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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~男の復讐編~
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七王道血祭パーティだ!part7


フェノールは馬を全速力で走らせていた。


胸騒ぎがする―――


時間が経過すればするほど彼女の焦りの色は濃くなる。

そんな彼女を後方からガランは眺めていた。

顔はこわばり、複雑な表情を浮かべている。


「フェノールさん。飛ばしていては馬がばてます!」


ライラの忠告が耳に届くもフェノールは止まらなかった。

逆に鞭を打ち馬の速度を上げる。


一分一秒でも早くあの人に会いたい―――


「フーワール・・・。」


―――――


俺はフーワールと対面していた。

彼は白いローブを羽織り、大きなカバンを二つぶら下げている。

顔はフードで隠れており、口元しか見えない。


「君は?」


「これから死ぬお前に名乗る名は無い。」


俺は剣を鞘から抜こうとするが―――


「僕は戦わないよ!死にたくもないし!」


フーワールの発言でとまる。


「じゃあ、無抵抗にお前も死ね。」


「嫌だ。フェノールと再開するまで僕は死ねない。」


「フェノール?」


俺は眉をしかめた。

『フェノールってあのフェノールか?』


冒険者であり、白銀の髪を持つ魔導士・・・。

無表情で冷徹なあの女とフーワールが知り合い?


「フェノールとはどういう関係だ?」


「君!フェノールを知ってるのかい!?

彼女は元気にしてる?体調崩してない?」


『おかんか!?』


俺はフーワールに詰め寄られたじろぐ。

殺すと公言しておきながら、醜態をさらした。


「五月蝿い!質問しているのはこっちだ!

