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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~3年後の世界編~
184/218

家族の危機


あれから暫くして、メイサ達に異変が起きる。

最初は泣く、呟くといった小さな症状だったのだが、徐々にエスカレートしていく。


「うわああああああ!」


凛香と華水が突然暴れだした。

じたばたと両手両足を動かして、見えない敵と壮絶な戦いを繰り広げる。


「な、なんじゃ!?」


アルはびくりと跳ね上がり、持っていたサカヅキを落とす。

それぞれ見せている夢の内容はランダム再生の為に、

彼らの反応から察するしかない。


「様子からして闘技場辺りか・・・。」


俺は呑気に煙草を吸う。

足元には既に煙草の吸殻が大量に散乱していた。


「どうにかならんのか!?」


アルの焦りように俺は溜息を吐いて立ち上がる。

煙草の火を足で消して凛香と華水に近寄った俺は、

彼女達に違う夢を見せる事にした。

すると、二人は落ち着きを取り戻し静かに寝息を立てる。

俺の実体験で相当参っていたらしく、口元が笑みを浮かべていた。


「夢の中をお花畑にしてやったよ。

ったく、この程度で根を上げるとは桜華家もたかが知れるな。」


俺はカバンを漁って煙草を探すが、先程の一本が最後だったらしい。

楽しみを早々に捨ててしまった事に舌打ちした。


「いつ目を覚ます?」


「そうだな・・・。」


俺は指折りしていく。


「後5分かな。」


そう答えた時、空から「バサッ」という音がした。

翼を羽ばたかせ舞い降りたそれは邪神。

俺達の目の前に降り立った邪神は「決まった!」などと決めポーズを取るが、

俺は呆れて、アルは驚きの余りに反応しなかった。


「あれ? 僕もしかして滑ってる?」


「ああ、滑ってるぞ。」


邪神はショックでへたり込む。


「レイダス、こいつは?」


「知り合いだ。ちょっと、あっちで話しをしてくるから待っていてくれ。」


変装で使っていた一般人の服装が気に入ったのか?

