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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~3年後の世界編~
199/218

人間と神々の交流会


太陽の日差し、外の賑やかさに彼らは目を覚ます。

ゴシゴシと目を擦りながら、上体を起こす彼らの肉体は酷使されていた。

所々体がきしみ、筋肉の収縮でぎこちなさが目立つ。


それでも起き上がろうと試みるのは、「やらないといけない。」責任感から来る物だ。

ある意味人間の代表者的存在となってしまった彼らは一同に窓の外を眺める。

そこには10人を囲む大勢の人々。


その10人の内一人はエーテルなのだが、残りの9人を彼らは知らない。

そもそも現在の彼らの観点はずれている。


「今何時だ?」


「日の位置からして正午だね。」


「寝すぎた・・・。」


ガランは顔を伏せて、頭の髪をワシャワシャと掻き回す。

ベットで静かに眠っている執事と狼に視線を向けてから装備の確認を始めた。

彼らにとって時間は有限にして貴重だ。

世界崩壊まで二日としかないのに、時間を無駄にする者は愚の骨頂と言える。

だが、人間である彼らは睡眠に勝てない。

生きる上で肉体や精神敵疲労は全て寝る事で改善される。


この世界で強制的な活動を可能とするならば《睡眠無効の指輪》を装備する他ないのだ。

彼らはダルイ体を動かして外へと向かう。

そうして開けられた扉の前で佇む神々。


エーテルは神々の先頭に立ち「離れていてくれないか?」と民衆に発言する。

神たるエーテルの指示に従わない人間はおらず、

邪魔にならない程度にまで離れた人間達にガラン達は視線を送った。

柱の影や建物の影に隠れる様子から

神々に興味や好奇心を抱き、お近づきになりたいという下心が丸出しだった。


「あー、なんか迷惑をかけたみたいだな。」


「いや、私は気にしていない。」


エーテルは首を振って、「大丈夫だ。」と付け足す。


「それにしても変わった面子だな。」


「ちょ、ガランさん!?」


カイルはガランの耳元で「神様に対して無礼な発言は不味いですよ。」と呟く。

しかし、当人は「そうか?」と首をかしげて反省の色はない。


『ガランさん何処となくレイダスさんに似てるんだよな・・・。』


デリカシーがないというか、オブラートに包もうとしない。

余念がなく、直球で足取りにも迷いがない所がレイダスと非常に酷似していた。

悩みを抱え込む所も―――


「兎に角、言葉は選んでくださいね?」


「聞こえていますよ。」


「え?」


カイルはドキッとする。

振り向くとエーテルの左に立つマフラーを巻いた神が微笑んでいた。

長く青い透き通った長髪が風に揺られる。

それを手でサラサラと触る仕草は絵になる光景だった。


「安心してください。 我々はその程度で怒ったりしませんので。」


「は、はい。」


カイルは肩を竦めて、体を小さくさせる。


『優しい人ほど怖いって言うしなあ・・・。』と内心で抱きながら、表情は青ざめていた。


「オーキス怖がらせるなと言ったではないか。」


「すいません。」


エーテルとオーキスの何気ないやり取りに神々側が騒がしくなる。


「ガハハハッ! すまんな小僧!」


「ひっ・・・。」


と同時にエーテルの拳が炸裂してマーキンの顔面が地面にめり込む。

辺りは静まり返り、彼女は良い笑顔を見せる。


「私からも謝罪させてくれその・・・癖が強いのだこいつ。」


エーテルはマーキンに視線を向けて人間達は察した。

筋肉マッチョにして豪快で騒がしい神。その神が静かな場を長時間耐えられるだろうか?


