男は冒険者ギルドを目指す。
男は、中層にやってきた。
あらゆる店が集結している中層。
金髪で赤目、さらには赤を基調とした目立つ格好をする男に客引きは声をかける。
客引きに嫌気がさす中、男は、若者3人に遭遇する。
『青年じゃないか!』
『王都グラントニア 中層』
「おおおお! 来たんだなグラントニア!!」
「ワフッ!!」
俺とガルムは検問所をあとにし、中層にきていた。
リアルの『中層』を目の当たりにし、俺はテンションが上がっていたが、一度、深呼吸して冷静になる。
王都に来たのは、目的があるからだ。
目的を達成するまで、羽目を外すつもりは俺にはなかった。
『まずは、俺が持っている『FREE』をプレイしていた当時の地図と現在の地図を照らし合わせてみるか。』
俺は、中層に来た際、店で『地図』を購入していた。
目的の1つである、
もともと所持していた『FREE』の硬貨が使用できるか試してみたのだ。
結果『使用できました。』
その為、素材の換金はせずともしばらくは金に困らないことが分かった。
「素材の換金がしたいんだが・・・。」
と『地図』を購入した店の店主に尋ねたところ
『冒険者ギルドが推奨している店でないとできない』とのことだ。
ちなみに店主は
「俺の店は、推奨されてる店じゃねーから。他を当たってくれや!」
と豪快に笑っていた。
「ゲームの時はどこの店でも素材を金に返れたのにな~・・・。」
と俺は、ゲームとは違う点を1つ見つけるのだった。
俺は、地図を照らし合わせるために、偶然近くにあったベンチに腰を下ろす。
結果『違う箇所がいくつかあることが分かった。』
順番に確認していく。
まず、『下層』。
俺が『FREE』をプレイしていた当時は『下層』という場所はなかった。
『中層』と『上層』しかなかったのである。
次に『中層』。
『冒険者ギルド』や市場、武器屋や防具屋、洋服屋等が集まっているのは前と『同じだった』。
ただ、店の『位置が違う』。
『あとは、『決闘場』という場所が増えてることだろうか?』
響きからして、決闘機能を利用した『闘技場』といったところだろう。
そして『上層』
『王城』が王都の中心で間違いない。
貴族等の金持ちのNPCがいるのは相変わらずなのだろうか?
俺は、下層から上層まで照らし合わせを終えると、
王都の門に着眼した。
『前は、東西南北 どの層にもそれぞれ門があった。 上層から中層を繋ぐ門4つ と 中層から外に通じる門4つ。 合計8が今では・・・・。』
『上層から中層を繋ぐ門4つ はそのままで、中層から下層に通じる門4つになって、下層から外に通じる門が4つ。 正門はあれが1つじゃないのか・・・。方角的に南から入ったんだな。』
俺は、購入した地図の端に目が行った。
小さい文字で
『黒い番犬が仕事をしている間だけ門は開いている。』と書かれていた。
地図の照らし合わせで違いが分かるのはここまでだった。
あとは『詳しそうな人物』に当たってみるしかないだろうと判断する。
「やっぱり『冒険者ギルド』に行くしかないのか・・・。」
俺は、お約束みたいで気が引けた。
しかし、
目的である『素材の換金』は冒険者ギルドの推奨する店でないとできないというし、冒険者ギルドで聞くしかない。
『詳しそうな人物』も冒険者ギルドにいるはずだ。
俺は、次の目的を達成すべく行動に移す。
「ついでに、冒険者登録もして行くか。」
とベンチから立ち上がるのだった。
「ワフゥ~」
ガルムは俺の言葉を肯定するように返事をする。
俺は、それにほほ笑んで、ガルムを肩に乗せた。
「確か、『冒険者ギルド』は決闘場の近くだったな。」
俺は、冒険者ギルドに向けて歩き出す。
この時俺は、改めて『FREE』の世界に感動していた。
転生した矢先にグロイ物を見せられたり、前世を思い出して落ち込んだりしてきたせいか、余計に感動している。
『整備された道』
『綺麗な街並み』
『賑わう人々・・・はちょっと・・・・。俺、他人苦手だから。』
前世は辛すぎて、周囲を見渡す余裕がなかった。
今思えば、前世で『FREE』の中層に並ぶほど美しい街並みがあっただろうか?
否、
俺は下ばかり見て歩いていたから、灰色のコンクリートや車が走る黒いアスファルトの色しか知らない。
前世で綺麗な景色を目にしていたとしても俺は、それを美しいとか綺麗と感じただろうか?
