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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~決戦編~
201/218

決戦part1


「うあああああ!?」


俺は叫び声と共に上体を勢いよく起こす。

荒い息を上げる俺の傍にはオルドレイが居て、俺の手をずっと握り締めていた。

寝息を立てる彼の顔は俺と同じ。

『眠っていた俺もこんな顔をしていたのだろうか?』と不意に思った。


綺麗な肌と綺麗な顔立ちはモテそうだ。でも、興味はない。

それよりも・・・だ。


「なんで青年(・・)が夢に出てくるんだ?」


知っている(・・・・・)ようで知(・・・・)らない(・・・)青年は、ひたすらに俺の名を連呼していた。

小指には青い糸が巻かれていて、それを思い出す度に頭が痛くなる。


「俺は彼を・・・知らない筈だ。」


ズキン―――


それだけではない。

夢の中で様々な人々を見た。笑顔で笑っていた。


ズキン―――


「胸が痛い。」


俺はあいている片手で胸を押さえる。

心残りはない筈だ。人間を皆殺しにして俺はオルドレイと共に又あの空間に戻るんだ。

何も考えず、何も悩まずに済む、なのに・・・。


『なんでこんなに苦しいんだよ!』


俺は間違っていない筈なのに、人間達が神々が悪い筈なのに、

何故消したくないと思ってしまうのだろう?

あいつらは玩具で研究対象。それ以上でも以下でもない。

だから、夢の中にいた人間も殺そうとした。

途中まで甚振るのが楽しくて、止めを刺す寸前までいっていたのに・・・。


あの糸を見てからだ―――

あの糸を見てから俺の思考はグチャグチャになった。


あれは危険だ(・・・・・・)。」


「ん・・・むぅ?」


起こしてしまったか?

