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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~決戦編~
202/218

決戦part2


ガランはドッペルゲンガーなる生き物と激戦を繰り広げていた。

足捌きも同じ、武器の扱いも同じとくれば、残るは思考と肉体の差。

彼は距離を取って相手に背を向ける。

少し離れた位置ではリリィが弓を構えていて「どっちよ!」と尋ねた。


ガランは渋い顔をしながら、状況的に仕方なし。

「足が遅いほうだ畜生め!」と言うのだった。


放たれた矢は襲い掛からんとするドッペルゲンガーの頭を射抜くも、

以前としてガランを追っている。

彼女は目を丸くして「嘘!」と叫んだ。


「人間の急所よ!? なんで倒れないのよ!」


「ぜえ・・・はあ・・・そりゃあ、あいつ(レイダス)が差し向けたんだ。

えげつないに決まってる。」


ガランは荒い息を上げながら、リリィに言う。

彼女は「あいつならね・・・。」と納得したようで

防戦一方になりつつあるガランを援護。矢を打ち続けた。


カイル「あっちは大丈夫そうだ。」と息を吐き、自分の戦いに専念する。

同じ姿をした敵に対し、彼も又苦戦を強いられていた。

剣を構えなおすと相手も構えなおす。

まるで鏡に映る自分と対面している気分に侵される。


「はあ!」


素早い動きで振り下ろされる剣と剣がぶつかり火花が散ると、

彼はもう一本の剣を腰から抜き放つ。

けれど、それも相手と同じ動きで相手と自分の中間地点で押し留められる。

力に関しては分が悪く、後退を図ったカイルは周囲に視線を動かした。


それは奮闘する人間達―――


士気の高さで現状の維持ができている。

しかし、一度崩れれば立ち直れない。

否、戦力が枯渇している状態で更に枯渇させては持ち直す所か一気に流れ込まれて

全滅は必死。

カイルは『どうする!』と考えを巡らせた。


そこへ神エーテルが宙空より舞い降りる。

微笑ましく舞い降りたった神は綺麗な長髪を躍らせて戦場を駆け抜けた。

手の平から発生する透明な盾は指定した場所に固定されるらしく、

彼女は全体の援護に回っていた。

その戦いに慣れた動きは戦場の女神。


カイルは見とれてしまい、呆然と立ち尽くしてしまう。


「お主、動かんと死ぬぞ。」という彼女の言葉と同時に襟元を引っ張られたカイルは

「わっ!?」と驚きの声を上げて後ろに回される。

エーテルは眼前のドッペルゲンガーの攻撃を盾でガードして「ふむ。」と声を漏らした。


「型にはまった動きだが、私は嫌いではないぞ?」


にやりと彼女は笑みを浮かべた。

体をねじらせ傾いた状態から炸裂するは後ろ回し蹴り。

カイルに酷似したドッペルゲンガーは頭を蹴り飛ばされて飛んでいく。

飛んでいった先にはガランと対峙するドッペルゲンガーがいて、

ガランは「のわ!?」と上体を逸らした。

飛んできた相手が握り締める剣の切っ先が当たりかけたのである。


危機的状況を脱したガランに余裕が出来たのか彼は神相手にぶちぎれる。


「あっぶねーじゃねええかああ!」とエーテルに指を指した。


「すまぬ。」


彼女は淡々と答えて、リリィは腰をへたり込ませる。

矢の数は残り少ない。

補充しなくては戦闘に支障が出るだろう。


「ごめん! 私後方に下がるから!」


リリィは駆け出して物資を補充しに後方へ戻っていく。

残されたカイル、ガラン、エーテルの三人はそれぞれ分かれて援護に回った。

その際、カイルとエーテルの行き先が被り、彼は尋ねる。


守るだけ(・・・・)じゃなかったんですか?」


「なに、守る為には時に武力行使も必要だ。」


『この人の中で守るとは何処までが守るなのだろうか?』と思うカイルである。


「私は生ある者を生かしたい。ならば、手段に選り好みしている場合ではない。

お主も先達者なら覚悟を決める事だ。」


彼女はそれだけ言うと視界に入った戦闘に参戦していく。

残り9人の神々も自身には余裕があるようで援護に回っていた。

放たれる魔法や物理攻撃の威力はやはり神と言うべきか、

人間では到底太刀打ち出来ない敵をなぎ倒していく。


「覚悟・・・か。」


カイルは唇を尖らせて、「覚悟なら決めたじゃないか・・・。」と呟く。

けれど、覚悟までには至っていなかった。

つもり(・・・)でいただけで、彼の中にはもやもやとした物が渦巻いていた。

不意に小指を見やった彼は走りながらに青い糸を眺める。


「ふう・・・。」と息を吐いて大きく息を吸った彼は視界を広げる。

正面から襲撃してきた敵・・・。

果たしてこれが創造主の全軍か?