否、
感じなかった。前世の俺は、生きながら、死んでいたのだから―――――—
前世の俺を知る人物が、今の俺を見てどう思うのだろう?
俺は、自分で自分が少し変わったと思う。
今まで感じなかったものを感じる。これは凍り付いていた感情が元に戻りつつある影響だ。
だから――――――—
『本来の俺は、感情的なのかもしれないな。』
とふと思うのだった。
そんな中
俺は、歩いてる最中にあちらこちらから声をかけられる。
「お! 兄ちゃん旅人かい? ちょっと店に寄ってかないか?」
「いや。 冒険者ギルドに用があるんだ。 また今度で。」
「そこの人! うちの店によっとくれよ! サービスするよ!」
「遠慮させていただきます。」
俺の恰好が、旅人風?冒険者風? はたまた 目立つからだろうか?
客引きしている店員によく声をかけられた。
『自分の店の品を買って欲しいからって・・・欲深だよな』
とも思ったが、
『店を経営する人間も生きる為に生計を立てないといけない。その為には、素材や食料を購入する金が必要になる。』ことを考えると仕方のないことなのだと納得する俺であった。
俺が客引きする店員1人1人に断りを入れながら冒険者ギルドに向かう道中、
どこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。
店が集まる場所を抜けた先、冒険者ギルドに向かって歩いていく。3人の若者の姿があった。
3人のうちの1人を俺は『よ~く覚えている。』
『青年じゃないか。』
ボアル・ベアによって命を落とした俺は彼を蘇生し、生き返らせた。
再び現場に訪れた時に彼の姿はなかった。
よくよく考えれば、蘇生した後、『記憶改変』だけして、魔物除け等施さずにその場を離れた。
再び、魔物に襲われてもおかしくない状況だった。
『救助されていたんだな。』とホッと胸をなでおろした。
その時、俺はあることに気付く。
『なんか・・・近づいてきていないか?』
青年たちがこっちを見て、近づいてきている。『まさか、『記憶改変』が効かなかったのか!?』
俺は、心の中で焦った!動揺した!
俺は、青年に姿を見られているし、声も聞かれている。一目見れば、蘇生したのが俺だと一発で分かってしまうのだ。
動揺する俺は、3人の若者の接近を容易に許してしまう。
俺は、息をのんだ。
『第一声!何が飛び出してくる!?』
俺は覚悟を決めるしかなかった。
「あの! 冒険者の方ですか?」
『はい?』
「いや・・・。 俺はこの王都に今日来たばかりの旅人だ。 冒険者ギルドに用があってこれから向かう所だ。」
覚悟を決めた俺が馬鹿みたいだった。
青年の俺を見る目は、『はじめまして!』という目をしていたからだ。
『なんだ・・・。『記憶改変』・・・効いてるじゃないか!!』
『驚かせやがって!』
と心の中で、唾を吐く。続く台詞に確信が強まっていく。
「そうですか!! 俺たちも冒険者ギルドに向かう途中なんです! 良ければ一緒に行きませんか?
今日来たばかりの方が『中層』を地図なしで歩くのは迷うでしょう。 それに目的地も同じですから! 俺たちが案内します!」
『地図もあるし、場所も把握できているのだが・・・。』
と突っ込みたい気持ちを抑える俺。
しかし、目的地(冒険者ギルド)は同じ。ここで断るのも不自然な気もするし、『記憶改変』が効いているのであれば、
問題はないだろうと判断した俺は頷いた。
「右も左も分からず、困っていたんだ。 助かるよ。まずは、自己紹介をしよう。 俺の名は、レイダス・オルドレイ。君たちの名は?」
『青年は会ったことあるけど名前知らないんだよな・・・。』
「あ! はい。 俺はカイル! カイル・ラ―ギンスと言います。でこっちが・・・」
「イリヤ・フェンディです。 よろしくね!」
「ゲイル・ヴァントレアと言います。道中よろしくお願い致します。」
『カイルというのか・・・。』
俺は青年の名前を入手した。
こうして、自己紹介も無事終わり、『冒険者ギルド』まで、若者3人と同行することになった。
男「・・・・・・・・・・。」
神様「どうした?」
男「若者3人に囲まれて、どう話かければいいかわからないというか・・・。そのー・・・・」
神様「なるほど。 では、いっそしゃべらなければいい。」
男「・・・・・そうか。 無理に話すこともないのか! アドバイスありがとう神様!」




