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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~3年後の世界編~
197/218

神の犠牲の元・メイサの森脱出


メイサの森上空より飛来した木製の建造物は、地面へと衝突し、大破していた。

中に置かれていたであろう家具もベットも露呈して、

どれも使い物にならない状態。

そこへ訪れたエーテルとヘルメロイ、人間達一行は砂埃を払いながら、

エーテルが感知したであろう生命体の反応を探る。


すると、屋根の下敷きになった狼と

意識はあるものの下半身に酷い怪我を負い、立ち上がれない執事を発見した。


「あ、貴方は・・・。」


視線が合ったカイルは声を漏らして、

ガランは王城前での出来事を思い出して背を向ける。

それは自分が相手と向き合う資格がないと思ったからだ。


「はははっ・・・よもや人間達とこのような形で邂逅するとは思いませんでした。」


執事の傷は重傷で呑気に笑っている場合ではなかった。

けれど、執事には余裕があり、何処か悲観的。

眼の下には隈が出来ていた。


「今手当てします。 動かないで下さい。」


イリヤが執事に近寄ってしゃがみ込む。

杖を握りしめて魔法を唱えた。


「《聖女専用魔法/第8番:体力回復量増加》」

「《聖女専用魔法/第8番:大回復》」


緑の発光する光と共に執事の傷がみるみる治って行くが、

彼女が想定していたよりも執事の傷は重傷だ。

その為、彼女の治癒速度では完治までに時間が掛かる。

ヒーラー職として優秀なイリヤでもステータス割り振りや習得している魔法の種類で、

広く浅い術者なのだと見て取れた。


「私の力じゃ・・・応急処置に留めて移動しましょう。」


「俺も賛成だ。」


「了解した。」


フーワールは執事を支え、カイルとガランは屋根を持ち上げ狼を救出する。

後の帰路でエーテルとヘルメロイは後方でひそひそと話しをしていた。


「神エーテル・・・どう思う?」


「どうとは?」


「あれは記憶を失った創造主が大切に夢見の森(はこ)に閉まっていた宝だろ?

奴は感情を(・・・)欠如させた(・・・・・)って事だ。」


「・・・・・・。」


エーテルは黙りこくって考えを巡らせる。

感情を欠如させたならば、何故執事と狼が生きているのか(・・・・・・・)

世界への復讐ならば、これらを生かす価値は皆無。

故に、創造主の感情は、心は健在である。


「ヘルメロイ・・・即決は些か早い。」


「あん?」


ヘルメロイは首を傾げた。


「私達にはまだ選択肢が残っている。 生か死か・・・又はそれ以外のな。」


エーテルは横顔をニヤつかせて、ヘルメロイは鼻を鳴らす。


「なんかお前らしくなってきたじゃねーか。」


「私は私だ。 お主は相変わらず過ぎるから少し位手を貸してや、れ。」


「のうわ!?」


エーテルはヘルメロイの背中を勢いよく押す。

彼は執事と狼を運ぶ一行を追い越し、眼前の黒い液体に突っ込んでいく。


「へ、ヘルメロイさん!?」


イリヤが驚きの声を上げるが、彼は全然平気で、むしろ黒い液体が音と煙を上げて蒸発していた。

その光景は滝に打たれる人間を模している。


「俺に効くかよおお!」


ヘルメロイは全身から神々しいオーラを放ち、

身体に付着した液体と流れ落ちる液体を弾き飛ばす。

それは微かだが、レイダスに影響を及ぼしていた。


「ぐうっ!?」


「レイダス!?」


頭を抱えて前のめりになるレイダスを心配してオルドレイが抱き寄せる。

彼は荒い息を上げながら、ブツブツと呟いていた。


「ガルム・・・?セレス・・・?何だっけ?誰だそれ?

