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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~3年後の世界編~
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結晶の破壊


神エーテルは空間内を時計回りに浮遊しながら、

他神の報告を待っていた。


「運命の神ファフマル及び時の神ルマンメデスを捕縛しました。」


「うむ、ご苦労!余計な手間を取らせてすまない。」


「いえ、私も神アデウス達の考えに反対する神です。

貴方の協力には微力ながら助力致します。して、男の様子は如何ですか?」


「良いとは言えん。あの者達の干渉力は凄まじいからな。

周囲で済んだとはいえ、世界中の生き物が男の敵に回る所だった。

いずれにせよ最後に残った慈悲も消えるだろう。」


「片割れの侵食ですか?」

神エーテルは頷く。


「遅かれ早かれ目覚めるが、

このままでは神アデウスの想像していたシナリオに沿ってしまう。

それだけは何としてでも避けなければならん。」


「私も同意です。ですが、男の行動は既に抑制が効いていません。

目覚めた彼が我々を生かす保証は不明です。」


「その時は受け入れるしかあるまい。

気まぐれで再度生み出す可能性もあろう。だから、そう怖がる必要は無い。」


「神エーテル・・・貴方は肝が据わっているというか、凄いお方だ。

表現に困ってしまう。」


「フフフッ。最褒めても構わんぞ?」


―――夢見の森 ログハウス―――


俺が目を覚ましたのはあれから3日後だった。

頭には寝癖が出来ており、眼の下には熊がある。


「頭が痛い・・・。」


いつもならとっくに引いている頭痛が残っており、

顔色の悪い俺の元へセレスとガルムがやってくる。


「体調が優れないようで。」


「ああ、まだ本調子には程遠いな。」


ご主人様(マイロード)が眠っている間にイスガシオで動きがあったのですが、

後の方が宜しいですか?」


「いや、今で良い。」


「畏まりました。

獣王が新王都での石化騒ぎを聞きつけたようで、警備が強化されました。」


「当然だな。」


「逆にヴァルハラの警備は緩まり、

ご主人様(マイロード)を招き入れる用意をしております。

新王都に偶然訪れていた使者が

新王都国王との会談席でそのような会話をしておりました。

明らかな罠ですので近づかない方が懸命です。」


「流れで行くとお前が王城に忍び込んだように聞こえるぞ。」


「左様でございます。」


俺は顔に手を当てて肩を竦めた。

「俺の為とはいえ危険は犯さないでくれ・・・。」


気持ちを察したのかセレスは目を伏せた。

「申し訳ありません。度が過ぎたようです。」


「只、お前の優しさには感謝しているありがとう。」


「勿体無きお言葉。」


「ガルムも寝てる俺の傍にいてくれてありがとな。」


「ガル~。」


俺はガルムの身体を優しく撫でる。

セレスが羨ましそうにしていたので、彼の頭も撫でてやった。


「この格好でもトラブルを起こしたしな。又変えないと・・・。

セレス、イスガシオに行く際誤魔化しの利く服はあるか?」


「既に用意は出来ております。」


セレスが差し出した服は、銃専用の服だ。

腰には魔法のカバンの他、銃弾を収納するケースを複数装備し、

3丁の銃をぶら下げる。

肩からかけられているベルトの裏には銃の一種であるショットガンが装備され、

重厚感が溢れていた。


「お顔は整形するよりも魔法が宜しいでしょう。」


「整形する訳無いだろ。そんな冗談何処で覚えた?」


「新王都でちらほら耳に致しました。」


「お前に新王都の雰囲気は悪影響らしい。外出数は出来るだけ控えろ。」


「畏まりました。」


俺は、染色剤で髪色を赤に変更し、元々赤い瞳をコンタクトレンズで黒にする。

周囲の人間には一時的な幻覚を見せ、誤魔化す事にした。


イスガシオに瞬間移動した俺は、

門に向かって歩いていくが「やあ。」と声をかけられて早速銃を抜く。


「あ?なんだ邪神か。」


「君は既に僕を雑魚キャラ扱いしているらしい。」


「何のようだ?」


「酷いな。折角忠告しに来たのに・・・。」


「忠告?」


「イスガシオの上空を見てご覧よ。」


言われるがまま視線を向けるとそこには、

