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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~3年後の世界編~
181/218

男の腕前はプロ級!・異国の一行は


―――リゼンブル―――


「ぶえっくし!」


「風邪かい?」


俺と邪神はリゼンブルに訪れていた。


「んな訳ないだろ。」


街は荒だたしく、新王都のように戦争の準備をしている。

攻撃系の消費アイテムの山ならまだしも、

大砲がズラリと並べられた光景は物騒極まりない。


剥き出しに積まれた大砲の弾は、ちょっとした衝撃で崩れ落ちそうだった。


「俺がそんなに嫌いか? 俺も嫌いだけどさあ・・・。」


「それだけ君が世界に害視されてるって事だね。」


邪神は支給品らしき銃を俺に投げ渡す。

引き金に指をかけて、構えてみたが弾丸は装填されておらず、

何処か別の場所に保管されていると分かった。


「リゼンブルは新王都に協力的なようだけど・・・なんで?」


「両国の国王は俺に殺されている。共通点で合致したんだろ。

頭の回転が速い奴なら、暗殺者の犯人が俺だと疾っくに気付いている筈だ。」


「成程。」


邪神は手を叩いて納得の意を示す。


「まあ、気付いているというよりも俺しかいないってのが正論だな。」


俺は邪神に銃を投げ返して、元の場所へと戻させた。


「証拠を残さずに暗殺できる人間は君以外にもゴロゴロいるだろうに。」


「城内に瞬間的に現れて瞬間的に去って行く。これを一秒もかからずに出来るか?」


「無理ですね。」


邪神は笑って答える。

そして、武器の見張りが戻ってくる前にその場を後にした俺達は、

適当な建物の上に軽く跳躍した。

吹き渡る風は心地よいが、微かに混じる火薬の臭いに眉を顰める。


耳を澄ませていると銃声の音が遠くで鳴り響いており、

そちらに向き直ると煙が上がっていた。


「射撃場でもあるのか?」


「行ってみるかい?」


俺はコクリと頷いて、邪神と共に屋根伝いで向かって行く。

そこでは、ワラで作られた人形を的に銃の訓練を受けるリゼンブルの住人がいた。

老若男女関係なく、指導を受ける彼らの表情は真剣で、

本格的な訓練を黙々とこなしていく。


指導する側はリゼンブルの兵士で、スパルタ教官に順守していた。

『キャラ作りも大変そうだな。』と思っていると―――


「そこで何をしている!」


突然の大声でビックリした俺は足を滑らせる。

だが、動揺はしない。

クルリと軽く宙返りして地面に着地した俺に続き、邪神が屋根から下りてきた。


膝についた砂を払っているとぞろぞろと人が集まって来て拍手する。

『そんな凄い事でもないのだが・・・。』

と無表情で思う俺に近づいてくる兵士が大声を出した張本人で、

険しい表情を一変させた彼は俺の背中をバンバンと叩いた。


「すまんすまん! 不審者かと思って大声出しちまった。

あんた達冒険者だろ? 良かったら内で撃って行かないか?」


「は?」


俺は呆けた声を出すが、如何やら射撃訓練に勧誘されているらしい。

見た目が冒険者風の為に勘違いをされたようだ。


「ことわ・・・。」


「是非参加させてください!」


俺が断ろうとした時、後方から邪神の声が聞こえてきた。

《念話》を通して『勝手に決めるな!』と怒鳴ったのだが、

邪神は『まあまあ、良いじゃない。』と凄い乗り気だった。


「本当か! そうと決まればいざ訓練だ!」


「あ! お、おい!?」


俺は強制的に腕を引っ張って行かれる。

その様子をまじまじと眺める邪神の狙いが分かった俺は、

『後で覚えていやがれ』と《念話》を送り、的から300m離れた位置に立つのだった。


「良いかお前達!銃というのは使い手次第で戦況を大きく変える武器だ!