「暑苦しいのはほっといてお邪魔しても宜しいですか?」


「ああ、いいぜ。」


オーキスの発言で神々が冒険者ギルドにぞろぞろと入る。

カイルとゲイルが扉を開けて、最後の一人の通過を確認してから扉を閉めた。


「あの、神マーキン・・・でしたか? その・・・良いんですか?」


カイルは恐る恐るエーテルに尋ねる。

彼女は「ああ、いい、いい。」と言って手をひらひらと振った。


「あ奴がいるだけで、話が進まんし、論点がずれてしまう。」


「はあ・・・。」


「なんにせよ、一息ついたのだし本題を進めねばならん。」


彼女はそれだけ言うとズカズカと二階へ上がって行く。

冒険者ギルド内を熟知しているエーテルは一番広い部屋が二階にあると知っている。

大人数入り、多数席があるのは、ガラン達が大の字で寝ていたあの部屋しかないのだ。


「おや、あちらから良い匂いがしますね。」


オーキスが階段の一段目に足を乗せた時だった。

冒険者ギルドにある酒場カウンターの方から漂う、ほろ苦い匂いにつられた。


「コーヒーが気になりますか?」


「はい。」


「良ければお入れしますよ。」


「! 是非とも頂きます。」


「なに!? コーヒーだと!? 私にもくれ!」


オーキスに続き神々が次から次に「コーヒーをくれ!」と殺到する。

もしかして―――


「神様は食べ物を食す自体無いのですか?」


カイルの言葉にオーキス以外の神々は口元を尖らせた。

図星らしく「神だって良いじゃないかコーヒー位・・・。」とぼやいている。

その内の一人がカイルに向き直って言う。


「本来の身体であれば、食さずとも餓死はしないし、老いもしない。

けれど、一度器に身を宿せばそうもいかん。腹は減るし、眠くなる。」


「不憫さが増しているように思えるのですが?」


「だが、良い事だ。」


「?」


カイルは首を傾げた。


「味覚があり、睡眠が出来る。

それは食を美味しいと感じ、休息の素晴らしさを実感できるというものだ。」


カイルは間をあけてから「あ。」と声を漏らした。

人間からすれば神は力があり、崇拝し称えるべき存在。羨ましく思う存在でもある。

ならば、逆はどうだろう。


神は休む間もなく人間を見守っている。

食す間も無ければ、休息もない。

そもそも必要としない行為だが、興味を持たない訳でもない。

例えば目の前でクッキーを齧られていたらどうだろう。

クッキーの触感、味が気にならないか?

人間が食べ物を食す姿を、眠るという体験をしたいと思っていたに違いない。


それを思うと神々のコーヒーへの執着に納得がいくし、

人間という体は満更悪くないとも思う。

そこへフーワールとフェノールが加わって、「僕が入れよう。」と言う。


「七天塔に長く引き籠っていたお陰で料理の腕も熟達だよ。」


「フーワール・・・料理・・・上手。」


フェノールは赤子をあやしながら肯定する。


「では、コーヒーと適当な料理(・・・・・)をお願いします。食材は持ってきますから。」


「了解。適当に料理を作るから楽しみにしていてよ。」


フーワールはフード下でニヤリと笑みを浮かべた。

その頃、二階の一室ではエーテルが上がってこない同胞達にイライラを募らせる。

ガラン達は今にも爆発しそうな彼女にハラハラしていた。


「な、なあ・・・なんか話しかけてくれよ。」


「な、何を言うか若造! お主が行け!」


ひそひそと隅で話し合うガランとアンベシャス。

エーテルに話しかける役をどちらにするかで揉めている。

選択を誤った後が怖く、額には大粒の汗が浮かんでいた。

それをガン無視して彼女に話しかけたのはガラン達が救助した執事。


「神エーテル、苛立たれているようですが、どうかされましたか?」


『『お前は勇者かああああああ!!』』

というガラン達の心の叫びは聴こえていないだろう。


『ちょ、直球過ぎる! 俺も直球だけど、そこまで直球ではないぞ!』


ベットから上体を起こし、

狼の毛並みをサラサラと流す姿は紳士の寝起き。

懐から眼鏡を取り出し、彼は一冊の本を手にしていた。


「下の連中が上がってこんのだ。 一体何をもたついておるのやら・・・。

ん? その本は?」


エーテルの視線が本に向き、興味を抱く。執事は本を持ち上げて、表紙を見せた。


「これは、ご主人様(マイロード)が愛読されていた書物です。

私には少々難しい言語と内容でして、解読しながら読み進めております。」


エーテルは彼に近寄って、表紙に向き直る。

目を細めてジーッと眺めた。


「タク・・・ティ・・・読めん!」


この世界に英語という概念はなく、

表紙タイトルはタクティクスつまり、戦術と書かれていたが、

人間を見守るにおいてエーテルは文字や文章といった語学を省いていた。

輪廻の輪を管理する神であっても語学には敵わない。


「この他にも幾つかあります。手始めに簡単な物から読んで見ては如何でしょう?