否、考えてみろ。

創造主と呼ばれる語源―――レイダスとオルドレイは無限に兵を生み出せる。


人間でいる時の彼はどうだった?

冷酷で残酷で準備に余念がない。発した言葉に嘘はなく、兎に角真っ直ぐだった。


人間と神が憎い―――ならば、彼は迷わず甚振るだろう。

カイルは思い至る。

創造主(レイダス)は左右から挟み撃ちにする算段だと。


「左右から挟まれる前に正面突破を!!」


彼の声はよく通った。

ガランは口元をにやつかせて「おう!」と返事をすると「行くぞ!」と雄たけびを上げた。

それに呼応するように士気が高まる人間側に俺はクスリと笑う。


「元気だね~。」


「そうだな。」


オルドレイはうつ伏せる俺の隣に立って壁に寄りかかる。

いつか見た夢でも彼は俺の隣に立っていた。

懐かしいと感じながら、俺の心は温かくなっていく。


「俺達も弱者だったら必死になって戦うのかな?」


弱者に回った(・・・・・・)結果(・・)が、無残な死だったじゃないか。」


俺は目を伏せて「そうだった。」と呟く。

前世での死は俺達にとって真新しい記憶であり、人間達が許せない理由でもある。


『ああ、神アデウスが生きていたら今頃、懇願するまで甚振っていたのになあぁ・・・。』


神は死んだら存在が消える。

崇拝者からも忘れ去られる。それ故に彼らは力を有していた。

生者があってこその神。ならば、生者を奪えばどうなるか見ものだな・・・。

俺はオルドレイに提案を持ちかける。


「魔法の罠で即死系があったよな?」


俺達は顔をにやつかせた。

彼らは俺達が悪巧みしているとも知らずに、最初の第一関門を抜ける。

左右からの挟み撃ちは失敗し、前衛は後方へ回った。


「射てええ!」


放たれる弓兵部隊の攻撃が相手の頭に胸に突き刺さり、次々に倒れていく。

それに止めを刺すように動いたのはガランだった。

血飛沫が飛び、全身を赤く染め上げるガランに怯える者はいただろう。

けれど、戦場において確実に止めを刺しておかなければ、追々酷い目に会うのだ。


「敵の能力は未知数。 再生能力が高いのか低いのか皆目検討もつかない。

なら、殺せ。 確実にな。」


経験豊富な彼の言葉と据わった視線には説得力がある。

フーワールとフェノールがガランのように敵の喉をナイフで掻っ捌く様子から

後続が続く。

桑やら鉈を握り締める人間から元冒険者の人間まで心がドロドロに溶かされる。


これが殺すという行いだ。


今まで経験してこなかった・・・否、しようともしなかった愚行に、

人間の何人かは嗚咽と気持ち悪さから胃の中に収まっていた物を吐き出す。

彼らは思う。

平然と生き物を殺せる者は人間にあらず。

だからこそ創造主(レイダス)は敵なのだ。


「ああ、吐くなよ勿体ねー。 途中で腹が減っても俺は知らないからな。」


ガランは淡々とした口調で言う。

そこへ何かに気づいたアンベシャスが彼に駆け寄った。


「後方からの敵はこれで全部だ。只、前方が妙だ・・・。」


「妙?」


彼曰く、後方の敵に手間取っている内に

前方から忍ばせていた兵で奇襲を受けていたら不味かった。

けれど、奇襲所か忍ばせている兵の気配すらないのだ。


「罠に誘っていると見て間違いないじゃろ。」


「みえみえすぎな気もするね。」


フーワールも話に参加してガランは唸る。

罠の有無を確認するには踏んでみるしかない。

この時ばかりは敵兵を皆始末するのではなかったと思う。


(トラップ)があるのなら敵兵を放り投げて確かめられたのに・・・。」


「おいおい、レイダスに毒されておらんか?」


「違いない。」とガランは苦笑する。

実際、彼はレイダスの近くにいた。

大決闘演舞大会も、その後も、会う度に酒は飲んだし、誘った。

影響は少なからず受けただろう。

それは近づいてきたカイルも同様だった。


「レイダスさんが罠を張るとしたら即死だと思います。」


「はっきりと言いおるな・・・。」


アンベシャスは破顔する。

相手の性格や考えを熟知している者は逆に頼もしい。