何はともあれ、アルに勘違いされて助かった。

不幸中の幸いという奴だ。

もし、バレていたら要らぬ混乱を招いていた。


俺は邪神を軽く放り投げる。

彼は木に激突して木を大きく揺らした。


「あてて・・・っておわ!?」


俺は右ストレートを放つが、避けられてしまう。

木は貫通して更に奥にある木まで穴をあけていた。

その事実に表情を青染めさせた邪神に対して、俺は指を「ボキボキ」と鳴らす。


「状況が分かって来たのか? なあ、ストーカーさん。」


「ご、ごごごご誤解だよ! 僕は只君の力を感じて・・・。」


「問答無用。」


「ぬぎゃあああああ!?」


邪神の叫び声が森中に響き渡る。

そして、戻ってきた俺と邪神にアルは言う。


「だ、大丈夫か?」


邪神の顔は腫れあがり、肩を竦めていた。


「ふぁいふぉーふだよ。」


俺はアルの隣に、邪神は俺の隣に座る。

丁度その頃にはメイサ達が目を覚まし始めており、目を擦っていた。

視界がぼやける中、俺を見るや否や腰を抜かす反応に俺は口角を上げる。


「レイダスさ・・・ん。私・・・私は・・・。」


メイサは折れた心を修正させようと必死だった。

脳が激しく回転する様子が目に浮かんでくる。

俺の隣にいる邪神に気付けない時点でキャパオーバーしていると確信していた。


彼らは夢と現実が混ざり合って狂ったのだ。


凛香と華水はブツブツと何やら呟いているし、

その他は黙ったまま動こうとしない。

正しく言えば、動く気力が湧いていない。

地面に長刀を突き刺して、立とうと試みてはいる様だが、

身体に力が入っていない。

身体は正直という奴だ。


「やっぱり無理だったか・・・。」


俺は自分の歩んできた道が常人では堪えられない物と理解し、

メイサの考えや思考が浅はかであると知った。

最早彼女の発言を聞き入れる気はない。


「アル、俺はこの後用事がある。気付け(きつけ)にこいつを飲ませてやれ。」


俺はアルに液体が入った袋を手渡す。


「《激辛リムザ》か。気付けには持って来いだの。」


「後、これだ。」


「ふむ・・・これは?」


「タングステンという金属鉱石だ。

バルマンが欲しがっていたから渡してやってくれないか?」


「承知した。」


「最後にその・・・今回は悪かった。お前を巻き込んで・・・。」


俺はアルから視線を逸らす。

メイサ達にした行為はたから見れば、人格を破壊する危険行為。

アルがどう受け止めたのか、気になった。


「なあに、気にするな。

大事を片付けてルーナ―ンに来い。又、ドワーフ特製の酒を飲み交わそう。」


アルはブレなかった。

酒を片手に笑みを浮かべる彼に「ああ。」と頷いてその場を去った。

後ろを歩く邪神は俺の顔を覗き込んで、ドワーフに嫉妬する。


俺の顔は微笑んでいた。


―――古代砂漠―――


俺とガルム、そして邪神は猛暑の中を歩いていた。

存在進化を遂げたガルムは耐性を得ている為、実質このメンバーに暑さは効かない。

その為、焦る必要もなければ、急ぐ必要もなく砂漠をゆっくりと進んでいた。


「用事があるって言ってたけど、何処へ行くんだい?」


「ない。」


「え?」


「用事なんてない。帰る口実が欲しかっただけだ。」


実際、メイサ達が濡れ衣を着せられたという事実を世界中に伝え回ったとしても

俺は引き返せない段階まで来ている。

白旗を振って投降したとしても首を跳ねられるが落ち(死なないけど)。

戦争という事象は確立されていた。


それまでの間、俺は暇な状態であり、する事も無ければ、やる事もない。


「そろそろ《星波の丘》に足を運ぶか・・・。」


俺の残った楽しみはそれしかなく、

戦争終了後は、

時が過ぎ、世界が俺を忘れるまで夢見の森に引き籠る予定。

もしくは、世界中の生き物を完全に消滅させ、

俺と俺の家族しかいない理想郷を作る。


『・・・ありだな。』


勿論、家畜や自然植物は残す。

不老不死でも腹は減る。

食料を確保し、のんびり自給自足生活を送りたい。


『最早くに決行していれば良かったか・・・。』


「お・・・い・・・おーい。」


「なんだ?」


「なんだ?じゃないよ。

結局の所、寄る場所は《星波の丘》以外ないんだね?」


「ああ、無くなったな。」


俺は邪神の問いを肯定する。

すると、邪神はその場で立ち止まって俺に手を振った。


「いってらっしゃい。」


いつもなら勝手についてくる邪神が今回に限って来ようとしない。

あからさまに怪しい邪神に俺は尋ねる。


「来ないのか?」


「うん。僕もそろそろ本業に戻らないといけないからね。

ゆっくりしておいでよ。」


邪神はにこりと笑みを浮かべてそう言った。

彼の本業―――所謂厄災引き起こしがこれから行われる。

というか邪神一人で世界を滅ぼせそうな気がする・・・。


「分かった。お言葉に甘えさせて貰おう。」


俺とガルムは一旦、夢見の森のログハウスに帰宅した。

何故なら食事時だったからだ。

しかし、セレスはいない。

最初は「食材を買いに行ったのか?」と思い、

のん気にベットでゴロゴロとしていたが、次第に嫌な予感が強くなる。

試しに一日待って見たが、帰ってくる様子はなかった。


時間厳守のセレスが予定通りに帰宅しない。

それは、彼の身に何かあった事を指していた。


「ガルム少し出てくるから留守番を頼む。」


俺はガルムをログハウスに残し、新王都へ転移する。

屋根の上から目撃にしたのは、魔女狩りのような光景。

組織的な異端者摘発で処刑台に立たされていたのは、女でもまして子供でもなく、

セレスだった。


「セレス・・・。」


体はボロボロ、鞭で打たれたような後が彼の表皮に残っている。

何故?どうして?と脳裏を過ぎった。

あのセレスが負ける筈がない。

夢見の森から連れ出したパペルティナも何処にいる?