俺はオルドレイに顔を向ける。

彼は目を開けるや否や「レイダス!」と俺に飛びついた。


「心配かけた・・・ごめんな。」


オルドレイは首を左右に大きく振って「起きてくれれば良い!」と嬉しそうだ。

『犬の耳と尻尾が見える。』と思っていると彼は頬を膨らませて、

顔を引っぱたいた。


「痛い・・・。」


「誰が犬だ!」


そうだった―――

俺とオルドレイは二人で一人。

互いの思考は繋がっている。

どちらかが遮断しない限り、互いの思考は筒抜けで聴こえてしまうのだ。


「状況は?」


「レイダスが目を覚ましたのに世界崩壊が進行しない。

人間達は作戦を練っている。」


「ふむ。」


俺は手の平を眺めて、手を広げたり閉じたりを繰り返す。

身体は正常だが―――


「力がまだ回復しきってない・・・。」


俺は目を細めて拳を握った。


「試しに剣を振りたいんだが良いか?」


オルドレイはコクリと頷いて、俺はベットから起き上がる。

身体を捩り、少し体の筋肉をほぐした。無駄なのに・・・。


「それじゃあ、やってみよう。」


俺は右手に剣を生成する。

ハッキリとイメージ出来たのは夢で握りしめていた禍々しい剣。

右手を前に出して、生成時に発生する光が出始めるが、

オルドレイに腕を掴まれて止められた。


「レイダス・・・それはダメだ。」


「え?」


俺は生成をやめる。

手の平の光は消え失せて、俺は悩む。結局「何なら良い?」と尋ねてみた。

すると「こんなのはどう?」と事前に用意していたであろうデザイン用紙を取り出して

彼は瞳をキラキラと輝かせる。

俺は数枚の内一枚を選んで剣を生成した。


「うん。 中々しっくりくるな。」


「だろ?」


オルドレイはドヤ顔。

俺は刀身のない剣を右手に持った。

それはこの世界のシステムで使用が可能となり、俺はシステムの一部を拝借。

魔力を込めて、刀身を顕現させた。

すると―――


「ズドドド!!」と凄まじい音共に城が破壊される。


「魔力込め過ぎた!」


「おおお、抑えろ!抑えろ!」


俺は魔力を調整して、剣の刀身を固定。

刀身の周辺にはポツポツと小さい光が漂っていて、美しい。

結果として剣の再現には成功した訳だが、俺達は大笑い。


「あはははははっ!」


『なんかいいな・・・。』


俺はこれを求めていたに違いない。

オルドレイと俺―――二人だけでも盛り上がれるし、心の底から楽しいと思う。


『やっぱり人間は要らないな。』


研究対象はもう要らない。俺達は二人で生きていける。

俺は剣を持って城の外を見やる。

方角はリゼンブル方向。


「この一太刀をもって開戦の狼煙としようか。」


人間は俺との戦争を望んでいた。

ならば請け負おう。

俺は逃げも隠れもしない。


俺はここ(・・・・)にいるぞ(・・・・)!」


振り下ろされた一撃はリゼンブルを容易に消し飛ばす。

森を、大地を、空を刈り取り、世界がガラスのように割れ始める。

メイサの森をも巻き込んだ一撃には新王都の人間も神も驚愕。

広がる真っ暗な空間は虚無。


何もない。創造主以外の存在を許さない、創造主以外の存在にとって害である空間。

一歩でも足を踏み入れれば、身体は分解され、存在は消滅。

他人の記憶からも存在は抹消される事だろう。


「「人間は皆殺しだ。」」


俺とオルドレイは顔をニヤつかせて、城の兵を動かす。

それを新王都に差し向けて、高みの見物を決め込む。

窓の外を眺める俺達はこの世界で言うなればラスボスだ。


「さあ勇者、俺達を殺しに来い。なんてな。」


オルドレイは戯けて見せる。

俺は「洒落になってねーよ。」とツッコミを入れながら笑っていた。

生き残った人間を俺達自らの手で殺し、復讐の成就とする。

俺は満更でもなかった。


―――新王都―――


「おいおい・・・バケモンだろ。」そう声を漏らしたのは外にいた神マーキン。


神が言うのだから間違いなく化け物なのだろうが、

カイルはレイダスを人間と思いたがった。


「あの人は人間だ!」


ボロボロになった服と防具を取り換えて、

耐久値は下がるもののカイルは冒険者ギルドを飛び出す。

一人でどうにか出来るとも思えないが、レイダスと深層心理で繋がっているのなら

自分が彼の根城に行くべきだと思っていた。


それをガランが横から小突く。


「あで!?」


「抜け駆けしようなんて百万年はえーよ。」


「ガランさん・・・待ち伏せしてたんですか?」


ガランは「当たり前だろ?」とどや顔。

『胸を張れることなのかな?』とカイルは肩を竦めていた。


「それに・・・お前にも謝りたいし・・・。」


カイルは彼らしくない態度に首を傾げる。


「七王道の・・・そのお前の師匠について。 黙っていて悪かった。」


目を伏せて視線を逸らすガランに、カイルは「気にしていません。」とほほ笑む。

きっと自分達の為に彼は黙っていてくれたのだから、責めるのは酷である。

ガランは「ありがとよ。」と照れくさそうにそっぽを向いた。

そうしていると後方から足音が近づいてきて二人は振り向く。


「リリィさん!」


「お! アドラスにガラッドのおっさんまでいるのか。」


戦闘力の高い面々とエーテルを含めた神々。

そして、新王都の民達が武器を持って立っていた。

各々覚悟を決めたような表情は、屍をも乗り越えんとする意思を感じられる。


「世界崩壊が進んでるって言うのに黙って見ているなんて出来ないわ!」


「レイダスには借りが一杯あるからよ。 返してやんねーとよ。」


「又仇で返すのか?」


「ちげーよ!」


エーテルは先頭にいるガランとカイルに近づいて言葉を交わす。


「我々が盾になろう。」


「いいのか?」


「元々そのつもりだ。 戦わないのだからそれ相応の働きはしよう。」


彼女の微笑みにカイルは「ありがとうございます。」と頭を下げた。

その様子にクスッと笑ったエーテルは彼の耳元で囁く。


「ちゃんと届けるのだぞ?」


何が?と言われずとも今のカイルには分かっている。

彼は「はい!」と元気よく返事をして前を向く。

この世界の総戦力、新王都全国民と10人の神々は進軍を開始したのだった。


それを城の中から眺める俺達はクスクスと笑う。

相手のステータス値に声を漏らしていた。


「測定不可10名、lv90代数名、残りlv10からlv70代5000程度。」


俺は溜息を吐いて、目を伏せる。


「所詮は人間・・・愚か者だったか。いや、愚か者だものな(・・・・・・・)。」


言葉を言い直し、俺は席を立つ。

コツコツと床を踏みしめ、外を見やると進軍する兵士達が見て取れる。

相手の驚く表情が脳裏で思い浮かび、俺の顔が緩む。

まるで、盤上で駒を指しているような気分だ。


「楽しそうだな。」


オルドレイが俺の隣へやって来て、同じく窓の外を眺める。

黒い瞳が赤色に染まり、兵士の軌道が変化した事から指示を出したのだろう。


「前から左右から挟み撃ち・・・えげつねー。」


オルドレイは鼻を鳴らして得意げ。

俺は「まあ、いっか。」と足をパタパタ揺らす。


「死んだら死んだで終わるだけ。生きていたら褒めてやろう。」


俺達は平然と命を弄び、兵士と人間がぶつかる時をまだかまだかと待ちわびる。

衝突時にはより派手に―――

死に際は鮮やかに散れ―――

短い生を謳歌して、短く儚く散って行け。


「それが俺の答えだ(・・・・・)。 神エーテル。」


人間の生は醜いが死に際は美しい。

差し詰め鮮血が花という所だ。

コレクター曰く、花は目出て育てると、より鮮やかさを増すらしい。

可愛がるほど愛着が湧く様に、人間も又同じ。


「俺は人間として死に創造主として生きるよ。」


踊れ踊れ生き物よ―――

兵士達が彼らと接触した時には朝を迎えていたのだった。


次回話は結構ノリノリで書きました。www

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