殺さないと・・・消さないと・・・。」


その様子にオルドレイは奥歯を噛みしめて「やってくれたな!」と

この世界にいるであろうヘルメロイを睨んだ。

凄まじい殺気は距離など物ともせず、ヘルメロイに悪寒を走らせる。


「うひぁ・・・。」


変な声を出してしまった事にヘルメロイは両手で口を押えて、

視線を後方へ動かす。


「どうしましたか?」


カイルは肩で息をしながら彼に尋ねる。

彼は「はははっ。」と笑って見せて「目を付けられた。」と切り出した。


「エーテル、ここら一体の喪失純悪液を吹き飛ばすから後は任せた。

あいつと合流(・・・・・・)して上手くやってくれよ。」


「ヘルメロイ・・・まさか、お主!?」


ヘルメロイはエーテルの言葉の続きを手をひらひらと動かして、

中断させた。


「死ぬつもりはねーから。 そんなしけた面するなよ。

折角格好つけてるのに台無しじゃねーか。」


「・・・・・・。」


執事と狼(切り札)は多い方が良い・・・行け。」


エーテルは黙ってガランとカイル達一行の背を押す。


「エ、エーテルさん!?」


「行くぞ。」


彼女は振り返らず、集団の先頭に立つ。

後方を振り返ったのは古代砂漠で彼と出会ったアンベシャスだった。

出会って一日も経っていないが、ヘルメロイの性格が

チャラけて、不真面目である事は明白。

しかし、彼の出で立ちには芯がある。

背中に通る一本の芯は真っすぐ伸びており、決して曲がらない。


それは、ここぞという場面で信頼に足る人物であると表していた。

だからエーテルも、振り返らずに前を進んで行ける。


「神よ。」


アンベシャスはヘルメロイの背に語り掛けた。

彼は「なんだ?」と返事をして、ニヤついて見せる。

それは余裕などではなく、強気でいるだけだった。


勝てない敵を目の前にして、粘るには精神力が肝心だ。

心が折れてしまえば、試合はそこで終了。稼げたであろう時間は極僅かになってしまう。

実際、一帯を浄化して完全に注意をこちらへ引かせたとして

一秒も経っていられるか怪しい所だ。


「死ぬ気はないと言っておったが嘘だと分かる。」


ヘルメロイは「ははは・・・。」と笑い声を漏らす。


「男なら・・・いや、神ならドーンと構えて置かないと守れるもんも守れない。

なんだかんだでお前達人間は俺達の守護対象。

お前達を死なせたらあいつが泣いちまう。」


ヘルメロイの言うあいつとはエーテルの事だ。

他世界が崩壊し、行き場を失った神達は苦しい思いで胸が一杯だろう。

その中で、最も心を痛めていたのはエーテルだ。

死んでいく生命の魂を輪廻の輪に送る彼女の様子を

ヘルメロイは痛々しくて見ていられなかった。


「あ、そうだ。 丁度残ってくれてるし、お前に頼み事がるんだが聞いてくれるか?」


「内容にも寄る。」


「おいおい・・・。」


ヘルメロイは肩を竦めて息を吐く。

それから彼は真剣な眼差しでアンベシャスが持つ研究レポートを指さした。


「俺、この世界に(俺達)しか知らない筈の情報を

持ち込んだ奴を探してるって言ったよな?」


「ああ。」


「そいつを残り時間で探し出せ。

レポートにそいつに関する情報が幾つか記載してある。

きっと役に立つ筈だ。」


「・・・分かった。」


アンベシャスの返事に間があいた。

彼は今一度刻む。

目の前に立つチャラけた不真面目な男はその実、

男気があり、やる時はやる神だ。


アンベシャスは振り返って走り出す。

ぼそりと呟いた一言にヘルメロイは微笑んだ。

そして―――


「どっからでもかかって来いよ創造主!」


彼は雄たけびを上げる。


「予言神ヘルメロイはここにいるぞ!」


ヘルメロイの身体から溢れ出るオーラは範囲を拡大し、

白い光が辺りを包み込む。

温かくて柔らかい光は、黒い液体を浄化しレイダスを苦しめた。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」


