七王道血祭パーティだ!part1
王城の警備を固めていた黒い番犬は王城周辺に睨みを利かせていた。
暗殺者が城内に突如出現するなど微塵も考えていなかったのだ。
彼らが見落とすのも当然で、
この世界で《瞬間移動》は伝説級。
つまり、使用出来る者が俺以外に存在しない。
その事から犯人特定に繋がりそうなものだが、事件は迷宮入りした。
彼らは《瞬間移動》を俺が使えると知らないからだ。
「アインがしゃしゃり出てきたら一瞬でバレるけどな。」
彼女が殺されたと知った黒い番犬は悩んだ。
民に真実を告げるべきか否か―――
悩んだ末に彼女が死んだ事実を公開する。
民がそれを知ったのは3日後の事だった。
翌朝、追悼式が行われ空の棺桶が黒い番犬に運ばれる。
街を一周する形で棺桶ごと埋葬される予定だ。
追悼式に集まった住民達は彼女の死に涙する。
俺は、《透明化》を発動させて屋根上からその様子を眺めていた。
何故、空なのかと言われると、彼女が死体となった後
俺が魔法で消し炭にしたからだ。
「蘇生魔法を使われたら困る。」
『FREE』で代表的な蘇生魔法は俺がよく使う《死体蘇生》。
死体があれば使用可能な蘇生魔法な為、死体を残して置くのは危険だ。
だから、彼女と同様にリゼンブル国王、皇子共々燃やしてやった。
「これで、3人。」
復讐対象が減る度に俺の心境は晴れ晴れとしていく。
七王道を殺せば、俺は笑顔を取り戻せる。そんな気がしていた。
追悼式を呆然と眺めていると、
棺桶に駆け寄り、泣きじゃくる子供が視界に入る。
他の大人が子供を引っ張るがビクともしない。
lv差によって生じる力の差が原因だった。
「遠すぎて誰か分からない・・・。」
俺は少しだけ距離を縮めた。
子供に尻尾と耳があると知った俺は足を止めて眉を顰める。
テペリだ―――
彼女とテペリは友達だった。
冒険者と国王という大きく立場が異なる二人だが、仲が良かった事は確かだ。
俺が彼女を殺したと知れば、テペリは間違いなく敵討ちに来るだろう。
「芽を摘んでおくか・・・。」
俺は剣を抜いて、テペリに視線を下ろす。
殺せる用意は出来ている―――
「うう・・・うあああああん。あああああん。」
テペリの泣き声で、彼女が死に際に言った一言を思い出す。
『テペリ私の分も生きて。』
「・・・・・・・。」
俺は剣を鞘に納めて、その場を去った。
「餓鬼程度・・・いつでも殺せる。」
俺はテペリを見逃した。
夢見の森に戻った俺は、買い物から帰宅していたセレスに出迎えられる。
「お帰りなさいませご主人様。」
「ワフッ!」
ガルムが飛びついて来たので、優しく受け止める。
床におろして頭を撫でた。
「ただいま。」
俺の一言にセレスは微笑み、食事の用意を始めた。
やけに嬉しそうな彼に俺は尋ねる。
「良い事でもあったのか?」
「ご主人様が「ただいま。」と言ってくださいました。
出迎える立場として、その一言は至福です。」
ガルムを撫でていた俺の手はピタリと止まる。
「顔が熱い・・・。」
感情が希薄になりつつある俺は、『熱でも出たのか?』と疑った。
「ご主人様それは、
感情の一部「恥ずかしい。」でございます。」
「ああ、そうか・・・恥ずかしいか。」
俺は赤面しながら、2度3度頷く。
そして―――倒れた。
「ご主人様!?」
「ワフッ!?」
恥ずかしさの余り俺はぶっ倒れる。
セレスが俺をベットに運び、毛布を被せた。
それから、キッチンで濡れタオルを数枚用意。内1枚を俺の額へと乗せた。
ボーっとする頭で俺は言う。
「お前・・・手際良過ぎ・・・。」
「お誉めの言葉ありがとうございます。」
俺は、ログハウスで1日寝たきりで過ごし、
翌日七天塔へ向かう。この世界で初の七天塔だ。
その為《瞬間移動》では行けない。代わりに《飛行》で行く事にした。
馬より断然速いし、
敵と遭遇しても遠距離攻撃でない限り戦わなくて良い。
「楽だー。」
風を全身に浴び、俺は空の旅を堪能する。
空を飛ぶのは久しぶりだ。
向かっている七天塔は旧王都から東南に位置しており、
