士をじろりと睨むと彼女は反射的に手を放す。

男剣士の傍に寄った執事は懐から回復ポーションを取り出して服用させた。


「大丈夫ですか?」


「あ、ありがとう・・・ございます。」


男剣士は弱弱しく感謝して、執事が創造した(・・・・)毛布に巻かれる。

立ち上がった執事の背中が振り返った時、

女魔導士には地獄しか待っていなかった。


「彼と契りを交わしているようですね。」


「は、はい。そうですが・・・。」


「貴方の彼に対する扱いは見させて頂きました。

人間は本当に・・・糞だな(・・・)。」


「「!?」」


執事の背中から神々しい翼が生え、彼を包み込む。

姿を露呈させた彼は女魔導士の顔面を片手で掴み上げると言葉を続けた。


「仮に、弱っていたそこの男が肉親だったら優しくしていたか?」


「あ・・・かっ・・・は、離せ!」


女魔導士は彼を殴り、蹴るがビクともしない。

それ所か触れると皮膚が焼かれた。


「ふむ・・・肉親でなくとも殺すか・・・。」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛! 離せ!離せええええ!!」


掴まれている箇所も同様で彼女の顔は焼け爛れていく。

女魔導士は視線を動かし、男剣士に助けをこうが、その様子を男剣士は黙って見ていた。

契りを交わしているにも関わらず、男剣士は女魔導士を救わない。

何故なら―――


「死んでしまえ!」


それが男剣士の願いだからだ。


「貴様ああああああ!!」


女魔導士の悲痛な叫びに彼はにやけると、空いている片方の手で女魔導士の首を触る。

めり込んで行く手は、女魔導士の首を焼き、肉を消し炭にして行く。


「がああああああああ!?」


女魔導士の口、目、耳から蒸気が上がり、沸騰するような痛みに悶え苦しむ。

彼の腕を引き離そうと触れる度に手の平が焼ける。

だけど―――


『死にたくない!死にたくない!死にたくない!

私が何をした!? 生きる為に最善を尽くしただけだ!』


女魔導士は彼を睨みつけた。

生きる為には、非情であらねばならない。

生き延びる為には、利用しなければならない。

お前が―――


創造主(お前)が・・・そう生み出したんだろうが!!」


彼女の発言は確信を突く。そして、彼の激高に触れてしまった。

凶悪な笑みを浮かべながら、

女魔導士の首を握りつぶした彼は「あー、やっちまった。」と肩を竦める。


首が灰となった女魔導士の頭からは未だに熱で湯気が上がる。

雪に落下した彼女の身体は吹雪で白くなり、最終的には埋もれて消えた。

男剣士は振り返る彼に身体を震わせ、硬く閉ざしていた口を開く。


「俺も殺しますか?」


「ああ、言い残す事はあるか?」


男剣士は唾を飲んでから驚きの発言をする。


「――――――。」


吹雪で声は掻き消されたが、口の動きで何を言ったかは読み取れる。

人間を観察していた俺は腹を抱えて笑い転げ、彼も大声で笑い声を上げた。


そして、創造した剣で心臓を貫く―――


倒れ伏す男剣士の瞳の色は薄れていき、ぼやける視界には彼が映っていた。

見下ろす視線は男剣士を見下し、揺らめく赤い髪は印象に残る。


「馬鹿が・・・貴様如きに創造主(俺達)が話に乗ると思ったか?」


彼は無機質に淡々と言葉を発した。


「・・・・・・。」


男剣士は返答も出来ずに魂を手放す。

輪廻の輪に飛び立とうとする魂は、彼に鷲掴みにされて潰された。

俺は「あーあ。」と言いながらクスクスと笑う。


実に人間らしく、実に人間らしかった男はもう居ない―――


「さて・・・。」と口にした彼は再び翼で身を包み、姿形を変える。

今度は弓を持った背丈の小さい女の姿。


「よし! 次行くわよ! 次!」


死体を放置して、彼は積雪をの中を順調に進んで行く。

二階層にいる30人の数を更に減らす為に―――


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