創造主の正体
※神アデウスがアドラスになっていたので訂正。
失敬致しました!
混沌が続く無の中で―――偶然生まれた命があった。
《始まりの命》と呼ばれる
それは何十年何百年もの間、同じ場所に只居続ける。
「居たいから。」とか「何をしていいのか分からないから。」とかではなく、
動くという意味を知らなかった。
自分が何者なのかと考えもしない命も又、無であり、言葉を発する行為もしない。
自我がないと云えば、当然当てはまる。
偶然生まれた産物には持ち得なかったのだ。
先達者がいない命に学習機能も無ければ、
学習しようという好奇心や興味、向上心すら欠落している。
そんな命が気紛れで発した発音は「あ」から始まり「ん」に終わった。
それだけをひたすら繰り返し、延々と混沌にこだまする。
いつしか声は止み、命は「飽きた。」と口にした。
命は退屈を覚えたのだ。
退屈を覚えた命は次第に様々な言葉を介し、言語を生み出し、
やがて発した声には力があるのだと知る。
ここで命は欲を得た。
「知るってなんだ? 知るってなんだ? 知るにはどうすれば良い?」
無かった物を得始める命に自我が芽生え、命は留まっていた場所から移動を始める。
「縦」と言えば、壁が現れたり身体が浮上したり、
「横」と言えば、床が現れたり身体が横へ移動したりした。
命は発した言葉に自分がイメージした物、意味が宿るのだと分かり、
全てに意味合いを持たせる。
すると、混沌しか無かった場所に土と緑が生えた。
言葉を発している内に自然と生まれたそれは美しかった。
「触れたい。 触りたい。 触るには? 触る為には?」
命は自身の身体が変化している事に気が付く。
ニョキニョキと生えだしたそれは今でいう手足だった。
「見辛い。 見にくい。 見にくい。」
そして、視線の位置が高くなる。命は頭と耳を得た。
彼は人型になったのだ。
「触る。 触る。 触る。」
彼は自らが生み出した土と緑に触れた。
サラサラと乾いた土を「砂」と呼び、緑を「自然」と呼ぶ彼は、細かく分類する。
硬い物体を「岩」。
土から生える棒を「木」。
凹凸のある膨らみを「山」と名付けた彼は、
突然底から湧き上がる不思議な感覚に首を傾げた。
「モヤモヤ? フワフワ? 気持ち悪い? 気持ち悪い・・・。」
彼は胸のあたりをさわさわと撫でまわし、両手でぺたぺたと叩いた。
外傷は無いのに、体の内側が「気持ち悪い。」で一緒くたになり、
口から彼はそれを押し出した。
「寂しい―――。」
彼は首を傾げた。
「寂しい? 寂しいって何? 気持ち悪い。 気持ち悪い。」
すると、彼の頭からペリペリと皮が剥ける様な音がする。
横に膨れて、頭が増える。続いて肩、腕、足と―――
彼は分裂して二人になった。
「誰? 誰?」
「僕、私、俺? 俺。」
黒い瞳は同じ。
けれど、髪の色が異なった。
彼に対して分裂した彼の髪色は真紅の赤。
お互いの顔に触れあって、頬から顎にかけて撫で下ろす。
それが、創造主―――創造神、双星王と崇められる全知全能者の誕生だった。
彼らは、大地を沢山作り、時空を挟んで区分する。
そして二人の彼はある事を閃いた。
「観察しよう。 研究しよう。 研究するんだ。」
「そうだ。 そうだな。 そうしよう。」
彼らは一本の木と麦畑。
人間という自分達と似た姿をする無能者を生み出した。
女と男のつがいを交尾という手法で増殖させ、人間は無駄に増えていく。
その間に彼らは争いながら、文明を築いていった。
火、衣服、電気、剣、盾、携帯、テレビ、等等・・・。
二人は想像もしない物を作り上げる人間に驚きながら、人間の行動原理に興味を惹かれる。
「すき? きらい? 好き? 嫌い?」
「好きってなんだ? 喧嘩? 喧嘩って何?」
人間は人間の言語を介し、相手と意思疎通を行う。
恥じらいを感じて服を着る。
彼らはそれにならって、自分達の言語修正を図り、服を身に付けた。
「人間の行動原理って何だと思う?」
「感情、気持ち、心・・・。」
「感情は肉眼に見えない。 透明な物質なのだろうか?」
「俺達にもある・・・?」
彼らは人間の観察を始めて幾億年と時を重ねていた。
未だに胸の中は空っぽで、知識が枯渇している。
時折締め付けられる奇妙な感覚と人間達が胸に手を当てる様子を見て、
これが、感情なのだと悟った。
