男は、試験を受ける。part1
男は、筆記試験を通過する。
『予想以上に簡単だった。』
そして、次なる試験は『実技』
実技試験会場は、男がこの世界にきて初めて見る『決闘場』だった。
控室で、通過者各々準備をする中、カイルの様子に異変が――――――――――—
『冒険者ギルド 2階廊下』
俺は、一息ついていた。正直、筆記は自信がなかったのだが・・・・・。
「筆記通っちまった。」
俺は筆記を簡単に通過した。
問題に出てきたのは、レア度の低い薬草や鉱石が入手できる地帯はどこだ?
この剣の名前は?
その程度の問題だった。
『FREEの世界にはまっていた俺からすれば簡単すぎる問題だった。もっと難しい問題が出ると思っていたのだが・・・。拍子抜けだ。こんな問題で落ちる奴がいるのにも驚きだ・・・。』
試験を受けたのは8人。
その内の4人が筆記試験を落とした。
『頭・・・悪そうだったもんな。』
去って行った4人は、冒険者というよりもチンピラのような雰囲気だった。去って行くときに
「やってられるか! んなもん!!」とか言っていたからな。
それとも――――――――—
『この世界全体の平均lvは俺が思っているよりも低く、俺以外で知識を豊富に持ってる者が少ないんじゃないか?』
「レイダスさん!! レイダスさん!!」
試験を受けていた個室の扉が勢いよく開く。
カイルが俺の名を大声で叫んでいる。
『やめろよ!! びっくりしただろうが!!!』
俺は、心の中でカイルに怒る。
「聞こえてるから、人の名を連呼するな。」
『まあ、怒るんだけど。』
「すいません。 それよりも、見てください!」
カイルは俺に1枚の紙を手渡した。
「ん? 筆記試験順位表?」
俺は、紙の内容を確認した。そこには、筆記試験の順位と成績が載せられていた。
問題は全部で50問、合格ラインは35問である。
1位
レイダス・オルドレイ/50
2位
カイル・ラ―ギンス/40
3位
フェノール・スタレイン/36
4位
ガラン・レーガン/35
※筆記試験脱落者は記載しません。
『え? 俺、満点なの?』
「俺、筆記試験2回目なんですけど、満点なんて取れませんでしたよ!?」
とカイルは俺を尊敬の眼差しで見つめる。
「これくらいできなくてどうする。」
出題された問題は『FREE』をプレイしていた者からしてみれば、簡単な問題だった。
逆に解けない方がおかしい。俺はこの時、『FREE』をしていた頃を基準に考えてしまっていた。
「レイダスさんは、博識なんですね!」
俺の台詞にカイルは、ますます目を輝かせる。
『まずい。 余計に油を注いだか。』
俺は、発した言葉を振り返った。
『プレイヤー視点はいけないな。 というかそんなキラキラした目で俺を見ないでくれ・・・。』
俺は、「そうでもないさ。」とカイルに言う。
そこへ、個室にいた残りの合格者2人と受付嬢が廊下に出てくる。
「決闘場へ移動したいと思いますので、私についてきてください。」
そう言って、受付嬢は、スタスタと早歩きで、廊下を歩いて行く。
受付嬢の後ろをついて行く。合格者たち。
カイル以外の合格者の1人が俺に声をかける。
「あんた。筆記試験満点なんだってな! すげーじゃねーか!」
『褒められた・・・。』
「ああ。ありがとう。 えっと・・・。」
「ん? おお! 自己紹介してなかったな。 俺は、『ガラン・レーガン』! こっちの無口は『フェノール・スタレイン』つうんだ。 よろしくな。」
ガランの紹介で、フェノールはペコリと頭を下げる。
「よろしく。俺は、レイダス・オルドレイ。
王都には今日来たばかりだ。」
俺も自己紹介をする。
「そうか! 王都には色んな店があるからな! 冒険者になった暁には見て回るといい!」
ガランはそう言いながら、口角を上げる。
「そうさせて貰おう。 ガランとフェノールはどうして試験を? 見たところ、武器や防具には強化が施されているようだ。試験官を確実に倒すために準備していたのか?」
と俺は訪ねた。
「はっはっはっ!」
ガランは図星をつかれたのか大声で笑う。
「よくみてやがる! そうさ。俺たちは今日のために準備してきたのさ! 俺たちは以前実技で落ちちまってな。実技の決闘ルールは、アイテムを使わなけりゃ どんな装備もOKだからな。」
俺は「なるほど」と頷く。
「レイダスと言ったか? 何故お前は試験を受けた?」
『質問を返されてしまった・・・。』
「ついでだな。」
俺は即答した。嘘はついていない。
俺の本来の目的は、『情報』を『冒険者ギルド』で得ることだ。
それを聞いてガランがまた大声で笑う。
「はっはっはっ! 俺たちが必死に手に入れようとしている冒険者の資格を『ついで』か!
