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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~3年後の世界編~
182/218

情報収集


―――翌日―――


リゼンブル国内では、戦争志願者兵訓練場で大量虐殺があったと噂が広まっていた。

それは、王城まで届いており、即刻会議が行われる。

真っ先に飛び出したのはレイダス・オルドレイの名。

貴族達の数人は狂ったように発言をする。


「あの英雄だ!そうに違いない!」


「落ち着かれよクレマンス卿。冷静さを欠いては事を仕損じる。」


「ダダルン卿の言う通りだ。」


「考えなしの行動をするとは思えんが、

120人余りの人間を内部から触れずに殺す所業は彼しか考えられん。

新王都の情報とも一致する。」


「一つ言えるのは、簡単に侵入を許した事だ。

変装か、幻覚か、将又洗脳されたのか?」


「むうう・・・内部を手薄にして外の警備を厚くするか?」


「どちらもダメだろうな。なにせ相手は人間の姿をした化け物だ。

同じ化け物が居れば話は別だが、都合よくいる筈もない。」


貴族達は頭を悩ませる。

脳内の三分の二は自身の領土で一杯だが、残りの三分の一で国の事を考える。

だが、何も閃かない。

期待できるとすれば、ルーナ―ン捜索へ行っている桜華家だけだった。


「蜂蓮はまだ戻らんのか・・・。」


―――夢見の森 ログハウス―――


マイホームに帰宅した俺は、セレスの帰りを待っていた。

真面目だから時間きっかりに帰ってくる。


『3・・・2・・・1・・・。』


「只今戻りました。」


『ほらな。』


俺は椅子に腰かけ、早速セレスに話しを聞く。

リゼンブルでの大量虐殺は瞬く間に情報が拡散し、王城にまで届いていた。

証拠隠滅をしなかった俺の落ち度である。


続いて、パペルティナを討伐した新王都の冒険者達。

指揮を取っていたガランと作戦中に独断行動をしたカイルは罰として、

3日間の謹慎。

普通の依頼は受けられるようだが、

主力の二人が抜けた事で警戒する必要はなくなった。


そして、ルーナ―ン。

ドワーフの国に入国した他国の人間はいないが、

古代砂漠中間地点にてアルとリゼンブルの編成部隊が接触。

砂漠のはずれにある森へと向かったらしい。


「ドワーフと接触したリゼンブルの編成部隊ですが、少し妙です。」


「妙?」


「この地に住む者の恰好ではないと言いますか・・・。」


「成程・・・異国の人間か。」


俺は椅子から立ち上がって、剣士職の服に着替え始める。


「ルーナ―ンの武器が新王都とリゼンブルに流れるのは避けたい。

始末が面倒になる。」


ルーナ―ンの武器の質は格段と上がっている。

刃が俺の身体を傷つけられる可能性がないとも限らないし、

万が一にルーナ―ンが新王都とリゼンブルに手を貸すとなっては、

三国同盟が設立してしまう。


「ここで潰す。」


俺は、笑みを浮かべてそう言った。


ご主人様(マイロード)、無礼な発言をお許しください。」


「?」


すると、セレスは頭を下げて先に謝罪する。


ご主人様(マイロード)ならば、

世界を当た方もなく消滅させるなど造作もない筈・・・。

何故、斯様な発言をされるのでしょうか?」


「は?」


「わざわざ足を運ぶ必要もありません。戦争の時を待つべきです。」


セレスの意見は最もだった。

俺は自分の行動を振り返って、無駄な労力を使っていたと自覚する。

でも―――


「待っていられない。」


血が見たくて、心底溜まらなかった。


「俺の中の何かが囁き続けるんだ。『殺せ』と・・・。」


死体の山が目に浮かんだ。

血の海に溺れる自分が笑う姿を想像していた。


「セレス・・・俺は当の昔に狂っている。」


「承知しております。」


俺は俺に(・・・・)戻りたい(・・・・)。だけど、この殻が邪魔なんだ。」


俺は自分の胸に手の平を押し当てた。


「戦争で世界の人間を消し去っても蝶にはなれない。

だから、試すしかないんだ。」


