七王道血祭パーティだ!part6
「いないな。」
俺は《飛行》を使用しシャールの行方を追っていた。
リゼンブル、イスガシオ、ルーナ―ン、ヴァルハラと回ったが、影も形もない。
というか―――
「俺、シャールの見た目知らねえ。」
性別が女であり、ヒーラー職という情報しかない。
どんな格好をしているとか髪型は長髪とか短髪とか性格はどうとか・・・。
必要不可欠な情報が不足している。
「片っ端に全員鑑定するしかないな。」
俺は、ヴァルハラから新王都に向かって飛行する。
速度を出し、高速で移動した。
視界に捉えたのは馬に跨るとある一団―――
「リーゼルと・・・誰だ、あれ?」
リーゼルと女性は横一列に並び、親しげに会話をしていた。
表立った話からプライべーと的な話へと内容は変わり、彼女は「七王道」と口にする。
俺は鑑定を発動させて女性の名前を確認。
そして目を細めた。
「リーゼルと知り合いだったとは意外だが、やる事は変わらない。」
俺は、一団の進行方向に立ちふさがった。
着地した場所から衝撃が地面に伝わり、波のように揺れる。
遠くの木々は暴風で葉を飛ばし、リーゼル達は馬にしがみついて耐え凌いだ。
そして、馬達の足が盛り上がった地面の割れ目にはまり、
搭乗していた人間は振り落とされる。
彼らは肩や背中から落下し、地面に強打するのだった。
リーゼルとシャールは馬を落ち着かせて、なんとか落ちずに済んだが
突然の出来事に動揺。
眼前の砂埃が晴れるのを待った。
「誰です!」
勇ましく、うら若き乙女の声は可憐に聴こえるだろう。
俺でなければ―――
砂埃が風で流され俺の姿がその場にいる全員に露呈する。
リーゼルは俺の登場の仕方に問題があったのか、複雑な表情をしていた。
「七王道シャール・クレスタだな?」
シャールは眉を顰める。
「そうです。・・・私に御用ですか?」
彼女は馬から下りて俺に接近を試みるが、リーゼルが腕で前方を遮る。
「何を」とシャールはリーゼルに言う。
続けざまに「どいてください!」と言おうとした彼女だったが、
リーゼルの真剣な顔つきにその気が失せる。
「レイダス・・・。争う気がないなら剥き出しにしている殺気を収めてくれないか?」
「争う気満々だ。」
「目的は?」
「シャール・クレスタの殺害。」
リーゼルは眉間に皺をよせ怒りの表情を浮かべる。
「彼女がお前に何をした?」
「何も・・・只、絶望して欲しい奴をより一層絶望させる為に
彼女の死は不可欠。それが理由だ・・・満足か?」
リーゼルは斧を抜いて、
「ふざけるなあああああ!」と咆哮を放つ。
リーゼルが飛び出すと同時に、他の連中も武器を抜いて俺に襲い掛かった。
彼らの目は怒りで血走っており、まるでバーサーカーの如しだ。
俺は彼らを瞬殺し返り血を大量に浴びる。
肉片が後方に山積みとなり、白い骨が外部に露出していた。
知人でも俺は殺す・・・。
けれど、好き好んで殺したくはない。
俺に知人を殺させたシャールに怒りが湧いた。
『殺す理由が1つ増えた・・・。』
「《魅了》を使うなんて卑怯じゃないか。」
「出会って間もないのに、よく気づきましたね。」
シャールは微笑む。
「全員がお前の虜になっている自体不自然。
1人か2人・・・残して置くべきだったな。」
美しい女性に、男は強く惹かれる。
だからといって全ての男がその女を愛さない。
それは、どの世界でも共通である。
「勉強になりました。以後気を付けます。」
「で、俺が来る事でも予期していたのか?」
俺はシャールの用意周到さが気になった。
「いいえ。新王都まで護衛して貰おうと思っただけです。」
「お前の実力なら護衛はいらないだろう。」
「いります。」
彼女の微笑みが歪む。
「その様子だと、リーゼル達を利用しようとしていたな。
国取りでも始めるつもりだったのか?」
「はい。アインがドッドに気を取られている内に
やりたい事をやろうと思いまして。」
シャールは淡々と己の思惑を口にする。
『口の軽い女だ。』
「ヴァルハラを救ったのはいずれ同盟国とする為、
新王都を拠点とし、私の理想郷を実現するのです。」
俺は深いため息を吐いて肩を竦めた。
『七王道はどいつもこいつも・・・。あ、やべ少し同情した。』
個性が強いとか以前の問題だ。
『救世主?破壊者だろ!』
俺は一度脳内を整理して、ある事を思いつく。
「そうかそうか。どうぞ好きにするといい。」
俺の一変した態度にシャールが目を丸くする。
「私を殺しに来たのではなかったのですか?」
「気が変わった。」
アインは七王道の立場を守ろうとしている。
シャールが自ら壊してくれるというのだから、させればいい。
それを知ったアインはどんな顔をする?
決まっている―――絶望だ。俺の復讐は遂げられる。
アインを殺し、用済みになった時点でシャールを始末する。
『知人を殺させた奴を俺が生かす筈ないだろ?』
俺に命乞いするまでズタズタに引き裂いてなぶり殺しにする。
『完璧な作戦だ。』
「そういう事だから、じゃあな。」
俺は意気揚々と退散する。
《瞬間移動》で七天塔まで戻った俺は、アインとアンベシャスの死闘をチラリと覗いた。
アンベシャスは剣劇を華麗に避け、アインはアンベシャスの銃弾の雨を防ぐ。
一言言わせてもらうと―――
「あいつらまだ戦ってるのかよ。」
死闘が始まって、かなりの時間が経過していた。
お互いlvは90。勝敗は、培ってきた戦闘技術と経験で決まるだろう。
年の功ならアンベシャスが上だが、彼にはスタミナが無い。
いずれ差が出始める。
それまで長引くと判断した俺はフーワールの元へ向かう。
七王道の中で最強とされる魔導士職の男で、性格は温厚で超が付くほどネガティブ。
設定上の彼は引きこもりで七天塔から外出しない。
この世界の彼はどうなっているのやら・・・。
今までの七王道を思い出しながら、変な想像をして嗚咽を吐きそうになる。
有り得ないは有り得る―――
だから、俺の想像は意外と的を射ているかもしれない。




