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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~3年後の世界編~
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魔物料理は家族愛


俺は今日もセレスの料理を黙々と食す。

最近のセレスお手製料理はいつも以上に凝っており、

美味しさの余り頬が落ちそうになる。


「そういや森の管理はどうしてる?

パペルティナ(・・・・・・)の数が減ってるような気がするんだが・・・」


「生態系を崩し始めていたので、数の調整を致しました。

素材は倉庫内に保管してありますので、ご心配には及びません。」


「ふーん。」


自分で聞いておきながら、軽く流した俺は、セレスにお代わりを要求。

「畏まりました。」と返事をしてキッチンへ向かう彼の手には、

白い和紙が握られており、以前のようにゴミ箱へとさり気なく捨てた。


「どの位お入れしましょうか?」


「山盛りで。」


そして、モリモリと全て完食した俺は彼に尋ねる。


さっき捨てた(・・・・・・)のは隠し味(・・・)か何かか?」


「っ!? 気づいておいででしたか・・・。」


「この前といい、今日といい、何処となく不自然だったからな。」


セレスは珍しく発言に戸惑いを見せた。


「もしかして、この料理には《パペルティナの核石》が使われているのか?」


最近外では黒い生き物の噂が広まっている。

それがパペルティナ。

名前の由来は知らないが、『FREE』ではそう呼ばれていた。

急所の核を抜き取るか破壊しない限り再生を続ける変わった魔物で、

変幻自在に身体を変化させる。

知能が高く、見よう見まねで相手の動きをトレースする習性があり、

一発で覚えるというのだから見事な物だ。


セレスは頭を下げて「はい。」と肯定する。


「《パペルティナの核石》はlvが高い程、質が上がります。

それに比例するように料理も美味しく出来上がるのです。」


つまり俺はパペルティナという魔物を(・・・)食わされていた(・・・・・・・)のだ。

俺は溜息を吐いて席を立ち上がり、セレスの前で静止した。

その間が彼にとってどれだけ息苦しい物か俺は知っている。

唾を飲み、大量の冷や汗を流す彼は俺に殺されると覚悟していた。


しかし、俺の取った行動は意外であり、彼は呆気に取られる。

俺は彼の頭を優しく撫でたのだ。


「何故ですか?」


「ん?」


「何故私を殺さないのですか?」


セレスは俺の為に料理をしてくれている。

美味しい物をより美味しく仕立て上げるには工夫をする必要があり、

彼は幾度も試行錯誤を繰り返した。

結果として辿り着いたのが、パペルティナだっただけだ。

魔物を料理に使うなんてザラだし、抵抗はない。


只、注視する点はそこではない。


セレスは言った。

パペルティナの核石はlvが上がるごとに上手くなる。

手っ取り早くlvを上昇させるには、外の人間(・・・・)その他魔物(・・・・・)を殺させた方が良いのだ。


俺の指示なく勝手な行動をしたセレスは罰せられる立場にあり、

優しさを与えられて良い筈が無い。


「全部俺の為にやってくれたんだろ。だったらお前を責めるのはおかと違いだ。」


「寛大な処置に感謝致します。ですが、罰は受けなければなりません。」


セレスの生真面目な性格がどうにも苦手だ。

感謝だけで留めて置けば良いものを自分から願い出る。

正直そっちの方が面倒だった。


「じゃあ、世界中の情報を根こそぎ搔き集めて来い。

些細な情報から機密文書内容まで全部だ!」


「畏まりました。」


「でも料理はいつも通り怠るなよ? 別に外の人間を殺しても構わん。

知り合いが死のうがもうどうでも良いからな。」


「承知致しました。それでは、出立の準備を整えてきます。」


セレスは二階の適当な部屋に入って行く。

床に腰を下ろした彼の顔は真っ赤に染まっており、他人に見せられない表情をしていた。


俺は彼を生み出した者であり、親的な立場なのだが、

見た目上そうは見えないし、

セレスの方が冷静で落ち着きがある大人らしい振る舞いが出来ている。


只、彼は子供のように頭を撫でられた経験が無い。

俺の前世の記憶にそれがあれば彼が茹でタコになる事もなかったのだが、

残念ながら、前世の俺は壮絶人生だった。


幼少期で経験する筈の可愛がられタイムは一切なかった。

その分大切な家族は可愛がってやりたいし、

俺に与えられなかった物を与えてやりたかった。


直球な気持ちを受け取ったセレスは、

落ち着きを取り戻したが、動揺していたのが丸わかりで俺は爆笑する。

身に付けている装備品の数が多すぎるのだ。

スラッとした身体のラインが着こんだ服で隠れてしまい、

魔法のカバンの腰回りのベルトがはち切れそうになっていた。


俺は、セレスの装備品を一つ一つ丁寧に外して行き、

ガルムに倉庫へ入れさせた。

セレスは「舞い上がってしまいました。」と答えるが、

「それは動揺を隠す為の照れ隠しだ。」と説明してやる。


久しぶりに笑わせて貰った俺の気分は晴れ晴れとしており、俺も外出を決める。

実質これから夢見の森お留守番役はガルムのみ。

寂しそうなガルムの頭を、

ワシャワシャと撫でまわす俺は最後にギュッと抱きしめた。


「帰ってきたら一緒に遊ぶぞ。いつもの3倍増しだ!」


「ワオオオオオオーーーン!」


ガルムは大喜びで尻尾を床に叩きつける。

