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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~3年後の世界編~
193/218

世界崩壊の予兆part3


―――古代砂漠―――


実質七王道の裏切り者・・・

もとい七王道から足を洗った男アンベシャス・モルガノールは

古代砂漠を彷徨っていた。


砂嵐が彼を襲い、砂粒が横風に流されて顔に直撃する。

砂に混じって黒い粉を吸い込んだ彼はがくりと膝を落とした。


「むう・・・これは・・・。」


身体に力が入らない。

上空を見上げれば、空がひび割れていた。


「原因はあれか。」


空のひび割れた隙間から流れ出る黒い液体は砂漠の暑さで乾燥。

それによって粉になった危険物は、

アンベシャスだけでなく、周辺の魔物にも影響を及ぼしていた。

魔物もアンベシャス同様に膝を地面につける。

ゆっくりと頭を下ろす仕草は、神に命を捧げるようだった。


しかし、アンベシャスは死ねない。

そもそも苦しんで死ぬなんて真っ平ごめん。

彼は死に方を安楽死と決めている為に、砂漠の真ん中で死ぬ訳には行かなかった。


「む・・・おおお。 ぬぐおおあああ!」


『長年七王道をやっとったんじゃ! この程度おオオオ!』


アンベシャスは自分に精神論を言い聞かせて立ち上がった。

だが、格好つけたは良いものの膝はガクガクと笑っている。


「このままでは、少しまずいのお・・・。」


空のひび割れはアンベシャスの上空まで広がっていた。

口元を布で覆いもしたが長くは保たない。


「何処か身を隠せる場所があれば良いんじゃが・・・。」と

それがフラグだったのか足を滑らせる。


「ぬお!?」


ゴロゴロと転がった先には大地の裂け目があり、彼は勢いを殺せない。

『あ~、コレ無理じゃわ~。』と諦めモードに入ったアンベシャスは、

そのまま落下するのだった。


「のわあああああああ!?」


空中で銃が離れて行きそうになるが、腕を伸ばしてしっかりと握り締める。

そして帽子も―――

けれど、銃と帽子を抑えた為に両手が塞がった。

腰のカバンが落下の勢いで開いて、中身が外へと漏れてしまう。


「あわわわっ!?」


手を伸ばしたい彼だが、手を離せない。


「何処まで落下するんじゃああああ!?」


叫び声を上げながら、半泣きするアンベシャス。

底が見えてきた彼は風属性魔法で落下速度を和らげて着地した。

正直心臓がバクバクと五月蠅い。


「ろ、老体に堪えるわい・・・。」


アンベシャスは上を見上げて「大分落ちたな。」と呟く。

大地の裂け目は広く大きかったにも関わらず、

底まで光も黒い粉もが届いていなかった。


「500m以上は確実かのお。」


彼はカバンを開いて中身を確認。

肩を竦めて消費アイテムを殆ど失った事に溜息を吐いた。

唯一良かったといえるのは銃の弾丸を入れていたケースが無事である事。

魔物が出てもこれで戦える。


彼は細かい砂地を踏みしめて静かに前進。

銃を構えて警戒しながら進んだ。

そうして辿り着いた場所は、一風変わった彫り物がされた壁画と得体の知れない石扉。

壁画と石扉に触れてホコリが舞った事実から

相当年月が経っていると彼は推測した。


「未発見の遺物かもしれんな。 開けてみよう・・・。」


アンベシャスは石扉に両手を置いて、全体重をかけた。


「ぬぐぐぐぐ・・・。」


石扉はゆっくりと音を立てて、アンベシャスに道を開ける。

先は真っ暗でクモの巣が張り巡らされていたが、魔物の気配はない。

警戒は怠らないけれど、安全ならば火を焚いても問題ないだろう。


彼はカバンに残っていた火打石手に取って、乾いた薪がないか辺りを捜索する。

椅子やテーブルがある事から以前人がいたのだと分かった。


「ちょいと使わせて貰うぞ。」


アンベシャスは木製の椅子を地面に叩きつけてバラバラにする。

適度な長さをした木を拾い集めて焚火をした。

すると、石扉から先の全景が明らかになる。


中は洞窟で人工物があるのは入り口から10メートルまで。

椅子やテーブルがあった場所も範囲内に収まっており、

それより先は果てしなく闇が続いていた。


アンベシャスは唾を飲み、奥に行くか行かないかで揺れる。

しかし、視界に入ったある物で思考は中断。


「なんじゃ? 本?」


テーブルの角に置かれていた本に手が伸びた。

開くと中の紙はボロボロで所々読めなかったり、破られているページがある。

一つ分かるとすれば、ここを発見した者の研究レポートである事だ。


「んー・・・上の・・・壁画?」


アンベシャスはレポートの一文が気になって上を見上げた。

そして、口を開いて暫く硬直。

研究レポートを落として、呆然としてしまった。


「ななな・・・!?」


そこには人間のような絵と神のような絵が描かれており、

両者共に武器を手にしている。

迎え撃つは強大な敵。

年月が経ち、欠けている部分もあるがそれだけはハッキリと分かった。

迫力のある絵は彼を魅了する。

だが、彼が驚愕しているのはそこではない。


壁画の近くに真新しい文字がデカデカと記されていた。


「XXX年〇月▽△日・・・二日後(・・・)ではないか!?」


アンベシャスは焚火の火を持ってもう一度周囲を確認する。

やはり、魔物の気配はない。