はっはっはっ!」
『・・・・・・・・・・・・・・・・』
「つきました。ここが決闘場です。」
会話をしている内に実技試験の会場に着いたようだ。
近くで見ると、決闘場と言うだけあって、迫力がある建物だ。
形状は円形で『コロシアム』と似ている。
受付嬢に案内され、『決闘場』の中に入る。
「広いな・・・。」
決闘場に入って初めて実感する。『広い』―――――――—
平地の地面が円形に広がっている。
そして、360度 観客席に囲まれている。
「それでは、試験官の方々をお呼びしてきますので、試験開始まで、控室でお待ちください。」
そう言って、受付嬢は試験官を呼びに行った。
「じゃあ! 控室には俺が案内しますね!」
受付嬢が控室の場所を告げずに行ってしまったので、どうしようかと思っていた俺だったが、カイルが案内役になってくれた。
『控室ぐらい案内してくれよ。受付嬢・・・。』
「ここが控室です。」
とカイルが扉を開ける。
『プロ野球選手の控室かここは!!』
俺は、心の中で叫んだ。
ロッカーや椅子は違うにしろ、配置がそれっぽかったのだ。
俺たちは、各々迫りくる実技試験に向け準備を始める。
ガランは、武器と防具を再度確認している。
フェノールは、『魔導書』を読んでいる。
『あいつ『魔導士』だったのか。鑑定してないからな~。』
カイルは、――――――――――――――――――――――――震えていた。
俺はカイルに声をかけた。
「大丈夫か?」
と肩に手をのせるとビクッと震わせた。
「うわぁ! あ・・・はい。大丈夫です。・・・すいません。」
全然大丈夫ではなかった。緊張のあまり完全に委縮している。
『カイルを見ていると、前世を思い出してしまう。 ボアル・ベアの時といい・・・。』
「青年・・・。いや・・・。」
俺は、カイルにアドバイスしようとした。
戦闘に関してならいくつかアドバイスできるだろう。
俺は『FREE』を長年やってきた『経験』がある。知らない事の方が少ないくらいだ。
でも、『精神面』に関してはどうにかできる自信がなかった。『俺もメンタル弱いから・・・。』
どう対処するのが正しいのか分からない俺・・・・。
しかし、目の前で震えているカイルをどうにかしたい。
俺は、肩で完全に寝てしまっているガルムをそっとおろす。
そして、カイルに面と向かって告げる。
「カイル。今のままだと試験官に負けるぞ。」
「!!」
カイルの表情が青ざめていく。
ガランと、フェノールも今の俺の発言に一瞬手を止めた。
「そう・・・ですか・・・・。」
俺が告げたのは『真実』だ。持久力や速度があっても、相手の攻撃が回避できなければ、カイルは戦闘不能になる。
「不安になるのは、分かる。」
俺は言葉を続ける。不安な気持ちはよくわかるのだ。
この世界で俺は『強者』の側に立っている人間かもしれない。
しかし、過去を忘れる事なんてできない。『辛かった。 痛かった』そんな感情も
思い出さなくなるだけだ。いつしか過去は埋もれていく。忘れるのではない。
『埋もれるだけだ。』
思い出す回数が減るだけなのだ。過去は、刻まれる。
本当に心の底から忘れたいと願うなら――――――――—『死ぬしかない。』
俺は、そう思っている。
カイルにも刻まれているのだ。
『冒険者になれなかったという過去』が――――――――――――—
「分かる?・・・あなたに俺の気持ちが分かるんですか!!」
「俺は、冒険者になるために必死に頑張ってきた! 努力したんだ!! それを『ついで』で試験を受けている人に分かるんですか!!」
カイルは、拳をギュッと握りしめて、俺を睨む。俺は彼の逆鱗に触れた。
反発するよな。俺もカイルの立場なら同じことを言っていただろうな。
『自分より持っているくせに―――――—同情されたくない。!』という怒りや妬み、自分が世界から切り離された感覚が渦巻いている。
逆に言ってくれてよかったのかもしれない。
前世の俺には、『その台詞』を相手にぶつける力すらなかったから―――――—。
「ああ。 分かるさ。俺も散々味わったからな。」
「!・・・・・・・・・。」
カイルは、俺の言葉に驚きの表情を見せるが、一瞬だった。
「俺より持ってる奴が何言ってやがる!!て俺も思ってたよ。」
図星だったのか。カイルは唇を噛みしめてうつむく。
「俺は、命を投げたことがあるんだ。」
俺は語る。思ったこと全てをカイルにぶつける。
「でも、助かって今はこうして生きている。 チャンスを貰ったと思ってるよ。」
助かったのは嘘だ。俺は、人影(神様?)からチャンスを貰ったのだ。
意味としては同じことだ。
「自分の命を無意味に思うな。 自身のやってきた努力を無意味にするな。 努力はいずれ報われる。」
俺は命を捨てた・・・人生をあきらめた。―――――そんな俺にはなるな。
努力は報われる・・・生まれ変わった俺のように――――――――—。
「ゲイルとイリヤもお前を応援している。そう願ってくれている。」
俺は1人だった。
でも、お前は違うだろう?―――――――カイル。
「お前はそれを無駄にするのか? 捨てるのか? 無意味にするのか?」
俺は、カイルに問う。
カイルは、泣きそうな顔で、大きく首を左右に振った。震える声でカイルは言う。
「むいみに・・・・しま・・・せん。俺は!・・・俺は!・・・頑張って!・・・みせます!」
俺はカイルの答えに満足した。
『やっぱり青年は、俺とは違う。』
「そうか、まずはその顔を何とかすることから始めろ! 落ち着いたら作戦会議でもしよう。」
俺は、カイルに作戦会議を提案した。
カイルは、涙を強引に拭って作戦会議に参加する。
ガランとフェノールも
「それは、俺たちも参加可能かな?」
と結構ノリノリだった。
俺は、頷く。
「大歓迎だ。 早速、始めよう。」
実技試験開始まであとわずか・・・。
―――――――――—俺たちの試験はまだ終わらない―――—――――――――—
ガルム爆睡中
「zzzzzzzzz~」




