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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~3年後の世界編~
196/218

神と人間の邂逅


エーテルは瞼を閉じて、再び開く。

視線、顔、体と順番に向き直り、目の前の人間達に言う。


「これが、私の知る創造主の全てだ。」


人間達の顔には信じられないと書かれており、誰一人固く閉ざされた口を開こうとしない。

エーテルは目を伏せて、隣のヘルメロスは「やっぱなー・・・。」と呟いた。

それもその筈で、創造主は彼らの直ぐ傍にいた。


依頼を受けて―――

何気なく会話をして―――

隣をすれ違って行く―――


英雄と持て囃され、どん底へと失墜した男が創造主だった事実に

人間達は絶望と後悔の念に囚われる。

『自分達はとんでもない物に手を出してしまった。』と顔が青ざめた。


その間にも世界の崩壊は着実に進行し、星波の丘を中心に空のひび割れは悪化。

他の世界も続々と消えて行き、星の数は徐々に減少して行く。

殺風景になった空に浮かぶは月だけで、

それは哀れみを持って人間達を天より見下ろした。


「ああ、月よ・・・。絶望の象徴よ・・・。」


レイダス・オルドレイは両手を広げて月を見つめる。

黒い瞳は一瞬だけ赤に染まり、月は泣く。

流れ落ちる赤い涙は黒い液体と混ざり合って大地を地獄絵図へと変貌させた。

形成された沼地の上を歩く足は、沼と拳一つ分間あけて接触を避ける。

それは発生させた赤い液体が害であるからだ。


触れた木々は全焼し、触れた岩は溶けてなくなる。

次第に範囲は拡大していき、イスガシオを呑み込んでいった。


「レイダスさんが・・・創造主?」


カイルの一言で人間側が言葉を発し始める。


「嘘だ! 俺は信じない!

