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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~3年後の世界編~
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邪悪な気配


俺は内容を一部伏せて、自分の過去を語り聞かせる。

物語に出てくる主人公―――俺の名をクロムと設定し、話を続けた。

最初はつまらなさそうにしていた彼らだが、段々と感情移入していく。


決して交錯しない自分と他人―――力が齎した地獄


「クロムはどうなったの?」


「今も尚苦しんでいる。

人間の本質を理解している異質な存在・・・。それが彼だった。

誰も彼のような化け物を受け入れようとしない。何故だか分かるか?」


「んー・・・ごめん分かんない。」


「他人と違うからですか?」


「そうだ。人間は普通とは異なる存在を嫌う気質がある。

見た目は人間でも中身は異常。危険物を腹に抱えていたくない人間は、

クロムを裏切り、恨みを買った。」


「でも、復讐した後、世界は崩壊したって・・・。彼の願いは成就した事になります。」


「結果的にそうなるが、彼の中では二つの感情がせめぎ合っている。

心を病み、人間がいない土地でひっそりと身を潜めた。」


「可哀そう・・・。

悪いのは人間なのに、どうしてクロムばかり不幸になるの?」


「さあな。」


俺は食用アイテムを刺した木の枝を彼らに手渡した。


「私達もいつか・・・クロムになるのかな?」


「今のまま進めば確実にな。」


アルムナは身体を震わせて、顔を真っ青にさせる。


「私・・・急に怖くなってきちゃった。」


「僕も・・・。」


「力の在り方を忘れなければ、お前達は強くなれる。多分な。」


「格好つけといて多分とはなによ!」


「不足の一つを教えただけで望む強さが手に入るなら苦労はしない。」


「そうね・・・ごめんなさい。」


俺はアルムナの態度に首を傾げた。

「どうした妙に物分りがいいぞ?」


「だって、力は絶対的な物とばかり思ってたから・・・貴方の話を聞いてその・・・。」


「考えが改まった訳だ。」

アルムナはコクリと頷いて、肯定した。


「俺の弟子にまだなりたいか?」


「今は思ってない。もう少し視野を広げたいと思うわ。」


俺の思惑は成功し、彼女のやる気を削いだ結果に満足するが―――

洞穴に流れ込む微かな風から殺気を感じた俺は外を眺める。

先程と変わりなく吹き荒れる雪景色に眼を細めた。


『気のせいか・・・。』


「どうかした?」


「いや、なんでもない。」


俺達は1日洞穴で過ごした。


―――旧王都グラントニア―――


暗い暗い海の底・・・。

僕は誰かに呼ばれた気がした。


「じゃ・・・しん・・・さま・・・じゃしん・・・さま」


流暢とは言えない話し方―――

幼い子供が初めて親の名を口にするように、僕の名を呼び続ける。


「じゃしん・・・さま・・・じゃ・・・しん・・・さま」


そうだ・・・僕は邪神。

人間に災いを齎すよこしまな神―――

そんな僕を好き好んで呼び出す者は誰だろう?


水面から顔を出した僕は地面から這い出る。

背中の両翼を大きく広げて空へと舞い上がった。


「僕を呼んだのは君達かい?」


下に視線を向けるとそこには、屍の魔物が僕の名を連呼している。

本来、不死者の人間に言葉を発する機能はなく、僕の問いにも応えられない。

だが彼らはコクリと頷いて肯定する仕草をした。


彼らの後方よりさらに現れた彼らと同類が群れとなり、僕に集う。


「じゃしん・・・さま・・・じゃしんさま・・・。」

不死者の人間達は僕に頭を垂れ、平伏する。


知能を有した個体との出逢い―――

それが僕の運命をどう左右するのか・・・。


「フフフ・・・。」


地獄の風景を思い描く僕であったが、遠くに同等・・・或いはそれ以上の力を感じ、

そちらの方向へと向き直る。

眼を細めた先には標高の高い山が3つ連なり、氷に覆われた大地があった。


「真ん中の山かな?」


僕には《鑑定力翼》というスキルがあり、相手の総合的な力量が計測出来る。

力の塊が翼という結晶体に変化し、

相手を時に悪魔のように、時に天使のように僕を魅了する。


僕のいる場所から氷の大地までは距離があり、余り期待せずにスキルを発動した。

何故なら、相手が視界に収まっていても弱ければ翼のサイズは小さく、

輝きを肌に感じられないからだ。


しかし、力の根源は僕を裏切らない。


巨大な両翼は神々しい輝きを放ち、世界を覆い尽くさんとばかりに伸びている。

僕は邪神でありながら、両翼を持つ者に心を惹かれた。


「会いに行こう。」


僕の顔は緩み、おっとりとした表情を浮かべていた。


「じゃ・・・しん・・・さま・・・じゃしん・・・さま」


「おっと・・・危ない危ない。」


すっかり忘れていた。

邪神である僕に全てを捧げた者達に、恩恵を与えなければ神として失格だ。


「君達は邪神である僕に何を望む?」


「しん・・・そ・・・しんそ・・・ちから・・・ち・・・から。」


《真祖》知性が高く、魔物界屈指の強さを誇るヴァンパイア。

吸血によって同類を増やし、又は絶命させる。

人間の姿に近い魔物であり、高lvの存在だ。


「lvを上げておいでと言っても・・・分からないか。」


僕は、《鑑定力翼》で個体を選別し、lvの低い個体を一掃した。

吸収される筈だった経験値は死亡場所で留まり、浮遊している。

それは僕のlvが上限に達しているからであり、僕自身が必要としていないからだ。


「さあ、召し上がれ。」


《スキル:経験値量増加》で経験値量を増し、一回り大きくなった球体を

選別したlvの高い個体に吸収させ、lvを上昇させる。

彼らは存在進化を遂げていき、やがて真祖へと姿を変えた。


残ったのは元不死者の人間30体―――


僕が手を貸さなければ、10体しか存在進化出来なかった事だろう。

彼らは感謝の意を示し、頭を垂れてこう言った。


「邪神様、私共の望みを叶えて下さりありがとうございます。」


「頭を上げて・・・僕にとってこの程度は序の口さ。

僕に尽くし、僕の為に死んで行け。それが君達の存在意義だ。」


「はっ!」


残酷な発言であろうと彼らは僕を受け入れる。

僕は彼らの神であり、信仰対象。

全てを捧げた以上、彼らの生死は僕の手の内だ・・・。


「君達の願いを叶えた代わりに、僕の願いを聞いて貰おうかな。」


「滅相もございません!何なりとお申し付けください!」


僕は氷の山を指差して、彼らに言う。

「あの山から得体の知れない強大な力を感じる。

その正体を突き止め、僕に報告して欲しい。君達なら出来るよね?」


「はっ!」


彼らは瞬時に姿を掻き消す。

存在進化を遂げてlv100になったのだから、速度が上がって当然。

さらに恩恵も与えた事でステータス値は通常の2倍だ。


真祖が見つかって戦闘になった場合、彼らが負けるなんて想像もつかないが、

あの翼の持ち主が負けるとも到底思えない。


「結果がどうなるか楽しみだ・・・ああ、楽しみだ。」

僕は笑みを浮かべた。

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