決戦part3
「左右からの挟み撃ち失敗。 即死罠も失敗か・・・。」
俺は溜息を吐きながら空中で頬を膨らませていた。
予想では数人にまで生存者は削れる筈だったのに、神々が余計な真似をしたせいで
2000人以上残ってしまった。
「レイダス、次はどうするんだ?」
「んー、良い案が浮かばない。 オルドレイは何かないのか?」
俺はオルドレイに尋ね返す。
顎に手を当てて、唸る彼を暫く眺めていると彼ははっとして手を叩く。
「魔物の軍勢はラスボス前には必須だ!」
俺は「ああ!成るほど。」と頷いて、魔物を何千何万と創造する。
その中にはこの世界にいる魔物だけど、俺達の手によって変異した個体が混じっている。
牙はギラギラしていて、見た目もイカツク、凶暴そうな変異種は、
狩に出たくて仕方がないのか、足で床をガリガリと傷つけ、雄叫びを上げる。
俺達はそれを外へ転移させた。
城に触れれば、消滅してしまう為に城内からの移動方法はこれしかないのだ。
「そういえば、エーテルが北に飛んで行ったけどほっといて良いのか?」
「別に・・・もう手遅れだから、ほっといて良いと思う。」
先程彼女は人間からボロボロの本を受け取っていた。
中身の内容は不明で、オーキスと共に北へ―――
「企んだ所で無駄なのに、人間と神は悪足掻きが好きだな・・・。」
俺は目を伏せて、「俺も一緒か・・・。」と呟いた。
運命の神はもういない。人間達はコントロールから既に脱却しているのだし、
これ以上の邪魔は入るまい。
あるとすれば、青年の指に巻かれた青い糸だろう。
ドクン―――
『これだ。』
青い糸を思い出す度に鼓動が高鳴り、俺の思考が揺らぐ。
人間皆殺しへの抵抗が生まれる。
「レイダス?」
俺の些細な異変にも気づくオルドレイに「大丈夫だ。」と首を振る。
「だからこそ捻じ伏せる。」
俺が俺である為に、俺が俺で居られるように・・・。
「岩の巨人とかも生み出すか・・・。」
ふと発した言葉にオルドレイはニヤリと口角を上げた。
『悪い顔』と思いながらも自分も同じ顔をしているのだからなんとも言えない。
「さあ、次はどうなるかな?」
2000人丸々生き残るか?
はたまた半分?
それ以下か?
俺は予想をしながら、チェス盤を広げて、現状把握をする。
敵のキングは俺達。
向かいに広がるポーンやルーク、ナイト、ビショップはもろもろあちら側。
主力をポーン意外と考えるなら先頭を率いる人間を潰せば事は済む。
だけど、青い糸の持ち主には近づきたくない。
ドクン―――
『だから、魔物に潰させる。』
「面白そうだな。」
チェスに興味を持ったオルドレイが俺の横から顔を覗かせる。
表情は明るくて、駒を勝手に動かしていく。
カチャカチャとぶつかる駒の音。
それは味方同士の会話のやり取り。
「後方が孤立したら事だ。 ワシは後方を先導する。」
「じゃあ、私も行くわ。」
アンベシャスとリリィが自ら名乗りを上げて後方へ。
遠距離攻撃が得意な二人は先達者の戦士を援護しようと言うのだ。
戦闘慣れした者は兎も角、
後方の人間は指揮官が居なくなるだけで不安になるし、士気が落ちる。
最悪を想定してアンベシャスは指揮系統の維持に努める。
「分かった。 俺達は魔物の接近をなるべく食い止める。
合図をしたら魔法で一斉攻撃を頼む。」
「了解。」
「うん。」
フーワールとフェノール、神々がガランの指示に頷く。
直感や引き際を心得る彼に異議を唱える者はいなかった。
「俺は少数部隊を率いて、魔物の各個撃破に当たります。」
「おう。 無理はするなよ?」
「はい。」
カイルが返事をすると彼の背中に痛みが走る。大きな手で平手打ち。
「んじゃ、行こうぜ!」とアドラスに力強く背中を叩かれたのだ。
「ア、アドラスさん加減して下さいよ・・・。」
プルプルと震えながら、ぎこちなく首を回すカイルの瞳には大粒の涙。
相当痛かったらしく「悪い悪い」とアドラスは謝罪する。
「各個撃破と言っても見たことねー魔物が見えたんだが、平気なのか?」
