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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~決戦編~
205/218

決戦編part5


神エーテルと神オーキスは信じられない光景を目にして絶句する。

ブエノス大森林の神殿より更に地下。

彼はそこに居た―――


「俺の予想じゃあ、もう少し速いと踏んでいたんだが、取り敢えず座れよ。」


男は有無を言わせず、目前に円卓と椅子を創造した。

質素な椅子に腰を下ろした彼は続いて、カップと小さなポッドを創造。

飲み物をカップに注ぎ、彼らに差し出した。

カップ内で揺れる飲み物は確かに紅茶で、甘い柑橘系の匂いが漂う。


敵対する意思がないと見受けられ、円卓に並んだエーテルとオーキスは、

軽く紅茶を口に含み、まずは整理する。

何故男が地下深くに居るのか―――

何故壁画を描いていたのか―――

気配はなかった―――

だけど、目の前の光景は真実―――疑問は絶えなかった。


彼らの様子を見かねたのか「順を追っていけよ。」という男に、

エーテルはギョッとした。

満面の笑みとはいかずとも、口元を綻ばせる彼は久しい。


「なんだよ?」


「いや・・・なんでもない。」と彼女は言葉を濁らせる。

首を傾げる男にオーキスは切り出した。


「この世界に壁画を残していたのは貴方ですか?」


「ああ、時を遡るなんて造作もないからな。」


「何の為にですか?」


「警告だな。」


男は淡々と言っては紅茶を飲み、天を仰ぐ。

暗い空間は彼の故郷で落ち着く空間だが、この時ばかりは仕方ない。

「パチン!」と指を鳴らすと彼らの周囲に丸い球体が出現した。

神秘的な輝きは三人を明るく照らし出す。


「警告・・・貴方がですか?」


オーキスは目を細める。


「俺はレイダスから追い出された良心だ。

他人を心配にしちゃいけないって法律でもあるのか?」


彼の赤い瞳にオーキスは口を紡ぐ。

エーテルは『良心』という単語に目を伏せて口を尖らせた。


「まあ、ほっといても良かったんだ。 人間がどうなろうが知った事じゃないしな。」


「それは創造主の性質上ですか?」


「どうだろうな・・・俺にもよく分からん。 だけど、良心ていうだけあって難儀だ。

放って置きたいのに放って置けない・・・。

利益もないのに、道端の餓鬼を助けたりとまあー、色々やったな。」


「・・・・・・。」


エーテルは知らなかった(・・・・・・)

生命体を常日頃から傍観している彼女が彼を見落としていた。


「いつからだ?」彼女はぼそりと呟く。


「いつから一人歩き(・・・・)していたんだ?」


「・・・・・・。」男は沈黙して目を伏せた。

言って良いものかどうか考えている。

難しい表情をしていた彼の表情から眉間の皺が消えた頃、彼は肩を竦めた。

髪をかく仕草をして息を吐いた彼は言う。


この世界に(・・・・・)転生してか(・・・・・)らずっとだ(・・・・・)。」


エーテルは「そうか。」と声を漏らして顔を伏せる。

恐らく、創造主は前世の記憶に則り行動をしていたのだろう。

『以前はこうだったからこうしよう・・・。』

失敗と修正を繰り返す内に浮き彫りとなった負の感情が彼を犯して行き、今に至る訳だ。

そもそも転生して直ぐに良心を欠落させたという時点で、

復讐心が勝っていたのだ。


『不甲斐ない・・・。』


気付けなかった自身の愚かさに彼女は泣く。

『見られたくないのだろう。』と、オーキスと男は彼女をそっとした。


「気になるのですが、何故、創造主は良心である貴方を放置しているのです?

貴方が創造主に一体化を試みる・・・それは創造主に大打撃を与えるのでは?」


「確かにそうだが、俺は本体よりも脆弱だ。

それと、創造主の一部を良心に言い換えた俺が同情しないと思うか?

