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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~3年後の世界編~
189/218

忘れたくて・邪神と邪神


―――夢見の森 ログハウス―――


セレスは椅子に座ったまま眠ってしまっていた。

目を覚ました彼は目を擦って、瞬きをする。

後にベットで寝息を立てる俺がいる事を確認して安堵していた。

ガルムも俺の隣で眠っていて耳と尻尾を垂らしている。


あれからというものガルムは俺の傍から片時も離れていない。

彼らの心は不安に駆られ、ある言葉を想像していた。


俺が二度と目を覚まさないのでは?


セレスはキッチンで食材を切りながら、包丁を力強く握りしめ、

包丁の手持ち部分を壊し、ガルムは夢見の森の木々に八つ当たりする。

溜まっている不安が彼らを押し潰してしまいそうになっていたからだ。


そんな彼らを余所に俺は静かに眠る。

日数が経過しても衰えない体と綺麗な肌は不老不死の賜物で、

動かずとも健全な肉体を維持していた。


それでも起きている俺の姿を、

笑顔で笑っている俺の姿を見たいと願う彼らは、自身に出来る最低限の業務をこなす。

ガルムは森の管理を始め、魔物の長となる。

只、セレスは通常業務に贖罪が追加されていた。


精神的な圧迫を与えてしまったのはセレスであり、ガルムに非はない。

ならば、責は自分が負うべきだと真面目な彼は俺と向き合った。


暇があっては俺に深々と頭を垂れ、謝罪の言葉を述べる。

そして、ベットのシーツ交換等を定期的に行った。

時折、指や眉が動いてはセレスは反応してしまう。

起きないと分かっていながら期待している自分に苦笑する

彼を眠っている俺が知る由もない。


そうして時間は刻々と過ぎて行き、ある日の夜―――


いつものように椅子に腰かけて眠るセレスと、

俺の傍で眠りにつくガルムを、俺は上体を起こして黙って眺めていた。

黒い瞳(・・・)をゆっくりと動かして周囲を確認する俺は静かにベットから起き上がって、

床に裸足を触れさせた。


冷たい木の感触に首を傾げながら、

ペタペタと歩く俺に彼らは気づかなくて、俺は近くに置かれていた服に袖を通す。

適当な靴を履き、適当な武器と適当な防具を身に付けてマントを羽織った

俺は外出しようとドアノブに触れる。


そこでピタリと動きが止まり、

『俺は・・・何している?』と自分に問いかける。

しかし、答えは出ない。

俺は俺の思うままに、俺の何かが言うままに従った。


地面から生える草を踏みしめてザクザクと夢見の森へと足を踏み入れた俺は

空を仰ぎ見る。

そこには星空が浮かんでいたが俺が望む物ではない。

残念さと焦燥感を抱く俺は息を吐いてぼそりと呟いた。


「星波の丘へ・・・。」


顔を俯かせて唇を噛んだ端から血が流れる。

口元の後を拭った俺はイスガシオへと転移した。

今でも死臭を漂わせる国内に生者はおらず、彼らの周りにはハエがたかる。

燃えて灰となった人骨は風に乗って霧散していった。

悲惨な光景に俺は空虚で、何も感じない。

目的を果たす為だけに足が勝手に動いていた。


星波の丘へと足先が自動的に向き、

ゆっくりと歩を進める俺の気配に気付いたのは、リゼンブルの王城で寛ぐ邪神だった。

彼は窓から飛び込んでくる幻想的な光の帯に目を丸くする。

そして、うっとりと表情を緩ませた。


「ああ、なんて美しいんだ・・・。」


俺の翼は神々しく、七色の帯を何本も揺らめかせていた。

完全に世界を覆い尽くしたそれは空と地の間を完全に遮断する。

時折不気味な輝きを放っては元に戻る翼を

邪神は足をパタパタと揺らしながら黙視していた。


「等々始まるんだね・・・。」


邪神は微笑みながら部屋の中で軽やかなステップを踏む。

そして、テーブルに置かれた生首を手に取った。

滴る鮮血が彼の腕を伝い、床に落下する。

それを傍で待機していた真祖に投げ渡して「褒美だ。」と言う。


自分達で(・・・・)狩った獲物(・・・・・)だ。 好きにするといい。」


真祖は嬉しそうにコクリと頷き、他の仲間を呼び集める。

テーブルに置かれた残り六つの生首を持って姿を消した。

今頃彼らは適当な場所で生首の血を

一滴残らず吸い出して、自身の力の糧としているだろう。


「さてと・・・僕も行こうかな。」


邪神は翼を大きく広げて、王城より飛び立つ。

向かう先は勿論新王都。

俺の手を煩わせる人間達をこの世界の邪神として屠ろうと言うのだ。

そして、もう一つの懸念が起る前に片づけたいという焦りが

彼の飛行速度を速める。


神は(・・)どう動き、彼はどんな判断を下すかな?」


邪神は舌なめずりをして先の見えない未来にワクワクと心を躍らせた。

