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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~3年後の世界編~
173/218

それぞれの決意


バロンは赤い大地の上で赤い空を見上げていた。

エルフの森は焼け、木々が住人にのしかかる。

自身の後方に立ち尽くすだけの国王にバロンは「非難を!」と言うが、

彼の発言とは裏腹に国王は前へ出た。


「ははは・・・燃えているぞ。わが国が燃えているぞバロン・・・ははは。」


両腕を広げ、笑い声を上げる国王にバロンは哀れんだ。

そもそもレイダス・オルドレイ殺害は人間と共存する上で必要な行為であり、

グラントニア側の願いを受け入れなければ、

折角結べた仲は戦争時に逆戻りしてしまう。


何としてでもそれだけは避けたかったヴァルハラは無謀な策略に走る結果となった。

厄災を呼び寄せた彼らは自らを破滅させた。

邪神は上空から魔法を連射し、

レイダス・オルドレイは得意とする剣技でエルフを殺していく。


時折紛れる人間も容赦なく殺す光景にバロンは恐怖を抱いた。

同族を殺す事を楽しんでいる彼は明らかに異常であり、狂っている。


狂気を放ちながら、エルフを斬り裂いていくレイダスは、

イカレタ国王に接近していく。

口角を上げて浮かべる笑みは凶悪で、何者をも寄せ付けない殺気を纏っている。

それでも尚、バロンは忠実な配下として国王に尽くす。

国王の襟を引っ張り、自ら盾となる。


「貴様なぞに私は屈しない!」


レイダスの頭目掛けて放たれた矢は全て打ち落とされて、

最後には弓を破壊される。

触れてもいないのに破壊された弓の破片が飛び散り、バロンの皮膚を薄く裂く。

右腕で喉元を押さえつけられたバランは地面に押さえつけられ、悶え苦しんだ。


ギリギリと音を立て、レイダスの腕力は次第に強くなっていく。

首をへし折らんとする彼の瞳にバロンはゴミにしか移っていなかった。


「ゴミは燃えてチリになれ。」


刀身に火を超える《火炎》属性が付与される。

逆手に握り返した剣はバランの胸に突きつけられた。


「あの時・・・私を殺そうとすれば殺せた筈・・・何故そうしなかったのですか?」


バロンの問いかけに属性付与を解除したレイダスは言った。


「なんとなく。」


只それだけだった。

心臓を刺し貫いたレイダスは国王の首をなで斬りにして、

エルフ種を皆殺しにしていく。

その光景を老兵は無力に眺める。

自分は何をしてきたのだろう?そんな疑問がふと浮かび上がってきた。


自分も国王も重症を負い助からない。

エルフは完全に滅びの道を辿る。


「良いじゃないか。いずれ、皆消えてなくなるんだから・・・。」


邪神が瀕死のバロンの顔を覗き込む。

自分の考えを読み取ったが如くの発言にバロンは眉を動かした。


「生き物は何処からやってきて、どうやって生まれたんだろうね?」


大人から子供まで簡単に答えられる問いかけにバロンは口を動かす。

「神」以外に誰がいるというのだろうか?


「当然だね。じゃあ、その神は誰に生み出されたんだい?」


答えは出なかった。

神を超える存在がいる筈ないからだ。


「神を超える存在の解明が出来ていないから存在しないと断定付けているだけだよ。

君達は正体をすでに知っている。」


「――――――。」


最後に耳にした言葉を最後にバロンは邪神に留めをさされる。

ぐったりとした老体を放置して邪神はレイダスを追った。

神樹の前に立っている彼の周囲には屍が数え切れない程あり、惨状と化していた。


―――ヴァルハラ 神樹前―――


近頃記憶が飛ぶようになったと思う。


『俺は何をしてたんだっけ?』


ボーっとしながら、神樹前に佇む俺はおもむろに触れた。

神聖とされる神樹に触れる行為はエルフ内では禁忌とされており、

人間となればなおさらだ。

『FREE』でも穢れを持つ者が触れれば災いを齎すと言われており、

俺が触れた結果は最悪を招いた。


俺達という災厄に続いて、神樹が大地を揺らし始める。

地中深くまで根を伸ばし、広く国を包んでいた神樹の根は地上に顔を出した。

幻想的に輝いていた葉はミルミルと枯れ木になり、

国中にまかれた葉は酸性雨のように頭上より落下する。


ゆらゆらと揺れる葉に手を伸ばした者の身体は葉の効果で苦しみだし、

泡をふいてバタリと倒れた。

全身に駆け巡る強力な毒素は付与効果の《酸性毒》があり、

国中を恐怖のどん底へ突き落とした。


元凶ともいえる俺は邪神と結界朱で身を守り、地面に腰を下ろす。

俺達の愉快な遊びはここで終わり、後は神樹が片付けてくれる。


「神樹に触れるなんて馬鹿でしょ。」


邪神はさっと頭をガードする姿勢をとるが俺は殴らない。

何故なら意識は、はっきりしているのに脳が上手く機能していないからだ。

邪神にツッコミを入れる気力なんてなかった。


「自分でもなんで触れたのか分からん。」


俺の中の何かが囁くまま触れた結果が神樹の酸性雨。

何かはこうなると知っていたのだろうか?