「変な感じがする・・・。 あの時と同じ、気持ち悪い感覚だ。」
「最知りたい・・・。 俺は人間をもっと知りたい。」
二人は自分達しかいない世界に降り立って、人間の真似事を始めた。
農具を持って土を耕し、自給自足で野菜を育て、調理する。
「美味しいって言うのか?」
「これが美味しいか。 こっちは苦いぞ。 凄く苦い。」
彼らは胃袋に食べ物を収めなくても死なない構造をしている。
人間達に老いという寿命を設けた結果、全く動かなくなって死んでしまった。
そこから学習し、自分達の肉体を変質させたのだった。
それでも人間が食べる料理という物が気になって、味覚を感じる舌はある。
「これは渋い。 こっちは・・・。」
「どうした?」
「す、酸っぱい・・・。」
眼から流れ落ちる滴に興味を惹かれた片方は指にとってペロリと舐めた。
それは人間が海に飛び込んで浴びる成分の一つ。塩の味がした。
「しょっぱい?」
彼らは再び人間を観察する。
試しに地割れや津波を起こして様子を傍観していた。
津波に呑まれる子供を救出する人間がいたら、見捨てて逃げる人間もいる。
その様子に彼らは首を傾げて難しい顔をした。
「「矛盾している。」」
「助けるは正解? 逃げるは過ち? 答えが無い・・・。」
「自分の命と他人の命を天秤にかけた。 自分の命は重い・・・のか?」
彼らは器が無くなり消えて行く魂の行き場を作る。
それを《輪廻の輪》と呼び、彼らは初めて表情を変化させて見せた。
口角が上がり、それにつられて顔の筋肉も若干上がる。
「顔が変。」
「笑顔・・・じゃないか?」
「これが笑顔。 良いなこれ。」
彼らは互いに頬を触って、ムニムニといじった。
「ふへへへへ。」
「ふはははは。」
棒読みでぎこちない笑い声。
けれど、彼らは新しい発見と新しい経験に喜んでいた。
人間で言えば博士という奴だろう。
探求し、証明する。
彼らは知識に飢え、人間という自らが生み出した生き物を研究し探求した。
大陸を徐々に変化させてやり、日本で侍が誕生した頃・・・。
彼らがいる場所でも変化が起きていた。
自らを神と称し、人間を守護する存在だと主張する集団が現れたのだ。
それは二人が人間を生み出したように、人間が危機意識を抱き生み出した存在。
必然的に厄災を引き起こした結果、偶然生じた副産物だった。
「神?」
「創造主よ。 我々は人間を愛しております。
どうか、人間を試す様な行いはお控えください。」
神達の言う試す行いとは、二人が大地を変質させ、地割れや津波を起こす事だろう。
「・・・・・・。」
「創造主よ。」
「愛ってなんだ?」
「愛とはかけがえのない者に引き付けられ、いつくしむ心です。」
「かけがえのない・・・いつくしむ・・・心・・・か。」
二人の内、金髪の方は手の平を見つめて考え事に耽って、
赤髪の方は神と受け答えをする。
「何故人間を愛す?」
「愛に理由が必要ですか?」
神達の顔に真剣みが増す。
元々真剣な顔をしていたのにさらに増すと威圧にも取れた。
「必要だ。 俺達が納得いく答えを用意しろ。」
二人は神達の前から姿を消す。
それに合わせて神達も続々と姿を消して行くのだが、数人の神は別。
首を垂れたまま静かに笑う姿は企み顔だった。
戦闘に立ち、悪だくみを抱いていた者こそ後にアデウスと名乗る神である。
「計画は着実に進行しております。 神アデウス。」
「そうか・・・それはなにより。 我々が奴を滅ぼし上に立つ。
それこそ神としての役割、危険因子の抹殺だ。」
「ですが、懸念はあります。 もし、失敗すれば・・・。」
「失敗はない。 奴は我々を侮っている。
好機を伺い、今は頭を垂れるフリをすれば良い。」
それから300年の時が経過し、二人は平原で夜空を眺めていた。
人間が険しい表情を緩ませる理由が何となく分かり、
彼らは人間に少しだけの期待と新たな技術の発展に心躍らせる。
二人で作り上げた自信作の空に吐息を漏らしながら―――
「こんな日が永遠に続けばいいのに・・・。」
「俺もそう思うよ・・・。」
「なあ。お前は人間をどう思う?」
「なんだよ突然。そうだな・・・。知性があるのに愚かで儚い生命体かな?」
「人間て、そんなに酷い生き物か?」
「ああ。俺は、人間を好いていない。お前と違ってな。」
「ははは。」
「お前は、なんで人間になりたがる?俺は、理解に苦しむ。」