距離的にして約150キロ。
陸を離れた小さな孤島に7つの塔が聳え立っている。
陸と孤島の間には、魔法で形成された橋があり、
太陽の光に乱反射して光を放つ仕組みだ。
橋の手前で俺は着地し、橋を渡る。
《飛行》で飛んでいければ楽なのだが、それは出来ない。
『FREE』と同様なら孤島を取り囲むように、飛行阻害魔法と探知無効が施されているからだ。
運営側が設定した物で、効果は永続的。
安全圏の空中から攻撃出来ないようにする目的で設けられた。
今となっては、忌々しくて仕方ない。
橋を渡った俺は、目つきを変えた。
探知が使用出来ずとも、肌に殺気が伝わってくる。
ピリピリとした空気が俺の緊張感を高めた。
「上か。」
上空を見上げれば、大きな岩石が空から落ちてくる。
その中で一番大きな巨石の上に斧を携えた女が乗っていた。
俺を見るや否や彼女は口角を口が裂けるくらい大きく歪める。
笑っているのだろうか・・・。俺にはとても異様に見えた。
彼女は、斧で岩石を殴り、俺に放つ。
重力の関係もあり、岩石の速度は勢いを増した。
空気抵抗で「ゴゴゴッ」と音を立てる岩石を俺は華麗に避ける。
最後に飛んできた岩石を縦に両断。
そして、巨石を蹴って俺に向かってくる彼女の斧を剣で受け止める。
威力と衝撃で地面はへこみ、衝撃波で岩石にひびが入った。
剣と斧は「ガリガリ」と音を立て、俺の剣が折られる。
『ドワーフの国で手に入れたお気に入りの武器だったのに・・・。』
折れた刃は俺の頬を斬るが、直ぐに回復。
傷は瞬く間に塞がった。
俺は、少し後退し新たな剣をカバンから取り出す。
強度も攻撃力も先程の比ではない。
「貴方中々やりますね。
普通の人間なら私の一撃を受け止められないのだけれど・・・。」
「生憎俺は普通じゃない。」
「そうですか、では安心です。思う存分戦えますから!」
彼女は、俺に突進。
攻撃してくると思いきや急ブレーキを踏んで上空へ舞い上がった。
両腕を広げ、舞うその姿は鳥―――
彼女は身体の中心に斧を構え、下へと突き出す。
七王道が1人カイネ・フロムが得意とする攻撃にして最大の威力を発揮するスキル。
「《スキル:大地の怒り》!」
このスキルが『FREE』で恐ろしいとされていた由縁は、攻撃が不可避だからだ。
《飛行》が使えるエリアなら問題ないが、
封じられている今では最悪と言える。
俺は彼女の斧を避けるが、余波で地面に亀裂が入る。
地面の岩はガタガタと揺れ動き、弾け飛んだ。
遥か上空へと吹き飛ばされた俺は塔の外壁に剣をつき立てぶら下がる。
「連発されるのは避けたいな。」
俺はぶら下がったまま、地面に下りようとしない。
《大地の怒り》は地面があってこそ使用可能なスキル。
俺がスキルの攻撃に当たる範囲にいなければ、彼女は使用できないのだ。
「《大地の怒り》の本質を見抜いているようで。」
「当たり前だ。」
俺は『FREE』でカイネと戦闘した経験があった。
彼女が所持しているスキルや魔法も全て頭に叩き込まれている。
それも、今では無駄なのだが―――
俺は、息を吐いてから姿を消す。
彼女は動揺するが、俺が背後に回っていると即座に気配で察知する。
後ろに斧を豪快に振るう彼女は、目を丸くした。
そこに俺はいなかったのだ。
「残念、ハズレだ。」
俺は彼女が振り返ると同時に無慈悲な剣を振り下ろす。
「何故・・・。」
彼女の疑問―――
背後にいた筈の俺が正面に立っていた理由―――
簡単だ・・・。
カイネの動きに合わせて更に後ろに回った。
俺の身体能力ならではの芸当である。
彼女は地面に膝を落とし、肩から血を吹き出す。
鮮血が彼女の周りに血の池を形成し、拡大する度に彼女の顔色は悪くなっていった。
「さっさと死ねよ。」
俺は彼女の身体を切り刻み、絶命させた。
当然死体も残さない。
魔法で彼女を燃やして灰にした俺は、アンベシャスが管理する七天塔へ向かう。
『下位から順番に殺して行ってやる。』
剥き出しの牙を俺は納めない。
七王道残り6人。