カイルの背中をバンバンと叩くアンベシャスにフーワールは微笑んでいた。


「あんな楽しそうなアンベシャス久しぶりに見たな。」という小さな呟き。

ガランは「そうか。」とその光景を眺めるのだった。


「遊んでないで行くぞ。」


そう声をかけたのは宙を漂う神エーテル。

傍には神オーキスが地面をすたすたと歩いていた。


「罠の索敵には十分注意しますが、

良からぬ行動を起こすと誘爆する可能性があります。」


「え? 罠って誘爆したっけ?」


ガランは首を傾げる。

近接戦闘専門に魔法の類は有効である。

何故なら魔法に無知で近接でしかダメージを与えられないからだ。

だが、作戦を立てるにおいて知識は必須。その点に関して彼は脳筋といえよう。


「《スキル:連動》があれば可能だね。」


「触れた端から爆発か・・・罠の数は把握できておるのか?」


「大方は。」とオーキスは言う。

その表情は何処となく暗くて、

カイルやガランが想像するよりも深刻であると推測出来た。


「目的地を覆うように設置されているようだ。」というエーテルの言葉に

ガランは空を仰ぐ。

薄汚れた雲とひび割れた空を眺めても心は荒むばかり。


「でもよお、誘爆するなら魔法の一発でも放てばいいじゃないか。」


「良い手じゃな。」


「残念な事に罠その物に生命探知があるようで、魔法や物理では誘爆しない。

我々の力で宙に浮かせても2000が限界だ。」


ガランとアンベシャスはがっくりと肩を落として、気を落とす。


「ただし、人一人通れる(・・・・・・)隙間はある(・・・・・)ようだ。」


「ドキドキもんだわい。」


「ぜってー嫌だな。」


彼らはレイダスの性格悪さに溜息を吐く。

『知っていた。ああ、知っていた筈だ。』と無理やり納得させた彼らは

「よし。」と武器を握る。


「一列5人で隊列を組み、魔法に長けた者が先頭だ。」


全員に異論はなかった。

彼らは慎重な足取りで罠を掻い潜る。

時折、罠を踏み掛ける者の襟を引っ張り「気をつけろ。」と念押し。


ガラン達に続くようにして新王都の民達が唾を呑みながら進行する。

そこで問題が起きた。


「あ。」


若い女が首にぶら下げていたネックレスのチェーンが切れる。

落下した先は罠に触れるか触れないかの位置で、

ネックレスの蓋が開いていた。

中には両親と女が写った思い出の写真が入っており、彼女の宝物。


必然的に手が伸びる彼女の腕に「待て!」と声を発した時には手遅れで、

彼女の指先が罠に触れた。

「パリッ」と音を立てて、発生した即死魔法は瞬時に3000もの命を奪い去る。

神々の対応が功を奏した結果が3000なのだが、被害は甚大。


神々の魔法で緊急避難を果たした残りの2000は宙に浮いている。

重力の神オーキスにより身体が軽量化され、風の神フリーゼルの風で空へ煽られた

人間達は安堵の表情をしていた。一人を除いて―――


歯をカチカチと鳴らし青ざめる女。

自分の行動が3000もの命を奪ったとなると舌を噛みたくなった。

それに気づいたオーキスは彼女の首に手刀を入れて意識を奪う。

彼は彼女を抱えて地に足を付けるのだった。


「やれやれ・・・。」


「オーキス!」とそこへエーテルが駆けてくる。


「対処が遅れました。 申し訳ありません。」


オーキスは謝罪するも彼女の表情は芳しくない。

目を伏せて口元を歪めている。


「2000・・・助かっただけでも良かった方だ。」


嘘だ。

オーキスはそれを分かっていても自ら声を発そうとはしない。

何故なら全ての命が救えるなんて夢の又夢。

彼女も身に染みて知っている筈だ。犠牲失くして前には進めない。

何処の世界でも、どの時代でも、それは等しく同じである。

それでも尚抗い続けるのは彼女の性分だ。


血が滲むほど強く拳を握りしめる様子から彼女の気持ちは明らかで、

だからこそオーキスは彼女を応援したいと思う。


「いつか叶いますよ・・・。」と呟かれた一言にエーテルは小さく頷いた。


その頃、先頭にいるガラン達。

