核ってどうなった?
蜂蓮達はルーナ―ンの捜索を継続し、砂漠を出歩いていたドワーフに遭遇する。
相手は怯えて逃げ腰な姿勢を見せるが、事情を説明した事で警戒が解けた。
「物資の提供とな・・・。」
「新王都は大きな戦をする。その為にはルーナ―ンの協力が不可欠だ。」
だが、ドワーフは首を横に振る。
「国がどう判断するかは知らんがワシ個人としては協力したくない。」
「それは何故ですか?」
「友を傷つける武器を易々と渡すと思うか?」
3年の間にレイダスとドワーフとの関係は根強くなっていた。
バルマンに至っては制作の師と崇めており、手ほどきを受けている。
ドワーフはレイダスに質の高い武器を提供し、
レイダスはドワーフの製作技術向上に貢献していた。
云わばwinwinである。
「友・・・という事は貴方はレイダスさんと仲が宜しいのですか?」
「ルーナ―ンで酒を飲み交わす仲だわい。」
ドワーフは誇らしげに胸を張った。
目の前のドワーフ以外もレイダスの味方側に付いているならば、
ルーナ―ンは敵国であり、レイダス同様に消すべき対象である。
蜂蓮は柄に手を置き、ドワーフに言った。
「では、ルーナ―ンは我々にとって敵となるな。」
「お、お父様!?」
「そうなるの。」
蜂蓮とドワーフは互いに火花を散らせる。
力量差があろうと話し合いによる解決の場では意味をなさない。
砂漠の中心で彼らは短く長い時間睨みあった。
「だが、先程言った通りそれはワシ個人としての話し。
国がどう判断するかはわからん。
よって正式に会議を設けたい・・・如何かな?」
「異論はない。」
ドワーフはカバンに閉まっていた紙切れを取り出し、場所と日時を書き記す。
それをメイサに「ほれ」と手渡した。
「国の場所を教える訳にはいかんのでな。」
蜂蓮はメイサから紙切れを受け取り確認する。
「うむ・・・了解した。行くぞ。」
彼がそれ以上の発言をする事はなく、その場を去る。
残されたドワーフも彼らに背を向けてルーナ―ンへと帰って行く。
メイサは遠くなっていくドワーフに声をかけたいが、蜂蓮の視線に肩を竦める。
小さい身体をより一層小さくして彼女が思うのは、
『何故分かり会えないのだろう?』という疑問だった。
すれ違いにすれ違いが重なり、絡み合った糸は互いに引っ張り合う。
それは互いの繊維を傷つける行為であり、
複雑に絡まる程に玉が大きく出来上がる。
再び真っすぐな糸に戻すにはハサミで切り離すしか方法はなく、
それはレイダスという存在そのものを抹消する他になかった。
玉となる元凶を消せば、全てが元に戻る・・・果たしてそうなのだろうか?
ピシ―――
メイサには全てがレイダスの所為とは思えず、胸のあたりに違和感を覚える。
誰かに感情を制御されているようなそんな違和感だった。
ピシ・・・パリ・・・
英雄が悪事を働いたのには理由があると何故考えなかったのか?
自身に与えられた役割りを全うするだけに留まっていた彼女は
ドワーフの発言を思い出し自分が恥ずかしくなる。
『私は本当のレイダスさんをまだ知らない。』
「あ! メイサ!?」
メイサは他の皆に目もくれず、ドワーフに向かって一直線に走り出す。
そうして追いついた彼の肩に触れるメイサは荒い息を上げており、
片膝に手を置いていた。
「お主・・・。」
「ドワーフさん教えてください・・・レイダスさんとはどういう方なのか。
私は知りたい・・・知る必要があるんです!」
パリン!
とメイサの中で何かが砕けた。
胸を締め付けていた違和感は消えてなくなり、自分が思うままに発言する。
新王都でのレイダスと無表情な受付嬢を思い出しては、
英雄が常識のない人間とは思えなかった。
そして、優しく民に手を差し伸べなければ英雄とはもてはやされない。
「私は、あの人達に幸せになって欲しい!だけど、世界がそれを許さない!
そうしているのは私達なんです!
どうか・・・レイダスさんについて教えてください!」
メイサが二人と話した時間は一日にも満たない。
それでも彼らの幸せを願ったのは、互いに想い合っている節があったからだ。
溢れ出る涙に彼女の気持ちを察したドワーフはニコリと笑みを浮かべる。
「良いだろう。だが、少しばかり長くなる。
砂漠を出た先にある森で話そう。」
メイサは「ありがとうございます!」と深く頭を下げて蜂蓮達に許可を取りに行く。
「ダメだ。」の一点張りだった蜂蓮だが、
メイサ側に付く凛香の一言「お父様の分からず屋!」で心にヒビが入った。
落ち込む蜂蓮の肩に優しく手を乗せたのはギュンレイ。
「諦めなさい。」と微笑ましく放たれた一言がトドメとなる。
口から魂が抜けかける蜂蓮を弥勒と龍月が引きずりながら連れて行く。
砂漠の炎天下の中で重労働を強いられる二人は、
正直『歩いてくれよ。』と思う。
口に出さなかったのは後が怖いからであって、想像もしたくない。
形無しの桜華家当主とその一行は、ドワーフに連れられ、
森の中へと消えて行くのだった。
―――夢見の森 ログハウス―――
買い物から帰宅したセレスをガルムは出迎える。
俺も出迎えたいのは山々だが、酒の気持ち悪さが抜けておらず
ベットに横たわっていた。
「セレス・・・お帰り。」
今にも死にそうな(死ねないけど)声で「お帰り」という俺に
セレスは心配そうな表情を浮かべる。
テーブルに荷物を下ろしたセレスは、「胃に宜しい物をお作り致します。」
と言って早速料理に移った。
ガルムは遊んでほしそうに俺の顔をジーッと眺めているが、
俺が「無理」と発言した途端尻尾がパタリと床につく。
遊んでやれない代わりにと俺はガルムをベットに上がらせ、一緒に眠った。
それから数十分後にセレスに起こされた俺は、
ぐっすり眠るガルムからそっと離れてテーブルの席に座る。
出された料理はお粥。
中には色々と変わった具材が盛り込まれており、
どれも健康に良さそうな食用アイテムだった。
スプーンを持ち、お粥を一口。
俺は身体が軽くなる感覚と奥底から力が溢れ出る感覚に不思議がった。
「付与効果のある調味料でも使ったのか?」
「いえ、普段通り料理致しました。」
「ほうか・・・はふはふ・・・。」
俺は黙々とお粥を口に頬張り、完食する。
酒で気持ち悪かった筈なのにいつの間にか元気になった俺はガルムを起こした。
無性に走り回りたい気分になったのだ。
そうして、外出していく俺とガルムを見送ったセレスは、
使用された食器をキッチンで洗う。
近くには折り目の付いた白い和紙が置かれており、何かが入っていた形跡が残されていた。
和紙の上には細かな欠片が残されており、
それは不意に飛び散った水に溶けて無色透明化していく。
セレスは、和紙を小さく丸めてゴミ箱へと捨てるのだった。