今からあの冒険者が手本を見せてくれるからしかと見て置け!」


『自分が実演するんじゃないのかよ・・・。』とツッコミを入れつつ、

俺は舌打ちをする。

銃に弾丸を込めながら、的の数と位置を確認した俺は引き金に指を乗せた。


『全部で的は6・・・余裕だな。』


俺は的のど真ん中を全て撃ち抜いて見せる。

訓練の参加者だけでなく、先程の兵士も俺の見事な腕に魅了されていた。


「す、凄い・・・。」


俺は新しい弾丸を装填し、目の前の的に銃口を向ける。

放たれた弾丸は先程空いた穴を通って行き、奥の壁に穴をあけた。

それだけでは面白くない俺は装填した弾丸を三連続で放つ。

寸分の狂いなく飛んでいった弾丸は壁の穴を更に深くしたのだった。


「並の冒険者でもこんな芸当は出来ない。あ、あんた何者だ?」


「只のしがない冒険者だ。」


俺は顎で邪神に『来い。』と言う。

邪神は「なんだいなんだい?」とニヨニヨした顔だったが、

胸ぐらを掴まれてダラダラと冷や汗を流し始める。


「さっき俺が言った事覚えてるよな~。」


俺は悪い顔をして、カバンの中にあった縄で邪神を縛りあげた。

「人でなしー!悪魔ー!」等と口うるさいので、口も縛る。


「最凄い物を見せてやる。」


俺はそう言って、的があった場所に邪神を立てて射撃位置に戻る。

銃に弾丸を装填する様子を見ながら想像がついた兵士は、

「まさか!」と目を見開いた。


弾丸の装填を終えた俺は邪神に銃口を向ける。

不安に期待を混ぜた瞳で見学をする住人達は息を呑んだ。

そして―――


ドドドドドドドドドッ!!!!


俺は引き金を引く。

高速に放たれる銃弾は邪神に当たる事なく、

後方の壁に邪神の輪郭を象った絵を描いて見せた。


「いっちょ上がりだ。」


俺はしくしくと涙を流す邪神に念話で『ざまあ。』と言ってから縄をほどいてやる。

その後に見学者から大きな拍手と歓声が上がった。


「か、感動しました。銃って素晴らしいですね!」

「やべーよ。俺超鳥肌たったんだけど!」

「私銃を極めたい!」

「弟子にしてください!」


『マズイ・・・目立ち過ぎた。』


俺は頭を抱えて、過去の出来事を思い出す。


『この流れは非常にマズイ!』


その時、頭の中で混乱する俺の脳内に邪神の声が響き渡る。


『殺してしまえば早いと思うよ?』


俺は身体をピクリと反応させて「ああ、そうか。」と呟く。

俺の中の何かも邪神に同意し『殺せ。』と言っているのだし、

やってしまおう。


彼らと俺が目を合わせた瞬間に俺は切り替わる(・・・・・・)

視界に収まる生命達を触れずに絶命させた俺は、邪神に向き直り言った。


「どういうつもりだ。お前は俺が邪魔な筈だろう?」


邪神は笑みを浮かべて答える。


「邪魔だけど、助けて貰ったお礼はしないといけないからね。」


「お礼?」


俺は俺だ(・・・・)邪神は(・・・)お前で良い(・・・・・)

あれは君だろ?」


俺は黙り込んで視線を逸らす。

邪神はクスクスと声を出して笑った。


「彼も君も素直じゃないな。」


「俺はあいつが傷つかなければそれで良いだけだ。

わざわざ回りくどく呼び出しやがって、俺は消えるぞ。」


「ああ、待って!」


「なんだ?」


邪神は真面目な顔で尋ねる。


「僕は君のお陰で邪神としての役割に戻れた。

だけど、君を中心に戦争が始まる。戦争を・・・どう(・・)終結させるつもりだい?」


「愚問だな。」


俺は禍々しいオーラを放って言い放つ。


「俺に牙を剥けた愚か者は全員、塵一つ残さない。

あいつを傷つけ、あいつを奪った屑共は魂を破壊されて当然だ。」


「・・・・・・。」


「邪神の癖に人間が心配か?」


「君の所為で彼の翼が汚れるのが嫌なだけだ。」


邪神は顔をむくれさせる。

その様子にため息を吐いた俺はふらついた(・・・・・)