だって、レイダスは自分は人間だと主張していたんだぞ!?」


「記憶が無かったのだから、人間と思い込むのは必然・・・。

実際、あの男の力を目撃して人間だと思ったか?」


「っ!?」


彼らは否定出来なかった。カイルとガランそしてフェノールは特に・・・。

冒険者試験時にレイダスの実力は群を抜いていると思ったし、

暫くして彼が低ランク冒険者で収まる器でないと知る。

けれど、同時に異質だった。


最初は目立たなかったが、

躊躇(ためら)いなく相手を殺せる実直なまでの斬殺劇。

冷酷で残酷かつ戦いを楽しむ様は異常の一言。

今思えば、人間と神を無自覚に憎んでいたが故の行動なのだろう。


「それは私の所為だ。私は転生時に男の身をアドラスから守る為、

対抗出来る最低限の力を与えたつもりだった。

だが、それが目覚めのきっかけとなってしまったのだ・・・。」


エーテルは死に際のアドラスを思い出して、歯を噛みしめる。

認めたくはなかったが彼女は認めるしかなかった。

『自分が愚かだった。』と―――

だが、エーテルは力を与える自体が愚かだったとは思っていない。

生命は傷つき、世界は悲劇に見舞われる事となるだろう。

それが本来迎える結末だ。


「まあ、結果的に目覚めちまったからには仕方ねー。

でも神達は創造主に逆らうつもりは微塵もない。」


「!?」


「なんでですか!?」


「神アドラスが創造主の逆鱗に触れた事実を神である我々が

見過ごす訳には行かない。我々神には(ばつ)が必要なのだ。」


「罰というのは死か?」


フーワールの声にエーテルは頷く。

ガランはそれに激怒した。

彼女の胸ぐらを掴み上げた彼の顔は近い。


「ふざけんじゃねええ! なんでそんな簡単に命を差し出せるんだよ!」


ヘルメロスがガランを彼女から両手で引き剥がす。

「ゴホッ!ゴホッ!」とむせ返るエーテルを立たせて言った。


「命は惜しい。 だがなお前達にも罰はあるんだぜ?」


「なに?」


「お前達は自分達を棚に上げている。創造主にした事を思い返して見な。」


ガランとアンベシャスは七天塔での出来事を―――

カイル達は冒険者強化訓練での引退を思い出していた。

そして、最近の出来事を例で挙げるなら、

レイダスにかかわりが深い者を処刑しようとしていた。


「ヘルメロイ! 余計な真似をするな!」


「おお、お優しいね~。 だけど、俺は断固拒否する。

罪は罪・・・それ以上でも以下でもない。

隠し事して、罪を全部おっ被ろうなんて馬鹿な真似はお前らしくない。」


ヘルメロイにエーテルは返す言葉もない。

目を伏せて歯を食いしばる。


「あれは、操られていただけだ・・・。彼らに責はない。」


絞り出されるように吐き出されたエーテルの心からの叫び。

ヘルメロイは振り返ろうともせず、人間達に言った。


「お前達が声に出して言わねーなら俺が言ってやるよ。

創造主は国を救った膿を排除し、自国だけでなく他国の事情に首を突っ込んだ。

種族同士との隔たりは無くなり、平和になったのに・・・だ。

お前たち人間は創造主を追い出した。」


「っ!」


「そうなの?」


七天塔にいたフーワールは知らないが、王都にいた者は全員知っている。

冒険者ギルドでの引退表明の噂は瞬く間に広がっていたからだ。


「他国の石化現象事件だったか? あれも創造主が解決した。

それを創造主を犯人に仕立て上げ、手配書まで張り出すなんて人間を超えて悪魔だよ。

いっそ悪魔に改名したらどうだ?」


「ど、どういう事ですか?