頭を掻き毟り、床の上をのた打ち回る様は激痛の証。

彼の脳内は激しい頭痛と消えた筈の記憶に苦しめられていた。

瞳から溢れる涙は止まらない。

何に悲しんでいるのかも不明瞭で、只々彼は手を伸ばしていた。


「ぐあぁ・・・オルドレイ・・・頭が・・・うっ・・痛い・・・。」


優しく握り締められたレイダスの手にオルドレイは顔を擦り寄らせる。


「大丈夫だ・・・今、元凶を消してやるから。」


レイダスはコクリと頷いて、記憶の渦へと呑まれていく。

オルドレイは城の中央にそれは立派なベットを用意して、彼を横にさせた。

寝息を立てるレイダスは魘されて、苦し気な声を漏らす。

それもこれも全て浄化の影響だ。


黒いドロドロの液体=ヘルメロイが称す、喪失純悪液は、

レイダスの心であり、消し去った記憶そのもの。

浄化された物質はあるべき場所へと帰り、創造主に悪夢を見せる。

オルドレイが平然としていられるのは、

人間だった彼が内側に身を潜ませて傍観に徹していたからだ。


だが、思い出した所で運命は変わらない―――


断言できる要素があるとすれば、それは恨みと憎しみが根強い点だ。

それに転生後の仕打ちが加算されれば尚の事・・・。

しかし、オルドレイは片割れであるレイダスが苦しんでいる様子を

黙って見ている程お淑やかではない。


「死ね。」


彼は唐突に、無慈悲に、ヘルメロイの命を刈り取る。

瞬間的に目の前に現れたオルドレイの手に握られるは、

柄から切っ先にかけてまで透き通ったガラスのような剣。


身体に不釣り合いな剣は形状は剣であれ、長くて重い。

だが、創造主であるオルドレイに重量や長さは差ほど重要ではない。

何故なら相手には重く、凄まじい威力を発揮する剣でも、

彼にとっては軽くしなやかに触れるベストな長さであり、威力も下の下の下である。


「追撃するか?」


オルドレイの視界には木々で遮られながらも

エーテルと人間達の姿がしっかりと捉えられていた。

ここで敵を塵芥にすれば、ヘルメロイの時間稼ぎは無駄に終わり、

レイダスとオルドレイに牙を剥く人間はいなくなると言っても良い。

しかし―――


「それでは面白くないのだ・・・。」


オルドレイはエーテル達から離れた遥か後方でニンマリと笑みを浮かべる。

それは、玩具で遊ぶ無邪気な子供の笑み。

人間を観察し、学んできたとはいえ、

人間関係を上手く構築出来なかった社会不適合者である。


「さて・・・どう調理しようか?」


オルドレイはレイダスの心配をしながら、閃いて手を叩く。

城にいた創造物をその場に移動させて、エーテル達の後方を追わせたのだ。


追撃?

偵察?

否、これは戦闘型の兵士であり、嫌がらせ(・・・・)の兵士だ。

オルドレイは城に戻って王座に腰を据える。

目の前で落ち着いて眠る片割れを眺めながら・・・。


「後方から何か来ます!」


そう言葉を発したのは肩で息をするカイルだった。

振り返るとそこにはレイダスとオルドレイの追ってらしき敵の姿が確認出来る。


「何あれ? 足速!?」


「突っ込んでる場合かよ!?」


ガラン達は執事と狼を運ぶで手一杯。

ならば、頼れる戦闘要員に任せる他ない。


「フーワール! アンベシャス! 頼む!」


「うん。」


「年寄り使いが荒いわ!」


フ―ワ―ルは遠距離魔法、アンベシャスはお得意の射撃で敵を攻撃する。

しかし、相手の俊敏な動きに翻弄されて狙いを定めても上手く当たらない。


「この!」


肩や足に掠めるも相手の速度低下に繋がる致命打には程遠い。

フーワールは攻撃から弱体に切り替え、とある魔法を唱える。


「《魔法/第10番:|行動不可》」


魔法陣が敵の真下に出現し、その場に縛り付けられた。

ギチギチと相手の筋肉は強制的に動かそうと悲鳴を上げ、遠くにいても音が聴こえてくる。

走り続ける彼らは敵の正体に目を丸くしながらも目的を優先。

そのまま冒険者ギルドまで駆け抜けていく。


「はあ・・・はあ・・・なんだよあれ・・・。」


「み、見間違いですよね?」


「いや、間違いなく(・・・・・)僕達だ(・・・)。」


「何がどうなってんだよ・・・くそったれええええええ!!」


フーワールの台詞を肯定しつつ、ガランの咆哮が周囲に木霊す。

神エーテルは彼の気持ちを深く同情した。

けれど、ヘルメロイが創造主に与えた影響のお陰で敵は新王都内まで追って来ていない。

貴重な時間を無駄にする理由はなかった。


「先ずは治療が先決ではないか?」


「そうですね。 二階の一室をお借りします。」


イリヤとフェノールが先に二階へ行き、治療の準備を・・・。

執事と狼を男陣営が運んだ。

人間達は安堵している様だが、

メイサの森から脱出出来たとはいえ、危機は未だ去っていない。

神エーテルは一人、気を引き締めて窓を見やる。


そこには滝のように降り注ぐ黒い液体は無く、空にひび割れだけが残っていた。


『一帯を・・・と言っていた癖に。』


ヘルメロイの力は瞬時の開放でヴァルハラまで効果が広がっていた。

再び溢れないとも限らないが、暫くは普通に外を出歩けるだろう。

エーテルは優しく微笑んで、窓を上から下へ撫でる。


「ありがとう。」と呟いて、自分も二階へ上がるのだった。


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