「そうだな・・・。俺が人間になりたい理由は、知りたいからさ。」
「これ以上知る意味があるのか?」
「ああ、あるさ。 神達が言う愛とは何なのか・・・。
あいつらは未だに答えを出さない。ならば、自分で確かめるしかないだろう?」
そうあれから300年経つというのに彼らは二人に答えを言いに来ない。
それ所か二人が作り出した世界を勝手に改変し、世界を意のままに操っていた。
「多数を幸せに、少数を不幸にする事が奴らにとっての愛なのか?」
「だとしても、器はどうする気だ。 俺達は世界に居続けられない。」
彼らは存在し得るだけで世界に多大なる影響を与える。
そもそも根本が違うのだ。
無から有を生み出し、超越した存在である彼らの力は強大だ。
強大な力が人間の身体に反発し適さず、
器が崩壊または器の奥底へと閉じ込められてしまう可能性があった。
「器が壊れるだけで、中身の俺達に害はない。
ただ、馴染みすぎて人間に落ちすぎてしまうのはマズイな。」
「お前の事だ人間に―――。」
「ならないよ。」
「え?」
赤髪の彼はきょとんとした表情で呆けた声を出した。
「お前を残していく気はない。 俺達はずっと一緒だろ?」
金髪の彼は笑って見せた。
昔のぎこちない笑いが今ではスムーズで、表情筋が機能している。
「そう心配そうな顔をするなよ。別に死ぬわけじゃないんだ。」
「お前がなるなら、俺も・・・なる。俺も人間になる!
絶対にお前を1人で行かせない!」
「ありがとう。」
金髪の彼は赤髪の彼を抱き寄せて平原に寝転んだ。
そして、額と額を合わせて笑う。
無邪気な笑顔に赤髪の彼も又微笑んだ。
けれど、二人の物語は唐突に終わりを告げる。
「なんだ!?」
平原が突然火を上げて、奥から二人が生み出した魔物に神達が騎乗していた。
突撃する騎乗兵もとい騎乗神は、二人に急接近を試みる。
「くっ!?」
繰り出される剣の一撃を避けるも分担されてしまった二人は歯を噛みしめた。
視線が向けられる先は、愉悦に笑みを浮かべるアデウスだった。
「神アデウスとやら俺達に刃を向けるとはどういう了見だ?」
「我々の役目は愛おしい人間の守護。
ならば危険な貴方様を抹殺するのは至極当然。」
「その程度の剣で俺達が殺せるとでも?」
「試して見るか?」
アデウスは騎乗神達に「行け!」と命令を下し、自身は高みの見物をする。
毅然とした態度に腹立たしくなる二人は『何故腹立つのか?』と疑問に思った。
神達に何の感情も抱いていなかった・・・。
というよりも神達が人間に齎す結果と神達の行動に興味を惹かれていた。
人間から生まれた神々という存在は人間と等しく心を有し、
己が信念に則り動く。
では、俺達は―――?
「うっ!?」
刃が頬を掠めていく。
愉悦に高々と笑う神アデウスの様子を目の当たりにして確信した赤髪の彼は失望した。
何のことはない。
人間も神も所詮は同類。自分達とは異なるのだ。
感情や欲望に振り回されている彼らは、毅然としているもそれは自分達の為―――
その為なら、人間と神を生み出した大元・・・いわば親をも殺せるのだ。
二人が作り出した輪廻の輪の管理、魂の浄化をしていたのも、
彼らの手間を省く為ではなく、全ては二人を殺害に至らしめる策略。
「さっさと死ねよ!」
騎乗神が突撃し、剣を振るう。
しかし、それを悉く片手で受け止めた彼らは阿吽の呼吸で魔物の横を蹴る。
それは勢いよく飛んで行き、肉塊となって飛び散った。
平然と生き物を殺せる二人にアデウスは顔を引き攣らせる。
「だから、生かせんのだ貴様らは・・・!」
後に自分もそうなるであろうに、彼は化け物を見るような目で彼らを見つめた。
「期待も信頼も裏切ったんだな・・・。」
赤い髪をした彼は騎乗神達が集まる場所へと無防備に近づいて行く。
だが、無防備なのにそれが恐ろしい。
「う、うあああああ!?」
「待て早まるな!」
神の一人が恐怖の余りに考えなしに飛び出す。
思考が目の前の敵を屠れと指令を発していたのだ。
しかし、触れてもいないのに神の頭は「パン!」と風船が割れるように弾ける。
そして、手をかざされた胴体は砂塵へ帰った。
風に乗り、舞い上がる灰は霧散して消えて行く。
自分達も灰となって死ぬと想像した神達は
『ああ、なんて愚かだったのだろう。』と後悔した。
次々と握りしめていた剣を落とし、諦めていく神達の中でアデウスだけは違った。
