俺は魔法使いになる!
俺はログハウスのベットで縮こまっていた。
「それで、3人が行方不明ですか・・・。
まあ、ご主人様に手を出したのですから、死んで当然。
余り気にされない方が宜しいかと。」
俺が新王都を去った後、
3人の冒険者が行方不明になり、結局大騒ぎになった。
彼らに使用したアイテムは七天塔で手に入れた《カリーヌの苗木》。
《スキル:収縮》を発動させて、小さくした苗木を肌に刺したのだ。
実はあのアイテム・・・人に植え付ける事が可能で、
彼らの体力を奪っていた。
徐々に減る体力に気付かぬまま魔物狩りに出かけた3人は、
魔物の一撃をまともに貰い即死。
餌となって姿を消した・・・。
大地から生気を吸収する筈のカリーヌの苗木が人に使用可能な訳は
死んだ後の肉体が土に還る事にある。生き物は全て大地の一部なのだ。
「でも・・・そのせいで出禁になった。」
冒険者ギルドでは、フード男の話題が持ち切りだ。
正体は?悪党?有名な冒険者かも?
様々な可能性が錯綜し、暇を見て捜索が行われているとか・・・。
「昨日とは違うフードコートを着用すれば気付かれないでしょう。
魔法倉庫から幾つか持ってまいります。」
セレスはなんだかんだと俺を外出させたがる。
彼なりの考えあっての事だろうが、理由を知りたい。
「ご主人様持って参りました。」
俺はジト目を辞めて、咳ばらいを一つした。
「ありがとう。」
結局セレスに聞けずじまいで、俺は今日も外出する。
街を歩いていると冒険者が通り過ぎていく。
「茶色いフードコートの男」と耳にしてギョッとするが、
青いフードコートを着用している為、声をかけられる事は無かった。
昨日は3人組冒険者の所為で新王都全体を見学出来なかった俺は、
見学の続きをして行く。
向かった先は王城―――
以前よりも立派になっている王城に正直驚いていた。
シャールが即位してから立て直したらしく、2倍の大きさがある。
只、使っている素材があまり良くない。
建てて間もないのに、崩れている箇所がちらほらあるのだ。
そうして俺が王城を眺めていると
「おい!そこで何をしている?」と門番に声をかけられる。
ジーッと眺めていたのがいけなかったのか怪しまれてしまった。
「別になにも・・・立派な城だと思ってな。」
「旅人か?」
「ああ、昨日着いたばかりなんだ。」
俺は嘘をペラペラと門番に話す。
『嘘も方便!』
「怪しんですまなかった。」
「それが仕事だろ。」
「そう言って貰えると助かるよ。では、良い旅を。」
俺は王城に背を向け、急ぎ足でその場を離脱。
一方門番は定位置に戻り、同僚と会話をしていた。
「ルーカス、あんま声をかけるなよ。恨まれでもしたら大変だろ?」
「先輩・・・すみません。なんていうかその・・・。」
「憧れの人物に雰囲気でも似ていたか?」
ルーカスはコクリと頷く。
「大英雄で大犯罪者の人間が王都にいる訳ないだろう。
3年間行方を暗ましてんだ。きっと何処かでのたれ死んでるさ。」
「そう・・・ですよね。」
ルーカスは、目を伏せる。
彼の脳裏には自分を救った英雄の背中があった。
金色の髪―――
燃えるような赤い瞳―――
英雄が地に落ちようと彼の中の英雄像は揺らがない。
『いつか、あの人のように・・・。』
ルーカスは、胸を押さえ空を見上げる。
空は青く澄み切り、風が緩やかに流れていた・・・。
その頃、俺は店の集まる通りを歩いていた。
足取りは重く、前に進む気力が全く湧かない。
賑わっている周囲とは真逆だ。
フラフラしていると他人と自分の肩がぶつかって「気を付けろ!」と文句を言われる。
冒険者3人組に絡まれた時と言い、今と言い・・・。
感情と衝動で剣を抜きそうになるのは最早癖になっていた。
理性が勝っている現状では、些細な出来事でも我慢は効くがこの先どうなるか不安だ。