例え神としての力を一部保有していようと

未来を見通せない彼は今に生きている。


その時、その場で対応し、

今を楽しむ彼にとって未来とはどうでもいい川のような存在だったが、

滅びが近づくに連れて興味を持ち始めていた。


世界の生末―――

事の顛末を見届ける―――


「結果だけは知りたいかな~。」


邪神は、くるりと華麗に回転し、低空飛行で木々の間をすり抜ける。

再び上昇した彼は新王都の街を見下ろしてニコリと笑った。

唐突に死ぬと想像していない人間達の日常風景に

愚かさと哀れみを抱きながら、彼は両腕を前に構えて手の平を広げる。


「サヨウナラ。」


魔法が放たれ、国が消し飛ぼうとしている今この時―――世界は干渉(・・・・・)された(・・・)


邪神は魔法を放つのを一時中断し、歪んでいる空を眺める。

時空と時空の狭間から邪神と瓜二つの容姿をした神が降臨し、

見事な漆黒の翼を広げた。

それは邪神の翼よりも一回り大きく、邪悪な気配をびりびりと放つ。


「やあ、贋作。」

「やあ、本物。」


同じタイミングで、似たような台詞を言い放った両者は同一人物にして、

全くの別人。


一人はこの世界での役割を果す為に、

一人は世界の崩壊を止める為に存在していた。


「まさか本物が出張ってくるなんて考えてもいなかったよ。」


贋作の邪神は『想像していませんでした。』と主張するが

本物の邪神は平然と単刀直入に本題を切り出した。


「レイダス・オルドレイは何処にいる?」


贋作の邪神は「言うと思うかい?」とはぐらかす。

眉を顰める本物を見て優越感に浸る彼であったが、

相手が溜息を吐いて背を向けた事で、短い優越時間は終わった。


「いいよ。 自分で探すから。」


本物の邪神には力の結晶である翼は目視出来ていないが、

なんとなく気配を察知していた。

探知スキルがある訳でもないのに可能な理由は真の神だからとしか言いようがない。


彼はイスガシオの方角に顔を向けて「あっちかな?」と呟く。

が突然後方から飛んできた魔法の矢を、

人差し指と親指で挟んだ彼は顔をしかめる。


「何のつもりだい?」


振り返るとそこには右手を前に構える贋作の邪神の姿があった。


「なにせ僕は邪神だからね。偽物であろうと未熟であろうと、

世界が崩壊という厄災に見舞われるのなら後押しをするだけさ。」


本物は強気な贋作の態度に笑みを浮かべる。

そして、強烈な殺気を放った。

贋作と本物の周囲にある大気はビリビリと揺れる。


「ほう、僕の殺気でも怯まないなんてひょっとして死ぬ気かい?」


「ひょっとしなくもいずれ全員死ぬんだ。

早いか遅いかの違いだろう?」


「正論だ。 贋作・・・お前を真の邪神と認めよう。

これがどういう意味か分かるかい?」


本物の邪神は魔法で顕現させた二本の剣を両手に握る。

右手に炎の剣を、左手に氷の剣を握っている。

視線は贋作の邪神を見据えて、静かに臨戦態勢を取っていた。


「同じ神は二人も要らない。」


贋作の邪神は魔法で四属性の球体を出現させて、それは彼を中心に回転する。

互いに睨みあって両者は同時に飛び出す。

邪神と邪神の死闘の火蓋が切って落とされた。

魔法による攻防戦は激しい地鳴りとなり世界に衝撃を与える。


ドン!ドン! という音に新王都の人間は

「レイダス・オルドレイの襲撃か!?」と勘違いをするが、

上空を見上げて違うと悟る。


では、上空の悪魔は何なのか?


本物の邪神は下に視線を向けるが贋作の相手は正直骨が折れる。

かといって、この世界の生き物を傷つける行為は本意でない。


『ならば・・・。』


本物の邪神は異なる世界へと繋がる入り口を右腕で指定。

空を歪めさせた彼は隙を見て贋作の邪神に接近した。


「!?」


贋作の邪神の腕を鷲掴んで、入り口に彼を放り投げた本物は自らも飛び込む。

そうして辿り着いた世界は、

先程の世界のシステムが適用された全くの別世界。

本物の邪神がレイダスのいる世界に慣れる為に居座っていた真っ白な空間だった。


「いてて・・・ここは?」


「あそこで戦っていたら被害が出るし移動したよ。

それに力が発揮出来ないからここで戦う。」


本物の邪神は両の剣を軽く振るう。

それは暴風となって贋作に襲い掛かった。

必死に地面にしがみ付くが飛ばされそうになる贋作の邪神は

「ぐぬぬぬ・・・。」と声を漏らす。


そして、風が収まった隙を見て、立ち上がった贋作は大きく息を吸う。


「本物の実力はその程度か?」


明らかな強がりに、本物の邪神はクスリと笑う。

「流石僕だ。」と称賛を送り、彼らの死闘は続くのだった。


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