「正面から戦わず、主に奇襲を仕掛けます。
威力が足りなくても最大火力で叩き込めばダメージは与えられるでしょう。」
「それに、注意を逸らせるから相手の隙をつける。」
というガランとカイルにアドラスは「ほう。」と呟く。
「元Sランクはこれだから・・・。」とガランは鼻を鳴らした。
そんな彼にカチンときたアドラスは眉と口元をひくひくと引き攣らせながら言う。
「元Sランクをなめんなよ?」
「魔物を狩った数で勝負でもするか?」
「生き残ってから言いやがれ青二才が!」
火花をバチバチ散らす二人の視線にカイルはたじろぐ。
『状況を分かっているだろうに何で熱くなるんだ?』と不思議に思った。
けれど、後の彼らの発言で払拭される。
「負けた方が驕りだかんな。」
「じゃあ、俺は懐を心配しなくて良いな。」
「なにおう!」
アドラスもガランも死ぬつもりは毛頭ない。しかし、死なないとも限らない。
相手は創造主であり、少しでも心に余裕を持たせて置きたかったのだ。
そして、交わされた約束は活力となって効果を発揮する。
絶対に敗北が許されない戦い―――重圧が重くのしかかっていた。
カイルはやり取りを眺めて、気落ちしそうになった。
自分よりも強い人間が不安を拭おうとする光景は後を追う者にとって不安要素である。
彼は自身の手を頬に叩きつけてマイナス思考を捨て去った。
『俺だって、強くなったんだ・・・。』
努力はした。
やれる事はやった。
人一倍に頑張った自覚はあった。ならば、これ以上は出来ない。
ある物を出し切るしかない。
『今、自分にある物全て出し切るんだ!』
カイルは前を向いた。視線の先は未だ言い合いを続ける二人。
「アドラスさん! 時間がありません。行きましょう!」
「ん? あ、おう。」
普段から大人しくて、委縮しがちなカイルがやる気を漲らせている。
アドラスは意外に思ったのか返事だけをしてついて行く。
「やれやれ。」と腕を組んだガランの表情は彼らを温かく見送った。
「さて、俺達も仕事をするか。」という彼の背後には
エーテルとオーキスを抜いた神々が控えている。
手を合わせ、瞼を閉ざしている者。
宙に浮いて、髪をなびかせる者。
筋肉質な体を露出させ、如何にも自慢げな者。
ガランはつくづく『神って変わっているな。』と思う。
神は元々力を有しているから自覚はないのだろうが、
無い者が力を得ると変化ではなく、変貌を遂げる。
性格から人格にかけて、力に染め上げられた者はいずれ破滅するのだ。
人間は極端にそれが目立つ。
だから、盗賊とか海賊とかが世の中に蔓延って弱者を襲う。
俺を見よ。私を見よと―――
強者は強者で弱者を足蹴にするし、弱肉強食の理には当てはまる。
ガランはそれがどうにも気に喰わなかった。
強者は弱者を助けるべきだ。
人は対等であるべきだと心の底から思うし、願う。
だから、人間はいつまで経っても人間で愚かでしかないのだ。
「ああ、やだやだ・・・。」
ガランは息を吐いて肩を竦める。
マイナス思考に走って行った自分に嫌気が指す。
『俺は元気が取り柄だろう?』
「行かないので?」
声をかけてきた神の一人に「そうだな。」と返事をして
「左右に展開して壁になる。」と言った。
神々に異議はなく、頷いて肯定した事からガランは言葉を続ける。
「俺達の役目は敵を減らし、後方を楽にさせる事。先行しすぎてもダメだ。
後方と切れてしまえば、連携所か後方は全滅。
俺達も囲まれて全滅だろうな。」
「淡々と語るけど、俺達は神だ。そう易々とは・・・。」
「死ぬ。」
ガランは断言した。
フーワールとフェノールも黙って小さく頷く。
「神々がどれだけ強いか知らない。
けど、相手はレイダスなんだ。甘く見ていると足元を掬われる。」
彼は旧王都からの脱出時を思い出していた。
レイダスは王都の膿出しと、非難を両方やってのけた頭がキレる男だ。
だからこそ―――
「油断は出来ない。」
それが命取りになるとも知らずに・・・。
俺はチェス盤を眺めて笑っていた。