俺にだって神と人間にされた仕打ちが記憶と体に刻まれている。

害なしと判断されているんだろうさ。」


男は胸に手を当てる。

力強く握り締められた服にはしわがより、破けそうになっていた。


「だから、俺は両立の立場を取る。

抵抗もしない。協力もしない。神々お得意の傍観を貫くだけだ。」


男は飲み干したカップを軽く放った。

地面に接触したそれは高い音を立てて割れ、無残に散らばった破片は白い霧となって消えていく。

まるで、『お前達の結末だ。』といわんばかりに・・・。


「考えはお察し致しました。ですが、誤解はしないで下さい。

貴方を連れて行けば要らぬ混乱を招きますので、連れて行ったりはしませんよ。」


「そうか。」


「ですが、手ぶらで帰る訳には行きません。

良心というのであれば、私達の質問位には答えて下さい。」


オーキスはにこりと笑って、得意顔。

たじろぐ男の様子にエーテルがくすくすと笑っていた。


「お、お前立ち直り早いな。」


「ここまで来たからにはめげていられぬ!」


エーテルは円卓の上に片足を乗せて、絶妙なバランスでガッツポーズを決めた。

目の下は赤くなっており、若干鼻水が垂れている。

男は肩を竦めて「はいはい。」と二度返事。

再び着席したエーテルを見やり、腕を組んだ男に対しオーキスは円卓上に腕を置く。


「それで、聞きたい事ってなんだ?」


「人間の一人に青い糸が巻かれている。名はカイルと言ったか・・・?