他の方々が上がってこられるまでの暇つぶしにはなります。」


エーテルは暫く口元を尖らせて黙り込む。それから「頂こう。」と言葉を発した。

執事は笑みを浮かべて本を渡し、彼女は定位置で読み耽る。

それを隅から伺っていたガランとアンベシャスは無言で固まる。

お互いを見合ってから執事に視線を向けると彼は微笑んで見せて、

何故か悔しい気持ちになった彼らは『完璧執事め!』と壁や床を叩くのだった。


一方、一階では神々がフーワールの料理にどんちゃん騒ぎ。

食材を追加で運んできたカイルは神々のテンションの高さに戸惑いを見せていた。


「どうしてこんな事に・・・。」


「適当な料理を願いしますと言ったのは君だよ。

だから、神様達に美味しいと絶頂して貰えるような料理をたーんと作ってみた。」


フーワールは得意げに笑う。

その傍にはエプロンを付けたフェノールと子供の姿があり、

彼女は髪を三つ編みにしていた。

カイルは「頼むんじゃなかった。」と後悔し、肩を竦める。


「呑気にしている場合じゃないのに・・・。」


カイルは拳を握りしめて口を尖らせた。

そんな彼の肩をフーワールがポンと叩いて、彼は振り返る。


「だからこそだよ。」


「?」


カイルは首を傾げる。

その様子にフーワールは息を吐いて「仕方ないな。」とカウンターに寄りかかった。

右手にはグラスが握られ、大き目の氷が三つ入っている。

カラカラと音を立てる氷は水となって溶けだし、酒と混ざり合う。

浮かべる模様はハッキリせず、「まるで君みたいだね。」とフーワールは呟いた。


カイルはフードの下から覗かせる彼の瞳にドキッとして、視線を逸らす。

見透かされているような瞳が彼は怖かった。


「君は世界を諦め(・・・・・)きれていない(・・・・・・)ようだ。」


「・・・・・・。」


カイルの中ではそれが当然だった。

育ってきた世界であり、

育ってきた故郷があり、

幼馴染が生きていて、皆で冒険した世界。

諦めきれる筈が無い―――


「神々は戦闘に参加しない。これがどういう意味か理解出来ない程馬鹿ではないだろ?」


神々は戦闘に参加しない曰く、運命は変えられない。

神々は戦闘に参加しない曰く、戦闘で勝利は得られない。

それが分かっているからこそ彼らは無謀な争いをせず、受け入れた。

滅びの運命を受け入れてこの世界にいる。


「やって見ないと分からないじゃないですか・・・。」


カイルの声が怒りで震える。


抵抗はする(・・・・・)。けれど、やり方が違う(・・・・・・)

カイル・・・君は武力で相手をねじ伏せようとしているようだが、

果たしてそれが正しいと思うかい?」


武力は時に正義であり、時に暴力である。

師から教わった格言だった。

カイルは首を横に振って、「いいえ。」と答えた。

それにフーワールは微笑んで酒を飲む。


空になったグラスをカウンターの上に置いて「それで良い。」と言った。

フードの下の顔がどんな表情をしているのかは分からない。

けれど、雰囲気が何処となく暗かった。


死にたい者はいない―――神も人間も同義だ。


では、彼らは創造主に対し、どう対抗するのだろうか?

カイルはフーワールの料理に群がる神々を暫く眺めて視線を逸らす。

二階へと上がって行く彼の小指には青い糸が巻きつけられていた。


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