「やば・・・。」


そのまま意識を失って倒れる俺を邪神は受け止めた。

目を覚ました時には、二度ある事は三度あるで、はずれの森で膝枕再び。

俺の右ストレートを避けた邪神はニヤリと笑うが、

続けざまの左をお見舞いする。


脳震盪で起き上がれない邪神を放置して俺はルーナ―ンへと足を向けた。


新王都やリゼンブルが物資を搔き集めているという事は、

恐らくルーナ―ンにも手が伸びている。

早急な対応が必要なのだが、今回ばかりは止めて置く事にした。

日は既に西に傾いており、暗くなり始めているからだ。


帰ったらガルムと遊ぶ約束もあるし、

セレスには通常通り業務をこなせと言いつけてある。

主の俺が約束を破る訳にはいかなかった。


―――古代砂漠 外れの森―――


ドワーフは蜂蓮達を連れて、森の中を進んで行く。

だが、女性陣の体力は底を尽きかけていた。


砂漠を抜け、森に入ってから丸二日・・・。

睡眠時間は僅か三時間で所持していた食料は底をつく。

体力のある男性陣は女性に肩を貸し、やっと歩けている状態だった。


蜂蓮は「まだか。」とドワーフに促し、彼は「もう少しだ。」と答える。

そうして茂みを掻き分けて見えてきたのは、綺麗な泉。

透き通る水の中には魚が泳いでおり、

周辺には薬草が生えていた。

その薬草は、通常の薬草とは効果の大きさが異なり5倍の効果を発揮する。


「《パルぺル草》か。」


「ここにしか自生していない貴重な薬草だわい。」


ドワーフは薬草の幾つかを取り、蜂蓮に手渡す。


「回復ポーションにすり潰して混ぜると良い。残った傷も治る筈だ。」


蜂蓮は口には出さないが、黒い生き物との戦闘で負った傷は完全には治っていない。

身体の節々は軋むし、

なにより折られた腕の動きがあの後から可笑しくなっていた。

腕を曲げようにも間接が曲がらないし、逆に逸らすと激痛が走った。


「恩に着る。」


蜂蓮はドワーフに感謝して薬草を入れた回復ポーションを服用。

その他のメンバーは深い眠りについた。

焚火がパチパチと音を立てる中、

長刀の手入れをする蜂蓮にドワーフは声をかける。


「副作用で眠いのではないか?」


「安全地帯とはいえ、見張りがいるに越した事はない。」


「それもそうじゃな。」


ドワーフはコクリと頷いて、お互いに暫く無言になった。

長刀の手入れを終えた蜂蓮は、左腕を曲げ伸ばししてから力を入れてみる。


「よし。」


「完治したようだの。」


「そのようだ。」


蜂蓮はドワーフに向き直って尋ねた。


「薬草については感謝する。しかし、ここまでの道のりは非常に長い。

国に入国させたくないとは云え、道中でも会話は出来たであろう。」


彼が言いたいのは砂漠での話で、ドワーフは蜂蓮達の質問に何も答えなかった。

「しゃべるな。」「静かにしろ。」としか言わず、

気まずい雰囲気が漂っていたのだ。

そんなドワーフは静かに息を吐く。


「頭が良いのか悪いのか。分からん男だわい。

砂漠では、些細な事でも命取りになる。声を発するだけでも体力は奪われるんだ。

ならば、魔物のいない安全な場所で羽を休ませるべきではないか?」


蜂蓮は正論な発言に「失礼した。」と謝罪する。


「分かれば良い。ワシも雰囲気を悪くしていたみたいだからの。

お互い様だわい。」


ドワーフは笑みを浮かべて、泉で取った魚を焼く。

それを蜂蓮に渡した。


「今日は、食って寝ろ。

どっちみち、戻るには又砂漠を横断するしかないのだからな。」


砂漠で生きてきたドワーフの言葉には説得力があった。

蜂蓮は信用に足ると判断し、睡眠をとる事にした。

仮眠で済ませてきた所為か熟睡までに時間はかからず、寝息を立てる。


彼らが寝た事を確認したドワーフは、カバンに入れていた酒を取り出し、

一人黄昏る。

横に置いた小さなサカヅキに注がれた酒は、

とある人間がルーナ―ンに訪れた際に一緒に飲み交わす物だった。


「ワシは信じておるからな。」


ドワーフは、自分のサカヅキを飲み夜空を見上げる。

輝く星と月が彼らを照らすのだった。


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