創造主の深層心理に直結している糸だ。」


エーテルの言葉に「ふむ。」と声を漏らした男は、自らの手から糸を出して見せる。

青い発光する糸は男の小指に巻きついて、引っ張っても外れない。


「これは《記憶の糸》。自身の記憶を紐状に具現化し、

不要と判断した記憶を関連ある特定人物に封じる。

器自体が記憶の塊になる為、再会すると思い出してしまうのがネックだ。」


そう言いながら、記憶の糸を消してみせる。


「後、連結が出来ていない状態だと容易く消せるんだが、

一度繋がるとどちらかが死ぬまで切れない。」


「仮に、人間が死んだ場合は?」


「記憶が逆流して、本人に戻る。一種の麻薬みたいな物だ。」


「仮に、創造主が死んだ場合は?」


「ありえん。」


淡々と質問するオーキスに、淡々と答える男。

オーキスの表情はどんどん歪んで行き、やがて嫌そうな顔をする。


「お前顔に出安いって言われないか?」


オーキスは黙って首を振る。

男は「まあ、いいや。」と話しを続けた。


「糸を無暗に斬ろうとか、その・・・青年を殺そうと考えない方が良い。

火に油を注ぐだけだ。」


「分かった。カイルと創造主の接触も避けるべきか?」


「出来る事ならそうしろ。」


男は言い切って「次の質問は?」と尋ねた。


「イスガシオに創造された城の構造・・・外部から触れると分解された。」


彼女は遠距離から石を投擲していた。

それは、瞬く間に分解されて散り散りとなる。


「侵入方法はないか?」


男は唸って再び椅子に座り込む。


「ないな。 誘き出せ。」


「どうやって?」


「それ位自分で考えろ。」


他人任せなエーテルに投げやりになった男。

彼女は頬を膨らませた。

『殴りかかるんでは?』と不安になったオーキスの予想は的中し、

エーテルは男目掛けて飛び掛かるが―――


彼女は軽くあしらわれた。

右手首を左手で掴まれて、

地に伏す彼女の眼前には椅子に座ったままの男が鎮座している。

彼らには何が起こったのか全く把握出来ていなかった。


『いつの間に掴まれた?』


「本体に及ばずとも俺は創造主の一部。

負かした後の光景をイメージすればご覧の通りだ。」


使い方によっては、確定していない未来を決定付ける能力・・・。

男は手を放して腕を組む。

止めを刺さない時点で創造主本体とは異なる存在だと認識させられた。


「俺が崇拝していた時とは違い脳金らしい。」


エーテルは「む!」と男を睨みつける。

男は「怖い怖い・・・。」とふざけ気味に言うが、内心では別の事を考えていた。


その頃、後方に下がった前線メンバーは再度前に出る。

後方の執事と狼も前線に上がり、

残り二体となった岩の巨人をアンベシャスとリリィ達に任せた。

未だ笑いまくっているアンベシャスにドン引きするリリィだが、

戦場においては頼もしい限りである。


「おらあああ!」


「ふっ!」


魔物の群れを瞬殺する執事と狼に後れを取るまいと奮闘する一方で、

足を踏み出す度にドーム型の結界に接近する。

薄紫がかった薄い結界は大きな衝撃で大地が揺れてもビクともしない。


「うおあ!? また揺れたぞ!」


アドラスの足元に亀裂が入る。

割れる寸前で手を伸ばした執事に引っ張られて分担されずに済んだ。


「ありがとよ。」


「いえ・・・。」


けれど、魔物の応酬は止まらない。

体勢が立て直しきれていない状態でスキルをもろに浴びたカイルの動きが停止する。

状態異常《麻痺》で片膝をつき、武器を振るえない。


「ぐっ!?」


「カイル!」


ゲイルの盾で危機を回避したカイルはガランに消費アイテムを振りかけられる。

それは《黄妖精の鱗粉》。麻痺状態を解除するアイテムだ。

そこへ狼が走り込み、高く跳躍する。

宙で高速回転し、繰り出される牙と爪の連撃は魔物をズタズタに斬り裂いた。


「ワオオオオ!」


「すげー・・・。」


ガランは「流石レイダスの従魔だぜ。」と感心する。

と同時に左右から押し寄せてきた魔物の波に驚愕。

右をカイルが担当し、ガランは左の魔物を切り刻む。

刺突からの力を込めた振り抜きに絶叫を上げる魔物達に追い打ちをかける執事の無慈悲な剣は

血で滑り始めていた。

耐久値も30にまで落ちており、刃が欠けている。


「む? 刃がもう限界ですか。 少々お借りしますよ。」


「あ!?」


執事はにこやかに笑みを浮かべてからカイルの腰に携えられた剣を引き抜く。

鮮やかな薄緑の刀身を見て思い出すは主の姿。

執事は「早くお会いしたいです。」と呟いて、魔物に殺気を放つ。


障害となる物は、全て敵―――

執事は目を見開いて、敵の急所目掛けて飛び込む。

喉元を裂き、腕の根元から斬り落とし、両目を突き、的確かつ相手を弱らせていく戦い方は

片手剣、レイピアを主武器とした近接戦の理想形だ。


「これで最後です。」


執事は地面スレスレに切っ先を滑らせる。

振り上げられた一撃は二足歩行型の魔物を両断し、血飛沫を上げた。