そうして、俺とセレスは別々の場所へと転移するのだった。


―――旧王都―――


廃城に居座る邪神の元に俺は訪れた。

なんやかんやと邪神とつるみ続ける俺の楽しみはもはや殺ししかない。

というか殺したくて殺したくて仕方ない。

だが、今日だけは違う。


「やあ、いつもの暗い顔が吹き飛んでいるね。良い事でもあったのかな?」


「俺の家族は可愛い・・・執事と狼だけど可愛いぞ。」


「無表情でデレられても反応に困るんだけど・・・。」


俺は、カバンに閉まっていたこの世界での高級酒を数本取り出しコルクを外す。

一本丸々邪神に手渡し、俺はガブ飲み。

状態異常が効かない為、純粋に味を堪能していた。


「ぷはっ」


「それで、執事と狼が可愛いって?」


「お前には関係ない。」


「酷い! 言って置いてそれはないだろ~。」


邪神は俺の両肩を鷲掴んで前後に揺らす。

それを軽く払った俺は再び酒を口に含んだ。


「あいつらは俺にとってかけがえのない家族で、やっと出来た俺の宝だ。

敵のお前に易々と情報を渡すかよ。」


「遊びに来てる癖にこれで友達未満だって言うんだから困ったよ。

でも、僕は友達だと思ってるからね。

というか君の情報を邪神の僕が誰に口外すると言うんだい?」


「口外ではなく、誘拐はしそうだな。」


「誘拐した所で君には勝てないよ。」


「そうか・・・それもそうだな。」


「そこで折れるのかい?」と邪神は呆れの表情を見せる。

俺はこの世界に転生し、ガルムとの出会い、

セレスという精霊を生み出した所までを邪神に話す。


彼は、目を輝かせて「それでそれで!」と追及してくるが、

近づけてくる顔を片手で押しのけて話しを強制終了。

俺は2本目の酒を飲み干して席を立った。


「セレスが情報収集しているが、

実際に確認もしておきたいから俺は行くぞ。」


「情報収集? 僕も付いて行って良いかい?」


「どうせ来るんだろ。」


邪神は顔をニヤニヤさせる。

俺は無性にイライラして彼を殴り飛ばすのだった。


―――新王都グラントニア―――


俺と邪神は各々変装して新王都に入国。

拳銃スタイルの俺と一般人男性の恰好を装う邪神は、

何処からどう見ても普通である。


街は以前と比べ物にならない程ざわついており、

住人に尋ねると、王城で国王が延々と同じ演説を繰り返しているらしい。


「どんな演説だろうね。」


「演説は嘘をセメントで塗りたくって固めた物だからな。

どうせくだらないぞ。」


「うわあ~ 凄い言いよう。王様貶しちゃってるよ。」


王城前には民だけではなく、黒い番犬、冒険者達が大勢集っていた。

真剣な面構えで武器を握りしめる姿は戦争前の兵士を彷彿とさせ、

嫌な予感が強くなる。


「我々は過去の英雄に呪われている。

今こそ負の連鎖から脱却し、過去を断ち切る時が来たのだ!

国を想う民達よ!武器を取り、レイダス・オルドレイなる邪神を打ち倒すのだ!」


俺は『ああ、やっぱりか。』と深い溜息を吐いて呆れた。

肩を竦めて、顔を覆ったのは痛々しくて見ていられないからだ。

何度滅ぼされ、打ちのめされれば気が済むのだろう?

隣の邪神なんてツボにはまったのか腹を抱えて笑いを必死に堪えている。

「腹筋がネジ切れる・・・。」とか言ってるから相当なんだろう。


「くくく・・・馬鹿にも・・・ぶふっ・・・程があるよ・・・ブハッ。」


「邪神・・・それ以上しゃべるな。腹筋崩壊が早まるぞ?」


俺と邪神はその場から退散し、人気のない場所で邪神は大声で笑い声を上げる。

一方の俺は絶えず溜息を漏らしていた。


「人間の俺が邪神とはな・・・。」


「暴れる時は、僕がやるから君は黙ってみててよ。」


「手を貸すというのか?」


「それが僕の存在意義だしね。」


ニコリと笑みを浮かべる邪神の視線は、近くを通りがかった住人達に向けられ、

彼らは素早い動きで逃げていく。


「演説中から付けていた奴らだね。殺すかい?」


「いいや、自ら死地に飛び込んでくるんだ。

命日の定まった人間を相手にする程暇じゃないし、精々残りの人生を楽しませるさ。」


「でも、放って置けば僕達が新王都にいるという情報を拡散されるよ?」


「心配するな手は打ってある。」


俺は悪い笑みを浮かべた。

逃げて行った住人達は、汗を流しながら街中を全力で駆け抜けるが、

次第に速度は落ちていき頭を抱える。


「あれ? 俺・・・何してたっけ?」


「私は・・・え? 私は誰? ここは何処なの?」


「・・・・・・・・・」


記憶は消失し、自分自身を見失った彼らは真っ新な赤子。

言葉を忘れ、過去を忘れた彼らの人生は新しく始まる。


これぞ、《スキル:忘却の魔眼》

さらに《スキル:効果永久持続》の二重掛けである。


《記憶改変》でも良かったが、それでは面白さに欠ける。

ならば、余り使用しないスキルを使った方が良いだろう。


「本当僕より悪だよね。僕と席変わる?」


俺は俺だ(・・・・)邪神は(・・・)お前で良い(・・・・・)。」


邪神は俺の後ろで微笑む。

消えかけていた指先が元に戻り、彼の存在が世界に認識されつつあった。

それは俺が邪神の誘いを断ったからであり、心の底からそう思ったからだった。


「変わった奴・・・。」


邪神はいつか言った俺の言葉をぼそりと呟く。


「何か言ったか?」


「いや・・・何も! 次は何処へ行くんだい?」


邪神は気を取り直して、明るく振る舞う。

俺と邪神はリゼンブルへと足を運ぶのだった。


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