その疑問は直ぐに払拭された。

セレスの後に続き処刑台に上った冒険者が手にしていたそれは、パペルティナの核石。

つまり、パペルティナはやられたのだ。


俺は拳を握り締め、セレスを甚振った人間をスキルで捜し当てる。

王城の地下で数人の男達が鞭や刃物を持ち、笑っていた。

セレスを甚振り楽しんだ人間に俺は死を与える。


「《スキル:死の魔眼(デス・アイズ)》」


壁越しであろうと俺にかかれば関係ない。

死耐性を有していない限り、防げない絶対的な力の前に彼らは死んで行った。

そして、セレスの救出―――


立ち上がろうとした時、背後から微かに感じた殺気に剣を抜く。

「がん!」と凄まじい音が鳴り、火花が散る。

相手はフードコートを着用し顔を隠していたが、

服装が黒い番犬であると主張しており、俺は相手を蹴り飛ばす。


メキメキと骨が粉砕する音を聞きながら、

俺はセレスを囮に誘き出されたのだと悟るが、今はどうでもいい。


セレスの首に縄が巻かれる。


「セレス!」


魔法やスキルで対処すれば良かった物を、焦りから俺は飛び出す。

俺の出現に新王都の人間は驚愕し、逃げ惑う。

肩にぶつかる度にイライラが募った俺はスキルで眼前の住人を絶命させて行った。


その道を妨げる人間が一人、俺に刃を向ける。

槍を構えた人間が身につけるフードコートには死耐性が付与されていた。


『死属性スキルで殺せないのなら、斬り捨てるまで!』


俺は片手剣を斜めに斬り下ろす。

が―――


「なに!?」


この世界で俺の剣を受け止められる人間はいない。

それは俺の速度に追いつけないからだ。

しかし、焦りと驚異的な強さで剣筋が雑になっていた俺の動きは予測されやすい。


相手は俺の癖を知っている人間。


槍と剣がぶつかった瞬間、俺は腕力で相手を吹き飛ばす。

例え、俺の攻撃が予測出来ても力量差は覆らない。

遠くの建物まで吹き飛ばされた人間のフードが取れて、

正体を知った俺は舌打ちする。


それでも、俺の視線はセレスに吸い寄せられるように戻った。


『俺の家族を奪わせない。失ってたまるか!』


世界は俺からこれ以上何を奪おうというのか?

セレスとガルムの顔が脳裏をよぎり、胸が苦しくなる。


セレスは俺を見るや否や優しく微笑む。

それは、助けがきたという安堵ではなく、

俺が無事帰ってきて、最後に顔が見れて良かったというセレスの優しさ。

死ぬ状況に立たされて尚、俺を心配するセレスに涙がこぼれた。


『俺は泣かない・・・これは水だ! 無視しろ!』


俺は溢れ出る物をぐっと抑えて、処刑台に駆け寄る。

セレスの近くにはレバーを握る太った大男が立っており、手に力を込める。


「させるか!」


俺は片手剣を投擲し、相手の腕を落とす。

しかし、陰から出てきた男がレバーを握っている。


「ファルゼン!」


「レイダス、お前は我々から大切な物を奪った。お前も同じ苦しみを味わえ!」


セレスの体力は残り35。

処刑台のレバーを下ろされ、宙にぶら下がった状態が継続し呼吸困難が続けば

簡単に死ねる。


『何かないのか!?』


俺はここで新しい職を取得。

高速で脳内に送られる情報からとある魔法を発動させた。


「《時の神専用魔法/第30番:時間停止(タイムストップ)》!」


俺は時間を停止させ、その間にナイフを投げてセレスの縄を切断。

時間が動き始めた直後に瞬間移動でセレスを抱きかかえた俺は、

転移で姿を消すのだった。


「はあ・・・はあ・・・。」


ログハウスに戻った俺とセレス。

ガルムはおろおろと戸惑った。


「安心しろ・・・今治してやる。」


俺はセレスの状態を改めて確認した。

胃には大量の異物が混入し、最後に喉を潰された様な形跡。

右腕と左腕は完全に折られ、指が切断されていた。


俺に恨みがあるからと、

関係のないセレスを巻き込んだ人間達に怒りが込み上げる。


治癒が完了した俺は息を吐き、セレスの上体を起こさせた。

すると、彼は意外な言葉を発する。


ご主人様(マイロード)、申し訳ありませんでした。

私が不甲斐ないばかりに・・・。」


不甲斐ない?

セレスはいつも俺の為に働いてくれている。

不甲斐がる必要はないと思った。


「セレス、病み上がりで悪いが新王都で何があったのか、

何をされたのか隈なく説明してくれ。」


「畏まりました。」


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