全身を赤に染めながらも凛とした立ち姿にはまだ余力がある。

そして、懐から取り出したハンカチで顔を拭い、後方を振り返った彼は首を傾げた。


「どうしましたか?」


「いえ・・・何でもありません。」


彼は気づいているのかいないのか。

周囲には切り刻んだ魔物の死体が散乱している。

地響きをものともしない強靭な足腰には目を見張るし、

なにより魔物の群れを一掃しておきながら、ケロッとしている彼を怒らせてはいけない。

彼らは鬼の形相をした執事を想像して唾を飲む。


「そ、それよりも早く神様達の元へ急ぎましょう!」


無理やりな話題切り替えに「はい。」と頷く執事に、彼らは追従する。

先頭をひた走る執事の後方を必死に追って行く前線部隊は、

左右から飛び出してくる魔物を払いながら、進んで行く。

時折、急所を攻撃されそうになると狼が魔物をかみ砕き、守った。


「ありがとう・・・えっと・・・。」


「ガルムです。」


「ガルム。」


「ワフッ!」


その時、俺は盤上から顔を上げる。

眉間に皺を寄らせた険しい表情はオルドレイを戸惑わせた。


「ど、どうした?」


「今、無性にイラっとした!」


俺のみつめる方角には怨念娼婦(グラージバード)の結界がある。

あの傍にとても重要な・・・いや、大切な物がある気がした。

それを他の者に汚される?貶される?感覚は嫌な気持ちを増長させる。


「俺、ちょっと行ってくるわ。」


「うおおおい!? まてまてまて!!」


オルドレイが俺の服を引っ張り、進行を阻む。


「きっと気のせいだ。 もう少し様子を見よう。」


「・・・そうか。そうだな。」


オルドレイは大きく息を吐いて、再び俺と盤上に向き直る。

駒の配置は面白い事になっており、些細な直感で見逃すのは忍びない。


「ふははは・・・怨念娼婦(グラージバード)は仕事が早い。」


『彼らはどんな顔をするだろう・・・。』

恐怖で歪むか?絶望で歪むか?

結果は両方だった。


「なんだよこれ・・・?」


薄い結界で阻まれて神々の援護に行けない前線部隊。

水晶体を通して網膜に映る光景は地獄絵図だった。

上半身のみとなった神が背中の翼で必死に羽ばたくも鎖が付いた刃物で叩き切られる。


「まるで蛇ですね。」


執事の呟きと同時に神の一人アスタリオンが結界に叩きつけられた。

ずるりと地面に落下した彼の全身はボロボロで自然治癒が働いていない。

丁度近くであった為、彼らはアスタリオンに寄り、声をかける。


「アスタリオン!しっかりしろ!」


「う・・・人間達か・・・。」


結界越しでも声は届いているようでカイルはホッとした。


「我々をおいて・・・城へ行け・・・。」


「何言ってやがる!」


「神エーテルと・・・神オーキスを・・・頼む。」


それがアスタリオンの、最後の言葉だった。

「ガイン!」という結界に刃物がぶつかる音―――

上空から聴こえたそれは、結界の内側を傷つけながら振り下ろされる。

上半身と下半身に分かたれた彼の身体から鮮血が飛び散り、薄紫の結界が赤に染まる。

滴る血が結界の滑らかさに落とされて、

露呈した怨念娼婦(グラージバード)の表情は分からない。

けれど、愉快に、楽し気に、滑稽に笑っているに違いない。


「ガラン、カイル・・・行くぞ。」


アドラスは結界に背を向ける。


「アドラスさん!? 行くってどこへ?」


「決まってるだろ! あの城だよ!」


彼は城を指さして怒鳴った。

怒りの余り、額に血管が浮き上がっていた。

「正論だ。」とガランは地に付けていた膝の砂を払う。


「勇敢と無謀は違う。 俺達が前に進まねーと、神様達の死が無駄になっちまう。」


カイルは出そうになった「でも」という単語を喉の奥にしまう。

神でも敵わない相手を自分達がどうにかできる訳が無いのだ。

唇を噛みしめる青年の横顔を黙って眺めていた執事は思う所があったのか

先頭から動かない。

ぞろぞろと進行を開始する面々は振り返り、執事に声をかけた。


「行くぞ。」


すると、彼は首を横に振る。


「貴方方だけで行って下さい。」


その言葉に何を感じたのかカイルは「正気ですか?」と尋ねた。

頬を伝う汗が気持ち悪い。

全身に流れる血が熱くなる。


彼は微笑んで、「私は至って正気ですよ。」と答えた。

右手を結界に触れさせた執事は剣を左に持ち替えて、一言発する。

その隣には静かに臨戦態勢を取る狼。


「《解除(シャルトゥ)》」


精霊にしか伝わらない言語は結界に穴を開けた―――と同時に結界内へと侵入した執事達。

そして、穴が閉じる事を確認した執事はガルムの隣にいる筈のない人間に目を丸くした。


「後悔はしたくありませんから。」


既に執事達について行けず荒い息を上げるカイルに、

執事は微笑んで「無謀ですね。」と発言するのだった。


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