彼は高みの見物をやめて、自ら前線へ出たのだ。
魔物に騎乗し、
空を支配する魔物達も誘導し、彼は単独で突撃した。
「馬鹿が・・・。」
赤髪の彼は魔物を砂塵へ返し、アデウスは派手に転倒する。
そうして彼の足元へと頭を差し出すように倒れたアデウスの髪を掴み上げた。
「ぐあああ!? 離せええ!」
躊躇はしない。
人間も神も今一度無に帰すべきなのだと思った。
生まれ落ちて―――
生み出して―――
生み出して―――最後には殺される。
こんなの苦しいじゃないか。
「俺は何の為に・・・。」
アデウスに触れる手から力を吸い上げて、半分以上の力を奪い取る。
元は彼の物なのだから、奪う位容易いものだ。
そして止めを刺そうとアデウスの胸に右手を当てた瞬間だった。
「危ない!」
「ドスン!」と刃物が突き刺さる音と身体を突き飛ばされる感触―――
目の前の光景が全てを物語っていた。
金髪の自分が盾となって、赤髪の自分を守ったのだ。
魔物に騎乗する神の腕はカタカタと震えていて、
握りしめていたのは剣ではなく、槍。
長く、鋭い槍は心の臓を的確に突いていた。
足が後ろに下がり、槍がずるりと抜けると金髪の彼は仰向けに倒れた。
流れる鮮血の海に青ざめる赤髪の自分は、暫く呆然としていたが、
金髪の彼は瀕死になりながらも怒っていた。
「あいつに・・・あんな顔させやがって・・・。」
口調が変わる。
「裏切り者があああああああ!!」
金髪の放つ強烈な光が周囲一帯を灰と化す。
神達の生き残りは極少数でアデウスは生きていた。
殺せなかった残念さはあるものの、赤髪の自分は無事だった。
それにホッとしながら、背負われる金髪の自分の視界は薄らいでいく。
ドクン―――と小さく鼓動が高鳴って彼の耳には幻聴が鳴り響いた。
『死ぬな!死ぬな!死なないでくれ!俺を・・・俺を独りにしないでくれ!』
意識を集中すると腕は震えていた。彼らはようやく気が付いた。
これが尊く思う気持ち。
相手をいつくしむ心―――愛だった。
でも、気付くには遅かった。
「あの槍・・・あの剣・・・俺達を殺す為に試行錯誤したんだな。
傷が治らない。」
「もういいしゃべるな! くそくそ!血が・・・血が止まらない・・・。」
人間を観察している内に急所までも人間に寄ってしまっていた彼らは、
自ら生み出した人間と神を恨む。
人間が居なければ、神は誕生しなかった。
「何故だ! 俺達は只、自分に芽生えた物が知りたくて・・・。
只、生きていただけなのに!」
そう・・・彼らは生きていただけだった。
基本的に彼らは人間を傍観し、時折厄災を起こす程度に留まっていた。
世界を生み出し、自分達が存在する理由を求めて・・・。
だが、異なる存在であるが故に、
心などという理解しがたい物が偶然宿ってしまったが為に・・・。
彼らは迫害された。
自分達の存在意義を見いだせず、生きる場所すら奪われて―――
「俺達は裏切られた・・・全てに・・・。」
「ああ。」
「でも、これなら確かめられる。 弱っている今なら器は壊れない。」
「お前・・・。」
「俺達で見定めよう・・・。」
金髪の自分は真っすぐに自分を見つめる。
鏡映しにお互いの瞳に自分が映り、誓い合った。
「記憶が混濁して自分を見失っても俺達はずっと一緒だ。 お前を絶対守る。」
「俺はお前でお前は俺だ。 記憶が混濁しても俺はお前を忘れない。」
そして、最後に互いの名を呼び合った。
「じゃあな レイダス」
「じゃあな オルドレイ」
「「目覚める時まで―――」」
こうして彼らは再び一つとなる。
危機的状況を脱し、人間となった彼らは世界を徘徊した。
レイダスは記憶を失い、オルドレイは内側で覚醒しては眠っていた。
アデウスの企みで死して転生を繰り返しながら、
内側では『レイダスを殺した。』という事実と
人生を歩む上で人間がレイダスを苦しませていると知り、オルドレイの恨みは倍増する。
記憶を思い出せないレイダスは力も弱化していたが為、オルドレイに侵食され、
オルドレイは表に顔を出すようになった。
それが最近の出来事で、
彼はレイダスが自ら記憶を取り戻すように内側から囁き、行動を仕向ける。
全ては人間と神を滅ぼす復讐を果す為に―――
レイダスとオルドレイ。
創造主にして創造神と分類された全知全能者は進撃を開始するのだった。