そうして、人混みから抜け出した俺は、建物に寄りかかって息を吐く。
目を開けて周囲を見渡せば、人人人―――
辺りは人間に埋め尽くされ、幾人もの声が耳に入る。
それが雑音となって俺を苦しめた。
「ここから離れよう。」
通りを抜ければ、人気が無い場所に出る。
『一旦落ち着いてから再開しよう・・・。』そう考えた矢先だった。
曲がり角から女の子が飛び出し、俺にぶつかる。
『げっ!?』
俺は眼前の女の子に驚愕した。
昨日ぶつかった女の子だ。
「いたた・・・。」
「アンナ!走っちゃダメって言ったでしょ?」
「ごめんなさい。」
「娘がすいません!あ、服に汚れが・・・。」
「いや、これ位平気だ。それよりも娘さんに怪我はないか?」
俺は心配そうなフリをした。
「はい。怪我はしていません。」
「そうか。今後は気を付けろよ。」
『2度ある事は3度あるというしな。』
3度目の正直が無い事を俺は祈る。
そんな俺を女の子は凝視していた。
「顔に何か付いているか?」と一瞬馬鹿な発言をしそうになったが、
よくよく考えれば、俺と女の子は昨日の今日で会うのは二度目だ。
声や体格を覚えていれば、服装が違っても俺だと直ぐに気付かれる。
彼女の首を傾げる様子から記憶を掘り返していると推測でき、
俺は行動を起こす。
「ん?待て、顔色が悪いぞ。」
俺は女の子の額に手を当て《記憶改変》を発動。
倒れる女の子の身体を支えた。
「アンナ!?」
「気を失ったようだ。ベットで寝かせれば回復するだろう。」
俺は、レア度の低い回復ポーションを女の子の母親に持たせる。
「母親として看病してやれ。」
「はい。」
母親は女の子を抱きかかえ、自宅へと走り去っていった。
『これで良し。』
不安要素が解消された俺の気分は少し晴れた。
今回の件を通して俺が思ったのは、杖をメイン装備にする事だ。
レイダス・オルドレイは、この世界で最強最悪の剣士。
ヒーラー職か魔導士職として武器の装備を変えれば怪しまれないし、
名前も偽装してしまえば、より素性を隠せる。
『顔さえバレなければだが・・・。』
顔に関しては魔法でどうにか誤魔化すとして―――
問題は声だ。
『確か、ボイスチェンジャーみたいなアイテムが魔法倉庫内にあった様な気がする。』
俺は、新王都から切り上げる。
夢見の森に帰宅し、ログハウスの扉を勢いよく開けた。
「お帰りなさいませ、ご主人様。」
「ただいま。
俺、2階に暫く籠るから夜食の準備が出来たら呼んでくれ。」
「畏まりました。」
俺が2階へ上がって行った後、セレスは微笑んでいた。
近づいて来たガルムの頭を優しく撫で、彼は言う。
「ご主人様が元気になって良かったですね。」
「ガウ!」
セレスやガルムを家族として受け入れている俺にとって夢見の森は、
唯一憩いの場であり、帰るべき場所。
夢見の森での俺は、明るく笑顔を振りまいていた。
しかし、それは夢見の森内だけでの話で、いざ外出すると表情は暗くなる。
外部の人間を嫌っているのもあるが、恐れや不安も理由の一つ。
セレスが外出を促していたのは、俺に外慣れして貰う為だった。
彼らの最大の至福は主人であり、家族である俺が幸せである事―――
障害の克服は俺が幸せになる上で乗り越えねばならない壁だ。
只、本人の俺が自覚していないが為にセレスは回りくどい行動を余儀なくされた。
主人が不快に思う行為を仕える者はしたいと思わない。
だから、静かに・・・勧めるように・・・彼は俺に言ったのだ。
「それでは、夜食の準備を始めますので
畑の食用アイテムを取って来ていただけますか?」
「ガル!」
ガルムは畑の野菜を爪や牙を使って器用に籠へと入れていく。
それをセレスの元へ持って行き、彼は調理を開始した。
香ばしい香りが広がり、ガルムはよだれを垂らす。
その間に、俺は偽装工作を進めるのだった。