石化現象はレイダスさんが引き起こしたんじゃないんですか?」


カイルは一歩、又一歩と足を前に出して少しだけ距離を詰めた。

ヘルメロイの声を確実に拾い上げる為だ。


「はははっ! 面白い事を言う餓鬼だ。

世界を救った救世主が易々と犯罪に手を染める? 有り得ねーよ。

どう整理してもな。」


「じゃ、じゃあ誰が犯人だと言うのですか!?」


カイルに続いてゲイルが一歩前に出る。


「ああ? 決まってんだろ。 七王道が一人アイン・ロウネル。

お前達のお師匠さんだ。」


「な!?」


ヘルメロイの笑みにカイル、ゲイル、イリヤは若干ふらつく。

その後方でガランは俯いて拳を握りしめていた。


「役立たずの無能な弟子・・・。 俺だったら弟子にしねーわ。」


「ヘルメロイ言い過ぎだ!」


「いてっ!?」


エーテルがヘルメロイの頭殴る。

そして、真実を聞かされたカイル達の意志は揺らいでいた。

仇を取る為に三人はこれまで戦い、己を鍛えてきた。

それも無駄だった。

全ては彼らの勘違いだったのだ。


「俺達はなんて事を・・・ううぅ・・・。」


カイルは涙を流しながら、両膝を床に落とす。

ゲイルは顔を俯かせて、イリヤは声を出して泣いた。


「っ~・・・。今更後悔しても無駄だぞ。

創造主は全部ひっくるめて人間の存在を消そうとしているんだからな。」


「やっぱりあいつは恨んでいるんだな・・・俺達を。」


「当たり前だろ。」


ヘルメロイは語尾に「馬鹿なの?」と付け加えるがガランに聴こえていない。

彼がエーテルに再び殴られる様子も無視して、

ガランはレイダスから貰った槍を強く握りしめ、ある決意をしていた。

内容はとても彼らしいもので、

長年一緒に行動していたフェノールはガランの思考を把握していた。


「行くの?」


「ああ、俺達は死ぬしかないかもしれない・・・。

だけど、死ぬ訳には行かないんだ。」


ガランはフェノールが抱きかかえる赤ん坊の頭を優しく撫でる。


「俺達と違って何も知らない無垢な子供を守ってやりたい・・・。

これから誕生するであろう命に罪はない筈だ。」


「うん。」


「だから、俺はレイダスが首を縦に振るまで謝って謝って謝り倒す。」


ヘルメロイは床にめり込んだ頭を上げて、ガランの決意に呆れていた。


「お前はやっぱり馬鹿か。 謝罪で解決する問題じゃねーんだよ。

これは復讐だ! その気になればこの世界も一瞬で消せる!」


残っている世界の中で、

この世界とレイダスが元いた世界は崩壊寸前であるとはいえ存在している。

それは、じわじわと甚振る為だ。

今までの恨み辛みを味合わせるべく、彼は様々な想像を脳内で巡らせていた。


「足りない・・・。」


レイダスは片手を前に出し、手首を下から上へを動かす。

すると地面と沼を突き抜けて城が現れた。

その城の外壁はエネルギー体で形成されており、

レイダス以外が触れると消滅する仕組みになっている。


中へと入城した彼の眼前には左右に屈強な想像上の兵士が並んでいた。

鎧の下はこの世の生き物とは思えない醜い姿で、

剣と斧を主体に編成された兵士達の強さは神をも凌ぐ。

そして、役目を終えた瞬間、兵士も消滅する仕組みだ。


「行け。」


レイダスは元いた世界に繋がる入り口を作り、進軍を開始させる。

兵士達は都市を襲い、空軍が迎撃を試みた。

けれど、効果なし。

津波を起こし、雷を落とし、地震を発生させて、人間が死ぬ様を笑った。

逃げ惑う人間達を追うように設計された兵士達は、

応戦する人間を無視して庶民を襲う。


血だらけの地獄絵図に満足したレイダスは追加の兵士を送って入り口を閉ざした。

それだけで事足りると判断し、

この世界をどう滅ぼすか考える時間を確保したのだ。


「さて・・・糞共よ・・・精々足掻いて見せろ。」


ザザザ―――・・・覚醒・・・第二―――ガガ・・・


レイダスは「同じ兵士ではつまらない。」と違う形状の兵士を生み出す。


「お前達なら最高の絶望を与えてくれるだろう。 フフフハハハハハッ!!」


「楽しいなあ・・・。」


「ああ、楽しいなあ・・・。」


レイダスは身体を左右に揺らしながら、笑みを浮かべている。

その身体は分裂を始めて彼は再び二人になった。


「レイダス。」


「オルドレイ。」


「「共に行こう。」」


レイダスは左手を、オルドレイは右手を差し出して互いの手を握る。

用意した二つの立派な王座に腰を据えて、創造を繰り返した。

その中で、一匹の狼が誕生する。

何処かで見た事があると思いながら、彼らは創造を継続した。


一方、ガランはヘルメロイに向き直って言う。


「謝って済む問題とは思っていない。 だけど、俺にはそれしか出来ない。

後・・・そうだな「ありがとう」も言わねーと・・・。」


「あ?」


「俺の持っているこの槍はあいつが俺に譲ってくれた物なんだ。

あいつは俺を憎んでいるかもしれない。だけど、礼はすべきだ。」


ヘルメロイは「変な奴。」と呟いて、エーテルはクスリと笑った。


「俺も・・・レイダスさんに謝らないと、自己満足でも良い。

頭を下げて今までの全部を謝罪したい。」


カイルの言葉にエーテルは真剣な表情をする。


「自己満足・・・それは本気で言っているのか?」


「え?」


エーテルはカイルの横っ面を殴り飛ばす。

フーワールとゲイルが受け止めるも、フーワールは壁に激突して、

苦しい声を上げた。


「何故心を届かせようとしない! カイル・ラ―ギンス!

お主の気持ちはその程度か!」


「ううぅ・・・。」


カイルはふらつきながら、殴られた頬に手を当てる。

そして「俺のフルネーム・・・。」と口にした。


「私は輪廻の輪の管理者だ。 お主の名前ぐらい分かる!」


エーテルは「職権乱用してやがる。」と言うヘルメロスをつねりながら、

決断をする。


「ガランとやら、この後戦いに行くのだろう?」


「ああ。」


「ならば、私は盾となろう。」


ガランは目を丸くして、ヘルメロスは驚愕する。


「神エーテル! おま、自分が何言いだしているのか分かっているのか!?」


「攻撃に参加する訳ではない。 盾ぐらいにはなれる。」


「そ・う・じゃ・な・く・て!」


ヘルメロイはエーテルの両肩を掴んで言う。


「俺や他の神は兎も角、お前は輪廻の輪を守る責務がある。

今もあそこには数え切れない程の魂が漂っているんだぞ!?

変な菌でも感染したのか!?」


「期待したいと思ったのだ。我々が消えて、輪廻の輪が残る保証はない。

ならば、出来る事をしたいと思わないか?」


「むう・・・。」


「我々神も所詮人間と変わらない。 固定概念に囚われ過ぎている。

ヘルメロス。 お主も協力しろ。

少しは足掻いて神と人間の良さを見せつけるのだ。」


ヘルメロイは肩を落としてため息を吐く。


「はあ~。やっぱ変な菌に感染したんだな。」


そして、ガランを指差して彼は言った。


「いいか! 絶対俺に攻撃を浴びせさせるなよ! 俺は弱いんだからな!」


「お、おう。」


「清々しいまでの開き直りだな。」


フーワールの言葉にフェノールとアンベシャスは頷く。

そうしていると地震で建物が揺れた。


「うおああ!?」


「ぬおお!?」


「そ、外見てください!」


イリヤが指さす先はメイサの森上空。

空のひび割れが酷くなり、破片がバラバラと下へと落下を始めていた。

そして、大きな物体が姿を現す。


「た、建物だ。」


木製の建物はメイサの森中心へと落下し、激しい土ぼこりを発生させる。

すると、窓際にいた神エーテルが目を細めて「二つ。」と口にした。


「生命体がいる。 助けねば。」


一目散に駆け出して行った彼女にヘルメロイは「ああ、クソッ!」と舌打ちして

後を追った。

それにガランとカイル達も続き、驚きの光景を目にする事となる。


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