「・・・・・・。」


「何でも良い。この殻が無くなれば俺は自由な気がする。

セレス・・・お前は俺を行かせたくないだろうが、俺は行きたい。」


俺は真剣な眼差しでセレスに言う。

彼は息を吐いてから言った。


「私はご主人様(マイロード)に仕える身。

ご主人様(マイロード)が決められた事に異を唱えるつもりはありません。」


「じゃあ・・・。」


「ですが、条件がございます。」


「条件?」


セレスは人差し指を立ててこう言った。


「食事時には必ず戻って来てください。料理が冷めては美味しくございませんので。」


俺は、腹を抱えて大声で笑った。

実にセレスらしい条件だと・・・。


「分かった・・・ちゃんと帰ってくるよ。」


「はい。お待ちしております。」


セレスはニコリと笑った。

そして、ガルムが俺に飛びついてくる。


「うおあ!?」


俺は床に後頭部を打ち付け、ガルムがべろべろと顔を舐める。


「ガルム! こら!」


ご主人様(マイロード)、今回ガルムを連れ出しては如何でしょう。」


「ガルムを?」


俺は、脳裏でガルムが傷つく光景を思い浮かべた。

首を大きく横に振って「無理だ。」と答えた俺にセレスは言う。


ご主人様(マイロード)がいるのですから、大丈夫です。」


セレスの信頼に俺はぐうの音も出ない。

だが、ガルムと外を出歩くなんて何年ぶりだろうか?

尻尾を大きく左右に振るガルムの様子はとても嬉しそうで、

「早く行こうよ!」と俺に言っているようだった。


「ああ、了解だ。 行くぞガルム。」


ガルムは耳をピンと立てて、俺から飛び降りる。

部屋中を駆け回って外に出たガルムは、いつもの転移位置に座った。

俺は溜息を吐きながらも、ガルムとの外出に心躍らせて出かける。

その際、セレスに手紙を投げ渡した。


開封した彼は静かに笑う。

そこに書かれていたのは、帰宅後に食べたい料理リスト。

ズラリと10品もの料理名が並び

「やれやれ」と声を漏らしたセレスは楽しそうだった。


「これは、大仕事になりそうですね。」


保管されている食材数に不安になるセレスだが、主の要望には応えたい。

彼は食材の調達に向かうのだった。


―――古代砂漠 外れの森―――


アルが蜂蓮達と会話をしていた。

内容はレイダス・オルドレイに関する物で、

彼はレイダスとの出会いから今に至るまでを長々と語り聞かせていた。


「レイダスさんってお酒に強かったんですね。」


「強いというよりも、

スキルによる無効が働いて酔えないと言った方が正しいかの。」


「それは《酔い無効》か?」


「さあ? 詳しい事は本人から聞かねば分からん。

じゃが、ドワーフ特製の酒を飲んだレイダスは面白かったぞ。

ベロンベロンで、そこいらで吐いておったわ。」


「他には?」


「腰にぶら下げておる片手剣が凄い業物でな。

知り合いの鍛冶師が発狂して負った。」


「発狂・・・。」


「あ奴が帰国するまでの間に再現しようと必死こいていたらしいが、

無理だったようだ。」


「ドワーフの鍛冶師でも再現が出来ない武器。

それは、本人が製作した物か?」


「違うと言っていた。」


「そうか・・・。」


蜂蓮はホッとしていた。

話しを聞く限り、レイダスという男は相当な手練れ。

魔物だけでなく、鍛冶に精通しているとなれば勝ち目は0。


『レイダス・オルドレイに比べれば赤子(・・)ですが、脅威に変わりありません。』

と言っていたジョナサンの言葉に蜂蓮は内心で苦笑する。

高lvの魔物を一刀両断。

それは蜂蓮の腕でも不可能な芸当で、彼の好奇心は恐怖に変わりつつあった。


「おお、いたいた!」


「ワフッ。」


噂をすれば、何とやら―――

後方に突如現れた人間と一匹に蜂蓮達は反応出来なかった。

蜂蓮、弥勒、龍月、ギュンレイは武器を手に取り、

剣を抜こうとするが、謎の衝撃で長刀を弾き飛ばされる。

金髪に赤眼の男、間違いなくレイダス・オルドレイ本人だった。


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