「奥か!」


彼はまだ行っていない洞窟の奥へと研究レポートを持って進んで行く。

壁画が大量に描かれている通路を直進し、辿り着いた先には空間が広がっていた。

声を放つと反響しそうな空間には誰もいないし、何もない。


只広いだけの空間がそこにあったが―――

アンベシャスはある(・・)と信じている。


「研究レポートを放れ・・・。」


研究レポート内の一文を読み上げて、空間の中心にレポートを放った。

すると、レポートがふわりと空中に浮いてページがパラパラと捲られる。

アンベシャスに見えるようにレポートの白紙部分が向けられ、

浮かび上がった文字は尋ねた。


「お前は誰だ?」と―――


アンベシャスは唾を飲んで答える。


「ワシはアンベシャス・モルガノール旅人じゃ!」


文字は消えて、新たな文字が浮かび上がる。


七王道(・・・)が何用だ?」


『ワシを知っておるのか!?』


アンベシャスは一歩後ろに下がった。

そして、レポートに新たな文字が記される。


「検討はついている。 申して見よ。」


アンベシャスは呼吸を整えてから尋ねた。


「あの壁画はどうか知らんが、日付はお主が書いた物じゃろ?」


レポートは次の白紙ページを開く。


「そうだ。」


「壁画の隣に、二日後の日付・・・あれは何を意味しておる?」


アンベシャスは真剣な眼差しで尋ねたが、レポートは閉じられる。

そして、本の角から地面に落下して、「カツン!」と音を立てた。

落下した拍子に開かれたページは彼の立ち位置からは見えず、

アンベシャスは中央のレポートを拾い上げた。


彼は目を細めて黙って記された文字を眺める。

そこにはこう記されていた。


『世界滅亡の日―――創造主に委ねられん。』


アンベシャスは首を傾げて「創造主?」と呟く。

最初は創造主=神だと思ったが、

彼は入り口の天井に描かれていた壁画を思い出して違うと悟る。


人間と神が敵わない程の強大な力を持つ存在―――それが・・・。


「この世界にいる。」


「ぬぎゃあああああ!?」


アンベシャスは耳元で囁かれて飛び上がった。

振り返るとそこには純白のローブを着こなした男が腕を組んで立っている。

白い髪に金の瞳、透き通るような白い肌は

遠目から女としか思えない風貌をしていた。


「お、おおお、お主! 何処から現れおった!?」


「はっはっはっ!驚いているな。 いい反応だ。」


男は笑い声を上げて―――


「お前の問いに答えるなら、俺はずっとここにいたさ。」


下を指さした。


「そのレポートに文字を書いていたのは俺。ここの異物を研究していたのも俺だ。

俺達しか知らない筈の情報を

この世界の壁という壁に壁画としている人物を探してな。」


男は自分の格好良さをアピールしつつ、目的を口にする。

アンベシャスの目線からは変人としか映っていなかった。


「一体なんじゃ・・・お主。」


「あん? 俺か? 俺はヘルメロイ。

これでも一応お前らが崇める神様の一人だぜ。」


アンベシャスは目を丸くした。


『こ奴・・・なんといいおった? 神、神と言ったのか?』


「信じられないって顔をしてるな。 まあ、当然か。

お前達からすれば神は傍観者にして尊く、崇拝する存在だからな。」


ヘルメロイはアンベシャスを指差して得意げに語る。

胸にグリグリと押し付けてにやける顔・・・。

アンベシャスは後ろに下がって戸惑いの様子を見せた。


「待て待て! どういう事だ!? つ、ついていけんぞ!?」


「あ゛あ゛~。 頭の悪い奴だな~。」


ヘルメロイはアンベシャスの肩に腕を回して、老体に体重をかける。


「いいか? お前が俺をどれだけ疑おうが、どれだけ怪しもうが

俺が神である事に変わりはないし、滅亡までの二日間俺は神だ。

納得行かないのなら、神の御業を一つ見せてやる。」


ヘルメロイはアンベシャスから離れて両腕を胸の前で叩いた。

すると、巨大な魔法陣が地面に出現した。


「これは!?」


「んー、エーテルが顕界している様だな。じゃあ、ここに飛ぼう!」


ヘルメロイとアンベシャスの姿がその場から掻き消え、

目を開けるとそこは新王都。

空のひび割れから流れ落ちる黒いドロドロの液体で街並みは酷い有様になっていた。


「生存者はおるのか?」


アンベシャスは鼻をつまんで、死臭に堪える。

慣れているとはいえ、

新王都の死臭は黒い液体と混ざり合って臭さが倍増していた。


「こりゃあ、堪えるわい。」


と呟いているとヘルメロイが鼻歌を歌いながら黒い液体に足を突っ込む(・・・・・・)


「お主!? 何をしておる!?」


「見ればわかるだろ? 突っ込んでんだよ。」


足を突っ込んだ足周辺のドロドロは蒸気となって跡形もなく消え去る。

その消え方は消え去るよりも浄化(・・)という言葉が相応しい。

浄化された黒い液体の蒸気は空気に混ざって行くのだが、

心なしか空気が美味しく感じるのだ。


ヘルメロイはそのまま体も突っ込むが平常。

そのまま通り過ぎる。

汚れた筈のローブは相も変わらず純白でアンベシャスは呆然としていた。


「おい、置いて行くぞ?」


アンベシャスは慌てて彼の後を追う。

自分は液体を避けながら必死だった。


『一体何なのだああああ!?』という心の叫びを聞く者はいない。


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