フェノールとの関係は?」


「僕と彼女は師弟関係さ。」


『師弟?』


確かに魔導士という点でフーワールとフェノールは一致している。


「僕の代わりに世界を見てきてくれるって約束したんだ。

だから、君に黙って殺されるわけには行かない。少なからず抵抗はさせて貰う。」


フーワールはやる気を出し始めるが、逆に俺は失せていた。

「やめだ、やめ。お前も保留にする。」


「そうかい。こっちとしては有り難いよ。君に勝てる気がしなかったんだ。」

フーワールは手にしていた魔導書をカバンにしまう。


「君が帰る前に質問なんだけど、なんで僕を殺そうとしたんだい?」


彼の様子に俺は小さく呟く。

「お前もあいつから聞いていないんだな・・・。」


「え?」


俺は、彼に背を向けて一言言う。

「復讐だ。」


《瞬間移動》を発動させて、俺はアインが管理する七天塔に訪れる。

3フロアで気絶させていたカイル達が目を覚ましていたので、再び気絶させた。

再開する度、「変わってないな~。」と思う俺である。


そして、最上階に登った俺は驚きの光景を目にする。

アンベシャスがアインを圧倒しているのだ。


銃弾がアインの急所に入り、アインは苦痛に顔を歪める。

彼の大剣は空を斬り、アンベシャスには一切あたらない。


『どうなってる?』


床に視線を向けると彼が押している理由が分かった。

回復アイテムを使った痕跡が大量に残っており、瓶がそこら一帯に転がっている。


アインに勝つ為、彼なりの秘策だ。


アンベシャスの宝物庫を漁った際、金銀財宝に回復アイテムは混ざっていなかった。

彼が持ち出したと見て間違いないだろう。

アインも服用していたようだが、数が足りなかったようで既にアイテムはない。


自分のスキルの優秀さに頼っているとそうなる。


『俺も経験したなー。』


俺は《透明化》を発動させて様子を伺う。

アンベシャスがアインを傷つける度に俺は高揚した。


『もっと・・・もっと俺に血を見せろ!』


復讐だ―――

復讐だ―――

復讐だ―――


『俺と同じ想いを抱いて死んで行け!』


アインは壁に追い込まれ、逃げ場が無い。

左右どちらに動いても銃弾の餌食だ。


俺の中の何かが笑う―――『はははははっ!』


アインは死を覚悟した。


『まだだ・・・。生ぬるい。』


更なる絶望に叩き落すべく、俺はアンベシャスの背後に姿を現す。

アインは眼を丸くして驚愕した。


そんな彼に他の七王道がどうなったかを俺は告げる。

彼の瞳が恐怖に変わる様がとても心地よかった。


「じゃあの。」


アンベシャスは生きる為にアインを容赦なく殺した。

脳天を貫き、彼は死んだがアンベシャスは撃ち続ける。


銃声が鼓膜に響き渡った―――


アンベシャスの銃弾は底を尽き、銃が「カチカチ」と音を立てる。

彼は銃をしまい、俺に向き直る。


「アインは殺した。これで、良いんだろう?」


「ああ・・・上出来だ。」


俺は笑みを取り戻した―――

口角がスムーズに上がり、俺は笑い声を上げる。


その様子にアンベシャスは恐れを抱いた。


狂喜に身を委ねる俺の姿は正しく狂人。

タガが外れ、壊れた人間の修復は不可能。

俺に引き返す道は残されていなかった・・・。


―――新王都―――


近頃、依頼の数と冒険者の数が極端に減っている。


シャーロットとリーゼルが亡くなり、

新王都は崩壊寸前だった。


それでもクレアは通常通り冒険者ギルドの業務をこなしている。


国が危機に陥っても、自分に国の復興が出来るわけではない。

出来る事がないのなら、できる事をしよう―――


今日も彼女は受付カウンターで受付に専念していた。


人が来ない間の彼女は首にぶら下げているペンダントを触り、

手遊びを始めるが、人がいない現状でそれを目撃する者はいない。


ペンダントの色は黄色や赤色に変化し、彼女は表情を変える。


その色は、愛の色―――


クレアは一人の男性を心から愛していた。

けれど、止められなかった・・・。


彼が壊れていく姿に彼女は胸を痛めていた。

今でも何処かで傷ついている彼を想像するだけで心が砕けそうになる。


だから、同じペンダントを彼に持たせた。

自分を見失いがちな彼の手助けがしたいと・・・。


そのペンダントは今―――黒と紫が混ざり合い、ひびが入っていた。


亀裂はどんどん広がり、中身が漏れ出している。

中身は延々と溢れ、魔法のカバンを汚し続けていた。


―――イスガシオ―――


新たな国王の即位式が開かれ、国は大盛り上がりを見せている。

獣人達の身体には肉がつき、痩せ細った者は今では1人もいない。


子供達は元気に走り回っており、大人達に笑顔を見せていた。

そんな様子に心が癒される彼らは新たな獣王に歓喜する。


大手を振って姿を現した新たな獣王の身体は小柄だ。

けれど、その腕には数々の実績があり、誰もが自負している。


「獣王万歳!」


獣王は住民達の声に応え手を振る。

彼らの王は今日―――誕生したのだ。


―――七天塔 帰り道―――


アンベシャスは姿を消し、アインは死んだ。

フーワールは放って置いても問題にはならないだろう。


シャールの国取りが上手く行くかどうかは不明だが、

上手く行ったら壊しに行くと俺は決めた。


孤島と陸を繋ぐ橋を渡る俺は陸の方に3人の人影を目撃する。

歩く速度を速め、3人に急接近する俺だが、残り3分の1で足を止めた。


罠系魔法が橋に設置されており、俺の行く手を阻んでいるのだ。

俺は魔方陣を見てニヤリと笑う。


止めていた足を魔方陣内に入れると魔方陣はガラスのように砕け散る。

状態異常無効により、魔法が正常に発動しなかったからだ。


俺は陸側にいる3人に話しかけた。

「よお・・・久しぶりだな。」


俺は昼夜問わず活動をしていた。その為日にち感覚がずれている。

最後に寝たのはいつだったか前前覚えていない。


「レイダス。フェノールの師匠に手を出していないだろうな?」


「ああ、あいつは見逃してやった。

殺したのはカイネ、セレスチアン、ドッド、そしてアインの4人だけだ。」


3人は驚愕して声が出ない。

ライラに至っては、腰を抜かしてしまった。


「七王道を・・・4人も。」


「他の3人は、俺の障害にならないと判断した。

まあ、用済みになったら消すがな。」


「消すって・・・お前!」


「ゴミはゴミ箱に捨てるように、人間もまた死んだらあの世へ行く。

俺は恨みを晴らすついでにあの世へ行く手助けをしてやったんだ。

むしろ感謝して欲しい。」


「感謝・・・感謝だと・・・。」

ガランの怒りは頂点に達した。


「ふざけんじゃねえ!死んだら、何もかも全部そこで終わっちまうんだぞ!?」


「良いじゃないか終われて。」


俺は自分の剣を心臓に突き刺す。

彼らは身を凍らせた。


「俺は終わりたくても終われない。」

俺の胸の傷は直ぐに塞がり、傷跡一つ残っていない。


呆然と立ちつくす3人に俺はもう一つ見せる。

銃を頭に突きつけて吹き飛ばす。

それでも俺の頭は再生し、望んでもいない生にしがみついた。


「俺の苦しみが・・・お前達に分かる筈がない。」


天涯孤独―――ドッドがそう言った。

寿命が永遠の俺は、皆に置いて逝かれる。

いずれ、ガルムやセレスも俺を置いて逝く。


「だからって、他人の命を奪って言い訳ないだろ!」


「お前達が俺の立場だったらどうしていたか言って見ろ!」

ガランは声を詰まらせる。


「他人に濡れ衣を着せられて、命を狙われて、お前達はそれでも相手を許すのか?」


他人に嫌がらせをされても許せる人間は「器がでかい。」と言われるがそれがなんだ?

嫌な思いをしても我慢しているだけだ・・・。

「嫌だ!」と発言する勇気がないだけだ・・・。


もう嫌なんだ―――


「俺には・・・耐えられない。」


俺はガランの隣を素通りしていく。


「所詮俺とお前達は他人同士で分かり合えない。全ては茶番だったんだ。」


分かり合うなんて絶対に不可能。

もし、分かり合えたとしたらそれはその気になっただけ・・・。


俺は瞬間移動でログハウスに帰宅。

残されたガラン達は降り始めた雨を一身に浴びて、沈黙していた。


ガランは雨雲を見上げて二人に尋ねる。

「俺達は・・・七天塔(ここ)に何しに来た?」


「レイダスさんを・・・止めに来ました。」

フェノールもコクリと頷いて肯定する。


「正しかったのか?俺達は間違っていないのか?」

ライラはガランに返答出来ない。


「俺達は―――」


雨の勢いが増し、ガランの声は掻き消される。

ライラは身を小さくして、只々泣いた。


彼らの悲痛な叫びは雨に流されていった・・・。

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