「まあ、何はともあれ後は観客として断末魔を楽しもうじゃないか。」


「・・・・・・。」


国中の生き物は恐怖に叫び声をあげる。

それに混じって真祖の雄たけびが聞こえてきた。

邪神が生き残りを逃がすまいと命令を下したのだろう。


「俺は、自分を披露した。これが俺なんだ。

残虐非道で冷酷で、全てに死を与える恐怖の権化。」


「ははは・・・邪神の僕と並ぶねえ~。」


「それ以上だ。俺はお前以上に生き物を殺したがっている。」


「・・・・・・。」


「俺の中の何かがそうさせているのだと思っていたが違った。

自分が何かと反対なら頑なに拒んでいた筈だ。」


「拒めない=受け入れていると君は捉えているんだね?」


「ああ。俺とあいつ(・・・)は似ている。」


邪神は眼を細めて、顔をそらした。

ぼそりと小さく呟いた一言に俺は顔を向けるが、それから話す事はなかった。

只、生物が死んでいく今この瞬間を二人で眺める。


―――二日後 新王都―――


真祖の眼を掻い潜って脱出を果たしたエルフが新王都に知らせる。

ヴァルハラは英雄の手によって滅ぼされた。

新王都の民は震撼。

国王にレイダス・オルドレイ討伐を訴えた。

策略は失敗に終わり、

予定を狂わされた国王だったが、彼は冷静に対処する。

国民の訴えに耳を傾け、実行に移す姿勢を見せたのだ。


今日も今日とて新王都は平和な日常を送る。

それでも、レイダスを知る知人の心境は良くない。

暗い雰囲気に周囲の人間は近づきたがらなかった。


「レイダス・・・どうして?」


リリィはスカートをぎゅっと握り締めて、涙を流す。

苦い経験をさせられているリリィを心配そうに見つめる店員は強く彼女を抱きしめた。

彼女にはそれぐらいしか出来ず、頭をやさしく撫でる。

表情はとても複雑でどうしようもなく胸がもやもやする。


それでも時間は流れていく。


ガランは、冒険者ギルドの壁に拳を叩きつけて「クソお!」と叫ぶ。

カイル達も悔しそうな表情を浮かべて、武器を握り締めた。

彼らの中にレイダスへの思いは既に無く、自分達を裏切ったレイダスを憎んだ。


「師匠を殺したにも飽き足らず、ヴァルハラまで!」


「酷い・・・酷すぎるよ。」


カイル達は口々に本心を漏らす。

それでもガランは公言できない。

脳裏に焼きついた過去の記憶がガランの胸を締め付ける。


『あいつが俺に力をくれた・・・。』


右手に握り締める槍を見つめて、槍を放り投げるレイダスの姿を思い出した彼は、

七天塔での出来事を振り返る。

七天塔(あの場)にいた三人にはレイダスを責められない。


「あいつを苦しめたのは・・・。」


俺達だ―――


ガランは槍を強く握り締める余り血を流す。

そばによってきたカイル達に手当てされながら、只ボーっとしていた。


「ガランさんどうされたんですか?」


「え?あ、いや・・・なんでもねー。」


「これから新しく発足された新王都の部隊と打ち合わせがあるのですから、

無理だけはしないでくださいよ?」


冒険者内でガランは頼られる存在であり、リーダー格的存在だ。

カイル達もリーダーとしてガランを信頼している。


「なあ、カイル・・・お前はレイダスをどう思う?」


「どうって、許せませんよ。」


アインがレイダスに濡れ衣を着せた件を知らないカイル達は、

レイダスを只々憎んだ。


「師匠は口が悪いけどレイダスさんを信頼してた。」


「・・・・・・。」


「自ら和を抜けたのはレイダスさんだ。世界に殺されて当然です。」


それがカイルの答えだった。

一言「違う」と言えていれば、ガランが悔いる事はなかっただろう。

だが、その一言が重圧として重くのしかかっていた。


カイル達はレイダスに復讐する為だけに強くなった。

Aランク冒険者まで登り詰め、彼らの名を知らぬ者は居ない。

辿り着くまでの鍛錬は想像を絶する程過酷で、

カイルの額に残る傷がそれを物語っている。


努力を水の泡にする勇気がガランにはなかった。


「そうか・・・お前達が復讐を望むのは勝手だが、

作戦から外れた行動はするなよ?」


「はい。」


カイル達は装備を整えるべく、冒険者ギルドを後にした。

残ったガランは酒場の席に座り込み、深い溜息を吐いては、

七天塔に残ったフェノールを思い出す。


フェノール(あいつ)冒険者ギルド(ここ)にいなくて良かった。」


ガランの予想はよく当たり、

カイル達の発言を聞いたらフェノールは黙っていないだろう。

魔法の一発や二発お見舞いする様子が容易に想像できた。


「腹の括り時なのかもな・・・。」


正しい正しくないの問題は通り過ぎている。

レイダスを野放しにして置けば、

被害はどんどん拡大し、いずれ世界が無くなる可能性だってある。

世の中は不条理でいつだって理にかなっていない。

ガランは生存本能に従い武器を取った。


そして、王城の会議室にてレイダス・オルドレイ討伐作戦会議が行われる。

作戦決行日は3週間後、大掛かりな作戦で他国を巻き込んだ立案が可決された。

レイダス・オルドレイ対世界による大戦の狼煙が上げられたのだった。


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