強大な魔方陣がイスガシオの上空に張られている。

魔方陣の端には結晶が浮遊しており、あれが核であると即座に理解した。


「初めて見たな。」


「僕の知識にもあんな魔法陣は無いよ。」


結晶を鑑定して見るも《不明》と表示され、結局あの魔法陣が何か見当もつかない。

『FREE』にも強大な魔方陣はあるにはあるが、

国一つ丸々囲えるだけの大きさは無かった。


「効果も不明か・・・一体誰があんな物を?」


「君が別空間に行っている間、イスガシオに来訪者が会ったらしくてね。

そいつが張っていったらしい。」


「誰情報だ?」


「勿論僕の恩恵を与えた真祖だよ。君の手助けをする為にね。」


「俺とお前は敵だ。」


「君はそうかもしれないけど、僕はそう思っていない。

これは僕の勝手だ。迷惑なら斬り捨てればいい。ほらほら、ここをズバッとさ!」


妙にテンションの高い邪神に俺は引いた。


「何その顔?僕は変人じゃないよ。れっきとした神様だからね?」


「はいはいそうですか。」


俺は邪神をスルーして魔法陣を観察する。

結晶は魔法陣の端から中央に集まっては、巡回するように移動を繰り返す。


「恐らく、範囲内にいる者全てに効果が適用されている。」


「獣人達に害は無いようだけど・・・というか表情が明るすぎて凝視出来ない。」


「試してみるか。」


俺はフードを被り《飛行》で空高く舞い上がる。

邪神も翼を大きく広げ俺の後を追ってきた。


「魔法で破壊するのかい?」


「無闇な接近よりもこっちの方が確実だ。」


俺は魔力の籠もった《ファイアボール》を結晶が中央に集まるタイミングで放った。

「当たる」と思った瞬間、結晶から数メートルの距離で魔法は打ち消され消失した。


「俺の魔法は低位であろうと国を滅ぼせるんだが、それを打ち消すとはな。」


「はははっ。やっぱり君凄いね。」


「何がだ?」


「僕が魔法を唱えた時はあそこまで届かなかった。

それを低位魔法で実現するんだから凄いよ。」


「先に言え!」


俺は、銃の握り部分で邪神の頭を殴る。


「いてて・・・低位で不可能なら上位魔法で壊せるんじゃない?」


「五月蝿い!《魔法/第30番:雷神槍顕現》」


俺の手の中に雷神の槍が出現し、投擲の態勢に入る。

振りかぶって投げられた槍は結晶に向かって飛んで行き、7つある内の4つを砕いた。

しかし、魔法陣は消失せず未だ健在。


『どうなってやがる?ダミーか?』と考えた拍子にドロリとした黒い感情が進入する。


「うっ!?」


黒い感情は俺の中でのた打ち回り、叫びを上げた。

『人間が憎い人間が憎い人間が憎い』

『殺してやる!殺してやる!殺してやる!』

『憎い憎い憎いよくもよくもよくも・・・・・・。』

『シャーロット様、シャーロット様・・・。』

『親友を返せ!私の親友を返せ!』

『レイダス・オルドレイをこの手で・・・殺してやる!』


俺は《飛行》を維持出来なくなり落下しそうになるが、

邪神が俺を支えて周辺の森に着陸する。

彼は俺の顔を覗き込んで顔色を確認した。


「一体どうしたんだい・・・何を見た(・・・・)?」


「獣王は・・・俺の知り合いだ。」


「それで?」


「あいつの感情が強烈に流れ込んできた。

俺が憎いと・・・殺してやりたいと叫んでる。

慣れてはいるが、直に感情が伝わると流石に気持ち悪い。」


「他には?」


「獣王の感情が強烈過ぎてあれだが、住人の感情も混ざっていた。」


「ふーん、成る程ね。あれは負の感情を封じ込める魔石。

イスガシオの住人が明るい理由だね。」


「それが分かれば・・・十分だ。」


負の感情を一心に受け止めた俺はふらつきながら立ち上がった。

冷や汗を流し、肩で荒い息を上げている。


「なんであんなの作ったんだろう。獣人て病み症?」


「俺が知るか。」


「そうだろうね。じゃあ、行こうか。」


「おい・・・ついて来る気か?」


「当たり前だよ。だって僕は世界より綺麗な君の翼が大好きなんだから。」


「お前・・・やっぱ変、ヒーラー職に見て貰え。」


「ええ~。」


俺と邪神は、イスガシオに入国すべく門に近づく。

入国審査が厳しくなっている為、商人達も文句を漏らしていた。


「お前、その羽どうにかならないのか?」


「ん?これかい?」


彼は「ほっ!」と声を出して翼を消して見せた。


「僕のスキルと《透明化》の応用だよ。」


「便利な・・・もんだな。」


「顔色が相当悪いけど、本当に大丈夫かい?」