「主力が前方へ。 じゃあ、後方を突かない手はないよなあ。」
オルドレイは俺達側の駒を持ち出して、がら空きとなった相手の後方へ置く。
盤上での戦いとあらば、「卑怯だ!」と言うだろう。
しかし、これは現実だ。
卑怯も糞もない。
「お前達は俺を信用しすぎだ。」
油断しない―――それは良い事だ。柔軟な対応は戦闘に置いて必要なスキル。
しかし、彼らは忘れている。俺は非情で冷酷で残酷な男。
綻びは見逃さないさ―――
置かれた駒は只のポーン。
だけど、これが将棋でもチェスでも敵陣に乗り込んだポーンは状況を大きく変化させる。
「掻き回せ・・・。」
俺はドスの利いた声で邪悪な笑みを浮かべた。
隣ではオルドレイが右手を前にだして、追加で効果を付与。
抜かりないとはこの事だ。
神々は後方で発生した歪みに振り返る。
「なんだ・・・?」
「まずい・・・。」
それは徐々に形と成し、入り口となる。
のそりと縁に手をかけた形状はゴツゴツと角ばった岩。
表皮に岩々がまとわりつく巨躯は、恐怖の権化。
岩の巨人―――
しかも数は数十体にも及ぶ。
「くそっ!」
ガランは後方へ向かおうとするが「危ない!?」と神の一人に守られる。
前方から魔物の攻撃が飛んできたのだ。
風の壁で跳ね返された毒液は地面に付着して、植物を腐らせる。
「もう来やがったのかよ!」
彼は槍を構えて、臨戦態勢を取る。
切っ先を下に、前傾姿勢は突進の構え。
神々もガランの指示で壁となり、険しい表情を浮かべた。
「さっさと終わらせましょう!」
「ええ、神エーテルの拳骨で頭蓋を割られたくありませんしね!」
前方では魔物との戦闘が始まる。よって、後方の援護には回れない。
神々が質で勝っていても、数で押されては防戦一方。
ガランは舌打ちして内心で思う。
『全て想定内だとしたら、手の平で遊ばれてるって事だ!』
自分達は創造主に近づいているのか?
『レイダス・・・お前は・・・。』
ガランの中で不安が過ぎる。それを奥歯でかみ砕いた。
「おらああああ!」
獣型の魔物を数体、槍で振り払う。
一列になった敵をそのまま刺し貫いた。手応えは申し分ない。
『戦える!』
彼は後方に視線を向けて、心配そうに眺めるもすぐさま戻して戦いに専念。
後方にはアンベシャスと気が強いリリィがいるのだ。
そうそうやられる筈が無い。
彼は信じて疑わなかった。
「う・・・あ・・・。」
後方にいた兵達は身を震わせて動きが取れない。
ゆっくりと持ち上げられた拳は影で人間達を覆い隠す。
ぼんやりと浮かび上がる岩の巨人の赤い瞳に悪寒が走ったリリィは叫んだ。
「皆避けて!!」だが遅い。
「う゛お゛お゛お゛お゛お゛」
岩の巨人の雄たけびと共に振り下ろされる一撃。
それに合わせるようにアンベシャスから複数のワイヤーがとばされた。
「《スキル:投擲必中》! ぬおおおおおお!?」
ワイヤー先端部の杭が見事腕に突き刺さる。
だが、重量差は歴然。
アンベシャス一人の体重では軌道を逸らす事すら出来ない。
「この!」
アンベシャスはすぐさま目的を破壊に切り替え、銃を構える。
放たれた銃弾は腕に当たるが、岩の巨人に当たる寸前で掻き消えた。
「魔法の類か!?」
これでは、手も足も出ない。
拳の下には若い人間が数人いるというのに・・・。
『助けられない!?』
リリィは走る。
拳の影にいる若い女性に飛びついて、目をギュッと閉じた。
死ぬのは怖い。
『けれど、この人が助かるのなら!』
死んでも構わない―――
彼女は「グシャッ!」という音を耳にした。
自分の身体が潰れたのか?将又自分が守ろうとした人も潰れたのか?
でも、痛みはない。
一瞬だったから痛みが無いのか?
彼女はそっと瞼をあける。
身体は動く―――彼女は死んでいなかった。自分が庇った相手も生きている。
けれど、様子が可笑しい。
口元をパクパクと魚のように動かす若い女性は、一点を震えながら指さす。
「あ・・・あああ・・・。」
涙を流す様子から、数人死んでしまったのか?