後方の異常に気付いた彼らは歯を噛みしめている。

けれど、駆け寄ろうとはしなかった。

死んでいると分かっていて、近づく動作は無意味である。

戦場において屍は踏み越えてこそ意味を成す。


彼らは3000もの死体を振り返ろうともせず、前進を開始した。

その道中でアンベシャスはボロボロの本を手にしている。

ペラペラと捲る仕草は真剣だ。

一文一文に目を通し、気になる行が見つかってはピタリと動きを止めていた。

流石に気になって仕方のない几帳面なゲイルが声をかける。


「何を読まれているのですか?」


「む? 神が残した・・・まあ、資料みたいな物だの。」


彼はヘルメロイの言葉に従い、

この世界に神しか知らない筈の情報をばら撒いた人物を探そうとしていた。

けれど、時間が足りない。

戦力も足りないとくれば、アンベシャスは離れられない。

では、研究資料もあるのだし、正体を特定出来ないだろうか?と思い至ったのだ。

それからというもの彼は資料に向き直っては読み耽っている。

眼の下には濃い隈が出来ており、足元は若干ふら付き気味だ。


「疲れているではないですか!」


「大丈夫だ。 この程度、現役時代と変わらんわ。」


事実だった。

若かりし頃のアンベシャスは徹夜などザラであった。

それはフーワールやカイネが寝込みに襲い掛かり、警戒心が強まった為でもある。


「それをお渡しください。」


「嫌じゃ。」


ゲイルはアンベシャスから強引に本を奪い取った。


「ぬお!? 返せええええ!」


アンベシャスは地面を蹴って飛び跳ねるも、背丈の差で全く届かない。


「体調に支障をきたす様では持たせておけませんので、

これは神エーテルに預けておきます。」


「お主は、ワシのおかんか!?」


ゲイルはアンベシャスのツッコミを無視(スルー)してエーテルの元へ。

コントのような光景に首を傾げるガランとカイル。

彼らは遠くに見える城を見つめていた。

光を放つ城は、見た目とは裏腹に邪悪な気配を漂わせ、こちらを監視している。


「あそこにレイダスがいるのか・・・。」


「恐らく・・・。」


ガランは七天塔での出来事を思い出す。

銃を頭に突きつけ、何度も何度も絶命するレイダスの姿。

痛々しくて、同情しそうで、儚くて、本当は誰よりも人間でありたかった化け物。

その彼が憎悪から人間と神を殺さんと動いている。

想像しただけで、ガランは吐き気に襲われた。


青ざめた表情に「大丈夫ですか?」と慌てるカイルに、

ガランは「平気だ。」とゆっくり息を整える。

声をかけたカイルにしても、内心では凄く不安で心が折れそうだった。

その隣にはアドラスやリリィ、ガラッドがいる。


「おいおい、情けねーな二人共。」と言うのはアドラスで、

「今更でしょう。私達はレイダスに会う! 決めたのなら突っ走るだけよ。」

とリリィはない胸を張ってドーンと構えた。


「武器なんて久しぶりに持ったぜ。 豪快に触れるなんざ溜まんねーな!」

とガラッドは見事な斧を軽く振り回して肩に担ぐ。


「誤って、俺にぶつけないで下さいよ?」と言うアドラスに彼は、

「口の減らねー野郎だ。 解体場に戻ったらお前を解体してやるよ。」と笑う。

冗談に聞こえない発言に「勘弁してくれ・・・。」と引き気味になるアドラスだった。


だが、そんな彼らが心強い。

ガランとカイルは息を吐いて、笑みを浮かべた。


「お前達を見ていると元気が出るな。」


「ですね。」


新たに敵を生み出したのか城からは魔物がじゃんじゃん溢れる。

城の奥ではレイダスとオルドレイが楽し気に歌って、踊って、騒いで、笑う。

3000もの命を奪い、絶命した瞬間を遠目で眺めていて興奮したのだろう。

宙を舞い、満面の笑みを浮かべていた。


「生き抜いて・・・城まで辿り着くんだ!」


彼らの目的は勝利に在らず。

今は眼前に迫る敵に集中し、突破を図るのみだった。


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