「・・・・・・。」


本調子で無い上に精神ダメージを負っては身が保つ筈も無く、

俺はそのまま崩れ落ちた。

倒れた俺が眼を覚ました時には、イスガシオ内の宿屋で横になっていた。


「やあ、眼を覚ましたようだね。」


「お前が運んでくれたのか?」


「うんそうだよ。」


邪神曰く、緊急という事で門番はすんなり入国を許可してくれたらしい。

入国後は俺にフードを被らせ、顔を隠したんだとか・・・。


「お前邪神の癖に優しいな。」


「褒められているのか貶されているのか分からないなー。」


入国出来たのなら早速行動開始―――

しようとした俺であったが、身体に力が入らずベットから立ち上がれずにいた。

ステータスは相変わらず測定不可と表示されている為、

ステータス低下による異常ではない。


「ああ!たてないのか。ごめんごめん。それ僕のせいだ。

実は君が気を失っている間に薬を服用させたんだ。」


「薬が・・・この世界にあるのか。」


「あるよ。因みに飲んで貰ったのは、

効いてくるとフワフワして眠くなるんだ。丁度頃合かな?」


「それ・・・睡眠・・・薬。」


俺は眠りに落ちてベットに再び横になる。

状態異常や付与とは別判定である為、俺は薬に弱かった。

そもそも邪神が薬の知識を有しているなんて『FREE』の設定ではない。

それにより生じた油断は彼の作戦を次の段階へと押し進める。


「さて、君の目的は知らないけど僕にとって良くないのは分かってる。

君の翼が二度と見れない位なら僕は君の妨害をするよ。

後で迎えに来るからぐっすり眠っていてね。」


邪神は静かに扉を閉めて、俺が目覚めた時の言い訳を考えた。


「僕の正体が邪神だとバレて・・・ワザとバラすけど・・・

騒ぎが拡大して、仕方なく滅ぼした・・・うん!これで行こう!」


邪神は隠していた漆黒の翼を大きく広げて空へと舞い上がる。

内から発せられる力の強大さに獣人達は震え上がった。

荷物を置き去りに逃げ出していく獣人を余所に、邪神は高々と宣言する。


「僕は邪神メラフィスト!厄災を齎すよこしまな神!

さあ、獣人達よ・・・滅びの時を迎えるが良い!」


邪神は獣人達に向けて魔法を連射する。

炎、氷、雷と様々な属性の球体が街に落下して弾けた。

威力は凄まじく弾けた衝撃で獣人達は宙を舞う。


高々と笑い声を上げる邪神を王城から眺めていた獣王は奥歯を噛み締め、

廊下をコツコツと速い足取りで歩いて行く。

隣には《宝玉》を手にした白髪の獣人がおり、

獣王にどう声をかけていいのかおろおろと手を動かしていた。


「親友を失って、国まで失ってなるものか!」


「で、でも獣王様!相手はあの邪神ですよ?」


「分かっている。全兵を出撃させ、待機させよ。私が先頭に立ち軍を率いる!」


「無謀です!勝てる訳がありません!

あのレイダス・オルドレイでない限り勝利はありえません!」


「五月蝿い!あいつの名を口にするな!」


獣王の迫力に圧倒された白髪の獣人は、手を引っ込めて唇を噛み締める。


「ニーニャが私を按じているのは十分理解しているつもり・・・。

だけど、私は一国の王として引く訳には行かない。

殺された親友に顔向け出来ない!」


「獣王・・・。」


「ニーニャ第一軍を率いて東に回って。西をアレスに担当して貰う。」


「獣王様はどうされるのですか?」


「私は近衛を率いて正面から攻める。

私が先頭に立たないと士気が上がらないから。それと勘違いはしないで。

死ぬつもりはない。私は勝つ為に行くのよ。」


「はっ!王命承りました。直ちに第一軍を率い東へ向かいます。」


「うん、ありがとう。」


ニーニャは急いでその場から走り去った。

大きな門を開け、外へ出た獣王は近衛兵の三分の一を住人の非難に割り当て、

残りの三分の二で邪神に打って出る決意をする。

それにより戦力は大幅に低下し、たったの500人で神を相手取る事となった。


しかし、獣王の強気な表情は兵士達の不安を拭い去り、自然と士気を高めた。

今までの戦闘で裏付けされた実力と戦場においての輝きは人一倍強い。

彼らは獣王を心の底から信頼し尊敬していた。


「これより邪神討伐に向かう!者共私に続けえええ!」


「おおおおおおおお!!」

「おおおおおおおお!!」


宿屋で熟睡する俺を差し置いて邪神と獣人の戦闘の幕が上がった。

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