彼女は残酷な光景に覚悟して振り返る。しかし、予想とは全くの逆が広がっていた。
「え?」
岩の巨人の振り上げられた腕が無い。
時間差で落下した腕が「ゴトリ!」と音を立てて、岩の巨人が悲鳴を上げる。
後ずさる岩の巨人。
後方に控えていたその他の岩の巨人は続けて進撃を始めていたが、
今の彼女の問題はそこではない。
『アンベシャスは呆然としてる・・・。』
彼が斬り落とした訳ではないようだ。
では、誰が・・・?正体は直ぐに判明した。
後ずさりした岩の巨人の足元に人影が見える。
細長いレイピアをしならせて、武器を構える執事。
彼は、後方の荷馬車でイリヤの治療を受けていた。
完治したのか身体の動きにぎこちなさは残っていない。
「ふむ・・・まあまあですね。」
彼は余裕と云わんばかりにレイピアを試しに振る。
熟練の動きは残像を残し、殺気は敵を怯ませる。
ピリピリと放たれる空気は味方にまで伝わり、味方で良かったと陣営は安堵した。
『後方が潰される=我々の死。ならば・・・。』
「レイダス様の生末を見届けなければ行けませんので、
邪魔をするなら死んで下さい。」
淡々とした冷酷な物言いは彼の主と酷似する。
その隣から飛び出す狼の影は岩の巨人の腹を容易に貫通し、
華麗に着地する。
放たれる咆哮は敵を怯ませ、動きを封じる。
隙を突いた執事の攻撃が岩の巨人の四肢を斬り落とし、
「次。」と呟いた。
「次・・・次・・・次・・・。」
執事に斬られ、狼にかみ砕かれ、引き裂かれていく岩の巨人達。
その光景に目を丸くするアンベシャスは「どうなっとるんじゃ・・・?」と
信じられないような光景を呆然と眺めた。
魔法による物理攻撃の無効。
ならば、執事と狼の攻撃は通用しない筈だ。
「遠距離物理攻撃の無効です。
近接戦闘で押し込めば通用します。」
執事は淡々と語り、岩の巨人の腕を下から突き落とす。
「そうか!」
アンベシャスは銃弾の装填をし直す。
装填された六発の銃弾は特殊弾。
彼の所持する弾丸の中で最も貴重で、現状最も効果のある銃弾だ。
「離れておれ!」
執事と狼は素早く距離を取る。
途中でへたり込む女性二人を抱え込む執事に若い女性は頬を赤らめた。
「どうぞ。」という執事の言葉で放たれたアンベシャスの銃弾は空を裂き、
複数の岩の巨人の脳天に突き刺さる。
頭の中心で留まった銃弾は赤い光を放ち、アンベシャスが天に指を指すと破裂した。
内部破裂―――
しかし、疑問が残る。
遠距離攻撃断定の銃弾が何故岩の巨人に当たったのか?
魔物討伐、対人戦において距離がある程、銃の威力は低下する。
攻撃力に変化が無く、それを遠距離から撃てる。
銃職の者からしたら理想形の銃弾だ。
剣による攻撃も実際は一定量のダメージで、与えるダメージ量は変わらない。
近接と条件の近い銃弾なら通用すると彼は踏んだのだ。
それは見事的中した訳で、彼は貴重な銃弾を容赦なく撃って行く。
「わははははっ! デカい的が歩いておるわ!」
「楽しそうね・・・。」
リリィは肩を竦めて、出番なしと判断する。
「私は周辺の魔物を狩るわ。」
「一人では危ないでしょう。 お供します。」
「いいの?」
執事は暫く沈黙してから「はい。」と頷く。狼も執事から離れたくないのか同行した。
その頃、前方の戦場では、カイル達の援護も受けて押し始めている。
「ぐぬ!?」
「ガラン!」
魔物の攻撃に堪えかねて吹き飛ぶガランをアドラスが受け止めた。
身体はすでにボロボロで、脇腹の傷が深い。
「神様は・・・まだまだ・・・余裕かよ・・・ちくしょう。」
地力の違いに彼は腹立つ。
『力があれば、レイダスをぶっ飛ばせたかもしれない。』
そう思っただけで、欲が出てしまう。
「俺も・・・ゲホッ!」
「おい! 無理すんな!」
「無理してなんぼだろうが・・・。」
どちらにせよ無理をしなければ辿り着けない道のり。
近くに見えて遠い城は、彼らを見下ろす。
ガランは舌打ちを一つして、戦場へ飛び出すのだった。




